プロジェクトセカイ feat 仮面ライダー 作:ミッツー116
ショーを書いていたら楽しくて遅くなってしまいました。この章だけで多分あと2回くらいやります。
怪人のセカイ、そこではまた新たな怪人が生まれようとしていた。泥からボコボコと音を立て泡が膨らんでは破裂しまるで沸騰しているかのように地面が動き中から手袋に包まれた腕が出てくる。
這い上がったその怪人は2つの円錐が伸びた帽子に笑顔の仮面、上半身と下半身がつながったような衣装、それらすべてを大きなマントで覆い隠すと笑い声を上げる。
「ピエロノーネイムってところかな」
「何が出来るか読めないね〜」
生まれる現場に居合わせた紫苑達の存在にピエロは気づくとゴソゴソとマントの中で動く。何をしているのか疑問に思っていると突然ビタっと止まり中から手を出す、そこには1枚のトランプが握られており指で紫苑の方に飛ばす。
「っと、どれどれ」
渡されたカードはジョーカー、いわゆるババだ。ピエロが手に爆弾を持った不吉なカードを渡され若干の不快感を感じると絵に描いてある爆弾の導火線が徐々に短くなっていることに気づき、急いで上に飛ばすと盛大に爆発し中から炎と場違いなクラッカーが出てくる。
「なるほど、悪趣味だ」
第三話 「解散 劇団ペガサス☆インザスカイ」
ワンダーランドのセカイ、その一角で劇団ペガサス☆インザスカイの面々は集まっていた。目的は前回ゴーレムノーネイムの出現により中断されてしまった顔合わせをやり直すためだ。
「それじゃトップバッターは座長に努めてもらうか」
「座長…いい響きだ!」
「ステージの管理は神楽君なんだからそっちでは?」
「自分は構わないよ」
青空の疑問への神楽の返答を聞いているのか、言葉の響きを噛み締めて耳に届いていないのか分からないが司はポーズを決めながら叫ぶ。
「天駆けるペガサスとかき天馬!すべてを司るとかき司!世界のスターとなる男!天馬司!!」
『…何それ』
「まさか私達もやるのかこれ?」
「いやまさか…」
あまりに変…特徴的な自己紹介に慄く。まさか劇団全体の意向とかではないと信じていると青空が叫ぶ。
「天を戴き青空を舞う!戴天青空!!」
「やっぱりやらなきゃなのか…?」
『嘘でしょ…』
この劇団への身の振り方を考えなければいけないかもしれないと頭を悩ませる中次々と自己紹介を済ませていく。
「私、鳳えむ!好きなものはショーとたい焼きと…あとお兄ちゃんと〜色々いっぱい!!これからよろしくわんだほーい!!」
「わ、わん…何て?」
「わんだほいだよ、わんだほい」
「分からん」
変な口上を述べるか妙な決め台詞を言う流れなのかと頭を悩ませる。自分の番が来るまでに考えつくだろうかと思っているのを見透かしたの神楽が口を開く。
「自分は鳳神楽、えむのお兄ちゃんで一応ワンダーステージの管理は任されてる」
「こいつ普通に自己紹介しやがった、草刈りしろ管理人なら」
内心感謝しているが表面上は強気に突っ込んでおく、せっかくいい自己紹介があったのにな〜顔をするのだ。
「僕は神代類、特技は演出だよ。司くんは僕の演出を絶対断らないらしいから今から楽しみだね」
「本番までにサイボーグとかになってないといいが」
「改造まで許可はしてないぞ!」
『私は草薙寧々…って私はやったくない?』
「ネネロボとしての自己紹介したらどう?」
「ネ〜ネ〜みたいな感じですか?」
「ロボというより変な生き物だよそれは」
あっという間に残すは2人だけになる、特に語れるようなことがないことに翡翠が少し焦る中ジェルが口を開く。
「私は聖ジェル!お父さんが日本人でママがロシアのハーフ!日本には中学の時に来てまだまだ勉強中だよ!ネットの海でね!」
『そこにまともな情報は無いけど』
「ま!?」
「もうダメそうですね」
トリになってしまった。妹分が改めて要素を並べるとすごい経歴をしていてインパクトのある自己紹介ができていることもあり中々のプレッシャーである。
「…神山高校2年、宝田翡翠」
「はい」
「……………」
「……………え、終わり?」
流石に短すぎる、自分でも問題があることは分かっていたが視線が刺さるのを感じ急いで打開策を探す。すると鞄からスケッチブックを取り出し大きく文字を書く。
「ここから質疑応答に入ります」
「あ、こっちが聞く感じですか?」
「まぁ思いつかないならそれしかないかもしれんが…」
正直名前だけでも分かれば練習の中で親密になっていくだろうからここまでする必要はないと思う、しかし聞きたいことがある人物は居るようだ。
「それでは1ついいかな?」
「はい神代早かった」
「教師何です?」
「君たちは何時ごろからああいう戦いをしているんだい?」
「ふむ…そう言えば俺もまだ聞いたことがなかったな」
初めて会った時には3人は一緒に戦っていたし知り合いのようだった。少なくとも昨日今日会ったというわけではなかっただろう。
「なるほど、では話すとしよう。我々の出会いと戦いの始まりを」
「あれは、今から一ヶ月ほど前のこと…」
「ホワンホワン…」
『口で言うんだ』
ーーーーーーーー
「わ〜!素敵なネックレス〜!本当にくれるの!?」
「もちろん、君の美しさには敵わないけどね」
「もう〜〜!神楽くんったらホントに素敵〜!ここも滅多に予約取れないのに〜」
その日はとある人気スイーツ店のテラス席で彼女との甘いひと時を過ごしていた。用意していたプレゼントも喜んでくれたことで今日のこれからの予定にも浮足立った様子の姿を見ていると自然と頬が緩む。
「……お待たせしました、ふんわりムースのいちごケーキです」
「あぁ、どうも」
このとき、翡翠はこのスイーツ店でアルバイトをしており料理を持ってきてくれた。全然愛想が無かったのでよく覚えているし、何よりこのあと電話までし始めたのだ。
「もしもし、母さん?今バイト中何だけど…分かってるよ、週末だろ。ちゃんともう卒業祝いも買ってるから…もう切るよ」
「すいませーん、注文お願いしま〜す」
「あ、はーい」
母親からの電話を切り上げると呼んでいた女性客、ジェルの元に向かう。この日、まだ出会う前の3人はたまたま同じ場に居合わせたのだ。
「えっと〜、フルーツタルトとプリンアラモード!あと紅茶ください!」
「かしこまりまし…」
「きゃあぁぁぁ!!」
「た?」
突然の悲鳴に思わず首を傾げ聞こえてきた方向に振り向くと道路を次々と人々が逃げていく。何が起きているのか分からない中ジェルは走り出す。
「あ、おい!」
「ごめんなさい!注文キャンセルで!」
持ち前の正義感からか逃げ惑う人々の様子をほっとけないジェルの背中を見送ると翡翠は頭を搔く。一方同じ空間にいる神楽は彼女をテーブルの下に隠れさせる。
「一応何があったか見てくるよ、危ないからここにいてね」
「え、でも…」
「大丈夫、さっきのネックレスが君を守ってくれるよ」
軽く頭を撫でて彼女を落ち着かせると自身も人々の流れを逆走し現場に向かう。しばらく走ると立体駐車場に着き先に走っていったジェルに追いつくも想定外の景色がそこには広がっていた。
「何だあれ…」
「泥…?」
今でこそ見慣れた泥人間をこの時初めて見た。赤黒い液体を滴らせる不気味な人型が短剣を手に人々を追いかけ回す異様な光景、呆気に取られていたがその内の1体が転んだ男性に斬りかかろうとしたのを見てジェルは思いっ切りタックルで吹き飛ばす。
「早く逃げて!」
「ひ、ひぃ!」
情けない声を上げながら逃げる男性のために時間を稼ごうとバックを振り回し泥人間を牽制するも、短剣で切り裂かれバックが飛んでいき地面に中身をぶちまける。対抗する手段がなくなり追い詰められたジェルを助け出すために神楽が動こうとした時、その横を金属で出来たトレイが横切り泥人間を吹き飛ばす。
飛んできた方向に振り返るとウェイター姿の翡翠が立っている。
「定員さん!?何で!」
「バイト中はお客様最優先だ」
「か、カッコいい…アニキと呼ばせてください!」
「は?」
危機を脱したジェルの発言に理解が及ばずにいると泥人間が集まりだし翡翠は庇うように前に出る。一応喧嘩は得意な方だ、こんな化け物相手は初めてだが。
神楽やジェルも息を整えるといつでも動き出せるように身構えた瞬間、携帯から光が溢れ3人の姿が消える。
「「「え?」」」
突然視界がホワイトアウトし、遊園地に出る。次から次へと起こる異常事態にもしやこれは夢なのだろうかと考え始めていた時、背後から声をかけられる。
「ついにこの時が来てしまいマーシタ」
「っ!誰だ!!」
勢いよく振り返るとセカイが立っている。状況が頻拍しているときに現れたエセ外国語を話す人物に警戒心を高めているとセカイは懐から三つのドライバーを取り出す。
「あまり話している時間はありマセーン、このドライバーを使って仮面ライダーとして戦ってくだサーイ」
「は?何言って…」
「仮面ライダー!?仮面ライダーになれって言いました今!!?」
突然テンションが跳ね上がったジェルに2人が困惑する中詰め寄りベルトを奪い取る。
「これがドライバー?わ〜、すごい!すごいよアニキ!」
「いや誰がアニキだ、落ち着けお前」
「ほら早く着けて着けて!どうやって使うのこれ!」
「え、え〜と…このスフィアに想いを込めてデスネ」
「想い?」
勢いに押されながら説明をする、それぞれが自分の想いをスフィアに込めると眩く発光し色をつける。
「これで準備完了デース!」
「よ〜し、それじゃあ早速!」
「ちょ、ま、心の準備はま…」
『ジュエル!!』『クリア!!』『パッション!!』
翡翠の静止の声も聞かず勝手にベルトを操作し起動させる。ドライバーからカーテンが射出されると3人に向かって飛んできたのに思わず両手で顔を庇い、神楽はしばらく避けていたが逃げ切れず結局中に入れられる。
『LETS ACTIVE PASSION!!』
『MY LOCK JEWEL!!』
『START ABILITY CLEAR!!』
「これは…」
変身が完了したと同時に駐車場に戻される。自分の身体に起こった変化を確かめるようにそれぞれ手などを見つめるが目の前の泥人間達は突然現れた謎の3人組に対し武器を構えると一斉に襲いかかってくる。
「ぬおっ!」
「ちょっと待ってよ!」
攻撃から逃げた結果セイレンとイグニスが分断される、一人残されたカラットは思わず腕でガードすると泥人間の刃を装甲で受け止める事に成功する。
「痛っ!くない、全然痛くない」
