ベル君の身長が203cmなのは間違っているだろうか?   作:長身キャラ大好き

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EP1を一人称視点で書き直した感じです
まあまあ雰囲気変わるかと


EP3

 「ベル──男に生まれたなら、地上最強の英雄を目指さないとな!」

 

 俺の爺ちゃんがしょっちゅう熱っぽく語り掛けてきた言葉。

 物心が付く前から繰り返し何度でも、その度に抑揚や声色を変えたりして、折れかけた心を導いたり臆病風を吹かせた足を煽ったり、金言にも呪言にもなって俺という存在を形成した言葉だ。

 さて、その地上最強の英雄とは何か。子供ながらに漠然と壮大な事を言われていると思ったのか、幼少の頃そんな事を素直に聞いた。返ってきた答えはこう。

 

 『身長が高いのは大前提だのう。あとは鉄板みたいなデカい剣を装備して、それを振り回せる分厚い筋肉と剣技をもつことか。あぁ、忘れちゃいかんのが美人の女を大勢侍らせることだな』

 『おんなを⋯⋯はべ?なんだよそりゃ』

 『ああ、少し言葉が難しかったか。つまり"沢山の女の子から好きだと言われる男"に、あるいは"好きだと言わせる男"になれという事だ。なにせ英雄は色を好むという(ことわざ)があるからな、これも絶対に欠かしちゃならん』

 『なあ爺ちゃん、俺から好きだってなるのは英雄としてダメなのか?』

 『いや、ダメではない。寧ろよい。同じ相手に対して告白しては断わられを繰り返すほどよいとされておる。幾ら英雄と言えども完全無欠では面白みに欠けるからな、それくらいの人間臭さがあってよかろう』

 『へー、結構カンヨーなんだな!』

 『ふははははっ!⋯⋯おっとそうだ、言い忘れておったわ』

 『なんだよ、そろそろ稽古(ケーコ)に⋯⋯』

 『ベル、もしも英雄になりたいなら、ダンジョンには出会いを求めるんだぞ』

 

 顧みればとんでもない事を吹き込んでくれたものだが、けれども、その教えのお陰で──Lv1にも関わらず、今こうしてなんとかミノタウロスと死合(やりあ)えてる訳だから、文句は言えないな。

 

 「ヴゥムゥン!!」

 「ぬうっ!?」

 

 高みを目指すべく降り立った第五階層で、少し進んだ地点で何故か彷徨(うろつ)いていた牛頭のモンスター、ミノタウロス。

 圧倒的な身体能力を前に後退という選択肢が無かったのでなし崩し的に戦闘に入ったのだが、どれほどの時が経つのか。幾度この硬角(こうかく)と豪腕に斬撃を阻まれ、殺されかけたか。頭が痛くなるほど集中し過ぎていて、もう何も判らない。

 判っている事は、先日露店で購入した6000ヴァリスの大剣が鉄板を張り合わせただけのような、とんでもないナマクラだった事。そしてそれがミノタウロスの肉体の前に軋みを上げてもうじき折れるという事だけだ。

 とその時、ミノタウロスの背後に人影が現れた。性別は男。灰色の毛並みをもち、わざと筋肉を露出させるような出で立ちの狼人(ウェアウルフ)だ。彼は最初は慌てて飛び出してきた様子だったが、タッ──タタ──と足を止めて此方を傍観する。

 ミノタウロスの大振りな一撃を避けて、ひとまず間合いを取り直していると、その男から声が飛んできた。

 

 「おい白髪頭、助けはいるか?」

 「──っ、今はいい!」

 「命知らずの馬鹿野郎が。言っておくがな、お前が持ってる剣じゃソイツの肉は何があっても絶てねえぞ」

 「はっ、それで退()いたら漢じゃないぜ!」

 「なっ⋯⋯!?」

 

 ミノタウロスの注意が狼人(ウェアウルフ)に逸れた瞬間を見計らって、重量を活かした一撃を手首目掛けて放つ。刀身のド真ん中がモロに命中、皮を切り裂いて肉を浅く噛み、骨に衝撃を与えるが──手応えが悪い、浅すぎる!

