プロジェクトセカイ feat 仮面ライダー 作:ミッツー116
「おらよっと!」
スライムに向かいタイヨウが拳を振るうと身体が上に伸び回避する。予想外の躱し方に驚くと伸びたまま天井にくっつき空に赤い水たまりができたようになる。重力を無視した動きに面食らっていると身体をトゲのようにして何度もラッシュを繰り出してくる。
「なっ!?うわぁっ!」
天井から降り注ぐ針の雨に全身から火花が散る。変身していなければ全身串刺しだっただろう。地面を転がり回避すると再び水たまりが変化する。細長い楕円形のような姿に引き伸ばされ、一気に戻りパチンコで飛ばされた球のように飛んでくる。
「舐めるなよ!」
飛んできたスライムを思いっきり蹴る。凄まじい勢いの衝撃にこちらが吹き飛びそうだがギリギリの力で拮抗する。だが、現時点で拮抗しているなら打開策はある。
『FINISH THE TAIYO!!』
「タイヨウシュゥート!!」
足から炎を噴き出し勢いをブーストさせスライムを蹴り飛ばす。吹き飛んだスライムは屋根を貫きはるか上空に飛んでいく。
「ナイッシュー!ゲームセット!」
勝利の叫びを上げると穴から映る青空を見上げる。実に清々しい空、そして気づく。
「これバレたら弁償か…?」
第四話 「破壊の力」
「何か分からんが戦闘員倒したっぽいかこれ…?」
烈が戦闘した場所にたどり着いた拳治が呟く。辺りに倒れ伏す戦闘員らしき泥の跡、何人かは一部だけだが全身変わっているものもいる。どうやら倒したあとしばらくするとこうなるのだろう、キショい。
「愛莉もいないしどうなってんだろうな、雫」
そう言うと一緒についてこさせた雫の方を振り向く、アイドルをやめた話を詳しく聞こうにも戦闘員を放置するわけにもいかず連れてきていた。取り敢えず愛莉に電話するも繋がらない、仕方なくメッセージだけ送ることにする。
「それじゃ、さっきの話の続きするか。何でアイドル辞めたんだ?」
「それは…もう嫌になってしまったの」
「何が?」
雫の言葉に首を傾げる。自分も一応芸能界に入っているから嫌なこともいろいろあるのは分かるが辞めるレベルなのだから相当だろう。拳治の質問に雫は暗い顔をして続ける。
「前に愛莉ちゃんにも聞かれたのだけど…私、メンバーと上手くいってなくて…」
「?なんでだ、お前人に嫌われるようなタイプじゃないだろ」
「私…ずっと前から一人でのお仕事が増えてて、ライブも…形だけの選考をしてずっとセンターだったの。最初はお互いに頑張ろうって言ってくれてたけど、段々仲が悪くなって…」
「ふーん」
正直、相手に原因があると思ってしまう。事務所の方針にも問題があるのだろうがこれで雫を恨んでいるのはお門違いだろう。気にすることはないと言って発破をかけることも出来るが…
「まぁ、お前がアイドルだろうとなかろうと興味はないな」
「え?」
「俺とお前幼なじみだろ?アイドルなる前から知ってるから今さらセンターだのモデルだの言われてもな」
雫に対しあっけらかんと言い放つ拳治。正直そういう話ではないと思うが構わず話を続けていく。
「それじゃどっか遊びに行こうぜ、アイドルやってるとき行けなかったもんな」
「拳治くん…」
携帯を取り出し誰かに連絡を始める。しばらく待っていると話がまとまったのか電話を切って話しかけてくる。
「よし行くぞ、この先で待ち合わせだ」
「誰か呼んだの?」
「お楽しみだ」
ーーーーーーーー
タイヨウに蹴り飛ばされたスライムはとある山奥に落ちていた。落下の瞬間に体の頭頂部に核を移動させ液体部分を下に密度集中させたことで死なずに済んだ。
「やれやれ、可哀想な怪人くんだ。ろくなサポートも受けられずこんな山奥に」
スライムが身体を再構成させると後ろからマッシュの男が話しかける。新しい怪人の誕生を知って探していたがようやく見つけた。
「大丈夫…僕は君の味方だ。君を奴らに勝たせてあげよう」
そう言って作戦をスライムに伝えると身体を液体に変えてスライムは進んでいく。その姿を見送りながら男は笑みを浮かべる。
「そう、頑張らないとね。そろそろ本格的に動く時だ…」
ーーーーーーー
電話からしばらくして拳治と雫は待ち合わせ場所についていた。そして後から到着した人物と合流する。
「天翔けるペガサスと書き天馬!!世界を司ると書き司!!世界のスターになる男、天馬司!!」
「…なんだそれ」
「ふ、先日フェニックスワンダーランドのショーステージの面接に行ってな…その際にも披露した、スターたる俺の自己紹介だ!!」
「分からん、何故それでいいと思ったのか。何故今ここでやったのか」
自分より誤差程度に身長がデカい金髪の幼なじみ、天馬司の奇行を眺める。付き合いも長く基本的に真面目なやつだがときおりこういった奇行に走り出す。雫もまぁまぁの頻度で天然行為をやり出すところもあるし自分の周りはこんな人物ばかりだ。
「まともなのは俺だけか…」
「モテそうだからモデル始めた奴が何を」
「なんだとおめー、謝れよ全モデルに」
「謝るのはお前だ」
男性モデルは全員モテるためにやってると思っている。結局三人とも変な奴である。
「それで、今日は何処に行くんだ?」
「今日は雫のアイドルお疲れ様会だから雫の行きたいとこにいく」
「うむ!了解した!それでは雫!リクエストを!」
「声量が相変わらずすごい」
何気に三人集まるのが久々のためテンションが上がっているのか何時にもまして声がデカい。いつもならもう少し周囲に気を使ってくれるのだが、そしてその甲斐なく雫からのリクエストはない。
「…うどん食いに行くか」
「う、うむ。雫はうどん好きだしな!」
うどん屋ー
「それじゃあ私は…晩御飯もあるし、かけうどんにしようかしら」
「俺は肉うどんにしよう、拳治は?」
「天ぷらうどんの大盛りと…卵かけごはんのセットに、単品で生姜沸き」
「主役より食うなお前。その体の何処にそんなに入る?」
「今俺がチビって言ったか?」
「過剰反応だろう!」
洋服店ー