思わず拍子抜けしてしまい泥人間と顔を見合わせてしまうと相手は驚いた様子で自分の刃が当たっていることを確かめるように何度も腕に視線を向けてこちらを向き直す。隙だらけなその顔を力の限り殴ると勢いよく吹き飛び他の泥人間共々倒れ込む。
「何だ、案外悪くないな」
カラットが手応えを感じている頃分断されたイグニス達の戦いも本格化していく。2人いることとカラットのほうにも一部のこったことで数に余裕ができ安定して敵の攻撃を回避する、何度か繰り返したところでイグニスが拳に力を込めると腕に光が宿り繰り出したパンチで泥人間が弾け飛びちる。
「うわっ!汚い…なんか触らずに倒せない!?武器とか!」
怪人の肉片というただでさえ気持ちの悪い物体に加え綺麗好きなイグニスは心底嫌そうに叫ぶ。するとそれに応えるようにベルトから光が飛び出し両手に収まる。
『アルテマウェポン!!アンカーモード!!』
「えっ、本当にで……重っ!!」
巨大な錨型の武器の重量に耐えきれず地面に落としてしまうとコンクリートにヒビが入る。何とか気合を入れて持ち上げるもバランスを保つだけで精一杯でとても戦えない、しかしそれを待ってくれるはずもなく泥人間達が襲いかかる。
「ちょ、待って待って待って!!」
『アルテマウェポン!!ブレードモード!!』
焦りと共に叫ぶも今にも切り裂かれそうになった時、剣を持ったセイレンが間に入り泥人間を切り裂く。
「参る!」
集団の中に突っ込むと鋭い動きで次から次へと泥人間の身体を真っ二つにしていき、全ての敵を切り裂くと同時に爆発を引き起こす。
「自分もあっちがいいなぁ…てか名前同じじゃない?」
「あ、多分こうだよ」
ぼやくイグニスにセイレンは武器のボタンを押しながら引っ張ると持ち手と刃が分離する、刃の向きを90度回転させつけ直すと巨大化した上で刀身が開く。
『アンカーモード!!』
「いい感じ!!」
「な、なるほど…」
武器を自身と同じ形状に変化させると再び勢いよく他の敵に突っ込んでいくセイレンを眺めながら自分の武器を操作してみようとする。自分が使えなかった武器を女の子が使っていることに若干複雑な気分を覚えながらも刃を取り外しつけ直す。
『ガンモード!!』
「あれ?」
剣に変えようと思っていたが銃になってしまう。つけ直す時の向きが若干持ち手に対して角度があったためだがイグニスには理由が分からず首を傾げる。それを隙と判断したのか泥人間が襲いかかるが突然向けられた銃口に撃ち抜かれる。
「近づかないで倒せる。いいねこれ」
剣よりも自分好みだ。大群に向けてばら撒くように引き金を引いていくと弾丸が連射され面白いくらいに泥人間達がバラバラになっていき、未だ素手で彼らと殴り合っていたカラットが巻き込まれる。
「いってぇ!!」
「あ」
『ブレードモード!!』
「おい、証拠隠滅すんな。お前だろ絶対」
「難しいんだよ」
咄嗟に剣に戻したがバレてしまった、適当に銃を撃ってはいけない。言い訳をしてみるとカラットのベルトから光が漏れその手に収まる。
『アルテマウェポン!!ボウガンモード!!』
カラットは手に収まったそれを構えると素早く連射し泥人間達の頭を一撃で撃ち抜いて見せる。
「簡単じゃねぇか」
「えぇ…」
ドライバーの機能に違いがあるので一応これでは比較にならない、問題はイグニスがよく考えずに乱射したことは事実であることだ。そんな事をしている間に泥人間も最後の1団を残すのみ、セイレンは武器を投げ捨てるとベルトを操作する。
『MASTER ABILITY CLEAR!!』
「これで決めるよ!」
全身にエネルギーが溜まりその身体を輝かせると宙に舞う。身体を横向きに旋回させながら足を突き出すと大きな声で叫ぶ。
「ライダーキーーック!!」
白い光の粒子を流しながら閃光のような一撃が泥人間達を貫き一気に爆散させる。煙が晴れると2人の方に振り返ったセイレンは大きくピースサインを出す。
「勝利のブイ!!」
ーーーーーーーーーー
「今思うと、よくあんな説明でここまで戦ってきたもんだ」
「無断で外出てバイトもクビになったしねキミ」
「でもでも、おかげで仲良くなれたし!」
話が終わり3人が改めて当時を振り返っているのを見つめる。しかし本当に思っていたより付き合いは短いようだ、戦いのあとすぐに解散していたがまさか1ヶ月も経っていない仲とは。よく今回の話を引き受けてくれたなと思う。
「さて、この話はここまででいいだろう。今日は顔合わせだろう?」
「でもそれは今終わりましたけど」
「ならば!この俺から重大発表だ!!」
「なんだ、劇団名のテイク2か?」
「違う!!」
今回取り出したのスケッチブックではなく綴じられた本。中身を覗くとペガサスと呼ばれる王子が英雄になるために度にでる王道ストーリー、そこまでなら特に語るようなこともないのだが問題はその作品名だ。
「『ツカサリオン』ねぇ…」
「もしかしなくても、自作の台本?これ」
「その通り!自信作だぞ!噛み締めながら読むといい!!」
いつも通り過剰とも言える自信だが読まないわけにもいかないだろう、ひとまず目を通して見ることにする。内容はオーソドックスな英雄譚、ペガサス王子が英雄になるために旅をしドラゴン討伐などの壁を乗り越えながら最後には魔王を倒して人々に讃えられるといった内容だ。
「漢字が難しくて読めません」
「確かに意図的に難しい言葉を使おうとしている形跡が見えるな」
「覚えたてなんじゃない?」
「ちがうわ!!」
言葉選びに本人のカッコつけが出てしまっている事を追及され思わず叫ぶ、これは自分の天才的センスだというのにこれだから素人は。そもそもこいつらは分かっているのだろうか。
「お前たち!物語において最も重要なものは何だ!!」
「何なんだ藪から棒に」
「ふむ、しかし中々面白い質問だ。僕も皆に聞いてみたいな」
「う〜ん…」
普通に生きていればあまり考えることもない話題のため頭を悩ませる、ここにいるメンバーは比較的マシだろうが逆に深い部分まで考えすぎて結局全員時間がかかる。
そんな中、青空が速攻で答えを出す。
「見てて楽しいかどうかです!!」
「まぁある意味真理かもだが…私はキャラクターを重要視したいな。それ次第で物語の注視するポイントも自ずと決まるだろう」
「愛かな、別に恋愛的な意味だけではなく。人間関係の肝だと思う」
「ギュギュ〜ってなるか!」
「やっぱり、整合性じゃない?作風もあるだろうけどあんまり度を過ぎてグチャグチャだとね…」
「つまらない答えかもしれないけどやはり僕は演出かな、作品の色が見えてきて面白い」
「スカッとするか。娯楽だよ娯楽」
こうして聞くとこれだけで個性が見えてくる、そもそも人それぞれに考え方があり絶対的なものは無いだろう。しかし、あえてここは声を大にして言わせてもらおう。
「物語において最も重要なもの、それは!!主人公だ!!」
「……はぁ、主人公」
「まぁ的外れでもないだろう、顔であることは間違いないし。サブキャラのが目立ちすぎてどっちが主役だよとか言われる時あるしな」
「あ~、明るいだけの主人公見て暗い過去のサブキャラの方が相応しい見たいなやつ。私は明るい主人公が暗めの周りを引っ張る系好きなんだけどな」
「分かってるじゃないかジェル」
「でしょアニキ」
「しかし…なるほどね」
謎の共鳴を見せるジェルと翡翠は置いといて類は改めて台本を読み込む。今の司の持論を踏まえてみるとこの物語には見えてくるものがある。
「道理で明らかにペガサス王子の見せ場が多いわけだね」
「何か成功する度に褒め称えられてるしね」
「まぁ功績は残してるけど…毎回はいらないよね」
「主人公を重要視しているであろう人物が書いていることに説得力がある、さっきの類君の話にも繋がるね」
「そうだろうそうだろう!!」
「座長、多分褒められてないぞ」
しかしせっかく作ってくれたのだからひとまずこれをやってみることにする。多少添削はさせてもらうが。
「神代、演出のこともあるし座長と話し合って内容を整えてくれ」
「任せてくれたまえ。ただ出来ればこういう話し合いには3人も欲しいのだけど…宝田君は難しいかい?」
「他にもやるべきことがあるからな…時間がある時は手伝おう。お前にも仕事振るからな、自称管理人」
「出来る範囲で頑張るよ」
「う〜む、俺の目に狂いはなかったようだな」
思った通り変人集団のなかでは翡翠は相当まともな分類に入る、彼がいるのと居ないのとでは負担が段違いだろう。自身の功績を内心で誇る、誘ったのは青空なのを忘れているのだろうか。
「ふふふ、本格的に動き出しましたねえむちゃん!」
「うん!これできっとワクワクのショーが出来るね!!」
『結構不安が残るけどね…』
「ロボに戻っている」
台本を読んでいる間は人間だったのにいつの間に入れ替わったのか、ジェルが目をパチクリさせていると司が全員を集め号令をかける。
「劇団ペガサス☆インザスカイ!!最高のショーを作るぞー!!」
「「「「おーーー!!」」」」
円陣を組むと一斉に叫ぶ。これからの活動に気合を込める中、ポツリと誰かがつぶやく。
「でもやっぱ名前は変えよう」
「何故だーー!!!」
ーーーーーーーーーー
『アルテマウェポン!!ブレードモード!!』
「いきますよジェルちゃん!」
「了解!」
セカイの外に出た青空とジェルは並んで剣を構え、同時に走り出すと勢いよく振り次々と進んでいく。その勢いはまさに一気呵成、見るものに勇気を与え後に続きたくなるような気持ちにさせる。
「草刈りの気合じゃない」
「まぁ、入り口を完全に埋めてしまっているからね。あれぐらいの勢いは必要かもしれないよ」
やらなければいけないことその1『木々の伐採』
ワンダーステージへの通路は放置された木々により一般客は寄り付かない、というよりここの存在を知られているのかも怪しい。まずは誰もが自由に出入りできるようにしなければいけない。草刈り機などを使うのに免許などが必要かもしれないのでライダーの武器を使って作業してもらうことにする。
「座長、そっちよく抑えてくれよ」
「うむ!任せろ!」
「みんな〜、ペンキ届いたよ〜!」
「よし、じゃあ入り口に立てる看板とか作っといてくれ」
「お絵かきタ〜イム!」
やらなければいけないことその2・3『宣伝用の看板やチラシの制作・ステージの補修』
ショーをやる上で人を呼び込むためには宣伝も重要、着ぐるみや類のロボットに配らせる用のチラシなどの作成をえむやネネロボ達に任せる。特別な機材などは使わないので彼女達でも安心だ。
