プロジェクトセカイ feat 仮面ライダー 作:ミッツー116
アギトの映画、観てきたんですけどネットで言われるほど賛否両論って感じはなく傑作でした。
アギトセレクトとか出せるのは大分先かな…
ViVidsが結成の名乗りを上げている頃、BAD DOGSの2人は帰路についていた。冬弥の少し前を歩く彰人の顔は険しく、不機嫌であることが一目瞭然だ。
「彰人、何をそんなに苛立っている?」
「別にイラついてなんかねぇよ」
冬弥の言葉に足を止めることなく答える。しかし言葉とは裏腹にその声色はやはり荒い。これで苛ついてないのは無理があるだろう。
「ならなぜあんな勝負を持ちかけた?」
冬弥の言葉に彰人はため息を吐く。WEEKEND GARAGEでの事を言っているのだろう。口に出していない彰人の真意を見抜くのは流石相棒と言ったところか。
「別に、あいつに分からせてやりたいだけだ」
「分からせる?」
冬弥の疑問に対して彰人は続ける。
「RAD WEEKENDは…あの伝説はぽっと出のやつと組んでどうにかなるような温いもんじゃねぇってことをな」
「彰人…」
概ね予想通りの答えが返ってきた。彰人にとってRAD WEEKENDのあの日のイベントは特別な意味を持っている。
自身のプライベートな時間をほぼ音楽に捧げるほどだ。杏の行為はその神聖な領域を荒らしてしまったらしい。
「練習を増やす。温いあいつらを俺達の歌で叩き潰すぞ」
「あぁ、分かった」
こうなってはもう自分が何を言っても聞かないだろう。それに自分もステージで手を抜くつもりはない。出来るのは杏たちが傷つかないよう祈るだけだった。
第四話 「引き金は誰だ」
「へぇ~、ライブハウスでイベント!」
「これまた予想外の方向に…」
昼休み、教室でこはね達は昼食を取っていた。今度のライブのことを話すと太陽達も目を丸くしながら驚く。
「わぁ〜!凄いねこはねちゃん!かっこいい!」
「ストリートミュージックのライブ…正直ビックリだね…」
大人しいこはねのイメージからは正直かけ離れている。しかし友人がせっかく新しいことにチャレンジする門出だ、皆で盛大に祝ってあげようと思い予定帳を開く。
「空いてねぇ!」
「部活あるわ…」
「バイトの日だ…」
「えぇぇぇぇ!!!?」
どうも全員用事があるらしい。みのりに至っては驚きのあまり大声を上げている。最近の高校生は忙しい。すこし残念だが何処かでホッとする気持ちもある。
「でも、皆に失敗するところを見られちゃわないのは安心かな」
「一人でそれを咀嚼するほうがきつくないか?」
「いや、誰かと一緒に出るんでしょ?」
「うん、杏ちゃんって言うんだ」
すこし残念なのは皆に杏を紹介出来る機会を逃してしまうことだ。今後活動していくうちにチャンスはあるかもしれないが、そのためには今度のイベントを成功させなければだろう。
「…やっぱり、お願いしてみようかな」
「ん?何をだ?」
「あのね、上級生にストリートで歌ってる人がいるんだ。その人に歌を教えて貰おっかなって」
「……ルミか」
「放課後は杏ちゃんたちが見てくれるんだけど…学校でも練習したいと思って」
自主練でもいいだろうがやはり見てもらった方が上達も早いだろう。それにルミに対して聞いておきたい事があるのだ。
「ご飯食べたら聞きに行ってみようかな」
「いいんじゃないか、多分断らないだろうし」
その言葉に対しこはねも同意だがやはりすこし不安そうだ。そもそも上級生のクラスに一人で行くのが怖い。
そんなこはねを見た太陽と剣が龍我の方を向く。ついて行けと言わんばかりの表情だ。人に言う前に自分が行けと思うがここで口論を始めてもしょうがないだろう。
「…ついて行こうか?」
「え、いいの?」
「まぁ暇だしな」
その言葉に安心したのかこはねの表情が緩む。正直、これ以上こはね達に関わり続けるのはどうかと思っているのだが、こうなってしまってはしょうがないだろう。
満足気にこちらをみてくる男子二人には、後日文句を言おう。
ーーーーーーー
「歌を教えて欲しい?」
校舎裏にルミを呼び出し用件を告げる。そもそもこはね達がユニットを組んだことを知らないためそこの説明もする。
ViVidsを結成し、今度イベントに出演することが決まり恐らくBAD DOGSの実質的な対戦になるという話を聞かせる。
「知らない間に凄いことになってる…」
「まぁ急展開だよな」
「それで…ルミさんに教えてほしくって…」
「う〜ん…まぁ別にいいけど」
すこし悩んだが了承する。正直そこそこ長く活動していることもあり初心者に歌を教えるくらいなら出来るはずだ。
まずは今の実力を把握するためにこはねに一度歌ってもらう。携帯から音楽を鳴らし歌うのを見届け感想を述べる。
「うっま…教えることないわ…」
「えぇぇ!?」
「解散か?」
「ちょ、ちょっと待って!」
こはねの予想外の実力にルミがガックリと項垂れる。実をいうとそこまで自分の歌に自信はなかった。流石に歴でカバー出来るかと思ったがこはねはとんでもない才能の持ち主らしい。
自分の出る幕はない、2人は一度ライブも観てくれたはずだが過大評価されているのだろうか。
「あの…実は教えて欲しい所は歌の技術だけじゃなくて…」
「え?そうなの?」
「は、はい…その…」
モジモジと恥ずかしそうにしながら言いどもる、言いにくい内容なのだろうか。
「その…前に見たステージですごく堂々と歌ってたのが印象に残ってて…」
「へ?あぁ、まぁ長いことやってるし…」
「私、人前に出ちゃうと緊張しちゃって歌える自信なくて…杏ちゃんはステージに慣れてるだろうし隣の私が緊張してたら迷惑かけちゃうと思って…」
龍我はルミのステージを思い出す。確かに彼女のステージは堂々としたものだった。
隣にいた杏の歌唱力もルミより上のものだったが一切それを感じさせないパフォーマンス、あの時の彼女の姿がこはねの印象に残っていたらしい。
「なるほど…ステージで緊張しないようになる方法を教えて欲しいってことか…」
「は、はい…何か良い方法はないかなって」
「う〜ん、よし!それじゃあ…」
ルミはこはねに近づくと顔と顔を突き合わせる。