 

 「ヴオオオオッッ!!」

 

 相手もすかさず此方にターゲットを戻し、斬られていない逆の腕で殴りかかってきた。拳の軌道を剣の側面に沿わせるようにして回避し、二撃目が来る前にさっさと射程から抜け出す。剣さえマトモならあの場で反撃しても良かったが⋯⋯さあどうする、どうやって状況を打開する。

 そう考えていたら、男が現れた曲がり角から更に新たな人影が。

 少女。

 絹のように滑らかな艶を放つ金髪を靡かせた、うっとりとする無垢な美貌の──少女だ。

 彼女とあの狼人(ウェアウルフ)は仲間らしい、互いの存在に気付くと早速声を掛け合い始めた。

 

 「あの人は助けなくてもいいの?」

 「見りゃ分かるだろ、まだその時じゃねえ」

 

 殴打が飛んでくる。自分は彼女の声に耳を済ませながら、しかし眼前のミノタウロスに対して目を皿にして回避──すかさず反撃に袈裟斬り、返す太刀筋でもう一閃する。

 殆ど同じ箇所を二度に渡って斬りつけ、肉質が硬すぎて手応えこそあまり無いものの、内臓にでも衝撃が伝わったのか、奴は苦悶の声を上げて後退った。──怯んだ、もう一撃いける!

 一瞬低く腰を落とし、そこで溜めた力を放出して一気に飛び出し、距離を詰める。

 

 「ぬおらああああっ!!!」

 

 ミノタウロスすらも威圧する勢いで雄叫びを上げ、大剣を先程切った手首に向けて再度振り下ろす。刃がより深部に到達──骨を一瞬掠めた!?

 なんだ、明らかにあの少女(ひと)が来てから力が漲っている。集中しすぎてオーバーヒートを起こしてかけていた脳が明晰に、興奮で空転しかけていた体がちゃんと付いてきている。

 ──まさか。

 ──まさかこれが、一目惚れ。

 ──そして、これが恋の力なのか!?

 金髪の御令嬢は狼人(ウェアウルフ)と一緒に此方を眺め、金色の瞳から熱を帯びた、いや厳密には帯びている気がする視線を浴びせてくる。

 なるほどそうか、お嬢様は俺がミノタウロスと二人三脚で繰り広げる舞踊(ころしあい)をご所望らしい。英雄たるもの、いや男たるもの女性の願いを聞き届けてやるもの。そうと決まればおいお前、彼女が満足するまで俺と付き合って貰うぞ!

 

 「あらよっとォッ!!」

 

 攻撃を躱した間隙を縫って奴の頭上に剣を振り下ろすと、ミノタウロス(あいかた)は息の合った様子で、その角で刀身を真っ向から受け止め──折れた。剣が。

 

 「はっ?」

 

 甲高い金属音と、それに混じる破砕音。6000ヴァリスが儚く砕けさっていく音だった。

 

 「ヴモホォッ!」

 

 中に人間でも入っているのか。口端と目尻を吊り上げてご機嫌な声を上げるミノタウロス(くそやろう)。唖然呆然と目を丸くしていると、奴がその腕を肩の後ろに溜めてギチギチと筋繊維を軋ませているのが分かった。

 しまった──。

 誰だミノタウロスと舞踊(ころしあい)とか考えた奴、こんな化け物と踊れる訳ないだろうが。円舞曲(ワルツ)じゃなくて鎮魂歌(レクイエム)を演奏されるわ。

 明晰な頭で走馬灯と平行してどうしようもない事ばかり考えていたら──突如、かまいたちが眼前を通った。

 

 「なにっ」

 「ヴモっ」

 

 ミノタウロスの全身に赤い直線が殆ど同時に走る。

 首、四肢が切り離され、胴体がXの形で四等分──バタバタボトボトッ!!

 そりゃあ堅いわけだと思わせる重量感のある肉体が、血を噴き出す間もなく積み木のように地面に転がっていき、消滅。魔石だけがその場に残った。

 ミノタウロスの代わりに目の前に現れたのは、かまいたちの正体──件の少女だ。

 熟れた手捌きで刃の表面に付着した血を振り払い納刀すると、一歩、二歩と滑らかな足捌きで俺の方へと歩み寄ってくる。

 ま、まさか、これがダンジョンでの出会い!?

