プロジェクトセカイ feat 仮面ライダー 作:ミッツー116
今後は分けるかもです。
ーーずっと、大切なことを忘れているような気がする。
何だったかはわからない。どんなことなのかもわからない。大事なことなのはわかる。それこそ、自分の人生に関わるような。
ーー思い出せないなら思い出さないままでいい。
大切なことなのに忘れてしまっている。何故か忘れてしまっている。なら、忘れたほうがいいことなのかもしれない。
ーーでも、もし思い出すのなら。
それはきっと思い出さないといけないことなんだろう。思い出すべき時だから思い出すんだろう。
だから、思い出したら、ちゃんと向き合おう。
第一話 「再会」
何処かの部屋の一室。何人かで過ごすことも容易そうな広い部屋。大きな本棚に敷き詰められた漫画本に大きなガラスケースに入った特撮作品のフィギュアや玩具。勉強机には学校カバンとゲーミングパソコン。さらにはテレビ台の上にテレビと幾つかのゲーム機が接続されている。さらにはギターもおいてある。裕福な家庭であると一目で分かるそこで一人の青年がベットの上で眠っていた。
『〜〜〜〜♪』
めざまし時計がなる。敬愛する仮面ライダーシリーズ最新作のOP曲流れるそれを止めると目を覚ました青年が上半身を起き上がらせる。
「…ゼッツのOPで起きるとエージェント気分になるよなやっぱり」
何処へ向けるわけでもない独り言を唱えると窓をあけ太陽光を浴びる。その日差しは今が規則正しい朝であることを示していた。
身体に刺さる光を感じながら青年は覚醒した頭で今日の予定を浮かべながら部屋のクローゼットをあけ私服を取り出していく。
「今日は…ゼッツにしようかな。」
そう言うと赤と緑を基調とした服をクローゼットから取り出し着替え、同じ色の楕円形のウエストポーチを用意し部屋から出ようとする。
「っと…これどうするか…」
そう呟くと机に向き直りそのうえにある球状の物体を手に取る。
「マジなんなんだこれ…」
疑問を感じながらその物体の上にあるスイッチを押す。
『ライダー!!』
「意味わからん…」
買った覚えの…というより見たことないアイテムだ。音声からして仮面ライダー関連だろうが…どの作品でもみたことがない。
そしてこれをみていると、何故か持っていなければならないような気持ちになる。
「…いいや、もってこ。結局いつも持って行くし。それよりあっさごっはんー。」
階段を降り、リビングに向かう。キッチンとつながったその部屋もまた自身の部屋と同じく人が集まってパーティーをするとしても十分な広さを誇っていた。
「…ん」
リビングに用意したウエストポーチをおきキッチンの冷蔵庫に向かうと冷蔵庫に1枚の張り紙を発見する。
『お母さんたちは仕事に出てます。何かあったら電話してね。』
毎朝恒例のその張り紙を見るとため息をつきながら側のゴミ箱に捨て冷蔵庫を開ける。冷蔵庫の中から卵にベーコン、牛乳といった食材を取り出し閉めるとフライパンに卵やベーコンを投入し焼いていく。
食欲を刺激する香りを感じながら焼き終えた食材と別で用意したトーストを皿に盛り付け牛乳をコップに注ぎテーブルに向かう。
「おばあちゃんが言っていた…食べるという字は人が良くなると書くってな…ってね。いただきます。」
テレビで最近始まった新シリーズの特撮を流しながら食事を口に運んでいく。バターの効いたトーストや塩コショウの味がする目玉焼きにベーコン、それらの塩気を牛乳で流し込む。その一連の動作を何度か繰り返すうちにあっという間に皿もコップも空になってしまう。
「〜〜〜♪」
エンディングに差し掛かりダンスをテレビの前で一人一緒に踊る。幼少期からずっとやっていることだがあの頃とは違い家政婦も居ない今では奇行の域に到達しているが…逆に誰も見ていないのだから関係ない。一人寂しいこの空間では案外こんなことも楽しいのだ。
「ふぅ、終わったし行くか。」
長い実質的な一人暮らしのため癖になってしまっている独り言を口にしながらウエストポーチをたすき掛けにして玄関に向かう。
今日は間近に迎えた高校生活のためにノートやペンなどを一新しようと考えていたのだ。
「高校で友達出来るかな…。」
どうにも不安になる。新しい環境に飛び込むのだから当然といえばそうなのだが別に友達をつくるのはそもそも苦手ではない。
つつみ隠さず趣味の話をすると意外に周りに人が寄ってくるものだ。子供っぽいと笑うものも中には混じるが最終的に同じオタクが固まる。中学もそうだったしずっとそうやって友達を作ってきたーーーーー
「ん?」
違和感を覚える。中学の仲のいい人間とはこうやった覚えがある。ただその前はどうだったか。自分の初めての友達。その人物とはどうやって出会った?また別の出会い方だった気がする。もっと特殊なーーー
「ーっ、頭痛っ。あー考えるのやーめた。」
突然始まった頭痛に思考を途切れさせられ、そのまま深く考えるのをやめる。そもそも思い出したから何なのか、今となっては付き合いもない人間のはずだ。そう割り切ると靴ひもを結びドアから外へ出る。そこそこ距離のあるショッピングモールまで行くつもりだ。バスの時間に間に合うように急がねば。
「ーーーあれ」
ドアから出る。すると家の前を誰か通りすぎる。同年代の少女。
長い黒髪が風に吹かれながらクールな横顔をのぞかせながら歩く少女はラフなパーカー姿に特にメイクなどもされていない。それでいて何故か目が離せない。カバンには緑髪をツインテールにしたキャラクターのグッズが付いている。
