ベル君の身長が203cmなのは間違っているだろうか?   作:長身キャラ大好き

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EP2の続きになります。
凄まじく書きやすいので今後は一人称視点で進行するかと。


EP4

 ね、眠い⋯⋯体が泥のように重たい。もうじき起きる時間だと腹が訴えかけてくるのに対して脳が全く言う事を聞かない。魂が抜けてしまったのではと思うほど、体がベッドへ沈み込んでいく。

 いくら状況が状況だったとは言え、ミノタウロスと真正面から戦い続けた事による体への負担は尋常ではなかったらしく、俺の感覚は夢幻の世界でどんぶらどんぶらと無気力に揺蕩(たゆた)っていた。

 

 『何をしておる、ベル』

 

 爺ちゃん──?

 

 『男たるものその程度で弱音を吐くな。その足で大地を踏み、日銭を稼いで女を養え』

 

 ああ、分かってるからあともう一時間寝かせて。

 真っ白な空間にバストアップ状態で出てきた爺ちゃんから目を逸らすと『おまっ、無視するな!?うおあああっ!?』と絶叫して虚空へ消滅していった。

 入れ替わるように、閉じた瞼の先から何者かの気配が。

 鋭敏な運動神経と可憐な体躯を想起させる軽やかな靴底の音。歩調に同期してカチャカチャと小気味よく上がる金属音は、その鎧が所有者の体に合わせてどれほど緻密に造られたのかを推測させる。

 聞き覚えのある音。それら二つは烈火の如き感覚の中、ただのいち情報として刻み込まれているが、しかし自分にとっては何よりも印象深いものだった。

 もしかしてこれは、と目を開く。眼前に佇んでいたのは、やはりあの女性(ひと)──アイズ・ヴァレンシュタインさんだ。

 

 『──!』

 

 意識が力を取り戻していくのが解る。

 彼女は豊かな睫毛(まつげ)によって、くっきりと縁取られたその瞳で俺の事を上目遣いしながら、白皙の肌を蒸気させておずおずと口を開く。

 

 『⋯⋯ベル』

 『は、はいっ、なんでしょうかっ!』

 

 努めて紳士的に言葉を返すと、彼女は軽快なステップから俺の懐まで飛び込み──両手を広げて抱きついてきた!?

 胸の形に沿って隆起しているアーマープレートが、何故か上半身裸になっていた胴体にぴったりと触れる。ただただ冷たく堅い感触、けれども肌に埋まる曲線の造形が艶めかしく、心臓が情けない程に早鐘を打ち始める。

 アイズさんの胸ってこんなに大きかったかと不思議に思ったが、そんな疑念は一瞬にして振り払う。大きくて困る事はない、偉い人(じいちゃん)がそう言っていた。

 

 『強くなって、ベル』

 『──っ!?』

 『私と同じくらい⋯⋯ううん、私よりも強く』

 『剣姫(あなた)よりも強く⋯⋯!?』

 『お願いベル、私を抱いて約束して』

 『⋯⋯はいっ!』

 

 据え膳食わぬは男の恥──!

 意を決した俺は身を屈めて彼女の背中を抱き返し、そのまま体を(まさぐ)りながら二人だけの世界に没入していく──。

 

 『ぅひゃぁ⋯⋯そこはダメだよ、ベルくん⋯⋯』

 『あれっ?』

 『いくら君との仲とは言え、僕は処女神なんだから⋯⋯』

 

 な、なにぃーっ!?俺が今まで抱いていたアイズさんは!?

 

 ●

 

 「──っ!?」

 

 目が覚めた。んで肝が冷めた。

 童貞(わからん)なりに手を這わせて愛撫していたのはアイズさんの肢体ではなく、俺の体の上でべったりと寝ていたヘスティア(かみ)様だった。

 どうりで体が重たかった訳だ、どうりでアイズさんの胸がデカい訳だ──じゃなくて、今すぐこの御方の背中と内腿から手を離せ、俺!