「歌って!ただし…この体勢で!目を合わせたまま!」
「へ!?」
「は〜や〜く〜!」
急かされるままにこはねは歌い始める。戸惑いが隠せないのが出だしをすこしミスするも何とか立て直そうとする。しかしなぜこの状態で歌わなければならないのか。
ルミの赤い瞳がこちらをじっと見つめている。歌っている時の視線に何か意味があるのか、それとも表情?意図が読めない行動に困惑するが何よりも問題なのは恥ずかしさだ。
整った顔立ちのルミにじっと見つめられるのは気恥ずかしく目をそらしてしまう。
「あ~!そらした〜!」
「だ、だって恥ずかしくて…」
頬を赤らめながら恥ずかしがるこはねの態度を気に留めずルミはにこやかな笑みを浮かべていた表情を崩し真面目な顔になる。
「でも、本番はもっと大勢の人から見られるよ?」
「へ?」
「もちろんこんな距離じゃない。でも沢山の人、始めてイベントに来る人、何度も見たことがある人、杏ちゃんのファン、他のグループのファン、会場の常連さんとか沢山ね」
ルミの言葉にこはねは黙り込む。分かっていたことだがやはり恐ろしいことだ。そんなに大勢の人に注目された経験などない。
やはり自分がイベントに出るなど無茶なのだろうか。不安そうな表情をするこはねの肩をルミが笑いながら叩く。
「で、それを解消する方法を知りたいんだよね?」
「はい…でも、やっぱりいっぱいイベントに出るしかないんですよね…」
「経験は何より自信に繋がるからね。でも、こはねちゃんは多分…」
不安そうなこはねに対し何か考えがある様子のルミは口を開く。それに対して不思議そうな顔をするこはねを見つめる龍我はまた浮かない顔をしていた。
ーーーーーーーー
放課後になり、こはねとルミは杏達と合流しとあるイベント会場に向かっていた。ルミの提案で今日出演するというイベントを見学に行くことにしたのだ。しかし、メンバーは増えただけではない。
龍我だけはこの場についてきていなかった。
「何で兜くんは来てないの?」
「何か、自分が行く必要ないってさ」
「…兜くん、最近ちょっとおかしいよね」
こはねが杏と組んだ辺りから様子がおかしい。何処かうわの空のような事が増えているし、WEEKEND GARAGEには一度も来ていない。
セカイに行った時にタイミングがあったときぐらいしか顔をあわせられなかった。
「…でも、そんなに付き合いが長いわけじゃないし。元からそう言うタイプの可能性もあるよね?」
「う〜ん、そこらへんどうなのこはっち」
「こはっち!?」
こはねにあだ名が付いていることを知らなかった瑠璃が驚愕の声を上げるなかこはねは考える。
最近の龍我が元気がないと言われると確かにその通りかもしれないが、元々大人しめの人物なため元通りのテンション感な気もする。
高校に上がってからの強気な態度な方が違和感を感じるし、戦ってる姿など中学から知っている身としてはとても結びつかないものだ。
「こはっちも仲間入りした証としてあだ名つけたよ」
「わ、私にはないのに…」
「相棒だからね、他とは違う特別な呼び方をしたくて」
「そ、そうなの?えへへ…」
翼の言葉にコロッと表情が変わる。ニマニマと笑うその顔を見つめると翼はあることを思い出す。
「そう言えば、まだこはっちにちゃんと紹介してなかったよね?」
「あ、うん」
「それじゃ、よろしく」
「へ!?わ、分かった!」
突然の自己紹介の要請に戸惑いつつもこはねの方を向き直すと息を整え話始める。
「私は宝田瑠璃、翼とは中学の同級生で二人でユニットを組んでるんだ。後は…ルミとは幼なじみだよ」
「へぇ、ルミさんと…」
瑠璃の自己紹介を聴き終える。そのままお互い見つめあったまま無言の時間が続く。気まずさに耐えきれなくなったのか瑠璃は目をそらす。
「え、え〜と!後は昔は演劇やってて…後は、えーと!た、体重とか!?」
「落ち着こう」
「幼なじみが人見知りすぎる」
「あ、見えたよ!」
目的地にたどり着くと中に入り受付に向かう。リハーサルの為にそのまま奥に進むルミに対して観客側であるこはね達は外で待つことになる。
すこし時間があるのを確認すると翼は口を開く。
「それじゃ、ここで座学の時間といこうか」
「座学?」
「まず、こはねちゃんを除いた僕たちの歌のレベルはこんな感じ」
杏 = 彰人 = 冬弥 > ルミ > 瑠璃 > 翼
「自分を一番下にするの悲しくない?」
「別に?僕の強みは別にあるし」
「BAD DOGSの2人はそんなに上手いんだ…」
「納得いかない〜!!絶対私の方がうまいし!」
「で、これをグループ単位に変える」
BAD DOGS > 杏 > ルミ > カナリア
「ちょっと!負けてるんだけど!」
「そう、2人揃うと彼らのの歌唱力はあがる。でもそれは単純に一人より二人の方が多いからとかではない。もっと複雑で、感覚的なものだね」
人数が増えれば増えるほど歌が上手くなるということはない。歌の上手さとは当人の技術によるものであり数で変動するものではないからだ。
しかし事実として1人よりチームで真価を発揮するシンガーは多い。
「こはっちもWEEKEND GARAGEで歌ったときアンアンが隣にいたから緊張がマシになったでしょ?それと似たような理屈をあの2人は高いレベルで行なっているんだ」
始めて2人で歌ったとき、突然誘われ緊張したのに関わらず歌いきれたいのは確かに杏が隣にいてくれたからだ。今度のイベントも1人では出ようと思わなかっただろう。
「あの2人は互いに完璧に信頼し合っている。2人揃えば最高のパフォーマンスが出来る自信が歌声から迷いや躊躇いを消して実力を引き上げてるんだ」
一人が二人に増えたから歌声が単純に1から2になることはない。しかし2人がお互いを引き上げることにより5にも10にもすることができるのが音楽だ。
「さて…あともうひとつランキングを紹介したいけど、そろそろ入れるね。話は通せるだろうからミーちゃんの様子を見に行こうか」
「ミーちゃんって…ルミさんのこと?」
「そ、こはっちに教えたいことは多分ライブ前の姿を見たほうがいいだろうからね」