 

 『爺ちゃん、ダンジョンでの出会いって何がそんなにいいんだよ?剣とか槍とか持ってるおっかねー奴よりも街にいる女の子の方がよくね?』

 『分かっとらんなあベル、ダンジョンでの出会いは──男のロマンじゃ!』

 

 ──なるほど、これがそうか!ようやくその尊さが分かったよ、爺ちゃん!

 恐らく十年以来ぶりくらいに謎が解明された喜び、そしてやっぱり爺ちゃんの言う事は正しかったんだという感動から全身が打ち震え、それでも足りずに拳を握り締める。

 

 「あの」

 

 耳朶(じだ)を打つ涼やかな美声にハッと顔を上げた。

 ミノタウロスと戦っている最中にああ思うくらいだから当然なのだが、こうして間近にすると最早畏怖すら覚えるような整然とした容貌だ。冷や汗どころか脂汗が浮き出てくる。

 彼女はいったい何の用で俺に話し掛けたんだ?表情から解読を試みるが驚くべき無表情で何も分からん。無関心といった空気は感じないが、そうでないと判るだけ。金色の瞳に映っている瞠目する俺の姿が際立つ格好だった。

 ど、どんな言葉を返せばいいんだ!?

 オラリオに来て二週間が経ち、ひょんな事から出会った女性に対しては自分の中で百点満点と言える程の受け答えをしてみせた俺だが、今は一言も口をついて出てこない。

 ──『見事なお手並みでしたね』、悪くないがなんか嫌味っぽい。

 ──『誰も喧嘩しない四等分でしたね、普段から率先して切り分けていらっしゃいますか?』、いいえと言われた時の俺の心は何処にいく?

 ──『頭だけ綺麗に斬り飛ばしたのは、近々あれを使ったお祭りでもあるからですか?』、とんでもない天然野郎だと思われてしまう。

 ──『今度は俺と一緒に踊ってくれませんか?』、これが一番マシかもしれない。おいおい、こんなのを言うしかないのか?

 

 『お困りのようじゃのう、ベル』

 

 お、お爺ちゃん!?

 

 『教えた筈じゃ、こういう時になんと言えばいいのかを』

 

 こんな状況で思い出せる気がしない。

 

 『──好きです、付き合ってください!』

 

 碌でもない!

 いきなり頭の中に割って入ってきた悪魔の助言を振り払うように、自分は頭を深く下げて一言。

 

 「感謝します」

 

 本当に何も思い浮かばなかったので、せめて最も良い声で感謝を述べた。迷宮内に木霊する低く練れた声を聞き、声変わりが早くて──発育が早くて良かったと再実感する。

 上目でチラッと少女の反応を伺うと、なんだかぽかんとした表情。後ろで事の成り行きを静観していた狼人(ウェアウルフ)は、わざとらしい声が癪に障ったのか面白く無さそうに鼻を鳴らした。

 これ以上待っているのは緊張で心臓が破裂しそうだ。

 自分は頭を上げると、ど真ん中から真っ二つに折れてしまった激安大剣(6000ヴァリス)を背中に提げている鞘に収めて、上階に続く道をゆく。

 丁度、この二人の横を通り過ぎる形になった。

 

 「おい」

 

 狼人(ウェアウルフ)から声を掛けられた。

 戦闘中にも思った事だがなんと横柄な奴だ、俺も大概人のことは言えないと思っているが、初対面の相手くらいには礼節は払うぞ。こうやって。

 

 「なんでしょうか」

 

 体は向けず、横目だけ合わせてそう聞き返すと、彼は刃物を取り出すかのように鋭い眼光を飛ばして睨めつけてきた。

 

 「見ねえ顔だな、名前を教えろ」

 

 そういう事なら素直に聞けば良いだろうに、損な性格だ。

 内心で苦笑しながら、自分は相手の威圧に泰然とした態度を見せながら、短く告げた。

 

 「ベル・クラネル」




ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
というタイトルを見て真っ先に思い浮かんだ主人公像はこんな感じでした。どんな軽薄な主人公が女の子をとっかえひっかえしていくんだろうと思って見始めたら、想像斜め上をいく良い子で仰天しましたね。
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