「アイドルやめたなら可愛い系じゃない服とか試すか」
「うーむ、だが雫は結構こういうかっこいい系着てた気がするぞ」
「マジか、共演してたとき以外のは知らないんだよな」
「ふ、俺は咲希の見舞いに何度も買いに行ったからな!詳しいぞ!」
「妹の見舞いに知り合いの女の写真集を…!?」
ゲームセンター
「シマエナガのぬいぐるみがあるぞ」
「マイナーだな…よし、俺が獲ってみせよう!」
「やれるか?」
「ふ、知り合いにこういうの得意なやつが…落としたー!!!」
「即落ちすぎるだろ」
しばらく色々なところを回った後、一旦別れてお手洗いに向かう。並んで用を足しながら拳治は司に話しかける。
「うーん、やっぱ中々うまくいかないな…」
「辞めてその日に立ち直れと言うのも無理な話だと思うがな…」
「そりゃそうだけど、さっさと切り替えないとあいつずっと引きずるだろ」
「それは分かるが…」
どうしても責任感の強い雫はこういう時に引きずってしまう。強引に気分を変えさせるのが一番だと思うのだが。
「そもそも俺がこういうの得意じゃないんだよな…」
「まぁお前が悩んでいるとこをみたことはないな」
「正直雫の話もピンと来なかった」
「何があったんだ?突然呼び出されて何も聞いていないんだが」
「痴情のもつれだ」
「何ー!?雫に男が!?」
「え?いやメンバー間の問題だけど…」
「それを痴情とは言わん!!」
司のツッコミを流しながら考える、やはり自分では荷が重そうだ。こういう時に頼れる人物を思い浮かべ、今日はこのまま遊んで少しでも慰めることにした。
ーーーーーーーー
「て事で愛莉に頼ろうと思ったんだけどさ」
「うん」
「なんか朝見に行ったらあいつも元気なかったんだよな」
「練習来ないしな」
次の日、学校の屋上で太陽とみのり相手に話す。頼りの綱の愛莉が不調そうで困ってしまった、一応サブプランも考えはしていたのだが…
「でさ、あいつもアイドルやめたばっかだから別の方法も考えてはいたんだよ」
「意外に用意周到」
「アイドル詳しい烈ならと思ったらあいつも元気なかった」
「…?なんでだ」
こちらに関してはなんの心当たりもない、昨日用事があると言っていたしそこで何かあったのか?首を傾げていると拳治が口を開く。
「ところで…そいつ大丈夫か?」
「あぁ、微妙かな」
そう言って振り向く。その視線の先には這いつくばったみのりがいた。
「そんな…日野森先輩までやめちゃうなんて…」
「やっぱ春は卒業シーズンだからな」
「うわーん!!」
「余計な事言わないでもらえるか」
アイドル目指して頑張る中で推し合わせて三人ものアイドルが引退したのはショックが大きそうだ。再び人肌脱ぐとしよう。
「立て!みのり!」
「!は、はい!」
「いいか…確かに遥、愛莉に続いて雫までアイドルを辞めたのはショックかも知れない…だが既に誓ったはずだ!辞めてしまった遥の分まで希望を届けると!そしてそれは今回の件でより重い使命になったんだ!」
「…!そうか、そうだよね!今まで遥ちゃんも桃井先輩も日野森先輩も私たちに希望を届けてくれた…今度は私が皆に希望を届けなきゃ!」
「お前らすごいな」
余りにも早い立ち直りに驚いてしまう。今自分が雫たちの立て直すのに苦労しているのが馬鹿みたいだ。
「いやまぁ、みのりなら俺が何言わなくてもそのうち立ち直るし。あんま俺は関係ないから」
「そんなことないよ!いつも一緒にいてくれてすっごい頼もしいもん!」
「…いっそ愛莉達もお前らに任せた方が早いか?」
もちろん友人として自分がなんとかしてやりたい気持ちはあるがそれにこだわっていつまでも2人が立ち直れないのは本末転倒だ。2人に任せて状況が好転するならそれが一番だと思う。
「うーん、俺愛莉のことも雫のこともよく知らないからなぁ…」
「そうか、2人は付き合い長いんだもんな」
「物心ついたときからいるからな。それならむしろ…みのりに愛莉達は任せた方がいいかも」
「ふぇ!?私!?」
「2人のことも詳しいだろ?みのりなら」
「た、確かにふたりとも大好きなアイドルだけど…」
「なら、決まりだな」
そう言うと太陽は扉をあけどこかに行こうとする。
「愛莉と雫は2人に任せるぜ!俺は烈見てくる!」
「へ!?ちょ、ちょっと太陽くん!」
「大丈夫!2人ならうまくやれるさ!じゃあな!」
その言葉を最後に階段を駆け下りていく。残された2人は顔を見合わせたまましばらくフリーズしてしまう。
「ど、どうしましょう…一之瀬先輩」
「取り敢えず愛莉からどうにかするか…名前使ってもいいか?」
ーーーーーーー
中庭、大勢の生徒達の憩いの場所で愛理は一人似つかわしくない暗い顔をしていた。その手には携帯が握られており、メッセージアプリが開かれていた。
「(雫、メッセージ見てくれないわね。喋りかけようにも避けられちゃってるし…)私、最低なこと言っちゃった」
「…デカい独り言ですね、先輩」
「へ?」
突然声をかけられたことに顔を上げる、そこには葵がジュースを片手に立っていた。
「あんた…なんでここに…」
「生徒が学園内にいて何か問題でも?」
「…嫌味っぽいやつね、一人なんて珍しいじゃない。いつも遥と一緒のくせに」
「…」
痛いところを突かれたのか椅子に座り缶ジュースを開け飲み始める。内容を見るとイチゴミルク、意外に可愛い物を飲んでいる。
「…遥ちゃんは今日はクラスの子と食べてるよ、ずっと断ってたしね」
「あんたも一緒に食べればいいじゃない、仲いいんでしょ?」
「僕は遥ちゃんの学生生活に関わる気ないから」
「?どういうことよ」
葵の言葉に首を傾げる。遥に関わる気がないとはどういう意味なのか、単純に一緒にいるつもりがないのならずっと屋上にいたのが不思議だ。
「やっとアイドル辞められたんだから自由に学生してほしいんだよ。僕がいると声かけられない人もいるだろうし、遥ちゃんも気を使うだろうしね」
「屋上にはいたじゃない」