その間に翡翠たちは壊れたベンチやステージの剥げた塗装等を修繕する、えむの意向で元の味は出来るだけ残すがそれでも余りにも汚れていると客も来づらい。
「発注してた衣装やら何やら届いたよ」
「ちゃんと僕の言っていた機材も入っているね、しかしよかったのかな?本来想定されていない出費な気がするけど」
「パーク内の催しに使うものなんだから経費で落とすべきだろう」
「まぁステージによって独自の機材を使っているところもあるし特に追及もされなかったよ」
箱の中身をガサガサと漁りながら確認していく、何がどんな機能に繋がるのか分からないものを取り敢えず塁に回していくと衣装などが出てくる。
「わ〜!本当にオペラとか見たいですね!!」
「知ってる劇がオペラだけなんだな」
「はい!!」
「デザインはアニキ何だよね?」
「座長にイメージを聞きながらだから私が考えた訳じゃない、人間プリンターだ」
それぞれ割り振られた役の衣装を身体に当て盛り上がる。準備も順調に進んでいる、しかし肝心なのはショーそのものの出来だ。
やらなければいけないことその4『練習』
「ハァッ…ハァ…どうだ」
「キレは出てきたけど、その動き方はペガサス王子の戦い方として適切なのかな?」
「設定には王国で剣の指南を受けていることになってるんだからもう少し型を意識してほしいな」
「ラ〜ララ〜!!どう!?みんな!」
「元気でいいと思う」
『声は出てるけど…もうちょっと抑揚とかも意識したほうがいいんじゃない?』
「台本の漢字が読めません」
「フリガナ振ってあげるね」
それぞれの練習を手伝いながら自分達の練習もする、経験のないメンバーも多い中で最高のショーを作るなら協力は不可欠だ。課題を考えどう解決していきながら夢中になって練習していく内に日が暮れまた次の日に同じことを繰り返す、そんな事をしている内にどんどん初公演が近づいていった。
ーーーーーーーーーー
「これからも俺は、英雄としての道を突き進んでいく!!」
「………カット!!」
舞台の上で司が締めの台詞を叫ぶ。少しの静寂の後舞台袖の翡翠がカットをかけるとメンバーが全員集まる。
「うん、最終リハーサルも形になったね」
「ひゃ〜〜、疲れました〜」
『もう随分遅いもんね』
「まぁ本番明日となるとな」
思えばあっという間だった。放課後はもちろん休日も朝から日が落ち始めるまで練習づけ、最初のうちは他の準備もあったが途中から完全にショーの練習のみでこの練習量だ。
流石に疲れているのか司も静かだと感じていると突然叫ぶ。
「諸君!聞いてもらいたいことがある!!」
「うわビックリした!!何急に」
「また変なことじゃないだろうな」
「俺はいつだって真面目だ!オッホン!」
わざとらしく咳払いをする司の話を聞くことにする。何だかんだ顔からして真面目な話な事は本当らしい。
「では改めて…諸君!ここまで着いてきてくれ感謝する!!俺には及ばないとはいえよく頑張ってくれた!この分なら明日の本番も大成功!!俺がスターになるための最初の一歩となることだろう!!」
『…別にあんたに着いてきたつもりはないけどね』
「余計な一言多すぎるしな」
「まぁまぁ、感謝してるのは本当っぽいし」
口々に色々言うが内心ではやる気が高まっていくのを感じる。最初はおだてるつもりで座長を任せてみたがこういうところはリーダー向きの性格をしている、人選は正解だったかもしれない。
「各自、今日は帰って明日の英気を養ってほしい!以上だ!!解散!!」
「よっいい話!!」
「雑な称賛だな…ま、いいか」
司の言葉通り一同は帰路につこうとするがネネロボが起動したままなことに気づくと類が声をかける。
「寧々、帰らないのかい?」
『う、うん。もうちょっと練習していこうと思って』
「なに!?帰れと言っているだろうが!」
「そうだぞ、これ以上は一人で帰るのが危なくなる時間だ」
『そ、そんなに遅くまでは残らないから…』
その言葉に類は困ったような顔をする、こうなると寧々は頑固なのだ。どうすればいいかと考えていると突然ワンダーテレフォンが鳴り始める。
『CALLING!!CALLING!!』
「むっ!またか!!まさかまた怪人が!!」
「いや、着信音が違うね。これは…セカイに関係ない時だ」
「え、別れてるんですか?」
「私のだな、ふむ」
翡翠は自分のテレフォンがなっていることに気づき着信相手を確認すると首を傾げる。疑問が残る中すぐに出る事はなく司達に口を開く。
「電話ついでに草薙は私が送っていこう。先に帰っていてくれ」
「……では、お任せしようかな。寧々、翡翠くんをあまり長く付き合わせてはいけないよ」
『分かってる』
「それじゃ2人とも、また明日!!」
「あぁ。さて…もしもし、どうした?」
電話に出た翡翠とネネロボを放置し六人は今度こそ帰路に着く。帰りながら他愛もない話をしながら歩いていると初めより随分と仲良くなったことを実感する。
「いや~!それにしても楽しみですね!今日眠れるかな〜!」
「ふっ!確かに、いよいよ俺のスターダムが始まるわけだからな!!しかし寝不足は厳禁だぞ!明日に響くからな!」
「あ、じゃあ今日通話する?話してる内に眠くなるかもだし」
「わ〜!楽しそ〜!!やろやろ〜!」
「通話と言えば、さっき言っていた違いというのは具体的にどうなってるんだい?」
「仕組みは分かんないけど元々自分達が使ってた携帯と同期してるらしいから、セカイ関係ない知り合いも繋がるんだよね。だからそこと着信音が分かれてるの、ちなみにセカイ関連はマナーモードを貫通する」
「迷惑だな!」
何とか対策できないのかと自分のテレフォンを取り出そうと鞄を探る。しかし何処にもテレフォンが見当たらない、何故かと思考を巡らせると練習中に着信があり取り出した後ステージ裏に放置したままなことを思い出す。
「どうしました?司くん」
「携帯を忘れた…取ってくる!先に帰っておいてくれ!」
「え!あ、さよならー!!」
ステージに向かって走り出すと背中に青空が別れの言葉を叫んでくる、こういうところが律儀な奴だ。皆で設置したワンダーステージの入り口を抜けて通路を進んでいくと翡翠がまだ電話をしている、そこそこ歩いていたのだが随分長電話だ。
「そうか…あんまり気にしすぎるなよ、何かあったら電話しろ。」
「……?」
電話をしている翡翠の姿に違和感を覚える。出会ってからの彼は悪人ではないが無愛想で不遜、煽るような物言いも見られる人物だ。しかし今は電話相手を優しく気遣うような言葉をかけ見たことがない苦しそうな表情をしている。
何か重大なことがあったのかとおもわず足を止めると電話を切った翡翠が司に気づく。
「……?座長、何で戻ってきてるんだ?」
「あ、あぁ…携帯を忘れてな。…お前、今の電話はどうしたんだ?」
「…聞いてたのか、まずったな」
眉毛を八の字にしながら翡翠は力なく笑う。本当に見たことがない様子だ、やはり何か重大なことがあったのだろう。心配そうな司の表情に気づいたのかしょうがないとばかりに口を開く。
「妹だよ、明日のショーを見に来ないか誘ってたんだが…ダメになった」
「ダメに…?何故だ?」
「どうも友達が入院したらしくてな、そんな気分になれないらしい」
「入院…それは心配だな。お前はお見舞いに行かなくていいのか?」
「私は別に知り合いじゃないしな」
いつもの無愛想な表情に戻しながら話すがやはり翡翠の様子は力がない、妹のことが心配なのだろう。妹を思う翡翠の気持ちも大切な相手が入院してしまったその妹の気持ちも司には痛いほどよくわかる、少し考えると司は翡翠に対して大きな声で喋る。
「よし!それならば明日のショー、必ず成功させるぞ!」
「…どういうことだ、まったくつながってないだろう」
唐突な提案に翡翠が呆れていると司は得意気な表情で続ける。
「妹の友人もきっと良くなるだろう。なら今度はきっと一緒にショーを見に来るはずだ、その時に最高の物を見せるためにもまずは明日のショーを成功させようではないか!」
「……!あぁ、そうだな」
堂々と言い放つ司に呆気に取られた表情をするも、柔らかく笑うと肯定する。翡翠に元気が戻ったことを確認すると司も口角を大きく上げ歯を見せる。
お互い笑い合うと何だか恥ずかしく茶化すように小突きながら翡翠は口を開く。
「さっきの演説よりよっぽどいい話じゃないか、座長?」
「当然だ!未来のスターはいい話しかしないぞ!それではまた明日な!」
「あ」
活気よく話しながら司は出口に向かって走っていく。勢いよく駆けるその背中を見つめながら翡翠は心底呆れてしまう。
「携帯は?」
「……ハッ!?」
ーーーーーーー
「魔王よ!このペガサス王子が貴様を打ち倒し、世界に平和を取り戻してみせる!」
家に帰り自室にて台本の台詞を大きく叫ぶ。メンバーには早く寝るよう伝えたがやはり自分も気持ちが逸ってしまい落ち着かない、何とか沈めようと練習をする。逆効果な気がする。
「お兄ちゃん?何してるの?」
「む?おお咲希!明日のショーに向けた練習だ!」
「そっか!本番明日なんだ!」
声に気づいたのか最愛の妹が声をかけてくる。司の部屋は壁や扉がなく下の階と直につながっているためあまり大きな声を出すと響いてしまう、少し声量を出しすぎてしまったようだと反省する。
「あ〜、私も観に行きたかったな〜」
「確か一歌たちと始めたバンドの練習だったな」
「そうなの!皆で観に行かないって言ったんだけど志歩ちゃんが『今は練習優先でしょ』ってオッケーしてくれなくって〜」
「志歩はあいかわらず真面目だな。なぁに、ショーは明日しかやらないわけではない。予定が会った時に新一たちも誘ってくるといい」
「うん!絶対行く!」
元気よく笑いながら話す妹の姿に幸せを覚える。病室のベットの上で力なく落ち込んでいた姿を覚えている司にとって今の咲希の姿はとても喜ばしいことだ。笑顔を浮かべていると突然咲希が申し訳なさそうに口を開く。
「ごめんねお兄ちゃん…今まで私のせいでショー我慢してたんでしょ?」
「…それは違うぞ咲希。確かにお前の面会を優先するために劇団に入ったりはしなかったが、兄として当然のことだ」
もっと早いうちから劇団に所属すれば今頃はある程度名のしれた人物になっていたのかもしれない。しかし妹を放置して自分の夢を追うなどというのは司の目指すスター像とは違う。