身体に電流が走る。心臓の鼓動が速くなる。ちょっと待て。まずい。追いかけろ。いけない。声をかけろ。
全身に無茶苦茶な指令が脳から駆け巡るのを感じる。
「ま、待って!」
思わず飛び出し道を歩いていた彼女を後ろから大声で呼び止める。少女は驚いた表情をしながら振り返る。
「え?」
「やっぱり、そうだーーー」
振り返ったその顔をみる。脳に記憶がよみがえる。彼女こそ自分の初めての友達だった子だ。どうして今まで忘れていたのか。中学に上がるまで毎日のように遊んでいたのに。
「一歌!一歌だよな!」
「え…、ひょっとして…優二?そんな、どうして…」
再会した少女「星乃 一歌」は困惑の表情を浮かべていたが青年、「辛条 優ニ」はそのことを気に留める余裕もなかった。それほどまでにこの再会は彼にとって衝撃だったのだ。
ーーーーーーーーー
数年前ーー
とあるスーパーの前にある公園、そこで幼い優二は一人の女性と喋っていた。
「えっと、それじゃあ私は晩御飯の買い出しに行きますけど…本当に一人で公園にいるんですか?」
「うん、買い物ついて行ってもつまんないし。」
そう言い放つと優二は公園のベンチに座り、携帯ゲーム機で遊び始める。女性…彼の両親に雇われた家政婦は困ったような顔をしばらくしていたが前任の家政婦からもいつもこうだと聞いていたので諦めて買い物に向かう。それを横目に見ると優二はまたゲーム機から目を移し、公園のほうを向く。
「キーパー代わってくれよー!」
「次点決めたら代わってやるよー!」
「おとうさーん!こっちこっちー!」
「よーし、負けないぞー!」
公園では友達同士でサッカーをする自分より体格の大きい子供。同じくらいの砂場にむかう親子などがはしゃいでいた。その様子を優二は特に何も思うでもなく見つめる。
物心ついた頃には両親はほぼ家にいなかった。自分のことは愛しているしおもちゃやゲームは頻繁に買い与えられ誕生日には豪華なケーキが届く。だがこんなふうに公園で遊んでもらった覚えはないし家で使えるおもちゃでばかり遊んだ影響か友達を作るのも苦手だった。
不思議と別に悲しくはなかった。そういうものだと思っていたし暴力などを振るわれるわけではないだけマシだ。何も気にすることなく大好きな仮面ライダーを家でみて、終わったらゲームをする。そんな日々も幸せだ。そんな時だった。
「一歌!走ると危ないわよー!」
公園と逆方向から叫び声が聞こえた。見るとスーパーに一人の少女が走り込んでおり、それを母親らしき人が呼び止めていた。
「だって…早く行かないとミクのガチャガチャなくなっちゃう…」
「もう…そんなに急がなくてもガチャガチャは何処にも行かないわよ。ほら、お母さんと手をつないで?」
そう言うと少女、一歌のほうに手を差し出し一歌も小さな手を合わせる。微笑ましい光景。誰が見てもそう思う、自分には縁遠い世界を見つめたあとそこから逃げるようにゲーム機に視線を落とそうとするがー
「あれ?あそこに落ちてるの…」
先程まで少女のいた場所、そこにぬいぐるみが落ちている。近づいて拾いあげる。
袖のないノースリーブ、足を出したスカートに緑色のツインテール、肩にはピンク色で01と書かれている。それには見覚えがあった。
「これ、『初音ミク』ってやつだよね…」
『初音ミク』バーチャルシンガーと呼ばれる電子音声で歌を歌わせるもの…くらいの認識しかないが知っている。そして、おそらく先ほどの子が言っていた『ミク』はこれのことだ。このスーパーのガチャガチャコーナーにはたしかにこれのガチャガチャもあった。
「…渡してあげないと。」
これは大事なものだ。ぬいぐるみの状態を見ればわかる。そもそもこんなところまで持ち歩いてる時点で分かる。自分もカバンの中にゲーム機と別にお気に入りの仮面ライダーの人形が入っているし。
決心とともにスーパーに入っていく。一人でスーパーを歩くのは初めてだ。自分よりはるかに大きな大人が買い物のためにそこかしこにあるいているのにすこし恐怖を覚える。ガチャガチャコーナーはスーパーの奥。人の波を避けるように迂回しながらなんとか歩いていく。
「あれ?あれ?」
やっとの思いでガチャガチャコーナーに辿りつく。そこでは一歌と呼ばれた少女が何かを探してキョロキョロとしている。
「一歌?どうしたの?ガチャガチャしないの?」
「ミクがいない…」
「ミクって…あれ?いつも持ってるミク?何処やっちゃったの?」
「わかんない…」
無くしてしまったことを理解した一歌の目が潤み始める。怒られるのが怖いのか大切な宝物を無くしてしまった喪失感なのか子供特有のぬいぐるみを友達と感じて罪悪感を感じているのか。
母親が今にも泣き出しそうな一歌をどうなだめるかに思考を向け始めたとき優二が声をかける。
「あ、あの…」
「え?」
突然後ろから声をかけられた一歌の母親が振り向く。それに対し優二は両手で持ったぬいぐるみをおずおずと差し出す。
「こ、これ…」
「あ!これって」
「私のミクだ!」
目の前に差し出された宝物を思わずつかみ抱きしめ、よかったとつぶやきながら慈しむ。そんな一歌を見ながら優二は口を開こうとする。
「あ、あのこれ、お店の前に落ちて…「優二くん!!」!」
説明しようとしたところに後ろから大きな声で自分が呼ばれる。そこには買い物をしていた家政婦がいた。
「どうしてお店の中にいるんですか!?公園にいるって言ってましたよ!?」
「あ、あの…」
「ご両親に頼まれているのにもしものことがあったらどうするんですか!?」