そう言うと翼は受付に話を通すとこはねと2人で出演者の待機場に入っていく。
自身より歳の離れた屈強な者や奇抜な格好をした者、露出の高い衣装や至る所にピアスが空いた者などを見るとこはねに少し恐怖を覚える中ルミを見つける。
壁際にパイプ椅子を置き1人誰とも話さず目を瞑り精神集中を図る姿はとても絵になっており喋るのが躊躇われるほどだ。邪魔しては悪いかと思うが翼に促され声をかける。
「る、ルミさん…今って話しかけても…」
「……きそう」
「え?」
話かけたこはねの声が聞こえているのかいないのかゆっくりと目を開ける。すると顔の色がみるみる青く変わると手で口元を押さえ頬を膨らませる。
「吐きそう…!!」
「えぇぇ!?だ、大丈夫ですか!体調良くないとか…?」
「いや本番前いつもこうなんだよね…」
突然のカミングアウトに驚くこはねを置いてみるみる顔が青ざめていく。喋っているだけで口から何か吐き出してしまいそうな様子だ。何ならえずきはじめている。袋か何か持ってこようとするとスタッフがやってくる。
「ルミさん、そろそろ出番です」
「はい…」
「え、えぇ!?ちょ、ちょっと待ってください!ルミさん体調が悪くて!」
「だ、大丈夫…見てて…」
顔を青くしたまま待機場を出ていく。その姿を唖然としながら見送るとひとまず客席に向かう。飲み物を購入してくれていた杏達からグラスを受け取るも正直気が気ではなく飲む気にもなれない。
「さて、それじゃあ最後のランキングといこうか。」
「へ?」
考え込んでいると翼が唐突に切り出す。外で聞かせてくれた話の続きのようだが何故このタイミングなのだろうか。
「僕たちカナリアと、ミーちゃん、BAD DOGS、それぞれのイベントの盛り上がりを比べるとこうなる」
カナリア = ルミ = BAD DOGS
「変わらない…の?」
「そう、さっき言った通り歌唱力はBAD DOGS方が上。でもステージの盛り上がりはそう変わんないんだよね、何でか分かる?」
「何で…」
その言葉にそれぞれのステージを思い出してみる。カナリアの盛り上がりどころは分かりやすい。
「翼くんのサビに入る前のダンスは凄い盛り上がってたよね」
「そうだね、分かりやすい盛り上がりどころだ。音楽のパフォーマンスは歌だけじゃない、ダンスは特に分かりやすい」
それ単体でもパフォーマーが行うこともあるダンスは歌以外の音楽の代表格ともいえるだろう。ここビビットストリートでもダンスを主軸に活動するグループは少なくない。
「僕のコンビでの役割は盛り上がりどころで派手なパフォーマンスでお客さんのボルテージを上げること、瑠璃の役割は前にお客さんを引き込むこととダンス後の盛り上がりを維持すること」
「盛り上がりの維持…」
「ダンスでわかりやすく引き上げられたテンションもそのままだとすぐ元通りだからね、そうさせない為にはサビの入りから高いパフォーマンスを発揮する必要がある。」
翼がライブの熱気を引き上げる燃料だとすれば瑠璃は火種そのものと仰ぐための団扇といったところだろう。
BAD DOGSが2人で高い歌唱力で観客を魅了するとしたらカナリアはそれぞれが別の分野で力を発揮することで観客を魅了する。
「役割は分かったけど…それなら宝田さんの強みっていうのはなんなの?」
「お、前のめりになってきたね。瑠璃の強みは表現力だよ、歌声で色んな印象を与える…っていう感じかな」
「印象…」
ダンスに比べると想像がつきにくいのかこはねはピンと来ていないようだ。
「いい歌ってなんだと思う?」
「え?えっと…やっぱり上手い歌が…」
「じゃあ上手い歌って?」
「えっと…」
困っている様子のこはねに対し翼は少し意地が悪かったかと説明を始める。
「カラオケの採点マシーンとかで百点取れる歌って採点バーを守ればいいけどそれはいい歌にはならない事がほとんどなんだよね、逆に音程を無視した叫んでいるような歌声が心に響くこともある」
そもそも音楽とは人の感性に訴えかけるものであり数値化出来る基準というのに無理があるだろう。聞く側がどんな物を好むか、その場の雰囲気に飲まれたり浮いてしまっていないか、様々な要因で評価も変わる。
「瑠璃が上手いのはその場の空気を自分の色に変えてしまうこと、身体の隅々まで意識した表現で僕たちのステージにお客さんを引き込むんだ」
「え、えへへへ…照れちゃうよもぉ〜//」
翼の様に激しくないがカナリアには瑠璃にもダンスパートがあるし歌いながらの振り付けのようなものもある。その際の所作の一つ一つに客にどんなイメージを与えるかを考え計算された表現こそが瑠璃の強みなのだ。
照れてニマニマと笑みを浮かべながら肘で翼をつつく今の姿からは想像出来ないが。
「さて、それじゃあミーちゃんの強みの話に移ろうか」
「あ…もう私褒めるの終わりなんだ…」
「よしよし、ミーちゃんも瑠璃と同じで表現力が高いタイプだけど…その方向性が違うかな。」
「方向性?」
「瑠璃はさっき言った通り引き込むタイプで…ミーちゃんは逆にお客さんに乗るタイプ、まぁ見てれば分かるよ」
その言葉に視線をステージに移すとルミが出てくる。先程までの不安そうな表情は見えずその表情は自信に満ちあふれたものだ。
ステージ裏で何かあったのだろうかと考えていると客席から黄色い声が飛ぶ。
「きゃー!」
「ルミ様ーー!!」
「お待たせ、待たせちゃったかな」
声援に応えると手の平を上に向けながら客席を指差す。
「それじゃあ…行くよ?」
合図とともに歌い始める。既にここまでのステージで暖まっていた会場だが先程までと毛色が違う。
熱狂の中にうっとりとルミを見つめる視線が混じり恋焦がれる乙女のようなファンの姿が目立ち始める。
「さっきまで吐きそうだった人とは思えないね」
「凄い…どうやってるんだろう」
ルミが前方に歩き出しスピーカーに足をかけると客席前面から激しく声が上がる。それに満足すると後ろの客席に視線をむけ腕を大きく広げながら歌うとパートの終わりに広げた腕を顔に持っていきウィンクを披露する。