「それに、病室でやった数々のショー!あの経験こそ我が血肉となり今後のスター人生を支えていくもの!まったく問題はない!!」
「…もう、お兄ちゃんったら」
司の言葉に笑顔を取り戻す咲希に同じように笑いかける。ひとまず元気になってくれたことに安堵するとそろそろ寝ようかと考え始める。
『CALLING!!CALLING!!』
「む?」
「あれ?お兄ちゃん、携帯変えたの?」
「え、いやこれは…ワンダーステージの支給品だ!」
「へ〜!流石フェニックスワンダーランド!こんなのもらえるんだ!」
「ま、まあな…電話するから一人にしててくれ」
「はーい!」
笑顔で階段を降りていく咲希を見送りながら着信相手を確認する。それを見て司は怪訝な顔をする、普段電話というものをあまり使う印象がない相手だ。
「もしもし、どうした?」
『あ!司くん!!寝落ち通話しましょう!!』
「やらん」
何事かと思えばただの思いつき、青空のいつもの奇行であった。
「明日に備えてさっさと寝ろと言っただろう…」
『いやーベットには入ってるんですよ?ただワクワクして眠れないんですよね』
「遠足前か……まぁ逸る気持ちは分かるが」
何事も楽しいかどうかが価値基準の彼女だ、明日のショーが楽しみで仕方ないのだろう。正直自分も胸が高鳴って仕方ないがここまで正直に打ち明ける童心には感心するものがある。
『フフッ』
「なんだ?今度はどうした」
『いや、あの時司くんに引っ付くことにしたのは間違いじゃなかったなと』
「バイトの面接の話か?」
『いやもっと前、一年の時です』
「あぁ、あの時か」
青空の言葉をきっかけに2人は出会った時の事を思い出す。あれは確か、セミの声が聞こえ始めてきたくらいの季節だった。
ーーーーーーーー
高校一年の夏の帰り道、引っ越してきたばかりのこの街で見つけた河川敷の高架下で青空は一人寝転んでいた。
「退屈だな…」
父の仕事の影響で1ヶ月ほど遅れての入学になってしまったため既にコミュニティが出来上がってしまっておりクラスにも馴染めず、せっかく楽しみにしていた高校生活の出鼻をくじかれてしまった。
「部活とか…いやでもな」
人付き合いは好きだが得意ではないらしい、出会った当初は仲良くしてくれていた人も段々と自分に付き合いきれなくなって去っていくのだ。中学でも仲良くなっては離れを繰り返し引っ越しの際の見送りにも来ない程度の友人しか残らなかった。
「アメンボ赤いなあ・い・う・え・お!」
「ん?」
突然聞こえてきた声に起き上がる。見てみると自分が寝転んでいたよりも下、川のギリギリで金髪の青年が何かを叫んでいる、意味がわからず首を傾げながら声をかける。
「何歌ってるんです?アメンボの歌?」
「いやこれは発声練習…のわぁっ!?誰だ!?」
まさか自分の他に誰かいるとは思っていなかったのかその青年、司は大声を出して驚く。中々愉快な反応に満足しながら青空は話を続ける。
「ハッセイ練習…って何です?」
「声出しだ、ショーの練習前のな」
「ショー?マジックとかですか?」
「いや演劇の方…というかまず自己紹介をしろ!」
一方的に質問を繰り返す青空におもわずツッコミながらその姿をよく確認する。着ている制服からして同じ高校の生徒であることは分かるがあまり記憶にない、学年かクラスが違うのだろうか。
「私〜神山高校1年の戴天青空って言います。引っ越しで入学が遅れたんです知らないかもですけど」
「ふむ、俺は天馬司!!未来のスターになる男だ!!」
「スター…?」
司の自己紹介を受け、青空は橋のすき間から見える空を見ながら口を開く。
「死ぬんですか…?」
「そういう意味じゃないわ!!不謹慎な!」
なら一体どんな意味だというのか、もっと分かりやすく言ってほしいと思っていると司はポーズを決めながら叫ぶ。
「俺は将来、ショーで皆に感動をもたらし世界にその名を轟かせる!!何なら、ここでサインをやってもいいぞ!」
「ほう…」
大きな声で放たれたその言葉に青空は顎に手を当てながら司を見つめる。長い高校生活、楽しむために必要なものが見つかったかもしれない。
「サインは要らないので、1つお願い事を!」
「お願い?」
「はい!」
首を傾げる司に大きな笑みを浮かべると先程のお返しとばかりにポーズを決めながら叫ぶ。
「私とお友達になってください!」
ーーーーーーーーー
「あれから本当に付き纏われているからな…」
『おかげで毎日楽しいです』
あの時断っていたら明日のショーキャストはどうなっていたのだろう。翡翠とジェルは青空が誘ったのだから3人抜きの5人だろうか、それとも別の形でライダーになり結局ワンダーステージに行った時に会うのか。
『明日のステージ、楽しみですね!』
「む?あぁ、必ずいいステージにするぞ!」
『それもそうですけど…』
一瞬のように感じたが、このショーでの練習の日々はとても楽しかった。今までしたことのない経験に新たな仲間たちとの交流、日に日に心が通じ合っていくのを感じながら過ごした毎日はとても輝かしく思える。
『練習でこんなに楽しいなら、本番はきっともっと楽しいですよね!司くん!』
「……!ふ、そうだな」
いつもと変わらない様子の青空に不思議と笑みがこぼれる。本当にいつでも心底楽しそうだ、何だかんだ一緒にいるのも隣にいてくれるだけでこちらも元気になってくるからかもしれない。
『ふぁ〜…眠くなってきました』
「ならそろそろ寝るか、明日に備えてな」
『はい…おやすみなさい、司くん』
「あぁ、おやすみ」
電話を切ると自分自身も眠気を感じてくる。就寝の準備をしながら明日のことを想像し、眠りにつく。
(明日のショー、いいものにしないとな…)
ーーーーーーーーー
翌日、ワンダーステージにて観客席に多数の観客が集まっていた。その光景を舞台裏から一同はコッソリと眺める。
「わ〜…!!お客さん、お客さんだよお兄ちゃん…!」
「…そうだね、こんなにここに人がいるなんていつぶりだろう」
「ふふ、ワクワクしてきたよ」
念願の観客の姿に喜ぶえむと類の姿に神楽は何処か複雑そうな表情を浮かべながら返事をする。その後ろに翡翠が座りながら自分の最初の台詞を確認しているが緊張からかその顔色は悪い、何しろトップバッターなのだ。
「緊張してきた…」
「アニキなら大丈夫だよ!」
「そうですよ!あれだけ練習したんですから!リラックスリラックス!」
「吐きそうだ」
「え、そういうタイプですか」
意外に繊細なメンタルをしている翡翠に驚きながら励ましているとカーテンが閉まる。ショーが始まるのが近い合図だ、後は翡翠がスタンバイすればあの幕が今度は開き本番が始まる。
「ふー…もうちょっと、もうちょっと待ってくれよ…」
「あ、アニキ…」
腰を浮かして立ち上がろうとするも最後の踏ん切りが中々つかないでいるとその背中を勢いよく司が叩く。
「なぁに、心配するな!このスターがいる限り今日のショーの成功は約束されたようなものだ!」
「座長…あんま大声を出すと外に聞こえるぞ」
「あ、あぁすまない…」
「ふふっ、ありがとよ」
司の激励に緊張がほぐれたのか立ち上がると翡翠は幕の真ん中に立つ。準備が完了したのを確認すると類がスイッチを押しブザーと共に幕が開き、姿が見えると同時に翡翠が大きく手を回し足を交差させながらお辞儀をする。
「皆さん!今宵はワンダーステージに来てくださり誠にありがとうございます。私今回のお話の語り部を務めさせていただく…っとお話には特に関係ないので自己紹介は省かせて頂きます」
『語り部』
真っ黒なコートに身を包んだ男。いわゆる地の文を務める。緊張で最初のセリフが大声になってしまった。
「さて、本日のお話は『ツカサリオン』。昔むかし、あるところにそれはそれは栄えた大きな王国がありました」
手に持っていた大きな本を開きながら翡翠はステージを横へ移動し始める。すると背景の黒い壁に映像が映し出され空から見た王国が浮び上がる。
「しかし、このままではこの王国の繁栄も続きません。それどころか世界全体に大きな危機が訪れているのです」
王国に紫色のオーラが漂い始めると空が暗くなり、魔王のシルエットが現れる。
「この危機に、王国のペガサス王子が立ち上がりました。…おや?ちょうど来てくれたようです」
ステージの袖を見ながら呟くと語り部は逆の袖に捌けていく。すると王子の格好に身を包んだ司が歌いながら出てくる。
「あっしき魔王を倒すため〜♪俺は旅立つのだ〜♪」
ステージの中央で止まると帯剣していた剣を引き抜き突き上げる。
「待っていろ魔王よ!このペガサスが貴様を倒し、世界に平和を取り戻す英雄となるのだ!」
『ペガサス王子』
ワンダー王国と呼ばれる大国の王子。英雄になることを夢見ており魔王討伐の旅にでた。
高らかに宣言すると王子は剣を戻す。旅路を急ごうと歩き出そうとした時、その前に長髪の女が現れる。勢いよく現れた女は自らの剣を王子に向ける
「そこのもの!止まってもらいましょうか!」
「な、何だ貴様は!」
「人に名乗る時はまず自分からでしょう!」
「こんな短期間で2度も名乗ってはお客さんに迷惑だ!」
王子の言葉の意味がわからず首を傾げる女に観客からはクスクスと笑い声が漏れ始める。掴みは上々である、だがここからもっと盛り上げなければ。そのためには最初の仲間との出会いを完璧にしたい。
「よくわかりませんが…いいでしょう!そこまで言うなら名乗りましょう!」
「そこまでは言ってないが…」
王子の言葉を無視すると剣を腰にしまい、片手を背に回し逆の手を握り胸の前に構える敬礼のポーズを取りながら叫ぶ。
「我が名はスカイ!ここより遠く離れた隣国の騎士団長!魔王のじゃし暴虐を許せず単身旅に出た!」
「遠く離れているのか隣なのか…あとそれを言うなら邪智暴虐だ。それに団長が騎士団ほって旅に出るな」
『騎士団長スカイ』
ワンダー王国の隣にある国からやってきた。高い剣術の腕と愚直な性格が評価され騎士団長にまで登り詰めた。
「で、その隣国の騎士団長が何のようだ」
「近頃このあたりで不審者の情報があると耳にしましてね、あなたのことでしょう!」
「何ーー!?」
予想外の言いがかりに王子は叫ぶも騎士団長の目は疑い一色だ。
「待て!誤解だ!俺はたった今この街に来たばかり…」
「問答無用!一人道端で歌い出す不審者!成敗させてもらいます!」
「ミュージカルを根本から否定するな!」
発言に突っ込みながらも振るわれた剣を自らも剣で受け止める。何度かお互いに刃をぶつけ合わせ鍔迫り合いに発展すると距離を取る。