「え、えと」
大きな声で話す大人に対して勝手に出歩いた引け目から上手く説明出来ない。どうすればいいのか、幼い頭は上手く回らず感情が爆発しそうになる。
「あ、あの!」
すると横から大きな声で一歌が叫ぶ。突然のことに家政婦も驚きそちらを振り向く。
「え?」
「ごめんなさい!!」
「な、何であなたが謝る…」
突然の謝罪に困惑して思わず家政婦も説明を求める。すると一歌ははっきりした口調で話し始める。
「私がミクを落としちゃって、それを届けに来てくれたんです。だから、この子は悪くないんです!」
「え?え?」
突然のカミングアウトに家政婦が戸惑っていると一歌は優二の方に向き直り話しかける。
「私のミク拾ってくれてありがとう!」
「え…あ、うん」
「わたし、ほしのいちか!あなたは?」
ーーーーーーー
「懐かしいな〜こんなところで会うなんて」
「あ、うん、そうだね…」
ショッピングモールにむかうバスの中で2人は並んで座りながら話していた。久々の再会がうれしいのか優二は半ば一方的なペースでしゃべっていく。
「最後に会ったのって、小学校の卒業式だよな?だから大体…三年くらいか」
「うん…そうだね…そのくらい…」
「いや〜嬉しいな〜!また会えて!」
はしゃぐ優二に比べて一歌の顔は明らかに暗い。どういうわけか優二のペースに乗れないようだ。
「一歌は今日どこに行くんだ?」
「私は…高校入学前の準備だよ」
「え!?一緒だ!駅前のショッピングモール!?」
「え、う、うん」
「じゃあ一緒に行こうぜ!久しぶりに2人で!」
「え、でも…」
優二の誘いに一歌はすこし考え込むような表情をみせる。しばらくその状態が続くも決心したような表情で口を開く。
「…いいよ、一緒に行こっか」
「やったー!」
「…優二、バスの中だから静かにね」
「あ、ごめんなさい」
そのままバスは目的地に向かって走っていく。その道中も優二は嬉しそうに一歌に話しかけ一歌はそれに複雑そうに答えていった。
ーーーーーーーー
「食品の段ボールどっちに持っていけばー?」
「えーと、これは向こうの倉庫にそのまま置いていいやつ。」
「おけー」
ショッピングモール内部で職員たちが仕入れた食品の仕分けをしていた。指示を受けた職員が段ボールを台車に載せ倉庫へと向かっていく。
「いよっと。あー腰いてー」
最後の段ボールを棚におき倉庫を後にしようとする。すると何かに違和感を感じる。
「…あー?なんだコレ」
地面にしゃがみ込んでライトを当てると何かを引きずったような跡がある。不審に思いその後をたどっていく。
「は!?どうなってんだ!?」
そこには中身が食い荒らされた食品の段ボールがあった。先ほど置いたばかりなのにどうなっているのか。野生動物が紛れ込んでいるにしたって早すぎる。ほかの職員に指示を仰ごうと出口にむかう。
ニチャッ
「ん?なんだ…」
何か粘着質なものを踏んだような感触を感じ足を見る。すると靴底に白い物がガムのようにくっついていた。そしてそれは倉庫の奥へと伸びている。
「なんだ…どうなっ」
最後まで言い切る前にその糸が急速に引っ張られ地面を引きずられていく。急速な摩擦で熱くなっていく背中を感じながら唐突な展開に焦りと恐怖を感じる。
「は!?なんなんだよ!?どうなってんだよ!?」
どうにかしようと地面に爪を突き立てるも何の抵抗にもならない。爪がはがれ痛みが走るもその痛みでアイデアが閃く。
「靴!靴を脱げば!」
気づくと同時に靴を逆の足で蹴り飛ばすように脱ぐ。そのまま靴だけが倉庫に吸い込まれていくのを見届ける。
「なんなんだよ一体…」
とにかく一旦ここを出よう。そう思って振り向くと8つの目が自分の前にあった。
「え」
ーーーーーーーー
「ノートって取り敢えず五教科でいいよな」
「音楽とか美術は要るのかな…あ、体育の分は一応要るんじゃない?」
ショッピングモールの文具屋で優二と一歌は話していた。準備の話しだからかここまでで雑談に慣れたのか一歌の表情も柔らかくなっている。
「まーこんなもんかな」
「うん、大体揃ったと思うよ」
買い物かごの中を2人で買い漏らしがないか確認する。後はこれをレジに持っていけば今日の用事は終わりだ。
(せっかく久しぶりに会えたのにもうお別れはなぁ)
なんとかもう少し一歌と一緒にいる方法がないかと頭を回す。すると一歌のカバンに着けられたグッズが目にはいる。
「一歌、その鞄に付いてるのって初音ミクだよな?」
「うん、そうだよ」
「今も好きなのか?」
「うん、大好きだよ。優二は?今でも仮面ライダー好き?」
「もちのろんよ」
「ちょっと返事がおじさん臭くない?ふふ、でも…変わらないね」
一歌が柔らかい笑みを浮かべる。それをみた優二は今後の予定を切り出してみる。
「ここって一回にCDショップあったよな。ちょっと2人で行ってみない?」
「え?このあと?」
「せっかく久しぶりに会えたんだし、ちょっと遊ぼうぜ。」
その誘いを前に一歌は再び考え込む。それはバスの中でのものよりも長い。2人に静寂が流れ、気まずい雰囲気になる。
「(な、なんかまずかったかな。よくよく考えたら久しぶりに会ったのにグイグイ行き過ぎなのかも…なんか気まずくなってきた…)お、おれちょっとトイレ行ってくる…」
「あ、う、うん」
そそくさと逃げるようにトイレに向かう優二の背中を見ながら一歌は再び思考の海に入る。
(ちょっと怪しかったかな…でも…)