段々翼の発言の意味が分かってきた。客に乗るというのはこのパフォーマンスのことだ、自分のファンが望む姿を汲み取り表情する。言葉では簡単でも場の空気感を壊さず不自然にならないようにコントロールする技術は本物だ。
ルミの能力を実感しいてると曲が終わり、ルミが軽く投げキッスをするとステージから去っていく。その背中に惜しむ声が会場に響いていた。
「私にも…出来るのかな、あんなふうに…」
「絶対出来るよ!私の相棒だもん!」
「まぁ無理せず続ければいつか見つかるよ、自分だけの歌が」
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(結局ストリートに来ちまった…)
時間は遡り、こはね達がルミの参加するイベント会場に向かっている頃。龍我はまたビビットストリートに来ていた。
必要がないと言ってこはね達についていかなかったのに結局気になってしまったのだが、場所が分からない。名前だけでも聞いておけばよかった。
家に帰ってもこの事でずっと考えてしまいそうだしヒーローらしくパトロールでもしていようか。ロボットも新型が現れ敵の活発化を感じていたところだ。
そう思って角を曲がると予想外の人物に出会う。
「へ?」
「ゲッ」
「お前は…確か白石の店にいたな。ちょうどいい、聞きたいことがあったんだ」
曲がり角からBAD DOGSの2人が出てくる。こんなところで出くわすとは思わず素っ頓狂な声を上げる龍我に対し話しかけようとする冬弥に彰人は嫌そうな顔をする。
「おい冬弥…関わんなよあんな面倒くさそうなことに…」
「だが彰人、あれはどう考えても異常な出来事だった。イベント前に疑問を解消しておかないと集中出来ない」
「しょうがねぇな…」
(こいつ店で見たときと全然態度違うな)
そう言えばレモラノーネイムの出現を知らせに来た時はこんな感じだった、翼が嘘つきと言っていたがこのことだろうか。
龍我もこの二人に思うことがないわけではないし説明も確かに必要だろうと冬弥の頼みを聞き入れる。
「ここではなんだな、俺達がよく行く店があるからそこで話そう」
「分かった」
二人の案内に着いていくと喫茶店に着く。流石に今の状態でWEEKEND GARAGEに行かれたらどうしようかと思ったが大丈夫そうだ。
席に着くとメニューを取り出し読み始める。
「……俺はいい」
「俺は…このあとのイベントに差し支えるからやめとくわ」
「そうか、ではコーヒーを」
(ココアあるけどなんかこいつらの前だと恥ずかしい)
(流石にこいつの前でパンケーキ食うのはな)
似たような理由でただただ水を飲み続ける龍我と彰人を横目に冬弥はコーヒーを注文する。
コーヒーが来るまで話すのを待つことにするがその間無言が続く。しばらくして耐えかねたのか龍我が口を開く。
「も、もう話すか」
「ふむ…確かにこの店は豆から挽くからそこそこ待つな…」
「さっさと終わらしてくれ」
了承を得ると龍我は話始める。セカイがこはね達の想いから出来ていることは伏せたが取り敢えず怪人とライダーのことは説明出来た。
「なるほど…それでは、兜は人々を守るために戦ってるんだな」
「…そりゃ結果論ってやつだ」
「何?」
「順番だ、俺の方もお前らに聞きたいことがある」
冬弥の疑問を強引に断ち切ると龍我は話題を切り替える。
「翼が言ってた嘘つきってのはこの際いい、お前の態度が全然違うことを見ればわかる」
「…チッ」
彰人はしくじったと思い舌打ちをする。予想外の遭遇で態度を取り繕うのを忘れてしまったようだ、不要な争いは面倒なのだが。
「俺が聞きたいのは何で小豆沢たちをイベントに誘ったかだ。わざわざ絡む理由があるんだろ?」
「は、なんだお前。あいつの彼氏か何かか?」
「ストリートのやつは二言目には色恋沙汰に絡めるのか?白石のやつも言ってたぞ」
その指摘に彰人は露骨に嫌そうな顔をする。思った通り杏と同じ扱いは嫌らしい。同類扱いを払拭したいのか彰人は口を開く。
「俺たちはただあの伝説の夜を舐めてる2人が気に食わないだけだ」
「RAD WEEKENDってやつか」
「俺はガキの頃にあのステージを見た。間違いなく俺の人生を変えた瞬間だったんだ」
ステージの上のたった数人が空間を支配する。その瞬間、その場所が世界で一番熱いところだと全員が感じた伝説の夜。今も彰人が焦がれてやまない何かに本気になっている人間の姿。
「それを今までなんのイベントも出たことのない奴と組んで超える…?ふざけんなって話だ、あの夜はそんなぬりぃもんじゃねぇ。謙さんの娘のクセにそんな事も分かんねぇあいつも、そんな奴についていこうって奴も気に食わねぇ…!」
彰人の声に熱がこもる。杏の事もこはねの事も一度は組むと考えた自分も気に入らない。
だからこそ見せつける、本気でRAD WEEKENDを超えようとしている自分たちの実力を。命がけで伝説を超える覚悟を。
「これがあいつらをイベントに誘った理由だ。満足したか?」
「……あぁ、満足だ」
その言葉を最後に席を離れようとするも、上げかけた腰を止め口を開く。別に二人に理解させる必要はないが訂正しておきたいことがある。
「……確かに小豆沢は優しいからよく頼まれごとをするしそれを断れないところがある」
「はぁ?」
突然語りだした内容が要領を得ず彰人は首を傾げる。
「だが白石が話した夢がどれだけ重要か分からないほど馬鹿でも鈍感でもない」
「……」
冬弥は黙って龍我の話を聞く。意図を理解しているのかいないのかは分からないが真剣な表情だ。
「だからあいつもそれ相応の覚悟を持って今回の事を決めたはずだ、ユニットもイベントもな」
「お前…」
言いたいことは大体言ったのか再び立ち上がるもすぐには去らず立ち止まり少し考える。
悩むような表情をしばらく続けるとまた口を開く。
「……まぁ、人を舐めるとかそもそも度胸がいるし…そんな事をするタイプでもないというか、流されるタイプだとしても出来そうにないこと引き受けるほど肝も座ってないというか…」
「……ハァ?」
「…帰る!」
挑発的な態度を取りすぎたと思い最後に柔らかめの補足を差し込んだつもりが上手く伝わらなかった。恥ずかしくなり顔を赤くしながらその場を去ろうとすると冬弥が引き留める。