「意外にやりますね不審者」
「俺は不審者ではない!ワンダー王国の王子、ペガサスだ!!」
「王族を名乗るとは…罪状が増えましたよ!」
剣を構えたまま再び騎士団長は走り出す。王子もそれを迎え撃とうと構えぶつかり合おうとした瞬間、新たな登場人物が現れる。
「助けて〜!」
「「!?」」
2人の間に突然大きな荷物を背負った銀髪の少女が割り込んでくる。今にも斬りかかろうとしていた2人は慌てて剣を収め立ち止まる。
「ど、どうした!?」
「何かあったんですか!?」
「あれ!あれ!」
少女が必死に指を差す方法から突然紫色のドローンが飛んでくる。角や布で作ったマントなどで装飾されたそれは3人の周りを囲むように飛び2人は少女を庇うように剣を構える。
「これ何です!?」
「魔物だ!魔王の手下め…こんなところまで来ているとは!」
王子が説明しているとドローンの1体が騎士団長に近づこうとし、騎士団長はそれに対して剣を振るう。するとドローンはフラフラと地面に着地する。
「いける!」
勝機を見いだした騎士団長はドローン達に向かっていく。一機、また一機と次から次に斬り裂いていくと不意に背後からドローンが迫り、それを王子が斬る。
「!」
「最後だ!決めるぞ!」
その言葉を受け2人は同時にそれぞれドローンを斬り裂く。全てのドローンが地面に着地すると煙が噴出され、晴れた時にはドローンが無くなっており観客から感嘆の声が上がる。
「…どうして私を助けるような真似を?」
「世界を救うものとして、どんな小さな命でも見逃さん!嫌なヤツでもな」
「なるほど…では」
騎士団長は再び王子に剣を向ける。また戦闘になるのかと王子が警戒しているとクルリと剣を回転させ帯剣し、敬礼の構えを取る。
「ここまでの無礼、お許しください。あなたは間違いなく誇り高い御仁のようだ」
「…いや、気にしないでいい。そちらも騎士としての正義感から来たものだろう」
「しかしそれではこちらの気が済みません、そうだ!」
騎士団長は身体を回転させると観客席の方に向き直り、手を広げながら歩き出す。
「私も〜♪旅に付き合いましょう〜♪」
「…は?」
騎士団長の言葉に王子がおもわず呆けた声を出すも構わず続ける。
「魔王を倒すというのなら〜それは険しく困難だ〜、1人で出来る!?いや、仲間が必要だ!」
ステージを右に左に移動しながら歌い続け、中心に戻ると剣を引き抜く。
「国で鍛えたこの剣を〜♪あなたのために振るいましょう〜♪さぁ、いざ冒険へ!」
ポーズを決めて歌い切る、ずっと眺めていた王子は隣に来ると疑問を口に出す。
「…さっき散々言ってきたのに歌うんだな」
「そちらの流儀に合わせようと思って」
「そ、そうか…だが不要だ。この旅は1人で成し遂げてこそ価値あるもの!そんなことより…」
騎士団長の申し出を断ると王子は逃げてきた少女の方を向く。
「大丈夫だったか?何処かケガは?」
「え、あっ大丈夫!」
「そうか、それは良かった。では俺はここで、先を急ぐからな!」
「あっ、ちょっと待った!」
その場を去ろうとする王子の前に少女は立ち塞がる。
「何かお礼を!」
「いや、当然の事をしたまでだ。礼は要らない」
「まぁそう言わずに、うちの商品を見たらきっと気も変わるよ!」
「商品?」
「そ、ミュージックスタート!」
その言葉と同時に本当に音楽が流れ始め、少女はステージの中央で踊り出す。
「私は商人!世界中を右へ左へ旅する女〜♪」
歌と共に背景がグルグルと回りだし、時々止まると山や海などに変わる。
「山で採れた不思議なキノコ!海で取れた奇怪な生き物!それらを混ぜたお薬を〜♪」
鞄から怪しい色の液体を入れた薬瓶、革でできた謎の小袋などを取り出すと2人に手渡す。
「飲めばビックリ!嗅げばドッキリ!未知の体験がしたいならこのジェルにお・ま・か・せ〜♪」
『商人ジェル』
怪しい薬を販売する謎の商人。魔物の素材で薬を作ってみたくて近づいたら襲われた。
「どれどれ」
「飲むな!!」
渡された薬瓶をそのまま口にしようとする騎士団長を王子が止める。今の歌を聞いて何故か飲もうとする天然さに観客が笑う中騎士団長は何かを思いついたように口を開く。
「そう言えば…私が聞いた不審者の情報…」
「さっき言ってたやつか。それがどうした?」
「大きな荷物を背負った少女が、怪しげな薬を売ってるらしいって聞いたんです」
「……つまり」
その言葉に誰もが答えを察する。言われた本人もヤバい状況であることに気づきゆっくり後ずさる中、騎士団長が近づき肩に手を置く。
「同じ商人なら何か知りませんか!?」
「いやそいつだろ!!」
訂正、1人を除いて皆が気づいていた。王子の言葉に目を丸くしている騎士団長を引き離すと商人と向かい合う。その様子に不味いと感じたのか商人は口を開く。
「ご、誤解だよ〜。私の薬の効果は本物、望んだ効果を与えるよ〜」
「ホントか…?」
「ホントホント!副作用を説明してないだけで…」
「だめではないか!」
余計な事を言ってしまったとばかりに商人は口を抑える。
「だめだ!もう付き合ってられん!俺は先を急ぐぞ!」
「あ!待ってよ〜!何か買ってよ〜!」
走り出しステージの袖に去っていく王子を商人が追っていく。騎士団長も後に続こうとするも、一度立ち止まると客席をみる。
「仲間になるのを断られた時の対処法、ひたすら付き纏ってなぁなぁにすることです。私はこうして騎士団に入りました」
突然真顔で言い放つ騎士団長に観客がゾッとするなか歩き去っていくと再び語り部が出てくる。
「とんでもない輩もいたものですね。あ、3人共ですよ。さてひょんなことから旅の人数が増えた王子ですが…いよいよ最初の困難が待ち受けます。その始まりは…商人のドジです」
その言葉を残し語り部は去っていき、再び商人達が現れる。
「というわけで〜魔王への不安から薬を買う人は増えて儲かってはいるんだ」
「最近は自分で武器を買って家に常備している国民も多い、魔王の出現で皆の心が荒れてしまっているのだろう」
「まぁ助かるとこは確かにあるんだけど、さすがに世界に滅びられたら商売できないから。仲間に入ってあげるよ王子!」
「いやいらん」
「まぁそう言わ…」
和やかに話せるまで仲が進展したようだが、相変わらず王子は2人の仲間入りを認めていないようだ。そんな時、商人の身体が足から真っ逆さまに釣り上げられる。
「うわぁぁぁぁ!!?」
「な、何だぁ!」
「罠!?」
突然の展開に戸惑いの声を上げる王子たち、すると袖から狼の耳のような物を頭から生やした男が現れる。
「何だ、せっかく獲物がかかったと思ったら…ただの馬鹿か」
「これはあなたの仕業ですか!」
騎士団長はすぐに剣を抜くと男の方に向ける。一方の王子はその男の姿に正体を察する。
「あの狼の耳…獣人族か!動物の身体能力と人間の頭脳を合わせ待つと言う…」
「今すぐジェルちゃんを降ろしなさい!」
「ふ…おかしな事を言うな?」
男は背中に背負った弓を手に取ると弦を弄びながら続ける。
「俺は獣人族の誇り高い狩人カグラ!捕らえた獲物をどうするかは俺の自由だ」
『狩人カグラ』
獣人族の村一番の狩人。利己的で利益優先で動く。
「仕方がない…すこし痛い目を見てもらいます!」
「ふぅん?」
騎士団長が勢いよくその剣を振るうのに対し、狩人は軽く頭を下げるだけで躱す、続く2撃目を振るおうとした腕を前蹴りで弾き飛ばすと顔を裏拳で殴りつける。
「この!」
「ふん!」
痛みに堪えながら足めがけて騎士団長が剣を振るうと王子が合わせるように頭めがけて斬りかかる。その瞬間狩人は飛び上がると2本の剣の間を抜けるように空中で回転し着地、すぐにまた飛び上がると回し蹴りで2人とも吹き飛ばす。
派手なアクションに観客から思わず拍手が沸き上がる中、王子達が痛みを堪えた様子で立ち上がる。
「獣人族の身体能力がこれほどとは…」
「面倒ですね…!」
「人間が俺たちに勝てるわけがない、おとなしく諦めるんだな」
獣人の身体能力に戦慄する王子達。観客もどうやって立ち打ちするのかと期待に胸を膨らませる中、商人の鞄から落ちた薬瓶が頭に落ちて割れる。
「「あ」」
「いてっ、何だこれ…キャン!」
頭についた液体を確認するように手で触れた途端、鳴き声と共に狩人が気絶する。しばらく王子達は眺めているも起きる様子がないため、商人を降ろして中身を確認する。
「あれ何だったんだ?」
「獣人族用のマタタビ入りジュース、大人用だから子供はダメなやつ」
「劇薬…」
「ハッ!」
「あ、起きた」
「まさか人間に負けるとは…」
「いや、負け…う〜ん」
これを勝利に数えていいのか王子が悩む中、商人は懐から1枚の紙を取り出すと何かを書き込み狩人に渡す。
「はいこれ、ジュースの代金。支払いは現金のみだから」
「嘘だろ…請求されるのか?」
「だって味わったし」
「とんでもないなこいつ」
押し売りどころではない暴論に狩人どころか王子たちまで引いている中商人は疑問を口にする。
「ところで、獣人族の村には一度行ったことがあるけど最寄りでも大分距離があるよね?何でわざわざこんなところで狩りを?」
「あぁ、そのことか…」
世界を渡り歩いているだけあり情報通な商人の言葉に狩人は応える、どうやらそれ相応の理由があるらしい。
「実は…村の近くにドラゴンが出るようになってな」
「ドラゴン…!?伝説上の生き物とばかり…」
「どうも魔王の手下らしい、栄えた種族の住処の近くに居座って滅ぼしているんだ」
「なるほど…そいつがいるせいで村の近くで狩りが出来ないのか」
獣人族が直面する問題を王子達は把握する。ならば魔王討伐を掲げる身としてやることは1つだ。
「よし、その邪悪なドラゴン!このペガサスが討伐してやろう!」
「何?」
「この俺はいずれ魔王を倒す者!手下ごときに遅れは取らん!」
自信満々に言い放つ王子に対し狩人は何も分かっていないと言わんばかりに手を広げながら口を開く。
「無理だな、村の腕利きも似たようなことを言いながら部隊を編成して出ていったが誰一人帰って来なかった。もはやあの村に残っているのは破滅だけだ」
「ならばどうしてこんなとこまで来て狩りをする?まだ故郷を諦めていない証拠だろう」
「…」
王子の言葉に狩人は何も言えず口を閉じる。どうやら図星のようだ。
「でも、実際伝承通りのドラゴンなら厄介ですよ。巨大な身体に自由自在に空を飛ぶ翼、口からすべてを燃やす炎を吐くとか」