「あれはアイドルだらけの場所にいて遥ちゃんが心配だったからだよ。まぁ杞憂だったね、すぐ別の場所に行くことにしたし」
「…遥はあんたともいたいんじゃないの?」
「それは…そのうちそんなことも無くなるよ、他の友達が出来ればね」
愛莉の言葉に一瞬迷うも返答を口にだす、だがその表情は暗く本人が望んでないのは明らかだ。この話題を掘り下げられたくないのか葵は話を戻そうとする。
「僕のことよりそっちでしょ、いつもみたいに屋上行かなくていいの?」
「…私には、そんな資格ないわ」
「さっきの最低なことってやつ?」
多少デリカシーに欠けた聴き方をしてくる、先ほどまでの会話の仕返しのつもりだろう。性格が悪い。
「私、雫に言っちゃったの。見た目だけでアイドルをやってるって…彼女が努力してるのちゃんと知ってるのに」
「…それで?屋上に行かない理由になるのそれ?」
「私は…アイドルに向き合ってない。バラエティアイドルだって本当はすごく大切な存在だってわかってるのに…自分が望んだキラキラした存在じゃないからって投げ出した。そんな私に…あの子の夢を手伝う資格なんかないの」
愛莉の言葉を聴き終えると葵はジュースを一気に飲み干す。そのままゴミ箱に向けて投げると正確に中に入り、そのまま椅子から立ち上がる。
「ま、いいんじゃない?アイドルなんか意味ないよ」
「…それ、どういう意味よ」
「なに、怒ったの?向き合ってないくせに」
先ほどの愛莉の言葉を使い嫌味ったらしく笑う、しかしすぐに真面目な顔になり話し始める。
「アイドルなんて…どれだけファンのために歌って踊ろうと何も得られない、どれだけ辛くても応援の声は力になんかならない無意味なものだよ。頑張っても誰も助けてくれない…むしろ努力すればするほど完璧を求められて…僻まれて、最後には自分が潰されるんだ」
「葵、あんた…」
彼の口からでた恐らく心からの言葉に思わず動揺する、この話は恐らく遥のことだ。詳しい事情は知らないがトップアイドルと呼んで差し支えない遥が辞めてしまった程なのだから相応に重いはずだ、だからこそ学生生活を楽しんで欲しいという発言だったのだろう。しかし…やはり何故彼がその場にいようとしないのかが分からない。
「…花里さんも、夢が叶わないほうが幸せかもね。希望を持ったままでいられるんだから」
その言葉を最後に葵は去っていく。予想外の形で彼の内面を知ったことに戸惑ってしまうが…そこで携帯にメッセージが届いていることに気づく。
(『花里がずっと練習一人でしてるぞ』。か…)
先ほど葵にも言ったが自分にみのりを助ける資格なんかない。だが…
「ずっと待たせるわけにも行かないわよね…お別れくらい言わなくちゃ」
ーーーーーーー
1-B、その教室の中で烈は一人で食事をしていた。ずっと屋上に行っていたせいもあるがどうにもクラスには馴染めない。人付き合いは昔から苦手だ、だからこそ趣味にのめり込んだ部分もある。そんな中クラスに轟音が鳴り響く。
「烈ーーー!!!昼一緒に食おうぜーーー!!!」
「!?へ、た、太陽くん!?」
突然の来客に思わず声を上げる。周りのクラスメイトが呼ばれた自分に視線を集中させるのを感じながら太陽に近づく。
「ちょ、何しに来たんですか!」
「お前メガネしてないじゃん、どした?」
「無視しないでもらえます!?」
マイペースな太陽に怒りを覚える。このままでは今よりクラスで浮いてしまう、弁当を持つと適当な空き教室に太陽をつれていく。
「ぜぇ、ぜぇ、それで、何しに来たんですか」
「いや拳治がお前が元気ないって言ってたから、どうしたのかなって」
「…そんなことですか」
いつ何処でそんなことを知ったのか知らないが気にすることではない。極めて個人的な問題なのだ、手を煩わせるまでもない。
「別に気にしないでいいですよ…個人的な問題なので」
「そっか…で?何があったんだ?」
「話聞いてます?」
納得したかに見えたのに一瞬で聞き直してきた太陽に思わず突っ込む。会話がつながっていない。
「いや聞かない理由にならないし…気にしなくていいって…気になってるから聞いてるんだよ」
「いやこれ本当に関係ない話ですから…」
「今関係なくても聞いたら関係したくなるかもだろ」
「関係されたくないんですよ」
何なんだろう、ここまで強引に詰めてくるとは思わなかった。気安いタイプだとは思ったがここまでズカズカ来るとは。
「話すまでつけ回すぞ俺は」
「脅しまですんのか」
「恐れろ」
「確かに怖い」
本当につけ回す気迫が太陽から出ている、本当にしょうもない話だし話せば興味も失せるだろう。そう判断し烈は話し出す。
「どっから言えばいいのか…」
「できるだけ最初から頼むぜ」
「…僕の両親は関西出身で」
「予想よりいったなぁ…」
親の生い立ちまで遡るとは思わなかった。そう言えば確かに時々関西弁だった気がする。
「そんでもってゴリゴリの元ヤンなんです」
「もう関西の話終わりかよ、なんだったんだ」
「そんなんだからまぁ家庭環境も悪いというか…」
「話のスピード感やばいって」
黙って聞いてほしい。
「そんな家庭だったんで娯楽とかほぼなくて…テレビゲームとか家になかったし小遣いとかも全然なくて…唯一テレビだけが娯楽だったんです」
そこで初めてアイドルを見た。自分の生活からは考えられないくらいキラキラした存在、同じ現実に生きているのか疑ってしまうほどの輝きだった。
「そこからはまぁ一瞬でしたね、手伝いとか町中で靴磨きとかしてお金集めてグッズ買って…音楽番組のある日は殴り合いしてチャンネル券を取り合って…」
「この流れで突然の殴り合いにびっくりしてる」
「それで中学に上がったんです」
「急なんだよ話の転換が」
今でも覚えている、自分の中の知らなかった一面に気づいた日。とても汚い血にまみれたものがこの身体に宿っていることを。
「結構生徒の治安が悪い中学で…いじめとかもあったんですよね。僕自身アイドル好きって言ってたら小学校の頃はいじめられてたし…たまたま見たそれを止めに入ったんです」