「待ってくれ」
「何だ、もう用事は済んだんだが」
正直一刻も早くこの場から立ち去りたいという龍我の思いは伝わらず冬弥は言葉を続ける。
「まずはお前の友人を悪く言ったことを謝罪させてくれ、俺もあの時の彰人の発言には問題があると思っていた」
「んなっ!冬弥お前な…」
「だが、彰人の音楽への情熱は本物だ。熱くなりすぎて問題を起こしてしまうこともあるがそこを理解してほしい」
「いや、それはもう十分今の話で…」
相棒のカミングアウトに彰人が面食らうなか冬弥がその想いを語る。龍我としては先ほどの会話で十分分かったつもりなのだが足りないのだろうか。
「いや、俺達の本気を伝えるなら相応しいのは言葉じゃない」
「冬弥、お前まさか…」
「これから俺たちはイベントに出るんだ。それを見てほしい」
どうやら自分たちの歌で判断しろということらしい。こちらも好き勝手言った手前断りづらい。
了承するしかないと判断すると首を縦に振る。
「よし、それじゃ着いてきてくれ」
「はいはい…」
正直渋々冬弥達のあとを着いていく。音楽は嫌いじゃないしむしろ好きな部類に入るがライブハウスの雰囲気にどうにも慣れない。
何かトラブルに巻き込まれそうでソワソワする。
龍我が内心で不安を感じているなか彰人は冬弥に話しかける。
「冬弥…お前何でわざわざこいつ誘ったんだよ」
「さっき言った通りだ、俺達が本気で音楽をやっていることを伝えたい」
「こいつに分かってもらう必要なんかないだろ」
彰人としてはあまり龍我と関わり合いたくない。変なロボットにのって化け物と戦っている男に巻き込まれるのは御免だ。
「元はと言えば彰人が小豆沢達に喧嘩売ったのが原因だぞ」
「それは…お前だって止めなかったじゃねぇか」
「止めたら止まるのか?」
冬弥の指摘に言葉が詰まる。説教モードの冬弥に口で勝つのは自分では難しいと頭を悩ませていると冬弥が続けて口を開く。
「それに…彰人が誤解されたままなのは嫌だからな」
「……ったく、しょうがねぇか。こうなったお前は聞かねぇからな」
彰人が折れた頃に目的地のライブハウスにたどり着く。中に入ると2人は受け付けを済ませ龍我もチケットを買うと別れようとする。
するとそこに紫のパーカーを来た男が話しかけてくる。
「よぉ〜彰人〜!聞いたぜぇ〜謙さんの娘のチームと勝負するんだろ?」
「三田か…どっから聞きつけたんだよ」
「謙さんの店の常連からだよ、面白い事になってんじゃねぇか」
三田と呼ばれた男は楽しそうに笑みを浮かべながら彰人に絡む。突然現れた謎の男に置いていかれる龍我を無視して話は進む。
「最近、どいつもこいつも謙さんの娘の話ばっかりだからな。ここらで実力の差ってやつを見せつけてやってくれよ」
「そのつもりだ。RAD WEEKENDのことなんか口に出すことすら出来なくしてやる」
「最高だな!これは俺もしっかり"応援"しないとな…あの七びかりに目にもの見せてやろうぜ!」
三田の言葉に彰人は違和感を覚える。何か含みを感じる、企みがありそうだ。
「おい、余計なことすんなよ。これは俺達の問題だ」
「分かった分かった、頑張れよ二人とも」
彰人が釘を刺したのを分かっているのかいないのか三田はニヤニヤした表情のままその場を去る。
「すまない兜、あいつも悪いやつじゃないんだが…」
「ストリートにろくな奴がいないってのは本当らしいな」
謝罪する冬弥に対し翼の言葉を思い出す。良い人ばかりじゃないとは言っていたが連続で来られるとうんざりしてくる。
「冬弥、最後の確認行くぞ。本番前に完璧にしとかねぇと」
「あぁ。それじゃあ兜、楽しんでいってくれ」
「お前らの聞いたら帰るけどな」
その場を去るBAD DOGS達を見送る。正直一刻も早く帰りたい、最後までいるとまたあの紫パーカーの男にも会いそうだ。
不機嫌そうな態度でBAD DOGSの出番を待つことにすると携帯からセカイが飛び出す。
『お?また知らないライブハウスだ』
「セカイか。どうしたんだ?」
『今日の自主練終わったから様子見に来た!1人なのか?』
キョロキョロと周りを見渡すセカイを手で押し込む。薄暗いライブハウスに携帯の明かりが目立ってバレかねない。
ポケットから目だけが出る位置に調整すると会話を返す。
「俺なんか1人でいる方が多いだろ」
『だから最近は楽しそうだったのに1人だから気になるんだよ。こはね達は一緒じゃないのか?』
「今ごろ練習だ」
セカイの言葉を流しながら少し考える。
最近は楽しそうだった、自分は他の人間から見たらそう見えてたらしい。確かに学校の中以外で人と過ごしていたのは久しぶりだったのは認めるが普段の自分はそんなにつまらなそうな顔をしているだろうか、クールな男を心掛けているつもりだがミスっているのかもしれない。
そんな事を考えているうちにステージが照らされ、最初のグループが出てくる。
『オー!始まるぜ龍我!!』
「はいはい、大声出しすぎるなよ」
適当になだめながらステージを見る。数人のグループが楽しそうに歌っている。最近の自分もあんなふうに見えていたんだろうか。
ふと思う、やはり本格的に翼と協力して戦うべきだろうかと。4人乗った時のダイナミック・ジンの出力は凄まじいものだった。今後激化していくであろう戦いを乗り越えるためにはルミや瑠璃にも手伝ってもらうのが最善なのだろう。
「さぁ!続いては話題の二人組!BAD DOGSだ〜!!」
『お!話題だってよ!』
「ん?あぁ、お前会ったことなかったか」
BAD DOGSのことを知らない様子のセカイに龍我はそう言えばまだ話したことがないのに気づく。ライダーの説明をしたときにでも会わせればよかったかと思うが別に構わないだろう。
「お前ら!待たせたな!」
「フー!!」
「彰人ー!」
「…人気だな」
『流石話題の二人組だ』
先程までのグループ達が出てきた時よりも大きな歓声があがる。このぶんだとBAD DOGS目当てに来ている人がいてもおかしくないレベルだ。
「それじゃあ早速一曲目、行くぞ!〜〜!!」
「……!」