 バッ──掛け布団が捲れ上がる勢いで両手を万歳する。

 手のひらにモッチリと温かい感触が残る中、恐る恐る目線を下ろして神様の様子の伺うと、彼女は耳まで真っ赤にして艶めかしい声を微かに漏らしながらも、瞼は落とし、だらしなく緩んだ口端から涎を垂らしていた。

 

 「ふへ⋯⋯そうそう、僕達は親と子なんだから、その一線は越えちゃいけないんだ」

 

 どうやらあちらも夢現(ゆめうつつ)の中らしい、規則正しい寝息を立てながらそんな事をぶつぶつと呟いている。

 

 「──あっ。そ、そうやって当ててもダメなものはダメだからなぁ⋯⋯」

 

 体同士が密着している都合、神様がもぞもぞと身を捩る度にその双丘が俺の腹筋の上でぺったりと形を歪ませる。あまりにも刺激が強い不健全な感触に、興奮を通り越して悪寒すら感じる。

 とにかくこのままだとマズい、色々と!

 神様の体全体を手足でやんわりとホールドし、寝返りをうつように半回転。端から見れば俺がベッドに押し倒す体勢に移行すると、そそくさと上体を離してベッドから立ち上がる。 

 がしっ。

 なんか、掴まれた。

 手や足ではなく、服の裾とかでもなく、丁度良い感じに掴みやすくなっている急所を無遠慮に、しかも両手で。

 

 「ぇ──!?」

 「ベルきゅん⋯⋯そのまま外に出たらまずいよぉ⋯⋯ふへ⋯⋯」

 

 もぞもぞと蠢く指の感触にとてつもなく嫌な予感を抱いた俺は、憚りながらも神様の両手を振り解いて、いそいそと着衣の乱れを直した。

 ヘスティア様の眷属になってから、言い換えれば彼女と寝食を共にするようになってから二週間経つ訳だが、こういったトラブルはしょっちゅう起きていた。

 それこそ神様が俺を肉布団にしているのはマシな方、なんか苦しいと思ったら(こぼ)れかけの胸が顔面を埋めていたり、擽ったいと思えば股間に顔を埋められていたり、繊細な手が俺の服の中に侵入していたり。

 そんな中でも今日の一件は一位二位を争うレベルの酷さと言えた。この神様、寝相が悪すぎる。まあ元はと言えば、シングルベッドに無理矢理二人で寝る原因を作っている俺の体が悪いのだが。

 ファミリア加入初日の会話が脳裏を掠める──。

 

 『さてと、時間も時間だしそろそろ寝ようか、ベル君』

 『ええ、それじゃあ俺はソファの方に』

 『ちょ、おいおいっ!君の体でそんな所に寝ちゃあ、体のあちこちが痛んじゃうぜ!?年齢的には成長期の真っ只中なんだから、ちゃんとベッドで寝ないと!』

 『しかし、そうすると神様の寝床が。神様をソファに寝かせる訳にもいきませんから』

 『ちっちっち、もう一つの選択肢を忘れてるぜ、ベル君』

 『というと?』

 『ベッドが一つしかないなら、一緒に寝ればいいじゃないかっ!』

 

 ⋯⋯神様はいったいどうして会って初日の俺に、そこまで心を許していたのだろう?誰に対してもこんな調子ではないと信じたいが。

 ふう、一度深呼吸をして心を落ち着かせる。こんなエロハプニングで心を踊らせている場合じゃない、今日は一日中ダンジョンでモンスターの討伐に勤しむのだ。

 昨日ミノタウロスのせいで全く稼げなかった分を取り戻し、ついでに新しい大剣を買う為の貯蓄を築かねばならない。

 その為には一刻も早く、一つでも多く魔石を回収しなければ。

 部屋の一角に纏めてある装備品の数々──と言うと聞こえは良いが、実際はギルドから支給された短刀と武具屋で購入した格安の胸当て、それと戦闘用ブーツだけ──を装備する。

 顔にうっすらと付着する冷や汗を洗面台で落とし、口内の嫌な感覚をうがいで流し去って、昨晩残しておいたジャガ丸くん(チキン)を二つ頬張る。すっかり冷めきってしまった衣が萎びており、中の具材も若干硬くなって味が落ちているが、水と共に問答無用で嚥下する。

 ご機嫌な朝食には程遠いが今暫くは我慢だ、俺が強くなればこの生活からも脱却できる。

 全身をポンポンと叩いて所持品を失念していない事を認めると、まだ微睡みの中に揺蕩う神様の方へと振り向いて、一言。

 