当然いじめっ子たちはそれが気に入らずこちらを攻撃しようとしてきた、しかし。
『も、もう許してくれ…二度としないから!』
「生まれて初めて他人を殴りました、そしたら…笑っちゃうくらい相手が吹っ飛ぶんですよ。僕強かったんです、思わず引くくらい」
確かに言われて見ると高身長でガタイもよく強そうだ。こんなヤツの首根っこをつかんでいた拳治はやはりイカれている。
「それからは早かったなぁ…すぐ目をつけられちゃって、またいじめの対象になったんです。でも違うのは…僕は自分が強いことを知っちゃったことです」
いじめようとしてきたやつを片っ端から殴り倒した。何度も何度も、他の学校の人間や年上の仲間を連れてきたりもされたが全て返り討ちにできるほど自分は強かった。
「そのうちいじめの対象ではなくなったんですけど…札付きのワルみたいな話が広まって…他校の不良とかに絡まれるようになって結局本当に荒れちゃって」
喧嘩、喧嘩、喧嘩、来る日も来る日も誰かを殴って殴られていた。他に何かをする暇もなく、家に帰っても疲れて死んだように眠るだけ、そんな日々をひたすら繰り返していた。
「もう何も考えてませんでした。振りかかる火の粉をひたすら払って…それで毎日を生きるだけ…そんな時に、あいりんと出会ったんです」
ーーーーーーー
学校が休みの日、家が不良にバレているので外をひたすら歩いていた。どうせそのうち不良に見つかって喧嘩になるだろうがそれまで少しでも時間を稼ぎたい、そんな時に一つのCDショップが目に入る。
(アイドルのイベント…CD買えば握手か…)
思えばもうすっかり買っていない。見たことも聞いたこともないグループだが、これに参加してるとは不良どもも思わないだろう。財布の中身も余裕がある、そう思い中に入る。
「みんなー!今日は私たちQTのライブに来てくれてありがとう!今日はこの百戦錬磨のMC桃井愛莉がたくさん楽しませちゃうから初めての人も常連の人も期待してちょうだい!それじゃ早速こないだあった話なんだけどーーー」
「は~い、押してるのでそこら辺で〜」
「えぇっ!?話し始めたばっかよ!!?」
「…フフッ」
久しぶりにこんな平和な時間を過ごしている気がする。この感覚、自分とは到底違う遠く離れた輝く世界だ。
『〜♪』
ライブが始まると常連であろう観客からコールが聞こえてくる。こんなことなら事前に勉強するべきだったと後悔する、次回のために覚えようとして…やめる。こんなこともうしないだろう、自分にこんなことしている資格はないのだから。そんなことしている間に握手会が始まる、CD1枚で誰か1人と出来るので列が別れている…が。
(百戦錬磨のMCに誰もいない…)
何故なのか、そう言えばコールも少なかった気がする。恐らく全員分覚えている人が言っていたのだろう。いや、複数人並ぶ人もいるだろうからダメな噛み合い方をしているだけかもしれない。ともかくここはあの人に並んで終わらせよう。
「あら!今日の記念すべき1人目ね!それに…初めて来てくれる人ね!」
「あ…はい、えっと…お願いします」
「えぇ!今日は来てくれてありがと!」
慣れない様子で差し出された手を愛莉の両手が包む。昔何度か握手会に参加したが久しぶりすぎて妙な気恥かしさがあるが…恐らく最後だ、噛み締めよう。そう考えていると愛莉が声をかけてくる。
「なんだか元気がないわね、何かあったのかしら?」
「え…いや…」
「気にしないで、私は全員回る人が最後の方に来るだけだから、今なら少し話せるわ」
「えっと…」
余りにも悲しい宣言だが…アイドルと話せるなんて滅多にない。最後に貴重な体験が出来ると話し始める。
「その…俺…アイドル好きなんですけど最近は来れてなくて…資格がないっていうか…」
「資格?」
「えぇまぁ…今日もたまたまで…何言ってるか分かんないですよね、すみません…」
日頃喧嘩続きで不良たちと血で血を洗う争いをしている、なんて言うわけにもいかずしどろもどろになってしまう。これなら喋らない方がマシだった。
「ふーん、よくわからないけど一つだけ言えるとしたら…資格なんかいらないと思うわよ?」
「え?」
「あなたはアイドルが好きで、アイドルのライブに来たくなった。それだけで十分!あなたがしたいからした!それでいいのよ!」
「したいから…する」
「えぇ!私もアイドルをしたいからしてる…資格なんかなくても…やりたいって想いが重要なんだって私は信じてる。だから貴方には…」
少し溜めると愛莉の指が烈の頭をツンと押す。
「次回も来てくれたらうれしいわ!出来たら私を目当てにね!」
愛莉が眩しい笑顔を見せる。心臓が高鳴るのを感じる、いつぶりか分からない感覚、喧嘩で感じる痛みなんか比にならないほどの胸の痛み、世界が1色に塗りつぶされる感覚、そう、これは…
「来ます!絶対に!」
「へ?」
愛莉の手を今度は烈が包む、勢いよく。
「貴方を推します!俺の最推しです!桃井愛莉さん!」
「…!えぇ!ありがとう!」
しばらく固まっていたが再び愛莉は最高の笑顔を見せる。それを見ているとこちらも幸せになる、自分の人生の意味はこれだと本能が理解する、次の瞬間。
「時間でーす」
「あぁ」
剥がしに剥がされた。
ーーーーーーーー
「このあとCD追加して回りました、人いなくて2桁は握手しました」
「愛莉も怖…嬉しかったろうな」
咄嗟に出かけた本音を急いでオブラートする。しかし中々烈のことが知れて嬉しいが…結局なぜ落ち込んでいるのか。
「それを機に暴力は止めようって思って…眼鏡をかけ始めたんです」
「待ってつながんないわ。なんでメガネ?」
「危ないじゃないですか」
そもそも喧嘩自体危ないだろとういうツッコミ待ちか、口に出しそうになるが我慢する。
「でも…結局こないだ暴力に頼って戦闘員を叩き潰して…親子を怖がらせて、何にも変わってないなって思ったんです」
「…それで落ち込んでたのか」
ようやく話が見えた、これで何とか励ませそうだ。そう思い口を開こうとするとあちらから話しかけてくる。