彰人の合図とともに曲がかかり、2人が歌い始める。その一瞬、沸いてるはずの会場から二人の声以外の音が消えてしまったのではないかと思うほどの衝撃が空間を支配する。
その歌声から、二人の音楽にかける情熱がそのまま伝わってくるかのような錯覚。冬弥が言葉より伝えられると言っていた意味がよく分かる。
一曲目が終わろうとしたとき、龍我は外に向かって歩き出す。
『え?おい!まだ途中だぞ!』
「もう十分だ、あいつらの本気ってやつは伝わった。それに…」
一瞬ステージを振り返る。BAD DOGSの2人は自分が帰ろうとしていることに気づいていないのか観客達を沸かす事に集中している。
自分たちの全力を出し切りこのステージをやり切ろうとする姿、それほどまでに夢に向かって走り抜ける姿勢を龍我は見つめる。
「これ以上ここにいたら、もっと自分が嫌いになりそうだ」
『え?』
その場をあとにしながら、龍我は先程まで考えていた内容を考え直す。
「俺は、やっぱり1人で戦うべきなんだろうな」
ーーーーーーーーー
数日後、イベント『RED』の行われる会場にこはね達は集まっていた。カナリアやルミ達も出演するためともに会場の受け付けまで向かい龍我はチケットを購入する。
「うぅ、緊張してきた…」
「大丈夫、私たちならできるよ!こはね!」
不安がるこはねを励ます杏を横目に龍我は携帯を操作し予約サイトを開くと声をかける。
「ま、終わったらファミレスくらい奢ってやるよ。上手く行けばお祝いで失敗したら残念会だ」
「へ!?わ、悪いよ奢りなんて…」
「勝っても負けても得できると思えば多少気楽だろ、肩の力抜いとけ」
「そうそう、楽しも!」
緊張をほぐそうと会話を続ける。するとBAD DOGSの2人がその場にやってくる。
「よぉ、逃げずに来たみたいだな」
「当然、勝ちに来たよ!」
「な、何か前に会ったときと雰囲気が…」
「……そっちで来るんだ」
取り繕うのをやめ本来の勝ち気な態度でこちらに話しかけてくる彰人に翼が目を丸くする。
「どうせお前か兜から聞いてると思ったが…違ったか?」
「僕らのこと何だと思ってるわけ?」
「お前ら喧嘩すんなよ、音楽で決着させるんだったろ」
一触即発の空気を作り出す翼と彰人を龍我が諌める。龍我に止められると思わなかった周りが驚いた表情をしていると冬弥も彰人の肩を掴む。
「兜の言うとおりだ、俺達の実力は歌で見せつけよう」
「…ま、そうだな。RAD WEEKENDを超えるのは誰か教えてやるよ」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる!」
「それでは失礼する、今日は良いイベントにしよう」
火花を散らし合う杏と彰人に対し爽やかな言葉を冬弥が残すとBAD DOGSがその場を去っていく。その背中を見送ると瑠璃が龍我に声をかける。
「え、え〜と…兜…くん?で合ってるよね?いつの間に2人と仲良くなったの?」
「……まぁこないだちょっと」
「瑠璃が自分から人に話しかけるなんて珍しい」
人見知りの激しい相棒が自分から話しかける状況に翼が目を丸くしていると照明が暗くなり始める。
「やばっ、もう始まっちゃう!」
「それじゃ兜くん!また後で!」
「おう、また後でな」
ステージにこはね達が向かっていくのを眺めながらグラスのジュースを飲む。甘味が口の中に広がる感触を感じていると携帯からセカイがゆっくり出てきて小声で喋る。
『やっぱり皆と居るときが楽しそうだぞ』
「何で小声なんだ」
『バレるとまずいと思って』
「配慮を覚えてくれてうれしいよ…ん?」
セカイの言葉を流していると視界の隅に一人の男を捉える。先日BAD DOGSの2人と話していた、確か三田と呼ばれていた男だ。
音楽関係だと思っていたがこの時間になってもうろついているということは出演者ではなくスタッフなのだろうか。
『お、始まったぞ!カナリアだ!』
「トップバッターなのか」
「さぁ皆!今日も楽しんでいくよ!」
開始を告げると前奏からブレイクダンスを披露する。派手なパフォーマンスのに会場が沸き上がる中瑠璃が歌い始める。
どうやらサビから入る曲らしくダンスの熱を逃すことなく維持する。
「初っぱなから飛ばしたイベントだなぁ〜!」
「今日はBAD DOGSに謙さんの娘も出るんだろ?豪華だな」
「私ルミさん見たくて来たんだ〜!早く出番にならないかな〜」
『やっぱあいつら人気なんだなぁ』
「………」
ここに来ている観客から名前が挙がるのをみていると実感する。ここまでの人気を獲得するためにどれだけの練習をしてきたのか自分には想像も出来ない、いずれはこはねも人気のグループの仲間入りするのだろう。
そんな事を考えている内に順番が巡りルミが歌い終える。
「さぁ、それじゃあ次は私イチオシのニューホープの出番だよ。ViVids、カモン!!」
「オッケー!盛り上げていくよ!」
ルミと入れ替わるように出てくる杏の後ろを小走りでこはねが着いてくる。表情から緊張が見て取れる姿に肩を軽く叩く。
杏がこはねに笑いかけるとマイクを口に持っていく。
「(遂に来た…!最高の相棒と…最高のステージをする!その一歩目!)〜〜!!!」
(杏ちゃん…!やっぱり凄い…!!)
最初は杏のパートから始まる。エネルギッシュな歌声が響くとステージから歓声があがる。RAD WEEKENDのメンバーの娘ということもあり高く積み上げられていたハードルを見事飛び越えてみせた。
パートの交代が近づくと杏が目配せをする。その瞳にはこはねに対する期待と信頼が宿っているのを感じる。
「(すっごいドキドキする…!杏ちゃんと一緒に歌えるんだ…よし!)〜〜!」
「(こはね…やっぱり凄い!私も負けてられない!)〜〜!!」
声が出せた事にこはねはひとまず安心する。その歌声に杏が応える様にアドリブで合わせると少し戸惑うが共に歌い上げる。
杏に比べれば話題の外だったこはねの予想外の歌唱力に観客達からも驚いた声があがる。
「やっぱり凄いな謙さんの娘は!」
「隣の子のレベルも高いぞ…見たことないけど今まで何してたんだ?」
「これで初めてってのは本当なのか?とんだルーキーだな」
(お客さんの反応が良い!このまま一気に…!?)