 「行ってきます、神様」

 

 そして、地上へ続く階段を、頭をぶつけないよう身を屈めながら駆け上がった。

 

 ●

 

 オラリオの朝は早い。

 街路沿いに立ち並ぶ商店の多くが鎧戸を締める中で、商売熱心な人達はぽつぽつ表に出て一人でも多くの客を招くべく準備に取り掛かり、金に飢えた冒険者達は獰猛な目つきで眼前の摩天楼を睨めつける。

 かくいう俺も後者のうちの一人。一秒でも早くあの地(ダンジョン)に降り立つべく、それと準備運動も兼ねて小走りで街路を駆けていた。

 普段はセントラルパークに繋がる廃墟ばかりの小径をジグザグに進むのだが、今日は本拠地(ホーム)の南に繋がっている西通りを通っている。二階、三階建ての落ち着いた外観の建造物が軒を連ねており、空気も心なしか瑞々しく感じる。

 前方に見える木造造りの豪奢な建物は、その景色の中でも一際存在感を放っている。

 これは恐らく飲食店なのだろう、軒先には『豊穣の女主人』という名前の看板が立っており、たった今、店内からウェイトレス姿をした薄鈍色(うすにびいろ)の髪を結わえている若い女性が、折り畳まれたパラソルを腕一杯に抱えて玄関から出てきた。

 視界の殆どが防がれているせいか、足元はふらふらと頼りなく、一抹の不安を感じる。

 

 『女から告白されるような男になれ』

 

 そうだよな、爺ちゃん!

 足先を斜めに転進させ、片手を上げて声をかける。

 

 「あの、もしよろしければ手伝いま──」

 

 刹那、声が喉で詰まった。

 急に気が変わったとか、今朝食べたジャガ丸が傷んでいて早速食あたりを起こしたとかじゃない。

 どこからともなく放たれた熱線(しせん)が、無遠慮に脳を──心をも穿ってきた。

 

 「──!」

 

 咄嗟に腰の短刀に手を伸ばし、辺りを見渡す。遠巻きから横目で怪訝に此方を見たり、ふと目を逸らしたりする人はいるが、あの一撃を放てるような人間は何処にも──。

 そうしていたら、声を掛けようしていた女性がおずおずと此方に近付いてきて、口を開いた。

 

 「あの、どうかされましたか?」

 

 閑静な街並みによく溶け込む、涼やかで柔和な声。俺の意識はその声に、視線はそれが発せられた唇へと集中する。

 うっすらとした桃色の艶めきを乗せた、瑞々しい桜唇(おうしん)。異性へのアピールを程々に考えた化粧なのだろうが、控えめな色気が逆に彼女自身を引き立てていた。

 少し離れて顔を見る。

 大人びた輪郭の中にあって、くりっとした可愛らしい目。

 きっちり結い上げられる事で溌剌とした印象を醸し出しながらも、うなじから色香を放つ、銀色に程近い艶やかな髪。

 なんともまあ、紛うことなき美人。

 オラリオに来る前の俺であれば一目で恋に落ちていた事は間違いないが、神様と寝食を共にし続け、憧憬(あこがれ)の相手を定めた今の俺は、努めて冷静に咳払いを挟んで。

 

 『失礼、あまりの美しさに言葉を失ってしまいました』

 

 ──とは流石に言えず。

 

 「──こほっ。すみません、いきなり咳が出てしまって」

 

 苦笑交じりにそう言うと、

 

 「まだまだ朝晩は冷えますもんね、大丈夫ですか?」

 「寒気はありませんからご心配なく」

 「ええと、それで私に何か御用でも?」

 

 女性が小首を傾げてくるので、俺は一旦壁に立てかけられているパラソルを一瞥し、

 

 「もしよろしければ代わりに運びましょうか、アレ」

 「えっ、そんないいですよ。私のお仕事に冒険者さんの手を煩わせる訳には」

 「ですが、足元がふらふらと覚束ない様子でしたので」

 「あ⋯⋯」

 「それで貴女が転んで怪我でもしたら、きっと俺は後悔するので。だから手伝わせてくれませんか、お姉さん」

 