久しぶりに会った幼なじみ、もちろん嬉しい気持ちもある。今日一緒にいて昔と変わらない彼の様子も伝わってきた。だが、だからこそ優二に対してどうしても気になることがある。
「うん、やっぱり戻ってきたら聞いてみよう」
「…何一人で喋ってるんだ」
「きゃあ!?」
決意をしたことを言い聞かせるように口を開くと後ろから声をかけられる。そこには優二よりすこし小柄だがよりガッシリした印象を受ける目つきの悪い青年がいた。
「び、びっくりした。新一、なんでここに?」
「多分同じ目的だぞ。」
一歌のノートが透けている買い物袋を指さしながら彼、「門寺 新一」は口を開く。どうやら自分と同じく文房具を買いに来たらしい。彼も新高校1年生だ。何もおかしくはない。
「ところでさっきのは…」
「あ、うん。その…今、優二と来てるんだよね…」
「何…」
その名前を聞いた途端鋭い目つきがさらに鋭くなる。
「…連絡が取れたのか?」
「ううん、たまたま歩いてた家の前が優二の家だったんだ。」
「そんなことがあるとはな…ずっとわからなかったのに」
「それで…その、『あのこと』を聞いてみようとおもって」
「…そうか」
その返事を最後に新一はどこかに歩き出そうとする。
「ま、待って!」
「…なんだ」
「ふ、2人で聞かない?優二に何があったか。新一だって気になるでしょ!?」
一歌の問いに対して新一は目を瞑って一瞬考え込むもすぐに口を開く。
「おれ、買い物行くから」
そして足早にその場を去っていく。その背中を一歌は辛そうな目で見つめる。
「新一…」
「ごめん待たせた。」
「あ、優二…」
トイレから戻ってきた優二が声をかけてくる。その顔を改めて見る。三年ぶりに会った幼なじみ。小学生のころからはるかに大人びた雰囲気をみると彼が男性であることを感じる。優しそうな黒髪黒目の青年。仮面ライダーが好きで見知らぬ人間のぬいぐるみをわざわざ届けてくれた自分の友達。
何も怖がる要素などないのにその顔をみていると先ほどの決心が揺らいでくるのを感じる。言葉に詰まる一歌をみて困ったのか優二の方が口を開く。
「い、いやー手がなくなるレベルで洗ってきたよ。やっば、ね、汚いからね、その、うん、よく洗わないと。」
「あ、うん、そうだね」
「いやほんと、手は洗わないとね、うん。」
気まずい、やはり自分はグイグイ行き過ぎているのか。何故トークテーマが手洗いという弱すぎるテーマなのか。自分を呪いながらなんとか盛り上げんとする優二に反し一歌は決意を取り戻し始めていた。
意を決して両者が口を開こうとしたそのとき。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「「!?」」
突然ショッピングモール中に響くのではないかと言うレベルの悲鳴が聞こえてくる。
「今の声何!?」
「下だ!!」
2人はエスカレーターを駆け下りて悲鳴の方向に走り出す。そこには一人の成人男性が倒れていた。それをみた一歌はすぐに駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「う、うぐ…」
「すぐに救急車呼びますから!」
一歌は携帯を取り出しすぐさま119番に繋げようとするも優二は違和感に気づく。先ほどの悲鳴とこの状況が一致しないからだ。
「い、一歌。さっきの悲鳴この人のじゃないよな…」
「…!」
一歌も気づく。上で聞いた悲鳴は女性だった。周りを見渡すがそれらしき女性はいない。そしてさらに恐ろしいことに倒れている男性はこの一人だけではなく何人もいた。
「!!これ…」
得体のしれない雰囲気を感じ取る中優二は足元の謎の物質に気づく。白い線のようなものが伸びている。ガムのような粘着質な正体不明の物質。
「これ、なんか…ニチアサの蜘蛛の糸みたいだな…」
そう口にした優二は先ほど購入した買い物をそっとその糸?に乗せる。すると案の定くっつく。
「それ…何…?」
「いや…俺にも何がなんだか…っ!?」
次の瞬間、買い物袋がとんでもない力で引っ張られる。
「んぐっ!?」
「優二!!」
その場で踏ん張る優二を一歌が抱え込むように引っ張るも鞄を掴んでいる手がちぎれるレベルの力で引っ張られる。
「んぐっ、ぐぐぐ…グッバイ買い物袋!!」
手を離すと反動ですごい勢いで買い物袋が引っ張られていく。
「なんだったの今の…」
「わっかんねぇ…」
引っ張られた方向をみるも既に買い物袋は見えないところまで行ってしまった。
「行ってみるか…?」
「ほ、本気!?」
優二の突然の提案に一歌は耳を疑う。
「出口逆方向にあるにはあるけど…ここの人たちほっとくわけにも…」
「その気持ちは分かるけど…余りにも不気味すぎるよ…」
一歌の当然の反論に優二も考え込む。糸の主は今ごろ買い物袋を手に入れたのだろうか。あの中身をみてどうする。もし仮に巨大蜘蛛のような生き物なら餌を求めた糸であることは容易に想像がつく。期待外れの文房具に怒り狂う前に逃げるべきか。そんなふうに悩んでいるうちに『それ』は現れた。
「なに、あれ…」
それは2本足で立っていた。右手で優二の買い物袋をもち左手でそれを指している。お前らのだとわかっているとでもアピールしているのかもしれないが優二達はそれどころではない。目の前の生き物は明らかに人間ではなかったからだ。
そもそも袋を掴んでいる手は鉤爪のような指三本しかなく、顔には黒い丸ーーおそらくは目が八個並んでいる。全身を短い毛が覆い口を横に開閉している。
異形と呼ぶのが一番だろうがあえて別の呼び方をするとするならーー