「どうです?つまんない話だったでしょ?」
「いや、最初のアイドルの話いるか?って思ってたら更生編につながってて見事な伏線回収だと思ったよ」
「ガチ批評やめてください」
「…なぁ烈、今の話だけど俺はさ」
話し出そうとしたとき突然携帯がなる、確認するとみのりからの着信だ。
「もしもし、愛莉慰めおわ『太陽くん!大変大変大変だよ〜!!』なんだ?どうした?」
相当焦った様子で喋るみのりに問いかける。
『桃井先輩に日野森先輩の話したら走ってどっか言っちゃったの〜!!』
「…ハァ!?」
ーーーーーーーー
「待たせたわね、みのり」
「桃井先輩!大丈夫です、全然待ってません!あ、いや!来てほしくないとではなくですね!来なくても大丈夫…これも違くてぇ!」
「おちつけ」
メッセージをみてやってきた愛莉をみのりが出迎えるが焦りすぎて大変なことになっている。これから慰めを任せようという人物がこの調子なことに一抹の不安を感じる。
「あのねみのり、実は今日は…お別れを言いに来たの」
「へ!?お別れ」
「私にはね、貴方にアイドルを教える資格なんかないの。私はアイドルなんかじゃないから…だから、もうおしまい」
顔を伏せながら愛莉は言う、何時もの勝ち気な彼女からは想像が出来ない姿だ。その姿をみて何かを決心したのか、みのりは口を開く。
「分かりました…でも!最後にお願いがあります!」
「…お願い?」
「はい!」
愛莉の疑問にみのりは力強く答える。
「私のライブ、見てください!」
「え?」
「今ここで、先輩たちに教えてもらった歌とダンスやります!それで先輩に明日を生きる希望を届けてみせます!」
「希望を…」
みのりが真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。本当にまっすぐな子だと眩しさを感じながら了承する。
「わかったわ、貴方の全力見せてもらうわよみのり」
「はい!」
返事を聞いてみのりは準備を始める、すると愛莉は拳治に話しかけてくる。
「拳治、ちょっといいかしら」
「なんだ?」
「みのりのこと、お願い出来る?」
「?」
「?じゃないわよ、私はもうここには来ないから…信用出来るあんたに任せたいのよ。雫には…もう私は頼めないから」
複雑そうな表情をしながら頼む愛莉、その表情をみて少し考えると拳治は口を開く。
「ん〜無理だな」
「はぁ!?この流れで断る!?」
「いやお前…俺にアイドルの知識なんかないぞ」
「そういう方向じゃなくても…年長者として何とかしなさいよ!」
「気になるなら自分でやれよ」
「だからもうここには…」
「それじゃ、始めます!」
2人の言い争いを余所に準備を終えたみのりが開始を宣言し、2人は急いで向き直る。
「〜♪〜〜♪」
「わぁっ…!」
愛莉は思わず呆けた声を出してしまう。不思議だ、それほど見ていなかった時間はないはずだが引き込まれる。初めて見たときとは比べものにならないがそれでもとんでもないレベルというわけではないはずなのに。
「〜〜♪」
ダンスの合間にこちらへのファンサービスも忘れない、指先への意識や姿勢、これまで教えたことをきちんと守ろうとしているのが分かる。少しずつ分かってきた、なぜこんなに引き込まれるかを。
「〜〜♪!!」
「一生懸命ね、とても」
「ん?あぁそうだな」
「見ている人にも努力が伝わってくる、自分も頑張ろうと思える。みのりはいいアイドルになれるわ」
「…それがいいアイドルの条件なのか?」
拳治の不思議そうな言葉に愛莉は頷く。
「ええ、そうよ。精いっぱい努力した姿を見せて、皆にも希望や勇気を与えてくれる…アイドルの姿」
「?だったら…」
ますます不思議そうな拳治が口を開く。
「お前はちゃんとアイドルなんじゃないのか?」
「え?」
その言葉を最後にみのりの歌とダンスが終わる。するとみのりはお辞儀をし、話し始める。
「桃井先輩、今までありがとうございました!今日までたくさんのことを教えてもらって…私すっごく成長出来ました!桃井先輩に届くくらいすごいアイドルに絶対なるので…待っていてください!」
「みのり…!」
最後の最後までこちらを見つめてくるみのりの姿をみて胸が痛くなる。あぁ、なんて眩しいんだろう。だからこそ、このことは伝えなければならない。
「みのり、最後に…教えないといけない事があるの。」
「教えないといけないこと…?」
「アイドルってね、楽しいことだけじゃないの!ううんきっと楽しいことの方が少ない…たくさん努力をして…嫌な仕事だっていっぱいあって…自分の望んだようなものには慣れないかもしれない、それがアイドルなのよ…!」
愛莉は泣きそうになりながらみのりに伝える。もしかしたらこれが原因で夢をつぶしてしまうかもしれない恐怖に苛まれながら、それでも伝える、彼女に最後まで向き合うために。それに対しみのりはまっすぐ応え返す。
「それでも私、やっぱりアイドルになりたいです!」
「!」
「辛いことがたくさんで望んだ姿じゃなくても、絶対後悔しません!だってアイドルがやりたいから!」
「みのり…」
ついに堪えられなくなり涙がこぼれる。あぁ、そうだ、それが一番大事なことで、今の自分が忘れて…気づかないふりをしていたことだ。
「な?やっぱりお前もアイドルだろ?」
「拳治…」
「ここまでみのりが成長したのはお前が練習見たおかげで、お前が教えられたのはお前が今まで努力してたおかげだから…うん!アイドルだな!」
「…ふふ、そうね」
若干解釈が可笑しい気がするが、既に関係ない。それよりも言わなければならないことがある。
「みのり、ありがとう」
「へ?」
「貴方のおかげでわかったわ…私はアイドルが大好きで、ずっと努力してた…ちゃんとアイドルだったって…いや、違うわね」
愛莉は目を瞑り息を整えると胸を張り宣言する。
「私は、これからもアイドルよ!」
「桃井先輩…それじゃあ!」
「資格があるとかないとか関係ない…私がアイドルをやりたい!それでよかったのよね!」