 動機は若干不純と言えども一応真心からの言葉を告げると、彼女は()()とした様子で口を栗のようにし、暫しそのまま此方に視線を注ぎ続けた。

 俺が始めた物語とは言え、そんなに注視されると気恥ずかしい──というのは相手も同じだったようで、彼女はパッと視線を横に切った。

 

 「す、すみません、ぼうっとしちゃいました。まだ朝早いですから、きっとそのせいですよね」

 「え、ええ、きっとそうですね」

 「それじゃあ、お言葉に甘えてお願いしてもいいですか、冒険者さん?」

 「任せてください、こういう事の為に鍛えてますから」

 

 軽妙に言葉を掛け合いながら、立てかけられているパラソルを手に取る。丁度昨日折れた大剣くらいの大きさだ。

 心の中にまだ捨てきれない苦々しい感情が広がる。

 長年付き合っていた男と別れた女は、日常の中で何らかの棒を手にとった拍子にこうして物思いに耽ったりするのだろうか。

 寝起きが酷すぎた影響か、センチメンタルな感情がどこからともなく湧いて出てくる。

 

 「えっと、それじゃあ四つ置いてある台座に奥から順番に挿して頂けますか?その間、私は店の中から他のを持ってきますから」

 「分かりました」

 

 地面に置かれている台座を視認すると、快活に返事をして作業を開始する。

 ──女性店員が、細かいステップを刻んで背後から回り込むように視界へと入り込んできた。結い上げられた薄鈍色の団子髪が、軽く揺れる。

 どうしたのかと目を見開いたら、彼女は朝日と見紛うような笑顔を浮かべて。

 

 「申し遅れました、私はシル・フローヴァといいます。以後お見知り置きを」

 

 シル・フローヴァ。清涼感に溢れた彼女に良く似合う、流麗な響きの名前だった。

 此方もつられて笑みを浮かべ、名乗り返す。

 

 「素敵な名前ですね。俺はベル・クラネルです」

 「ベル・クラネル──。まあ、そちらこそ綺麗なお名前ですよ」

 「どうも。俺の事は好きなように呼んでくれて構いませんから」

 「⋯⋯それじゃあ、思い切って『ベルさん』って呼んじゃいます。いいですよね?」

 「ええ喜んで、シルさん」

 「──うふふっ!それじゃあ、他のパラソルも持ってきちゃいますね」

 

 とととと、とローファーの滑らかな靴音を鳴らして、シルさんは俺の前から一度姿を消す。言葉を交わした後に楽しさだけが残る、なんとも小気味よい人だ。

 言われたとおりにパラソルを台座に挿すと、既に三本のパラソルが店内から突き出る形で置かれていた。非力そうな割には仕事が早いなと思っていたら──屋内から、にゅっと。

 大木のような足で大地を噛み、分厚い巨躯を青い制服で包み込んでいる中年の女性が姿を現した。

 彼女は此方の姿を見ると、「へえ」と口端を吊り上げて。

 

 「朝っぱらシルを口説くとは、若い奴の体力ってのは羨ましいねえ」

 「ははっ、それほどでも。貴女はこの店の⋯⋯店主さんですか?」

 「ああそうさ。アタシこそ、この店の店主──ミア・グランドだよ。アンタは?」

 「ベル・クラネルです」

 「そうかい。見た所冒険者らしい出で立ちだが⋯⋯アンタ、まだまだ新米だね?それと身長が高いからそうは見えないが、相当に若そうだ」

 「ええ、実際に冒険者になって二週間ですし、まだ十四才ですが⋯⋯」

 「──気に入った。小僧、今日の夕食はうちにきな。腹いっぱいに食わせてやるよ!」

 「は、はあ」

 

 有無を言わせぬ豪快さに押し切られると、ミアさんは踵を返して店内へと姿を消した。で、入れ替わりにシルさんが現れたかと思いきや、笑みを浮かべながら両手を合わせて。

 

 「私からもお願いします、ベルさん。沢山お話を聞かせてくださいねっ」

 

 そう言い残し、彼女も店内へと戻った。

 

 「⋯⋯上手いこと捕まえられたな、これは」




純正ベル君よりもだいぶスケベ心が強い個体になってしまった。
とりあえずR-15付けときました。
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