「蜘蛛男…」
そうつぶやくや否や優二は一歌の手をつかみ走り出す。
「走るぞ!」
「あ、うん!」
優二は一歌の手をしっかり掴み先行しながら引っ張るような勢いで走る。だが蜘蛛男もそれをみて動き出す。
「キシシシシシ」
笑い声のような鳴き声をあげながら両手を地面に着け這うように2人の後を追いかける。それを優二は後ろ目に確認する。
「走り方きもっ!速っ!」
「これ逃げ切れるの!?」
「っ、こっちだ!」
そして優二は出口を諦めスポーツ用品店に入る。途中でユニフォームなどの棚を倒すことでなんとか距離を稼ぐが焼き石に水としか言えない。
「もう、限界かも…」
「…あれだ!」
そう言うと優二は並べられてある商品の中からゴルフクラブとアメフトのメットを見つけ被る。
「ゆ、優二…まさか…」
「正直勝てる気はしないけど…時間は稼げるだろ…」
「だ、だめだよ!一緒に逃げよう!」
「…もう手遅れだな」
自分を犠牲にしようとする優二をなんとか説得しようとするも蜘蛛男が追いつく。
「キシシシシシ!」
こちらを嘲笑うように鳴くと立ち上がりジリジリとにじり寄ってくる。
「一歌!しっかり逃げろよ!」
「優二!」
キャッチャーの防具を腹につけ装備完了と言わんばかりに蜘蛛男に向かっていく。
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
蜘蛛男の頭にむけてゴルフクラブを振り下ろす。蜘蛛男はそれに対し一切動かずそのまま抵抗なくくらうとゴルフクラブの方が真ん中からポッキリと折れる。
「…!折れたぁ…」
ショッキングな光景に優二が思わず落胆すると蜘蛛男の横薙ぎに振るった腕に吹き飛ばされ棚を粉砕しながら壁にぶつかる。
「優二!」
「………」
吹き飛ばされた優二に対して叫ぶも気を失ってるのか返事はない。そんな一歌に対し蜘蛛男が近寄ってくる。
「キシシシシシ」
「こ、来ないで!」
にじり寄ってくる蜘蛛男に対して後退りながら叫ぶも蜘蛛男は一切気にせず近寄ってくる。今にも襲われるかに思われた瞬間、横から新一が飛び出し蜘蛛男に消火器を噴射する。
「一歌!こっちだ!」
「新一!」
蜘蛛男が消火器に怯んでいるうちに一歌の手を引き新一が走り出す。
「まって!優二がお店の中に!」
「だったらなおさら店から離れたほうがいい!」
「え!?」
困惑する一歌を余所に新一は引っ張る速度をどんどん上げていく。
「離れたほうがいいってどういうこと!?」
「周りをみてみろ!」
「え?」
その言葉通りに周りを見渡す。そこらかしこに蜘蛛男に襲われたであろう人間が倒れている。
「酷い…」
「この状況、奴の行動の法則が見えてくる…」
「へ?」
この凄惨な状況から何かわかるようなことがあるだろうか。何か違和感があることが?そんなとき、優二の言葉を思い出す。
『い、一歌。さっきの悲鳴この人のじゃないよな…』
「!」
周りをもう一度見渡すと異変に気づく。
「倒れてるの…男の人だけ?」
「ヤツに襲われてるのは男だけ…悲鳴をあげたのは一緒にきた女性だ」
「じゃあ女の人はどこに…」
「上だ」
「上…?ひっ!?」
新一の返答に上を見上げる。するとそこには蜘蛛の糸で作られた蓑のようなものがいくつもぶら下がっている。
「あれ…全部女の人なの…」
「餌にするのは女性だけなんだろうな」
「そっか…だから私がお店を離れれば…」
「あんなふうについてくるってわけだ!」
一歌が振り向くと蜘蛛男が地面を這いながら追いかけてくる。
「キシシシシシ!!」
「大はしゃぎだな…」
「言ってる場合じゃないよ!」
そんなことを言いながら走るも新一には焦りの表情が見え始める。
(このままじゃ追いつかれるぞ…どうする…)
ーーーーーーー
暗闇で誰かの声が聞こえてくる
「……き……二」
(なんだ?なんか聞こえる)
「起き……優…って」
(体いてぇ…なにしてたんだっけ)
意識が朦朧としている。体が動かない。…なんか息めっちゃ吸ってる音する。
「起きろ!!!!バカ!!!!!」
「うわぁ!!」
突然の爆音に飛び起きる。
「うぇ?ここどこ!」
「やっと起きたよこいつ…」
「お前…」
自分を起こした男を見つめる。何処かの学校の制服をキッチリと着こなす真面目そうな男。周りの空間も教室のようだ
「えっと…」
「あーまずは自己紹介と言いたいところだけど、今そんな場合じゃないんだ。」
そう言うと男は手を天にかざす。すると空に画面のようなものが現れる。
『キシシシシシ!!!!』
『盛り上がってきたな』
『言ってる場合じゃないってぇぇぇ!!』
「一歌!と一緒にいるのは…」
「まぁ見ての通り、お前の友達がスパイダーノーネイムに襲われている。」
「…スパイダーノーネイム?」
怪人の名前であろうものを知っている男に疑問を浮かべるも男はそんなこと気にせず懐から何かを2つ取り出し優二に渡す。
「これを」
「これって…」
渡されたものを手に取ってみる。長方形の物体で中央にくぼみがある。くぼみには金属製のパーツが1本の柵のようにあるが指で動かせる。そして何より気になるのはもう一つの方だ。
「これ!」
渡されたもう一つの球状の物体。自分がいつの間にか持っていた押すと鳴る謎のアイテムと同じ形状だ。
「それを使えば…お前は仮面ライダーになれる」
「仮面ライダー!?」
男のセリフに対してオウム返ししてしまう。仮面ライダー、幼い頃から憧れたヒーロー。それになれるというのか。