「はい!それでこそ桃井先輩です!」
「明日からはライバルよみのり!練習も…これまでよりビシバシいくからね!」
完全に調子が戻った愛莉の様子に一安心する。あとは雫だけだ、そう思い愛莉に声をかける。
「愛莉、これとは別件で話があるんだが…」
「別件?何よそれ」
「いや雫が昨日アイドル辞めてから元気なくてな…」
「…雫がアイドルを辞めた?」
拳治の発言を聞いた愛莉の顔がみるみる青くなり、屋上を飛び出す。
「…もしかして、あいつ知らなかったのか」
「どどどどどどうしましょう一之瀬先輩!!」
「俺マジで余計なことしかしねぇ!取り敢えずあいつ追いかけるからお前太陽たちに連絡してくれ!」
ーーーーーーーーーー
『ッてことなの〜!!』
「話聞いてると最後の数分で狂いすぎじゃないか…!?」
「人生って難しいですね」
「とにかくアイツらを俺等も追いかけ…」
次の瞬間二人の前を愛莉と拳治が横切る。
「…いたー!?」
「追いかけましょう!」
「おう!ーーーいや、」
突然太陽は逆方向を向く。
「太陽くん!?」
「先に行ってくれ!俺いいこと思いついた!」
「いいことって…あぁもう!」
発言の意図が分からないがとにかく走り出すと…服を掴まれ首が締まる。
「おぼっ!?」
「あ、ごめん」
「ゲホッゴホッ一体何が…」
引っ張られた先を見ると遥が立っていた。
「なんか…桃井先輩たちがすごい顔で走っていったけど…何があったの?」
「あぁ…実は」
ーーーーーーーー
Cheerful*Daysシアター、雫がいたグループが練習などに使うそこでCheerful*Daysのメンバーが練習をしていた。そこに愛莉が入ってくるや否や声をかける。
「…あんたたち!ちょっと話したいことがあるんだけど!」
「え、愛莉?なんでここに…それに話したいことって…」
「雫のことよ」
その言葉を聞いた途端メンバーは露骨に嫌そうな顔をする。
「あぁ、その話?愛莉あいつと仲良かったもんね」
「そんなのどうでもいいわよ!なんで雫がグループ辞めたりしなきゃいけないわけ!?」
「さぁ、本人に聞けば?私ら的には邪魔者が消えてラッキーって感じ。見た目だけでセンターさせてもらってムカついてたし」
その言葉に愛莉の手が震える、目の前の人物と…自分への怒りで。
「あんたたちの気持ち…わかっちゃうのが本当に嫌…!」
「は?」
「そうよ!雫は確かに綺麗!華があって…誰よりもアイドルで…でも、それにあぐらをかいたりしなかったでしょ!?ずっと努力してあたし達の誰よりも頑張ってた!だからセンターなの!アイドルなのよ!」
愛莉が目尻に涙を浮かべながら叫ぶ、ずっとわかっていたことなのにいつからか目を背けていた事実。自分も雫に謝らなければいけない、だがその前にコイツらにははっきり言いたい。
「…だから?辞めたヤツのことなんか私らに関係ないし、どうせモデル事務所とかに拾って貰うんでしょ?それにあんたなんかに泣きついて文句言わせに来て…そういうところもムカつく…」
「…!あんたねぇ!」
愛莉が手を振りかぶり、その平手が直撃しようとしたとき、後ろから轟音が鳴り響く。振り返ると壁の一部が粉々になっており拳治が手をさすっている。
「あ、続けていいぞ」
「続けられる訳ないでしょ、ったくさっき言ってたやつね…」
ここに入ってきた時のことを思い出す。走っている途中で追いつかれ一緒に入ったのだが、突然拳治が提案してきたのだ。
『俺ちょっと離れたところから見とくな、男子がいると威圧的だし』
『わかったわ。でも、それあんたなんで来たのよ?』
『愛莉がアイツら殴らないように止める役』
「あんたが殴りそうじゃない」
「やだなぁ、こんなの向けたら女は死んじゃうだろ」
「男でも死ぬわよあんなの。ライダーになるとあんなのもできるわけ?」
「いや元から出来たぞべつに」
化物である。愛莉が引いているとCheerful*Daysのメンバーが話し出す。
「あんたも来てたの?雫の親衛隊大集合ってわけね」
「?なんでお前ら俺と雫が仲いいの知ってんだ、事務所に言われて関わらないようにしてたのに。極力」
「バレバレよ、あいつセンターになってから特にあんたとベタベタしてたし。自覚足んないんじゃない?」
正確にはメンバーがいじめを始めたタイミングで弱っていたせいなのだが彼女たちが気づくことはない。勝手な物言いに怒りを覚えるがこれ以上話す価値はないだろう。
「雫はこんなところ辞めて正解だな。愛莉、帰ろうぜ」
「まちなさい!雫がアイドル辞めるなんて認められないわ!」
「それなら大丈夫だろ、だって…下がれっ!!」
突然拳治が愛莉を引っ張る、次の瞬間赤い触手が飛び出しCheerful*Daysのメンバーを拘束する。
「きゃあ!?何よこれ!」
「な、これは…とんだドスケベ怪人だ…」
「言ってる場合じゃないでしょ!」
拳治たちがスライムの出現に驚いていると突然天井が崩壊し雫を抱えたタイヨウが現れる。
「ハァ!?あんたら…なにやってんの!?」
「よぉ、雫連れてきたぜ!」
「愛莉ちゃん!それにみんなも…一体何があったの!?」
「よう太陽。見てみろ、エッチだ」
「やっぱそう思うよな…」
「バカ二人!さっさと戦いなさい!」
その言葉に拳治もドライバーを取り出しスフィアを起動する。
「変身!」
『START ABILITY SMASH!!』
「で?お前なんでいきなり天井から来たんだ?」
「いや元々追いつくために変身して炎で飛んできたんだよ。そしたら怪人の気配したからぶち抜いた、ヤバかった?」
「いや?ナイスだ、この事務所つぶれた方がいい」
そういう二人に向かって触手が伸びてくるのをそれぞれはたき落とすとタイヨウが異変に気づく。
「なんか普通に触れる!」
「どういうことだ?」
「こないだは突き抜けちゃって攻撃も効かなかったんだ」
拳治はその言葉にスライムの身体を観察する。確かに体はブヨブヨしていて若干透けている、だがこちらを襲う触手や縛っている触手は透けていない。