歌いながら客席を確認し杏は手応えを感じる。もっと緊張するかと思っていたこはねも予想より早く実力が出せている。
これならもっと責めた歌い方にも対応してくれると再びアレンジを加えようとした時、唐突に音楽が止まる。
「へ……!?」
「(機材トラブル…!?こんな時に…でもステージも終盤!ここで終わらせれない…!)〜〜!」
予想外のトラブルに戸惑うも歌い続ける。今日はViVidsとしての初めてのイベント、絶対に成功で終わらせる。
それにこれはチャンスと捉えることも出来るはずだ、突然のトラブルにアドリブで対応出来れば自分たちの評価も一気にあがる。
決死の思いで歌い続ける杏の姿にこはねもマイクを口元に持って行く。
「……っ、……!(何で…声が、でない…!)」
「(こはね…無理ないよね…初めてのイベントでこんなトラブル…なら、今回は1人で!)〜〜!!」
(杏ちゃん…私のせいで1人で…でも…)
本当は自分も参加して2人で歌わなければならないのは分かっている、分かっているのに声が出ない。強く思えば思うほど震えは強まり足の力が抜けていく。
醜態を晒してしまっている自覚はあるが残酷なことはもっと別のことだ。音楽が止まってもたった一人で歌い続ける杏、その姿に観客から歓声があがる。
「良いぞー!」
「流石謙さんの娘だ!突然のトラブルにアドリブで対応するとは!」
「まだ高校生だろ?凄いな!」
(これ…私…)
高まっていく熱気に胸が締め付けられているのを感じる。視界が狭まっていき、自分だけが世界の中にいないような錯覚に襲われながら気づけばイベントが終わり、控え室の中にいた。
ーーーーーーーーー
「こ、こはねちゃん…大丈夫?」
「あ、うん…平気だよ…」
「こはねは悪くないから、そんな顔しないで?こういうトラブルもイベントにはたまにあるし、ビックリしちゃったよね」
こちらを心配してくれる瑠璃に力なく笑うこはねを杏も励ます。しかし表情が戻ることはない。何とか慰められないかとキョロキョロと周りを見回す瑠璃に翼が声をかける。
「たしか龍我くんが奢ってくれるんでしょ?待ってるだろうし行こうよ」
「…せやな!こういう時は美味しいもの食べるに限る!」
「よし!こはね、行こっか!」
「……うん」
力なく返事するこはねを連れて部屋を出ると観客席に向かう。イベントが終わり知り合いの出演者などがいるもの以外の姿しか見えないなか龍我を探すも見当たらない。
もしかして外に出て待っているのだろうか。会場を出るも見回せる距離には見当たらず首を傾げていると裏の路地裏から壁に何か叩きつけるような轟音が聞こえる。
「うわぁ!?今の何!?」
「もしかして…また戦ってるんじゃ!」
「行こう!」
また怪人かロボットが出たのかもしれないと思い路地裏に向かって走り出す。そこには確かに龍我が誰かを壁に向かって首を腕で押さえつけながら険しい表情をしている、だが相手は人間だ。
紫色のパーカーを着た若い男、三田が何かのコードを持った腕を掴まれ首を圧迫されたことによる苦痛に顔を歪めていた。
「もう一回聞くぞ、俺は知識がなくてな…ストリートではこんなコードを持って歩くのが流行ってるのか?白石の店でも見たが。それとも…こないだ言ってた"応援"ってのが関係してんのか?」
「ガッ、アッ…!な、何なんだよお前…」
腕の力を強めながら問い詰める龍我に対し三田は困惑が隠せない。彼からすれば知らない男に突然締め上げられている状況なのだ。
その態度が気に入らなかったのかさらに龍我が両手の力を強めると苦痛のあまり握っていたコードを落とす。
「ちょ、ちょちょちょ!何やってんの!」
「どけルミ!こいつ…!」
「ゲホッ!!ゴホッ!ゴホッ……!!」
「……なるほどね」
ルミが龍我を離すと解放された三田が地面にうずくまり咳き込む。そこに翼が近づくとそばに会ったコードを拾い何かを察すると三田の髪を掴みながら引っ張り上げこちらを向かせる。
「イデデデデ!!今度はなんだよ!」
「これ、会場の機材のだよね?音楽止めたの君?」
「…な、なんのことだよ。知らねぇよ!」
三田が反論すると翼が何かを匂うように鼻を動かす。謎の行動に困惑する三田の顔を思いっきり翼が殴る。
「ガッ!?」
「嘘臭いんだよ、そんなんで誤魔化せると思ってんの?」
「ちょっと!今のどういう意味!」
事態の追及に杏も加わる。それでもどうにか何を逃れようと目を泳がせる三田の視線の先に翼が自身の握りこぶしを近づける。
それにビクッと震えると観念したように口を開く。
「あ、彰人に頼まれたんだよ!お前らを潰すって!俺は協力しただけだ!」
「お前…!この期に及んで…!」
「あぁ、そのとおりだ」
三田の発言に龍我が突っかかろうとした時突然彰人の声が聞こえ振り向く。隣には冬弥も立っており先程の発言に彼も驚いた表情をしている。
「彰人…あんたそんな事までして私たちを潰したいの!イベントまで無茶苦茶にして!」
「ま、待ってくれ白石!彰人は…」
「どの道あの程度のアクシデントで歌えなくなるような奴にRAD WEEKENDは超えられねぇ、その程度の奴と組んでるお前にもな」
「ッ!!」
彰人が言葉を終えると振り上げた杏の手から勢いよく平手打ちが飛び出す。叩かれた頬がジンジンと痛むなか厳しい言葉が浴びせられる。
「最っ低!!ちょっと歌が上手いからってあんたみたいなの認めてた自分が馬鹿みたい!!」
「……そうかよ」
叩かれた頬を押さえながら冬弥を連れて歩き出す。冬弥は何か言いたそうだが彰人の表情を見ると言いどもりそのまま着いていく。
「二人とも待て!こんなの…」
『っ!龍我!カンドロイドに反応だ!!』
「こんな時に…クソッ!」
彰人たちを呼び止めようとした龍我をセカイが止める。苦虫を噛み潰すような顔をしながらベルトを取り出すと仮面ライダーレックスに変身しローラーを回転させる。
「兜くん!僕も!」
「必要ない!俺1人で十分だ!」
「え?ちょっ!」
翼を置いてさっさと走り去るレックスに焦りを感じたのかインパルスに変身すると急いで追いかける。その姿を見た瑠璃もまた内心に不安を募らせる。
「何か…嫌な予感がする…」
「瑠璃…」
胸の中を正体不明の感覚が広がっていく。何かとんでもない事が大切な人に起こってしまうよな嫌な不安。今の瑠璃にはそれが現実にならないように祈ることしかできなかった。
それを見るとルミは何かを決心して走り出す。
「え!?ルミ!」
「ちょっと私も見てくる!」
ーーーーーーーーーー
「ちょっと待ってよ兜くん!」
「ついてくるな!」
前を行くレックスを必死に呼び止めるが一切聞く様子がない。以前から感じていた違和感が表面化していくのを感じて胸の中に嫌な予感が立ち込めるなか見失わないようにスピードを維持する。
一体なぜ助力を拒むのか悩んでいると突然何かの影がインパルスに飛びつきそのまま壁に激突する。
「ぐあっ!?」
「っ!?翼!」
『龍我!後ろから来るぞ!!』
「!?」
セカイの言葉に振り返ると人型のロボが流麗な体勢で飛び蹴りを放ってきている。右手からバリアを展開して受けるとあまりの威力に大きく後退する。
衝撃に軋む腕をかばいながらロボを見る。今まで見た中で最も素朴な見た目だ。両手両足に何の武器もなく移動を補助するようなジェットやローラーのようなものもない。
重心を低くし、片手を前に構え逆の手を腰に据える。拳法家のような構えをとるのを見れば何に特化させているかは分かりやすい。