「お前に渡したアイテム…『ライドスフィア』はお前が本当の想いを見つけることで力を得る。そいつをその『セカイドライバー』につければ変身出来る。」
「本当の想い?」
「そうだ、それがお前に力を与える。」
「そんな悠長なこと言ってられない…これ使えないのか!?」
そう叫ぶと自分が持っていた緑色のスフィアを見せる。
「これは…?なぜお前がこんなものを?」
「いいから!使えるのか使えないのかどっちなんだよ!」
「使えるが…本来の力が発揮できるかどうか…」
「急造でも何でもいい!一歌が危ないんだ!」
優二の訴えを聞くと男はすこし考えるもすぐに口を開く。
「わかった。だが無理はするな。倒せそうにないならすぐに逃げろ。」
「よし、それじゃ一歌たちのところに…」
優二はすぐに教室から出て一歌たちのところに向かおうとする。だが…
「あれ、ここって何処なんだ?」
「ハァ…」
ため息を吐くと男は優二の肩に手をおく。
「まぁ頑張ってこい。」
「え?うわあ!」
男がつぶやいた瞬間景色が真っ白に塗りつぶされた。
ーーーーーーー
ショッピングモール駐車場、新一と一歌が息を潜めて車の裏に隠れている。蜘蛛男から逃げるためにエレベーターの中に逃げ込み適当な階の駐車場から逃げようとしたがその駐車場にも脅威がいたのだ。
「また変なのが出たな…」
「なんなのあれ…」
一言でいうなら手抜きだ。目も口もない。黒が人の形をしてゾロゾロ歩いている。
「お化けみたいでやだ…」
「新一お化け苦手だもんね」
とは言えこのまま隠れているわけにも行かない。あの蜘蛛が最も恐ろしい相手なのだ。
「見たところ雑魚戦闘員だろ…ちょっと待ってろ」
「ま、待って新一!」
一歌の制止をきかず黒人間に向かって新一は走り出す。気づかれる前に体をひねりながら勢いをつけた回し蹴りで一体の首を強打する。
「フ!」
仲間の一人がやられたことに怒ったのか周りの黒人間も一斉に襲いかかってくる。そのうち一体の腕を掴んで自分の方に引き寄せ盾とすることで相手の接近を牽制し、そのまま思いっきり蹴り飛ばし進行方向上の敵の何体かも倒す。
予想外に仲間が減った動揺の隙をつき一体に急接近しタックルで吹き飛ばす。そして後ろから近づいてきた黒人間の腕をつかみ1本背負いで地面にたたきつける。
(よし!この調子なら退路の確保は…)
ニチャッ
「んなっ」
妙な感触を感じ地面に視線を落とすと白い線が伸びている。
「これはっ」
視線を向けると蜘蛛男が線の先にいる。
「キシシシシシ!!」
笑いながら糸を出している口ごと頭を思いっきり振り回し新一を投げ飛ばす。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
投げ飛ばされた新一はそのままの勢いで駐車されている車に激突し車が半壊する。その衝撃で新一は気を失ってしまう。
「新一!」
気を失った新一に対し思わず一歌は声を上げるが、それは新たな問題を生んでしまう
「キシシシシシ」
「ひっ」
蜘蛛男が一歌を見つけ近づいてくる。壁に追い詰められ蜘蛛男がその手を伸ばしてきたとき…
「うぉぉぉぉぉぉ!!!」
「!?優二!」
大声をあげながら走ってきた優二はその勢いのままジャンプする。
「うおりゃ!」
勢いをつけた跳び蹴りで蜘蛛男を吹き飛ばず。
「一歌!大丈夫か!」
「優二!新一が!」
一歌の様子を見た優二は首を傾げる。
「新一…?さっき一緒にいたやつか」
「え…?」
優二の様子に今度は一歌が困惑の表情を浮かべる。そんなことをしているうちに蜘蛛男が立ち上がってくる。
「まずい…一歌!隠れてろ!あいつは…俺が倒す」
「倒すって…優二何言ってるの!?」
そして優二は蜘蛛男の前に立ちはだかり、懐から取り出したセカイドライバーを腰に当てるとバックルから帯が飛び出し身体に巻かれる。
『セカイドライバー!!』
「たしか…スパイダーノーネイムだったか。」
謎の教室で男が言っていた名前を思い出しながらライドスフィアを取り出す。
「散々追いかけ回して痛めつけられた礼!させてもらうぞ!」
そう叫ぶとともにスフィアのスイッチを押し起動させる。
『ライダー!!』
ベルトの金属パーツをずらし、空いたくぼみにスフィアをはめ込む。右手を自身の左斜上に突き上げながらスフィアを回転させ左手をベルトに沿って右の腰に当てる。その後両手を大きく広げるように回転させ右手は肩の高さで左手のみそのまま回転させ右手の上に来たあたりでその手を止める。
「変身!」
その掛け声とともにポーズをとき金属製のパーツを元の位置に戻す。スフィアにパーツが重なり地球儀の形を作り、さらに絵柄が分割されることによって仮面ライダーの顔を描く。
『CHANGE THE RIDER!!』
全身が緑色の球状のエネルギーにつつみ込まれ首から下が強化スーツに包まれる。スーツがすべて展開されると最後にエネルギーが収縮し頭にヘルメットを形成する。
「キシ!?なんだお前は!?」
「喋った!?」
突然喋りだした蜘蛛男ーーースパイダーノーネイムに驚きつつも名乗りの体勢を整える。
緑色のシックスパック上のアーマーに膝と肘までに黒い三角型の模様に残りの面は銀色で彩られている。顔は赤い複眼に一対の触角にクラッシャーのオーソドックスな仮面ライダースタイル。
「俺の名は、仮面ライダー!そう名乗らせてもらう!」
自らを指さしながら優二ーー仮面ライダーはそう名乗りを上げる。それを聞いたスパイダーノーネイムは目に見えて狼狽えた様子を見せる。