「むぅ…対策は必要か」
騎士団長の言葉に王子は頭を悩ませる。確かに無策で挑むのは無謀かもしれない、どうするべきかと考えていると商人が口を開く。
「それなら、私にいい考えがあるよ!」
「何だ、怪しい薬ならお断りだぞ」
「怪しくない!!じゃなくて、伝承には伝承で対抗するのはどうかな!」
「どういうことだ?」
首を傾げる王子たちに対して商人は近くの岩場に立つと手を広げる。
「古来より、ドラゴンは美しい歌声を聞くと眠りに着くとか!それを利用すれば簡単に倒せるんじゃないかな!」
「なるほど、得意分野ですよ王子」
「この俺の素晴らしい歌声でドラゴンを眠らせようというのか!確かに名案だ…」
「…厳しいと思うがな」
誇らしげに胸を張る王子に対し狩人は怪訝な目で見つめる。
「この俺の歌に不満があるのか!」
「ドラゴンの判定は相当厳しいぞ。村に来たときに俺たちも試したが…誰の歌でも眠らなかった」
「なるほど、生半可な歌じゃ駄目なんですね。ちなみにどんな歌を?」
「仕方ない…」
騎士団長の言葉に狩人はステージの真ん中に立つ。音楽が鳴り始め、再びミュージカルパートが始まると観客が思ったその時。
「ワォォォォオン!!」
「「「ズコーーー!!」」」
高らかに発せられた遠吠えに3人がズッコケ笑いが巻き起こる。何とか立ち上がると王子は狩人にツッコむ。
「それの何処が歌だ!!」
「ハァ!?村一番のヒットナンバーだぞ!!」
「そりゃドラゴンも寝ませんよ」
文化圏の違いを感じる。これでは生半可な歌では駄目という情報も怪しくなってくるが一応商人が助言を出す。
「この辺りには歌の上手い種族もいるけど…」
「何?本当か!」
「あぁ、ロビット族か…だがあいつらはな…」
「何か問題でも?」
商人の言葉に心当たりがある様子の狩人だが反応が良くない。疑問に思った騎士団長の言葉に困ったように応える。
「アイツラは他の種族とは考え方から離れすぎているからな…」
「というと?」
「ロビット族は一切食事を摂らない。地面から噴出する特殊な油のみで生きられることから不殺の種族と呼ばれている。一方で、他の生き物を食う種族と関わろうとしない」
「それ…ほとんど無理では」
狩人の情報に騎士団長は肩を落とす。しかし、王子は対象的に自信に満ちた表情を浮かべる。
「何を肩を落とすことがある!結構なことではないか!」
「…?何が?」
「生き物の命を大切に思うというなら魔王のことなど許せないはず!きっと力を貸してくれるだろう!」
「まぁ、無いとは言わないが」
ポジティブな発言に対しそれを制する手段を持たない狩人は言葉に詰まる。そんな狩人を指さすと王子は命令する。
「話からしてロビット族の村を知っているようだな!案内してもらおう!」
「はぁ…断っても無駄そうだな」
狩人は諦めたように王子達の前を歩き出す。それに続くように一行が歩き出すと、語り部の声が響くと共にステージが暗くなり不穏な音楽が流れ始める。
「王子達が次の目的地を決めた頃、遥か先の魔王城にて王子達の動きが察知されていました」
その言葉とともに暗闇に紫色のライトが照らされると豪華な椅子に1人の男が座っている。不敵な表情を浮かべるその男の元に1人の少女が走ってくる。
「魔王様〜!大変大変です〜!ワンダー王国に向かわせていた魔物が何者かに倒されてしまいました〜!」
「ほう…我が配下を倒すとは…骨のある奴がいるではないか…」
『魔王ルーイ』
世界を闇に包もうとする魔王。人々の不安や悲しみから魔物をうみだす。
「どうしましょう〜!もしまた伝説の勇者が現れたとかなら、前の魔王様みたいにやられちゃうかもですよ〜!」
「ふむ、確かにそれだと厄介だな…ならば」
魔王は椅子から立ち上がるとマントを広げ、少女に命令を下す。
「我が部下エムムよ!貴様の配下のドラゴンを操り、愚かな反逆者を始末しろ!」
「はっ!私ですか!?」
『ドラゴン使いエムム』
魔王の配下とドラゴン世話係。現在獣人族の村の近くでドラゴンを放し飼いにすることでジワジワ攻めている。
「お任せ下さい!私の自慢のドラゴンちゃんで全員こてんぱんにしちゃいます!」
「ふ、いい志だ…ゆけ!やつらを全員ドラゴンの餌にしてしまうのだ!フハハハハハ!!」
高笑いと共に舞台が暗くなっていき、魔王とエムムの姿が消える。再び明るくなると背景は美しい森に変わり王子達が出てくる。
「ドラゴンって何の味付けもせず私達を食べるんですかね?美味しくないと思いますけど」
「炎で焼くだろうし調理はされてるんじゃない?」
「不吉な話をするな!」
何故か食べられる時を気にする騎士団長達に王子が突っ込むと背景が水色の水源が吹き出す映像に変わる。
「わぁ〜…!綺麗な場所ですね!」
「ここがロビット族の暮らす村だ。あの吹き出してるのがあいつらの飲む油だな」
「あんなケミカルな色なのか…」
一般的な油のイメージとは違いすぎる光景に王子が呆然としているとガサガサと音がなる。
「何奴!」
「あれは…ロビット族だ!」
新たな登場人物の気配を感じ観客の期待が高まる中、ステージの袖からネネロボが現れる。
『珍しいですね、外から人が来るなんて』
『ロビット族1の歌い手ネネ』
ロビット族の村の中でも特に美しい歌声の持ち主。秩序を重んじる性格だが他の種族との交流に興味を持っている
「こ、これがロビット族…」
「す、すごいビジュアルだ…」
まさかのロボットの登場に戸惑いの声がステージ上と観客席両方から上がるも、子どもたちの喜ぶ声がかき消す。
『何をされに来たのでしょう、ここはお客さんを歓迎しませんが』
「我等は魔王討伐のため旅をしている王子一行!獣人族の村を襲うドラゴンを倒すため、お前たちの力を借りたい!」
『なるほど、お断りします』
「何ーーー!?」
あまりにも早い断りの台詞に王子が驚く中、予想通りだったのか狩人はため息をはく。
「何故だ!このままではドラゴンに獣人族は滅ぼされてしまうんだぞ!」
『それを問題だというのなら、何故彼らは狩りを良しとするのでしょう』
「なに?」
ネネの言葉に王子は思わず聞き返す。ネネは目を光らせるとそのまま言葉を紡いでいく。
『彼らは強いものが弱いものを喰らうのを自然の摂理と言い自らの行いを正当化しています。それならば彼らより強いドラゴンにやられるのも自然の摂理ではないでしょうか』
「一緒にするな!俺たちは生きるための食料として狩りをしている!魔物は人の感情から生まれる化け物、食事も睡眠も必要としない!」
『我々ロビット族も食事は摂らず、睡眠ではなく充電で休息を取ります。我々も魔物ということでしょうか』
「なるほど、こういうことか…」
他の生物とは全く違った生き方をしているからこそ、同じように全く別の生態を持つ魔物への恐怖などが他の種族に比べて少ない。そのためにこちらの要求の緊急性なども共感してもらえないのだろう。
「チッ、だから無駄だって言ったんだこんなこと」
「まて、まだ諦めるのは…」
「っ!また誰か来ます!」
騎士団長が何かに気づいたかのように振り向くとその方向からエムムが現れる。
「この匂い…魔物か!」
「そんなこと出来たんですか!?」
「獣人族は鼻が利くからな」
「一体何をしにきた!」
王子が剣を向けながら敵意を露わにするもエムムは気にした様子も無く笑いながら喋る。
「フッフッフ!偉大なる魔王様の命により、愚かな反逆者をやっつけに来たのだ〜!」
「たった一人で我々に勝つつもりとは…舐められたものです!」
「一人〜?それはどうかな〜?おいでー!!」
エムムの言葉に誘われ、ステージの袖から巨大な顔が現れる。徐々に現れると地面に着くほど大きな首と巨大な前足が現れ、上半身のみがステージに現れる。全身が治まらないことからその大きさを観客達も実感する。
「ど、ドラゴンだとぉーー!!」
「あれは…村に来たのと同じやつだ!」
「当然!このエムムは魔王様自慢のドラゴンのお世話係!あなた達もその成長の為の餌になってもらうよ〜!」
予想外のドラゴンの出現に王子が驚きの声を上げる中騎士団長達も武器を取り出し戦闘の構えを取る。戦いが始まろうとする中、ネネが目を光らせる。
『あの、何処か別の場所でやっていただけないでしょうか』
「確かに…ここではロビット族達に被害が出るかもしれん、場所を移させろ!」
「フッフッフ、や〜だよっ!」
王子の提案を笑いながら一蹴するとドラゴンが雄叫びを上げる。
「せっかくドラゴンで食料を取れなくしてもロビット族には何のダメージもなかったもん、ここで王子もろとも倒しちゃうよ!」
「ロビット族も狙いの1つって訳ですね…」
「俺たちの巻き添えじゃなくて良かったよ、寝覚めが悪くなるから…な!」
狩人が言葉を言い終わると共に弓を放つもドラゴンは身体をくねらせることで回避する、続く騎士団長が剣を頭めがけて振るうも硬い鱗に阻まれ刃が通らず弾かれてしまう。攻守交代とばかりにドラゴンが口を開くとそこから炎が放射される。
「うぉぉぉぉ!?」
「危ねえっ!?」
「駄目だ!とても敵わないよ!」
「こうなったら!」
ドラゴンのあまりの強さに商人が弱音を吐くと王子がステージ中央に移動する。すると音楽が鳴り始め、どうやら歌うつもりなのだと観客が察する。
「おーれは頼れるペガサス王子〜♪強くてかっこいい〜♪国一番の美男子で〜♪誰にも負けない剣の腕〜♪」
自分自身をただひたすら称賛する歌を大きな声で歌う。ヒソヒソと騎士団長達が会話しているが本人は気付かず続ける。
「すごいぞ!強いぞ!ペガサス王子!皆の英雄だ〜♪」
サビに入ったところでドラゴンの口が開き、炎が吐かれる。
「おーれは強…アッツ!アツッ!!」
「あぁ、駄目だった」
「厳しいのど自慢大会だね」
「言ってる場合か!」
苦肉の策は案の定失敗してしまった。身体にこもる熱を払うように服をはらいながら狩人は叫ぶ。
「一旦逃げるぞ!このままじゃ全滅だ!」
「駄目だ!!」
「はぁ!?」
撤退の進言を即却下され驚いていると王子が剣を構える。
「ロビット族も一緒に逃げればいいだろうが!見捨てる訳じゃない!」
「いやお前はわかっていない!この村はただの住処ではないはずだ!」
王子は狩人の言葉に答えながら村全体を指すように両手を広げる。
「故郷とはそこに住まう人々が数多の日々を過ごし、それぞれの想いを残す場所!そこを守ることはやがてワンダー王国の王となるこの俺の使命だ!たとえ種族が違っても、ここも俺が守ってみせる!」