「なるほど、こっちに触るには固める必要があるんだな」
「てことはこっちが攻撃するときは関係ないのか!」
「カウンターを狙う手もあるがな!」
実際には現実的ではないだろう。そもそも致命傷になるような部位では殴りに来ないだろうしスマッシュは知らないが核を壊さなければ無意味だ。
「でもこれ攻めれないぞ!」
「愛莉たちを庇わないとだからな…でもあっちも攻めれないらしい」
どうも今こちらと相手の力は完璧に拮抗しているらしい、どちらも無理に攻めれば逆に危ない。痺れを切らしたほうが危ない、このままなら。
『問題、ダイラタンシー現象という科学効果は水と小麦粉で簡単に再現出来る。◯か☓か?』
「なにっ」
「聞いたことあるぞ…たしか◯だ!」
次の瞬間二人に電撃が走る。
『正解は☓、小麦粉じゃなくて片栗粉だ』
「しょうもねぇ…」
スマッシュにはこの電撃は効果が薄い、だがそれでも一瞬は止まる。この拮抗した状況、それなら十分だった。
「グポポっ!」
「ガッ!」
「グッ!」
二人の体が触手で拘束される倒すことはできないが、これなら一瞬の間に出来る。
「でもこれならまた…」
以前腕を突っ込んだあと全身火を噴いて奴の身体を沸騰させるのは有効だった。決めきらなくてもそれなら、そう考えるとベルトを外され変身が解除される。
「うそぉ!?」
「こいつ…エロ野郎のくせに賢い!」
変身が解けた二人への拘束を強めながら触手を恐怖を煽るように徐々に愛莉たちに近づけていく。すると次の瞬間シアターの扉が開き烈と遥、みのりが入ってくる。
「あいりん!!みんな!大丈夫!?」
「三人とも来ちゃダメよ!」
突然入ってきた二人に触手が襲いかかる、ドライバーの効果で強化された視力で捉えると遥とみのりを掴み滑り込むように回避する。
「太陽くん!?一之瀬先輩!?負けたんですか!」
「クイズなんか大嫌いだ!」
「はぁ!?」
経緯が分からない烈からしたら意味不明だ。その後に太陽が烈に叫ぶ。
「烈!戦え!」
「っ、でも…」
「いいか!聞け!」
動揺する烈に対して太陽はさらに続ける。
「お前の話!聞いた上で俺が思ったことだ!」
「思ったこと…?」
縛られた手の指だけを烈に向け叫ぶ。
「気にするな!」
「…ハァ?」
突然なにを言い出すのか、あの話を聞いた上で思うことがそれ?どういう解釈をしたのか。
「誤解するなよ!俺だって暴力なんか大嫌いだ!誰かれ構わず振るうやつなんか軽蔑するね!」
「は、はぁ…」
「でもそれ自体は悪くない!なんのために振るったかだろ!」
「いや、でも…」
「もし暴力がどんな理由でもだめだって言うなら…」
指の向きを烈から拳治に変える。
「この空手日本一はどうなるんだ!」
「え、俺ぇ?」
「それは試合形式だから…」
「お前だって先に向こうからやってきたんだろ!」
「やりすぎレベルですよ!見てないからピンと来ないだけです!」
「そうだ!俺はみてねぇ!」
「!?」
ますます訳が分からなくなってきた。結局何が言いたいのか、結論を言ってほしい。
「長くなってきたな!結論から言うと!言いたいことは2つだ!お前はいいやつ!お前の悪いとこは…自分がやりたいことがわかってないことだ!」
「やりたいことが…」
「暴力じゃない!いいか!誰だってやりたいことがある!そしてそのためには、やらなきゃいけない事がある!辛くてもだ!」
指が今度はみのりをさす。
「アイドルになるために…毎日練習したり!」
今度は雫や愛莉、遥の方を指す
「きっとなったあとも続けて、それ以外にも辛いことがたくさんある!それでもやるんだ!だってやりたいんだから!やりたいことのために全力で生きる!それが人間で…人生のはずだ!」
最後に再び烈をさす。
「暴力を振るうのは辛いんだろ!わかるよ!それは間違ってない!でもお前は…本当にやりたいことから逃げてるんだ!」
「わかってないことじゃなかったですっけ!?」
「この状況でまとまった話が出来るかよ!いいか、黙って聞けよ!お前が前に言われたことをもう一回!俺の言葉も足して言ってやる!」
その言葉に心臓がドクンとなる、自然とポケットのスフィアに手を伸ばす。予感があった。
「やりたいことをやるのに、資格も権利もいらない!やりたいって思ったならやれ!それをやるのにどんなに辛いことがあったとしても…やりたいならやるんだ!それが本当のお前で…本当の想いのはずだ!」
感じる、この感覚は同じだ。初めてアイドルを見たとき、桃井愛莉と出会ったとき、世界が1色に染まる。他のことなど消え去るほどに。
「烈!危ない!」
触手が何かを感じ取ったのか烈の方に向かい、大きな閃光と共に姿が見えなくなる。
「烈!!」
愛莉が悲痛な叫びを上げる、瞬間触手の破片が飛び散る。
『レッド!!』
スフィアが起動すると共にベルトに装填され銃口から飛び出した桃色のテープが触手を弾く、爪を自分の方に突き立てながら胸を掴み叫ぶ。
「変身!!」
『MY LOCK RED!!』
引き金を引くと周囲を跳んでいたテープが全身に張り付き烈の姿を変える。全身がギラギラとしたマゼンタの装甲に包まれイナズママークが走り、上半身は襟を立てた制服を来ているようでヘルメットは後頭部が襟足のように伸びている。
真紅のイナズマの戦士、仮面ライダークリムゾンが誕生した。
「見せてやる…本当の僕を!!」
そう言うとくるりと振りかえる。
「あいりん!雫ちゃん!遥ちゃん!みのりちゃん!」
「ふぇ!?」
「え、何?」
「あんた前見ないと危ないわよ!」
「?」
それぞれの反応を示す4人に対して烈は叫ぶ。
「みんな僕が守るので!安心して見ててください!」
そう叫ぶと触手がクリムゾンを貫く。
「烈!?」
愛莉が悲鳴を上げた次の瞬間、クリムゾンの姿が消える。よく見るとクラウチングスタートの体勢を取っていた。
「残像…!?」
遥が驚いていると今度は完全にその場からきえ、周囲に轟音が何度も鳴り響く。
(そうだ…あの時も!)