「仮面ライダー…?なんだか知らんが嫌な響きだ…ここで死んでもらうぞ!」
(もう普通に喋るなあいつ)
「キシ!」
「うわ!」
独特の鳴き声とともにスパイダーが口から糸を放ってくるのを紙一重でよける。避けた糸はそのまま一直線に伸び柱にくっつく。
「キシシ!」
「ぐおっ!」
スパイダーはそのまま急速に糸を巻き上げ柱に向かって突撃し進行上のライダーを巻き込んで柱を粉砕する。ライダーはそのまま吹っ飛び地面を勢いよくバウンドする。
「くそ!このやろ…!?」
身体に走る痛みをこらえながら体勢を整え顔を上げるとスパイダーが何処にもいなくなっている。
「あいつ何処に「キシャー!」!?」
辺りを見回していると奇声を上げながら天井からスパイダーが落下してくる。そのまま組み付きライダーの首筋に思いっきりかみつく。
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
鋭い牙が食い込む思わず声を上げる。激痛に耐えながら引きはがそうとするが異常な怪力を持つスパイダーは身体から離れる気配はない。何か打開策を探すために周りを見渡すと先ほどスパイダーが使ったような柱を発見する。少しの思案のあとでスパイダーの身体を思いっきり掴む。
「この野郎…!さっきのお返しだ!」
「シ!?」
ライダーはスパイダーを掴んだまま柱に向かって全速力で走り出す。目論見に気づいたのか今度は逆にスパイダーが離れようとするが全力で掴んで逃さない。
「おらぁぁぁぁぁぁ!!」
「ギ!」
そして思いっきりぶつかると轟音とともに柱にいくつものヒビが入る。しかし、スパイダーのように柱ごと粉砕するつもりだったライダーは思ったより威力が出なかったことに納得いかず少し考えたあとスパイダーを柱から離したあとその場で掴んだまま回転する。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「キシャァァァァァァ!!!!!」
全身を襲う浮遊感が不快なのか叫び続けるスパイダーを無視しながらライダーは全力で回転を続け最大速度に達すると柱に向かってスパイダーを投げつけると今度こそ柱を粉砕しそのままの勢いで奥に駐車されていた車にスパイダーがめり込む。
「よしっ!この調子…で…」
「キ…シ……!」
想定以上の威力に勢いを感じこのまま一気呵成に攻め込もうとするもスパイダーが自分をぶつけられた車を両手で持ち上げ始め思わず踏みとどまる。
「お、おい!ちょっ待っ」
「キシャァァァァァァァ!!」
予想外の行動に戸惑っていると思いっきり車を投げ飛ばしてくる。それを受け止めようとするも受けきれず車ごと壁にめり込む。
「お…ご…!」
身体が鉄の塊で潰され中身が口から飛び出してくるのではないかと言う吐き気に襲われる。何とか脱出しようにも片腕が車と壁に挟まれ片手だけでは車を動かせない。
「キシャシャシャシャ!」
壁にめり込んだライダーを目に気を良くしながら別の車に糸を伸ばす。そしてライダーにむけて8つの目で笑みを浮かべる。
「キーシャァァァァァ!!!!」
糸をつけた車を思いっきりライダーの方向にむけて投げる。ライダーも何とか抜け出そうとするも間に合わず車同士がぶつかり大爆発を引き起こす。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!」
大爆発に巻き込まれその場に倒れ伏す。爆炎に包まれ辺りも火の海になりながらうめき声を上げるしか出来ない。
(まずい…立てない…!このままじゃ…)
今トドメを刺しに来られたら迎撃出来ない。一刻も早く立ち上がろうと何とか力を込めるも中々立ち上がれず焦っていると違和感に気づく。
(なんだ…?来ないぞ…?)
絶好のチャンスのはずが近づいてこないスパイダーを不審に思うと炎から距離を取ろうと後退りをしているのを見つける。
(そうか…!火が苦手なんだな。虫だし当たり前か。)
とにかくこれで息を整え思考する時間は稼げる。現状変身して身体能力ははるかに向上したがここまでの戦闘を振り返るにそれでもスパイダーの方が上回っている。このまま戦闘を続けても勝ち目はないだろう。
(スペックは大体わかった。必殺技を出す方法も…何となくわかる。何とか隙を見つけて打ち込むのが現状一番の勝ち筋だろうけど…)
その方法が問題だ。スペックで上回る相手をどう対処するか。このライダーにまだ使えていない能力などがないかスーツを確認してみる。
(この腕輪…)
最初に変身した時には気づかなかったが腕にブレスレットが付いている。見たところスフィアをはめることが可能なようだがどういったことが出来るか分からない。
(何か起こる可能性もあるけど…ジオウみたいにただのホルスターだったら隙晒して終わるだけだぞ…)
正直下手にミスってもう一度大きな一撃を食らえば耐えられる気はしない。もう少し確実性の高い方法を取りたいが、周りの火が収まり始めてきた。
「キシシシ」
「…なんだ、このくらいなら入っても大丈夫ってか?」
ゆっくり近づいてくるスパイダーに対してこちらも立ち上がる。こうなれば一か八かでやってみるしかない。
「覚悟しろよ…お前も!俺もな!」
腕のブレスレットに手渡された自分の本当の想いを込めろと言われたスフィアをはめる。まだ何の能力も形作られていないが、そのなかにはこれから変化するための純粋なエネルギーが込められている。ブレスレットにハメられたスフィアを回転させるとスフィアと同じ灰色のエネルギーが身体に迸り力が湧いてくる。