「お前…」
覚悟を見せる王子に応えるように騎士団長が剣を持ってその隣に並び、狩人もあきらめたのか矢筒から矢を引き抜く。戦い続ける意思を見せる一行だがこのままでは勝ち目は薄い。そんな時、ネネが目を光らせる。
『それでは、私が歌を歌いましょう』
「何!?」
『〜〜♪』
傍観していたネネが突然その口から歌声を響かせる。その美しい歌声に観客から驚きの声が上がる、いい調子だ。歌い終わると共にドラゴンは眠りそれを王子が倒す、これからの段取りを頭の中で反復しているとネネロボに異変が起こる。
『〜〜♪………』
「ん?」
「あれ?」
突然ネネロボの動きが止まり、歌も歌わなくなる。キャストも観客も思わず首を傾げ不思議がっているも再び動き出すような様子もない。
「あれ、歌ここで終わりでしたっけ…?」
「そんなわけがないだろう…!おい、寧々…!どうした…!」
小声で話しながらネネロボに声をかける。しかしステージの上のネネロボは何の反応も示さない、ではステージの裏の寧々本人はどうしてしまったのか。そこでは寧々がコントローラーをガチャガチャと弄りながらネネロボを何とか操作しようとしていた。
「何で…!動かない…!」
「寧々、一体どうしたんだい?」
「類…!コントローラーが反応しないの…!」
「壊れたのか?」
異変を察知した類と翡翠が駆けつけコントローラーに触れるもやはり反応しない。
「これは…」
「確か地下に工具箱があったぞ、持ってくるから待ってろ!そっちはステージ持たせてくれ!」
「え、でも…」
寧々の返事を待たずに駆け出す。ステージ裏の奥の階段を駆け下り地下に出ると目当ての工具箱を発見し、持ち手を掴むとすぐに戻ろうとするも抵抗を感じ引き留められる。
「……!?」
何が起こったのか分からず振り返ると疑問が加速する、工具箱を謎の手が掴んでいるのだ。しかしただの手ではない、手首も胴体もない右手だけが宙に浮かびながら工具箱を掴んでいる。
「ガッ!?」
異常な光景に面食らっていると何処からか飛んできた左手に首を掴まれ持ち上げられる。息が出来ない圧迫感に苦しんでいると部屋のあちこちから身体のパーツが現れピエロノーネイムの全身を構築する。
ピエロはそのまま自らの頭上まで翡翠を持ち上げながら地下を移動し立ち止まる。その位置が上につながるどんでん返しの位置であることに気付くと狙いに気付く。
「ステージぶち抜く気か…!」『ウォズ!!』
身体から黒い布を伸ばすとお互いを包み込みテレポートする。フェニックスワンダーランド内の駐車場にすこし距離を開けて現れると首の違和感を拭うように手で抑えながら立ち上がる。
咄嗟のことで近場にしかテレポート出来なかった。出来ればもっと遠くにいきたいが同じでは通用しないだろうとベルトを取り出し装着する。変身のスフィアを手に持つと司の言葉が脳裏に浮かぶ
『それならば明日のショー、必ず成功させるぞ!』
「任せろ…邪魔はさせない!変身!!」
『MY LOCK JEWEL!!』
矢が衣装を運び翡翠を仮面ライダーカラットに変える。全身にエメラルドグリーンの装甲を纏うとボウガンを取り出し連射する。それに対しピエロは片手の指の隙間全てにナイフを挟みこちらに向けて投擲すると矢とぶつかり合い互いに消滅する。すると今度は逆の手に同じように挟んだナイフを投擲されボウガンで撃ち落とそうにも連射性に劣り転がりながら回避することで難を逃れる。
「……いない!?」
再び攻撃しようと起き上がりボウガンを構えたところでピエロが消えている、ステージに向かわれたのかもしれないと焦って向かおうとすると自家用車が突っ込んでくる。
「危ねえっ!」
「キヒヒ!」
間一髪回避するとその運転席にピエロが乗っていることに気付く。一体どうやって乗り込んで動かしているのか分からないが流石に壊すわけにはいかない、ウォズスフィアを起動させると姿を変える。
『デカい!ハカイ!ゴーカイ!フューチャリングキカイ!キカイ!』
「ふんっ!」
身体から黄色のスパナ型のエネルギーが飛び出すと車に溶けるように入る。気にせずこちらを轢こうとアクセルを踏むピエロだが車は逆に急停止する、文句があるかのようにハンドルを叩くと車体が不自然に傾きドアを開放するとピエロが追い出される。
これで遠慮なく殴れる、早く戻ってショーを何とかしなければ。
「ネネちゃ〜ん、イントロ?イントロ入ってるんですかこれ?」
「ドラゴンを退屈さで寝かせようとしているのかもしれない」
「わ、私のドラゴンちゃんはきちんと待てができるからそんなのは無駄なのだ〜!」
その頃、ステージでは何か異常があったことを察した青空達がアドリブで何とか場を持たせようとしていた。何があったのか確かめたい気持ちもあるがこの場面で裏にはけるのは流石に不自然で出来ない。
(どうする…このままではショーが…!)
「王子、王子ちょっと」
司が悩んでいると神楽がその肩を叩きステージの最前に引っ張ると口を開く。
「今皆ネネの方見てるからこの間にぶった切れるんじゃないか?」
「!……よし、それで行くぞ!ナイスアドリブだ!」
狩人としても役者としても機転の効いた提案に二重の意味で褒めながら剣を構えると、ドラゴンに向かっていく。そんな時、不安定な体勢で固まっていたネネロボのバランスが崩れる。
「っ、危ない!」
「何っ、のわぁ!!」
神楽が叫ぶも間に合わず、司の身体にネネロボが覆いかぶさるように倒れ込み床と挟まれる。目の前で起きたアクシデントに思わず観客から悲鳴が上がり青空達も焦る。
『MY LOCK JEWEL!!』
「ハァ!」
身体をバラバラに分解させ宙に舞い上がったピエロをカラットは姿を戻すとボウガンで撃ち抜こうとする。しかし空を自由にバラバラに飛ぶパーツを今の焦った状態で当てられず矢は空を切るのみだ。
(落ち着け…全てを撃ち抜く必要は無いはずだ。あの頭が急所な事は間違いない)
ステージの上では青空達が何とかネネロボを持ち上げようと苦心していた。役柄上手を貸せないえむを除いた3人で掴むと一斉に持ち上げようとする。
「いきますよ!せ〜のっ!」
「重っ!何キロあるのネネロボちゃん!」
「何とか這い出せない!?」
「無理だ…!全然持ち上がってないぞ…!」
全身が金属で出来たネネロボは3人がかりでもびくともしない。何とかする方法はないかと頭を悩ませる青空達だが、ステージの裏では類が1つの結論を出していた。
「…ここまでかな」
「類…!?」
類は無表情、しかし何処か残念そうにしながらマイクを持つ。これで観客達に声を届けることが出来る。
「キヒヒヒ!!」
「ぐっ…!?うわぁぁぁぁ!!」
ピエロの分割された身体がそれぞれ高速回転するとカラットに襲いかかる。独楽のように動くそれはカラットの身体にぶつかると盛大に火花を散らさせその衝撃に悲鳴を上げる。だが、これはある意味で好都合。こちらに向かって飛んでくるならそこを狙い撃つ。
『アルテマチャージ!!フル!!バースト!!』
『ENEMY LOCK JEWEL!!』
「最大火力だ…!」
エネルギーをため込んだボウガンを構える。妨害目的なのか仕留めるためなのか分からないが絶えず身体にぶつかってくる独楽を耐えながらドライバーのエネルギーが全身を包む。
「がっ…!ぐぅ…」
包まれた全身が徐々に宝石へと変わっていく。その部分を動かすことも、感覚すらもなくなっていく中頭も完全に固まり腕へと宝石の侵食が伸びていく。
「キヒヒヒ!」
腕の先まで固まると持っていたボウガンにも侵食が広がり宝石に変わる、全身が宝石へと変わったカラットを砕いてしまおうと全てのパーツが一気にぶつかる。
「ギッ!?」
先程とは違いカラットから苦痛の声が上がることはない。全身が固まって喋れないからではなく、単純に防御力が高まりダメージがなくなっていた。ピエロは意地になったのかより回転を強めようとするが、次の瞬間カラットの身体の宝石が弾け吹き飛ばされる。
「終わりだ!!」
身体とは違い宝石を未だ纏ったボウガンをピエロの頭部に狙いを定める。高純度のエネルギーの籠もった宝石の矢が引き金と同時に放たれ超高速で貫こうとしたその時、ピエロの頭が帽子の中に引っ込み矢もその後を追うように吸い込まれる。
『自分の歌で眠くなってしまったネネ、愉快な仲間がドンドン増えていく王子の旅はこれからも続いていきます。そしていつの日か魔王を打ち倒し、王子は本物の英雄になりましたとさ』
「なっ!」
もはや挽回不可能と見た類が強引に切り上げ文字通り幕が降りる。唐突な終わりにがっかりとした表情を浮かべる観客の姿に思わず司は歯を噛みしめる。
ショーが終わりを迎える中、同じように戦いも唐突な終わりを迎える。カラットが放った必殺の一撃が、標的を変えた状態で帽子から飛び出し彼を貫いたことで。
「がっ…」
理解が及ばぬ間に身体が貫かれ、カラットの変身が解除される。穴の開いた腹部を押さえるように右手を押し付けると口から吐血し、続いて足から力が抜け地面に膝をつく。すぐに身体を支えることも出来なくなるとうつ伏せに倒れ込む。
「まだだ…まだ…」
意識がどんどん薄れていく中ベルトのスフィアを取り出すと再び起動させようとする。しかしスイッチにかけた指にそれ以上力がこもることはなく、ただただその場に響く耳障りな甲高い笑い声を聞きながら意識を手放した。
ーーーーーーーー
観客が去ったあとのワンダーステージ、そこで類は引っ張って来た電源をネネロボに接続する。瞳に光が灯り明滅を始め、充電が正常に行われていることを示す。
「あ、あはは…いや〜、充電切れですか〜…うっかりですね、うっかり」
「うっかり…?うっかりで済むか!!」
重苦しい雰囲気に耐えられなかったのか放たれた青空の言葉を司が大きな声で否定する。常日頃叫んでいる彼だが今回は何時もとは違う、その声には確かな怒りが籠もっていた。
「こんな…こんなつまらないミスで全て台無しになったんだ!今日までの練習も!ステージをまた使えるようにするための準備も!ここまで俺たちがやってきた全てが無駄になった!」
「…すまない、司くん。これは僕の責任だ、ネネロボの状態をきちんと確認するのを怠ってしまった」
「ううん、私が…昨日ちゃんと練習終わってから充電するのを忘れたせいで…」
「……!!あぁ、その通りだ!!」
責任の所在を自らだと言う類と寧々の姿に司の胸にこれまで感じたことの無い物がこみ上げてくる。ショーが失敗したことへのやりきれなさと怒り、そこをぶつけてしまえる物が今目の前にはある。しかし、そのままぶつける事も出来ず指でネネロボを指す。