記憶に蘇る初めて力を振るった日。きっと一生忘れられない、辛くて苦しい日々の始まりを。だがあの時の自分は。
「え、あれ?」
「どうなってる?」
縛らていた太陽や拳治、Cheerful*Daysのメンバーが地面に降ろされている。突然のことに誰もついていけない中スライムの顔が抉れ、その後ろにクリムゾンが立つ。
「僕は誰かを守りたかったんだ!」
そう叫ぶとクリムゾンの拳がスライムを貫き核を掴む。そのまま再び消えると轟音が鳴り響く。
「どうなってんだ…?」
「みて!これ!」
遥が指さした地面を見ると大きく凹んでおり似たようなのがシアター中にある。
「そうか…あいつはとんでもなく早く動いているんだ」
「消えたあとに聞こえるすごい音からして音より速いってことだよね」
「外行ったぞあいつ、早く追いかけようぜ」
そう言ってベルトを拾い追いかけようとすると、突然拳治が振り向く。つられて振り向くと見たことのないライダーがいた、自分でも拳治でも烈でもないドライバーをつけている。そう、あれは葵がもらっていたドライバーだ。
「葵?お前も来てたのか?」
「丁度いい、一緒に烈を手伝いにーー」
次の瞬間、そのライダーは襲いかかってきた
ーーーーーーー
「グポッ!」
外に飛びだしたクリムゾンにそのまま投げ飛ばされスライムが地面に激突する。水たまりのように潰れるがすぐにそのまま人型に戻る。
「なるほどな…あの丸いの潰さんとか」
マスクでスライムをスキャンすると核以外への攻撃が無意味なことを知る。そういえば先ほど抉った顔も戻っている、面倒な能力だと思っているとスライムが触手をこちらに伸ばしてくる。
「いいんか?そんなことして」
触手を身を捩るようにして躱すとそのまま掴み、次の瞬間クリムゾンの体が桃色の電流に包まれ掴んだ触手からスライムを感電させる。
「〜〜〜!!!」
声にならない悲鳴と共にスライムの全身が次々と弾け跳んでいく。このままでは核以外全て失ってしまうと触手を自切する。攻め方を変えようと付近の車を触手で掴み投げ飛ばす。
「無駄だ!」
再びクラウチングスタートの姿を取ると共に身体に電流が走る。全身に電力が満ちたのを確認しドライバーの機能でコースを確認すると地面を蹴る。前にだした2本の腕をレールとし自身の体を弾として放つ、レールガン方式のこの技こそ高速移動の正体であり武器を持たないクリムゾンの唯一の弾丸。
「グポッ!?」
スライムが異常に気づく、体の形を保てない。どんどん液状に崩れていく体を手で押さえようとするもその手も崩れ地面にたれていく、その後ろには核を奪い取ったクリムゾンが立っていた。
「終わりだ!」
『ENEMY LOCK RED!!』
手に持った核を上に放り投げる。そしてつま先で地面を何度か叩くと踵からマゼンタ色の電気の刃が生える。完全に生え切ったのを確認すると跳び上がり核を追い越し足を天に掲げる。
「クリムゾン!ヒィーーッル!!」
電流を纏ったかかと落としが核を両断する。クリムゾンの着地と同時に爆発し、残った身体も完全に形を崩したあと煙となって蒸発する。
「終わった…早く皆のところに…」
クリムゾンがシアターの中に戻ろうとしたときシアターの壁を突き破りタイヨウとスマッシュが飛んでくる。
「ぐあっ!」
「いってぇ…」
「ふたりとも!?どうしたんですか!?」
「あいつだ…」
そう言って刺された方向に見たことがないライダー、しかしベルトには見覚えがある。きちんと見ていたわけではないが残ったベルトとここにいない人間からして…
「蒼刀くん…なんですか?」
「多分な…なんで襲ってくるのか分からないが…」
「っ!二人は下がって!ここは僕が…!?」
庇うように前に立つも突然力がぬけ膝から崩れ落ちる。
「これは…」
「多分力を使いすぎたな…あんな高速移動しまくったら無理もないが…」
タイヨウの炎と同じくエネルギーを消耗する電流をレールガンは多量に放出していた、初戦闘でペース配分が分からなかったのが裏目に出た。
「まずい…!」
「蒼刀!やめなさい!」
愛莉の静止の声を無視しライダーが近づいてくる、その距離が縮まり続けていたその時、眼前をトランプが飛んでくる。
「!?」
「揃いも揃って学校出て行ったから何かと思えば…」
トランプが円を描くように投げた人物の方向に戻っていき、聞き覚えのある声が聞こえてくる。全員がその方向を見たとき遥が叫ぶ。
「葵!」
「はぁ!?じゃあ…あいつ誰よ!」
葵の姿とライダーを視線が往復する。葵自身目の前の人物が貰ったのと同じベルトを持っていることを確認するとライダーが突然口を開く。
「あ~バレちゃったか。疲れてるところに動揺の隙もついて決めれると思ったんだけど」
「…それで、君は何者なわけ?」
「あぁ…こういうものさ」
ライダーが手を伸ばすとそこから泥が溢れ地面にこぼれる、その泥が形をなし戦闘員へと変わる。
「なるほど…そういうわけか」
「お前がそいつらを出してたのか!」
「うーん25点ッてところかな」
そういうと戦闘員を従えながらタイヨウたちの方に向き直る。
「作戦は狂ったけど弱った君たちを消すくらいわけないよ。ここで終わらせてもらおうかな」
「…一応止めようかな」
葵の言葉にライダーが振り向く。
「君が?僕を?悪いけど相手する気はないよ?そもそも戦え…」
『ハカイドライバー!!』
葵がドライバーを装着し、既にスフィアを持っている。青色に輝くスフィアを。
「…へぇ、てっきりまだ使えないものかと」
「本当の想いってやつ?そんなの…とうの昔に決まってるんだよね」
『ブルー!!』
起動したスフィアをベルトの腕に掴ませる、両手を左の腰で何かを包むような形にしたあと身体の前で大きく回転させ、左手は手のひらをうえに上げ前に突きだし右手は顔の横で固定する。
「変身!!」
『LETS ACTIVE BLUE!!』
どこからか生えてきた巨大な腕が手に持ったライトで葵を照らす、光の中で身体が異形へと変わっていく。
全身コバルトブルーの装甲に包まれた掴みどころのない流線的なボディ、オーソドックスなライダーのマスクで特徴のようなものは見当たらない。葵はスーツの首元をつまみ着心地を確かめると前に出る。
「さて?行こうか」
設定
仮面ライダークリムゾン
烈が変身するライダー。雷を操る能力を使った高速移動を得意とする。暴力的な戦闘スタイルも健在であり消耗は激しいがその分の爆発力も高い。
スライムノーネイム
スライム型の怪人。核を粘液で覆った特異な形状をしており核を潰されない限り何度でも蘇る。特に理由はないが女性しか襲わなかった。性別はオス。
次回予告
「イィィィヤッッタァァァァ!!!」
「俺たちもアイドルやるか」
「君に話したいことがあるんだ」
「よ〜しよし、可愛いね〜」
『第五話 蒼・刀・乱・心』
「君たちの仲間になったつもりはないんだよね」