「…賭けには勝ったらしい。」
「キシ!?」
力が高ぶったことを確認すると向上した身体能力を使って一気に距離を詰める。スピードの変化に戸惑うスパイダーを掴みそのまま屋外駐車場に飛び出しスパイダーを地面に投げつける。
「ギシャ!?」
スパイダーが悲鳴を上げるが内心ライダーも焦りを浮かべる。向上した能力、それがたいして長続きしないことを感じた。相手が慣れる前に決めるしかない。そう決めるとベルトの地球儀の弓部分をずらしスフィアのスイッチを押したあと回転させ弓を元に戻す。
『FINISH THE RIDER!!』
ベルトから電子音がなり全身にさらなる緑色のエネルギーが纏われる。それを見た蜘蛛男は周辺の車を片っ端から糸でライダーにむけて投げつける。それに対しライダーは空中で跳び蹴りの体勢を取る。
「ライダー!!キィック!!」
ライダーがその口から伝統の必殺技の名を叫ぶ。その瞬間ライダーが急加速し投げつけられた車の間を通り抜けスパイダーに蹴りが直撃しそのまま反対方向にお互い吹っ飛ぶ。だがライダーは空中で一回転し着地したのに対しスパイダーは背中から地面に墜落してそのままズルズルと滑っていく。
「ギ、ギギギ、ライ、ダー…」
何とか立ち上がるも身体のあちこちから火花が出血のように吹き出している。その姿をライダーは確認もせず既に背中を向け歩き始めているが自分も既にそこを迎撃出来ないことをスパイダーは理解していた。その胸に何か知らないものが込み上げてくる。
「キシ、キシシシシシ、始まる、俺から、蜘蛛男から、すべてが、キシシシシシシシシ!!!!!」
大きな笑い声に気づいたのかライダーが振り返るが関係ない。この想いが何なのかは分からない。ただの予感だ。だが笑いが止まらないこれから始まる、悪意に満ちた物語に。
「キシャァァァァァァァ!!!」
断末魔をあげスパイダーノーネイム、蜘蛛男が爆発する。それを見たライダーはショッピングモールに戻ろうと歩き出す。誰が通報したのか辺りにはサイレンが鳴り響いていた。
ーーーーーーー
「はい、おっきな…2足歩行の蜘蛛みたいなのが襲ってきて…それがみんなを…」
「…にわかには信じられない話だが…こんな状況で君が嘘をつくとも思えないしな…どうしたもんか…」
一歌は通報してよんだ警察官たちの一人、新一の兄に話を聞かれていた。通報により駆けつけた彼が弟の幼なじみである自分の存在に気づき話を聞きに来たのだ。
「あ、あの!新一は…?」
「あぁ、怪我は入院が必要だが命に別状はないよ。高校入学には間に合うだろ」
「よかった…」
ひとまず胸を撫で下ろす。その様子を見た警察官は口を開く。
「まぁ、今日のところはこれで十分だ。ほかの被害者からも話を聞いて…監視カメラの映像とかを調べることになるだろうし。送ろうか?」
「い、いえ!大丈夫です!その…ほかの友達も来てるので…」
「そうか。何かあったらすぐ通報するんだよ。」
そのまま警察官は一歌に背中を向けほかの警察官の元に合流していく。
「おーい!一歌!」
「優二!」
大きな声に振り向くと変身を解いた優二が手を振りながら走ってきていた。それに一歌も駆け寄る。
「大丈夫!?ケガしてない!?」
「驚くべきことにしてない。全身痛いけど…」
「骨とか折れてるんじゃ…救急車来てるから乗せてもらおう!」
「あー!大丈夫大丈夫!!そんなレベルじゃないから!」
「でも…」
心配する一歌を何とか説得する。一歌も折れたのか別の話題をきり出す。
「ねぇ、あの時優二が変わってたのって…」
「あぁ、あれな…」
そう言いながらライドスフィアを取り出し眺める。
「俺、仮面ライダーになれたみたい。」
ーーーーーーー
とあるアパートの一室。段ボールが散乱しているおそらくは荷解き中の部屋で金髪の青年がスマホをいじっていた。
「えー!サイレンの音すごいと思ったら近所のモールで大事件起きてんじゃん!怪物騒ぎってなに!?」
荷解きにも飽きてたし見物にでもいけば良かったかも知れない。そんな不謹慎なことを思いながら段ボールの中を漁る。そんな中1枚の写真立てが出てくる。
「お、これは目に入る位置に飾らなきゃな。えーとここでいいか。」
適当な位置に写真立てを飾る。そして改めて写真立てに入った写真を見て笑みを浮かべる。
「へへっ、アイツラどんな顔するかな。約束を果たしに来たぜ〜」
そういって荷解きに戻る。その写真立ての中には優二と一歌、新一を含めた八人の幼い子どもたちが写っていた。
設定
仮面ライダービギンズ ライダーセレクト
ライダースフィアで変身した姿。特出したスペックがなく全体的に能力値も低い。左腕のライドコンバーターはライドスフィアをはめ込むことでスフィア内の力を引き出すがこれ自体はライダースフィアを起動すればどの姿でも使える
スパイダーノーネイム
蜘蛛のような怪人。女性を餌とするため多く集まりそうなショッピングモールに現れた。男性にたいしては危害を加えるが動かなくなれば生死はこだわらない。倉庫内の食品を漁るも満足できず生きものを襲うことにした。
糸と腕力、牙を戦闘に使うがそれとは別に小規模な瞬間移動能力をもち、倉庫で職員の後ろに回り込んだときや新一たちのいる駐車場に現れた時に使ったが戦闘で発揮できるほどの能力ではなかった。
次回予告
「ついに入学式か〜」
「久しぶりだな優二!!」
「全然覚えてない…」
「セカイにようこそ、一歌」
『第二話 駆け抜けろライダー』
「ライダーと言えばこれだよなぁ!」