「あんなロボット越しにショーをすることがそもそも無理な話だったんだ!人見知り?人前に立つのが苦手?そんな半端な気持ちでショーが出来るわけないだろう!」
「ちょ、ちょっと司くん…そこは皆納得したことじゃないですか…」
「そもそも、観客と直に向き合ってこそのショーだ!こいつはそこから手を抜いている!」
「!」
一度口を開けば止まらない。これまでため込んだことや今回の失敗の不満が次から次へと口から溢れてくる。強い口調で放たれた言葉に寧々が身体をビクリと反応させると類が口を開く。
「…言い過ぎじゃないかな、司くん」
「何だと…?」
「観客に向き合ってこそのショー…確かにそれは前提だ、君は間違ってない。でも同じくらい大切なことがショーにはある」
何時もの余裕を持った笑みを消し、真剣そうな表情で語る類の顔には怒りが宿っている。それを見た青空とえむがあたふたと慌てる中、司と互いに向き合う。
「ショーは一人じゃ出来ない。ずっと一人でやって来て、今回皆とショーをして改めて分かった。それが分かっていない君は、寧々を否定できるような立場じゃない」
「何だと…!ふざけるな!俺はずっと努力してきた!すべてはショーをより良い物にするため…いつかスターになるために!」
「…あぁ、何だそういうことか」
静かながらも司と感情をぶつけ合っていた筈の類が本当の意味で無感情な表情になる。まるで急激に司から興味を失ってしまっかのようだ。
「君にとって、ショーは自分の目的を果たすための道具でしかないようだね」
「何だと…!?」
「僕はもうここには来ない」
「!」
「君のような人間と…」
「ちょ!ちょっと待ちましょう2人とも!!」
司のショーへの想いを否定するかのような言葉を放つと類は決別の言葉を告げようとする。取り返しのつかないことになることを感じ、青空は急いで止める。
「い、一旦落ち着きましょうよ…ショーが失敗して気が立っちゃってるんですよ皆。ほ、他の話でもしません?」
「…ねぇ、アニキは?」
宥めようとする青空の意図を汲んだのかジェルは姿の見えない翡翠について類達に尋ねる。あのタイミングなら舞台裏にいるはずなのに姿がずっと見えないのだ。
「こ、コントローラーが壊れた時に地下に工具箱を取りに行って…それっきり…」
「え、えー!ま、まだ探してるんですかね!おーい!翡翠くーん!」
「あ、あの!ショーのキャストさんですよね!」
寧々の答えに青空がわざとおどけて答えると突然声をかけられる。振り返るとお客らしい女性が肩で息をしながら立っている。
「え〜と、どうしました?忘れ物とか?」
「あ、あの…さっきショー出てた人が駐車場で倒れてて…今救急車が…!」
「…!?アニキ!!」
「ジェルちゃん!ちょっと待って!」
話を聞くと同時に駆け出したジェルの後を全員で追う。出口に行くにつれて帰る人などで道が混むのを掻き分け駐車場に出ると人が大量に集まっている空間を発見する。
「どいて!どいてください!」
ジェルの叫び声で振り向いた人がその衣装を見た途端道を開ける。その反応に背中に嫌な物が走る感覚を覚えながら進むと救急車、そしてそのそばで横たわり意識がないまま処置を受ける翡翠の姿を発見する。
「アニキ!!」
「……!!皆!早く!こっちです!!」
青空の声に他のメンバーも人混みを掻き分けその場にたどり着く。ジェルが必死に呼びかけるその場に司が我先にと駆け出すと救急隊に話しかける。
「アニキ!起きてアニキ!」
「すいません!!何があったんですか!!」
「たまたま通行人の方が見つけた時にはこの状態だったらしく…今警察の方も呼んでいます。ただ非常に重症で…緊急の処置を終えたらすぐにでも搬送が必要です」
「………!!」
想像以上の深手を負っていることに思わず絶句する。言葉を失う司を余所に翡翠の横に座り込んだジェルに救急隊が話し掛け、そこに神楽も駆け寄る。
「あなたは妹さん?親御さんに連絡は取れる?」
「すいません、連絡先なら自分が。彼のバイト場の管理をしている者です。付き添いもさせてもらえますか?報告が必要なので」
「こちらからもお願いします。すぐにでも移動したいので」
ジェルを家族と勘違いしている救急隊に神楽は自分が付き添う旨を伝える。ジェルでは翡翠への思い入れが強すぎて冷静に応対が出来ないだろう。
話し合いが進む中サイレンの音が聞こえ、振り向くとパトカーから見覚えのある人物が降りてくる。
「君たちは…こないだ助けてくれた…!」
「あなたは…確か司君のお知り合いの…」
「門寺誠だ。君たちがいるということはまさか…」
「ええ、恐らく」
地下にいたはずの翡翠が突然消え離れた場所で重症で発見された。類は興味本位で翡翠達が持つ力について詳しく聞いていたため翡翠がテレポートできることも知っている、恐らく地下で怪人に出くわし一人で戦ったのだろう。その結果がこれだ。
「僕たちも詳しい事は分かりません。救急隊の方の話と…病院について行ってもらって翡翠君が目を覚ます事を期待してもらうしか」
「そうか…分かった、後は我々に任せてくれ」
その言葉を最後に誠は救急隊の元に向かうと話し始める。しばらくそうしていると処置が終わり、翡翠と付き添いの神楽を乗せ救急車とパトカーが去っていく。その姿を見送りながら立ち尽くすことしか出来ない中、拳を握りしめながら司は口を開く。
「解散だ…!」
「え?」
「この劇団は解散だ!!」
司の言葉に思わずえむから呆けた声が出る。何を言っているのか理解出来ない中、司は背を向けて歩き去ろうとする。
「ま、待って…司くん!」
「来るな!!」
「!」
大きな声での拒絶にえむの動きが止まる。それに対し司は振り返ることもしないまま続ける。
「もうたくさんだ!妙なロボットでショーをやるのも、仮面ライダーなんて物に巻き込まれるのもな!」
「つ、司くん…落ち着いてくださいよ…」
「俺は落ち着いている!」
青空が懇願するように震えた声を出す、しかし司は感情を露わにしたまま叫ぶ。それに対し同じように声を震わしながら叫ぶ声が現れる。
「そんなの…ひどいよ!!」
「…っ!ジェルちゃん…」
叫び声に思わず司が振り向くと上げた本人であるジェルは目尻に涙を浮かべている。その姿に青空が思わず声をかけようとするも遮るようにジェルは叫び続ける。
「アニキはきっと…ショーを守るために私たちの誰も呼ばずに一人で戦ったのに…そんな言い方!」
「ジェルちゃん…司くんも悪気があるわけじゃ…」
「だったら尚更!そんな人と一緒にいられないよ…」
その言葉を最後にジェルは走り去っていく、その背中に思わず青空は手を伸ばすも追いかけることが出来ない。何も出来ずにいると類も口を開く。
「僕も失礼させてもらうよ、もう会うこともないだろう」
「る、類!待って!」
「2人とも!」
ジェルに続いて類がその場から去り、それを追いかけるように寧々が去っていく。呆然としていると司も再びその場から去っていってしまう。残された2人が立ち尽くしているとえむが口を開く。
「どうしよう…皆の笑顔、なくなっちゃった…」
「えむちゃん…」
いつも天真爛漫だったえむの悲痛な表情に胸が張り裂けそうになる。えむだけではない、司も翡翠も他の皆も、今朝は全員笑顔だったのに。いや、ここまでの練習もずっと笑顔だったのにすべてなくなってしまうのか。そんな考えとともに胸に何かが沸き上がり、居ても立ってもいられなくなりえむに声をかける。
「えむちゃん!安心してください!私が皆を連れ戻して見せます!」
「へ?」
「うおぉぉぉ!!」
言葉を飲み込みきれていないえむを置いて青空は走り出す。まずは座長となる司だ、彼から始まったのだから彼から誘うのが道理。その背中を視界に捉えると力いっぱい叫ぶ。
「司くーん!ちょっとまってください!」
「青空か…」
「戻りましょう!すぐに!今すぐに!」
何も考えず走り出してしまったため説得の言葉が浮かんでいないので取り敢えず勢いに任せようとするが司は沈んだまま応じようとしない。それなら掴んで連れて行こうとした時、司が口を開く。
「…お前も、決めといたほうがいいぞ」
「え?」
「お前のことだ、ショーをやめるつもりはないんだろう」
どうやら青空の考えに気づいていたらしい、だが決めるとは何のことなのだろうか。
「翡翠の怪我は、ショーをしていたせいだ」
「え…?」
「あいつが一人で戦おうとしたのもショーのせい、お前たちが怪人の出現に気づけなかったのもショーをやっていたせいだ」
「そんなこと…」
「どのみち、あんな事やっていたら次はお前の番かもしれない。それならせめて少しでも生き残る確率を上げておけ。まぁ、辞めるのが一番だろうが…」
その言葉を最後に再び司はその場を去ろうとするが立ち止まり一言告げる。
「俺は、お前には傷ついてほしくない」
「司くん…?」
今度こそ司は歩き出し、それを見た青空は急いで引き留めようとする。まだ話は終わっていない、自分の中でどうしてももう一度ショーをやりたいという想いが湧き上がってくるのを感じる。何故そんな想いが生まれたのかまでは分からないが、自分の身体は今その想いに従って動いている。
司の身体を掴むために近づこうと踏み出した瞬間、足が地面に沈み込むのを感じる。
「なっ……!?」
視線を落とすと自分の立っている地面に謎の黒い空間が広がっており身体がそこに沈んでいく。明らかな異常事態にベルトを取り出すと装着しようとするが地面の黒は触手のように伸びると両手を拘束され動けなくされてしまう。
「い、いや…!」
何とか抜け出そうともがくも触手の力は普通ではなく青空は抗うことが出来ない。未知の恐怖に涙を浮かべながら小さくなっていく司の背中に手を伸ばす。
「た、助け」
言い終わる前にその姿は完全に飲み込まれる。違和感を感じた司が振り返るもそこにはもう何もない。帰ってしまったと判断したのか司はそのまま歩き去っていくのだった。
設定
ピエロノーネイム
ピエロを模した怪人。全身をバラバラにする特殊能力、爆発するトランプやナイフ、あらゆる物を吸い込む帽子など多彩な能力を持つ。
次回予告
「ショーはどうなった?」
「あなたは絶望の中で死んでいくの」
「さようなら、俺の逃げ場所」
「嫌だ…まだ…」
第四話 『いつでも空には星がある』
「物語に置いて大事な事!教えてあげましょう!」