人型戦闘用機械兵士シリーズ第3号、カラテピリオドだ。
『今までのとは毛色が違うな…気をつけろ!』
「分かってる!」
レックスがカラテに向かって右手を突き出す。そこにカラテが軽く叩くように左手を当てると勢いよく弾かれバランスを崩しそこに顔面へのパンチが放たれる。
痛みにひるむと腹部に衝撃が走り大きくふっとばされる。地面にバウンドしながら受け身を取り相手の方を向き直すとこちらに向けて繰り出したであろう足を突きだしている。
ほんの一発の攻撃からわけも分からず流れるように反撃を食らった。もう少し慎重に攻めなければカウンターでこちらが一方的にやられるだろう。
「こいつで…どうだ!」
右手をカラテに向かって射出する。顔めがけて一直線に飛んでくるそれを軽く弾かれるとワイヤーを巻き上げながら進む。今のはあくまで動き出しの隙を潰すための牽制。
戻ってきた腕がくっつく反動に合わせて回転しながら裏拳を放つも屈んで躱され顎に向かって放たれた拳を逆に蹴り上げられる。
ガードが上がったと判断し再び右手のアームで顔を狙うも掴まれ、逆にこちらの顔を狙った拳を掴み返す。
両者両手が封じられた状態、ここからやれることは1つとばかりにお互いに前蹴りを放つと逆方向に吹き飛ぶ。
今のやりとりでお互いへのダメージは少ない、この地道な格闘を繰り返し綻びをつくしかないとレックスが判断しているなかインパルスの戦闘も始まる。
『こいつはまた随分変わり種だな』
「…そうだね」
セカイと同じようにサポートする気なのかツカイが現れる。彼の言う通り今までのロボに比べて随分と風変わりだ。
両手両足で地面に立つ。あれは腕というより前足だろう。顔もいつもの三つ目のカメラアイだが頭の形が前に伸びてオオカミのようだ。
四肢の先にある鋭い爪や顎から見える牙が武器であると一目でわかる、飛行中のインパルスを捉えて襲いかかった動体視力とスピードにも気をつけなければならない。
動物型試作機械兵士、ビーストピリオド。その姿にインパルスにはもう一つ気になる事があった。
(このロボット…何処かで見た気が…)
姿はオオカミを模しているのだろうが必然的に犬にも見えてくる。思い出してきた、たしか子供の頃に仲のよかった友人の家で見せてもらった機械の…
『来るぞ!』
「!!」
こちらに向かって飛びかかってくるビーストを転がるように回避する。違和感が拭えない感覚は残るが今はそれどころではない。あの変なペットロボットの餌になる気はないのだ。
姿勢を整えると身体全体でリズムを取り始める。不意打ちで乱れていた呼吸を整え相手の身体を観察する。
機械故に呼吸のようなものを取っておらず動きを読みづらい。キグナスの時のような煽りで激情するようなこともないだろう。
しかしプログラムに沿って動くならパターンを見抜くのみ、そう判断すると地面を蹴り距離を詰める。
『相手は機械、何が飛び出すか分からん!見た目で判断するなよ!』
「分かった!」
相手の顎向かって蹴りを放つ。しかしビーストに後ろに飛ばれ蹴りが空を切る。低姿勢の相手に対して上手く攻撃できない。
自身の戦闘経験の低さを恨むがどうすることも出来ない。そんなとき後ろにとんだビーストが身体を弓なりに伸ばすと一気に飛びかかってきたのに合わせるように蹴り飛ばす。
『良いぞ!』
「いや、これは…」
ビーストは今度はジグザクに蛇行しながら距離を詰めてくる、多少リズムは取りづらいが問題なく見切り再び蹴りをいれると大きく吹き飛ぶ。
やはりだ、ビーストはわざと吹き飛んでいる。インパルスの攻撃力は低い、ならば短いチャンスに連続で攻撃を加えるのが勝つための基本になるのがバレている。
前回の戦闘でもう基本スタイルを見抜かれた、自分ですらまだ固まりきっていないというのに。
ビーストが後ろ足を地面に何度も擦り付け始める、意図に気づいたインパルスが走って距離を詰め寄うしたと同時にビーストもまるでイノシシのように突進を繰り出す。
「色んな動物をモチーフにしてるんだね!」
ぶつかる瞬間、相手の上を飛び越える。お互いをすれ違うように通りすぎると地面を転がりながら体勢を整える。あまり長引かせるのは良くないが少しずつ読めてきた。
してきそうな動物の動きを予測して必殺技を無理やり叩き込むしかないだろう。
レックスへの心配からか勝負を決める方法を早々に決める。その頭からは先程のツカイの忠告など抜け落ちていた。
「決める!」
『FULL ACTIVE WING!!』
エネルギーを両足に溜め込み走り出すインパルスに対しビーストは再び突進を繰り出す。そこから行われるのは先程の焼き直し。
相手を飛び越えすれ違う。だが今度は空中で1回転すると背中からジェットを吹き出しまだ着地していないビーストを狙う。
無防備な背中に必殺の一撃を叩き込む、はずだった。
「!?」
ビーストの尻尾と頭が引っ込む。手足が180°回転し頭があったところから尻尾が、尻尾があったところから頭が出てくる。
生物ではあり得ない身体の変形。こちらに向き直した相手にインパルスは追撃を諦め空中に逃げようとする。
このとき、無理やりにでも決めきるべきだったと彼はすぐに後悔することになる。
空へ逃げるインパルスを捉えたビーストの後ろ足が地面に着く。その瞬間、バネのようにその足が跳ねビーストが飛び上がる。そのまま飛びつくと鋭い爪を食い込ませながら牙で噛みつく。
「ぐ、うぁぁぁぁぁ!!!」
自分に噛みつくビーストを離そうと空中でもがく。しかしそれで状況が好転することはなくより深く爪や牙が食い込み激しく痛みが増す。
何度ももがくとバランスが崩れ上下が逆転する。2人分の重さが乗ったまま体勢を戻すことはできずそのまま重力に従い、何よりインパルス自身のジェットの推力でとんでもないスピードで地面に落下し轟音が響く。
「ッ!?翼!」
突然の轟音に振り向く。煙が立ち込める底その中からビーストが様々な部位から煙を出して現れる。その先では変身が解除され地面に倒れたまま気を失う翼の姿。
すぐに向かおうとするも前方にカラテが立ち塞がる。
「どけ!」
焦りと共に腕を振るうも簡単に弾かれレックスに正拳突きが放たれる。ろくな防御もできずに身体で受け止める事になったそれはとんでもない威力を生み大きく吹き飛ばされると変身が解除される。
痛みに悶える龍我に対し、ビーストは翼にゆっくり近づく。どれだけ強い衝撃で強いダメージを負おうと動ける限り機械の彼が止まることはない。
ビーストの牙が翼を砕くため、大きく口を開ける。
「やめろーー!!」
設定
カラテピリオド
人型戦闘用機械兵士シリーズ第3号。厳密にはカラテだけではなく様々な武術のデータを内包した近接戦闘を得意とする。相手の攻撃に対して最適な角度で弾きカウンターを叩き込む。
ビーストピリオド
動物型試作機械兵士第1号。人型ではなく動物をモチーフとした新たなタイプのピリオドシリーズ。様々な動物の動きが内包されており強力な爪と牙が武器。
次回予告
「俺は、BAD DOGSをやめる」
「人の為に生きるのには限界が来るよ」
「喧嘩出来るのは子供の特権だ」
「お前、ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」
『第五話 誰ガ為の剣』
「話があるんだ、ちょっと来いよ」