プロジェクトセカイ feat  仮面ライダー   作:ミッツー116

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 終わりが見えてくると毎回ペース配分に迷います。脚本家って凄い。


第五話

 

 

 青空がピエロノーネイムを倒した翌日、司は学校の玄関にいた。先日決意した再びワンダーステージの仲間達とショーを行うという目的のために今日からメンバー達への謝罪まわりだ。

 大怪我をした青空の覚悟に報いるためにも絶対に成功させようと意気込みながら自身の教室の扉を開ける。

 

 

 「あ、司くん!おはようございます!!」

 「……」

 

 

 絆創膏や包帯を巻いた青空が元気よく朝の挨拶をしてくる。昨日あったことなどすべて忘れたと言わんばかりのその様子に司は学校中に響き渡る声量で叫ぶ。

 

 

 「どうしてここにいるんだぁぁぁ!!?」

 

 

 第5話 「魅惑の眼」

 

 

 「昨日家族の人と病院に行ったのではなかったのか!どう見ても入院が必要なレベルだろうが!!」

 「い、いや〜。そこまで深い怪我では無いんですよ、本当に」

 「そんなわけがあるか!!」

 

 

 青空の身を案じて声を荒げる司に困ったような顔をして応対する。もう昼休みになったのに朝からずっとこの調子だ。確かに全身治療のあとだらけだが動くのに支障も無い以上自分としてはベットでジッとしている方が辛いので勘弁してもらいたい。

 

 

 「と、とにかく!昼休みになったんだから皆のところに行きましょう!善は急げですよ!」

 「あ、コラ!……たくっ、もうしょうがないか」

 

 

 教室をさっさと出ていってしまう青空にどれだけ説得しても無駄と悟ったのか司も黙って後を追いかけることにする。

 あぁなってしまってはこちらの言う事など聞かないだろう、それに早く皆に謝らなければ行けないことも事実だ。もう一度ワンダーステージを復活させるために何としても成功させなければならない。

 

 

 「お断りするよ」

 「んなあぁぁぁ!!」

 

 

 教室に入るとすでに青空と類が会話している。結果まで一目で分かるオーバーリアクションで説明を受ける手間が省けて便利である。

 身を捩りながら絶叫する青空はこちらに気付くと手を振ってくる。

 

 

 「司く〜ん!類くんが許してくれませ〜ん!」

 「別に青空くんに怒っているわけではないけどね。しかし…1人で謝りにも来れないのかな君は」

 「……あぁ、そうだな」

 

 

 冷めた目でこちらを見つめてくる類に改めて自分が彼をどれだけ失望させたかを実感しながら近づく。

 類の前まで来ると司は勢いよく頭を下げる。

 

 

 「済まなかった!!」

 「…何がだい?」

 「全てだ。お前の言う通り俺には仲間を思いやる気持ちが足りなかった、ショーを自分自身の目的のために利用してオマエ達の存在の大切さも分かっていなかった。だが今は違う!!」

 

 

 顔を上げると類の目を見つめながらハッキリと伝える。

 

 

 「心の底から誰かの笑顔の為のショーをやりたいと思っている!そしてそのためにはお前の力が必要なんだ!類、もう一度俺とショーをやってくれ!!」

 「……」

 

 

 司の言葉に答えることなく背を向けると類は教室から去っていく。

 

 

 「類くん!」

 「悪いけど、口では何とでも言えるよ。一度失った信頼はそう簡単に取り戻せない、次からの教訓にするんだね」

 

 

 類の言葉に何も言えず司は固まる。その様子に青空は頭を悩ませるも1つの結論を出す。

 

 

 「寧々ちゃんからいきましょう」

 「え?」

 「類くんが怒ってるのに寧々ちゃんを傷つけた事絶対入ってますって。だからまずは寧々ちゃんと仲直りしましょう」

 

 

 少なくとも現状よりは確率が上がるであろう作戦を青空は提案する。しかしその考えを聞いた司の表情は微妙だ。

 

 

 「打算で謝るのか…?」

 「本気なら仲直りするためにどんなことでもやるでしょう!ほら、行きますよ!」

 「あ!だから勝手に行くな!」

 

 

 司の静止を聞かずに教室を出ようとしていく青空を急いで追いかけると突然青空が停止勢いよくその後頭部に鼻をぶつける。

 激痛に悶えていると青空が振り返る、なぜあちらはダメージがないのか。

 

 

 「寧々ちゃんの教室知ってます?」

 「なら先に行くな…まったく」

 

 

 鼻を抑えながら教室から出る。幸い先日寧々の教室は知ることが出来た、階段を降り1年の教室が並ぶ廊下を歩くと扉から中を覗く。

 

 

 「さて、寧々は何処に…」

 「寧々ちゃーん!!いますかー!!?」

 「うるさっ!」

 

 

 普段の自分の声量を棚に上げて青空の大声に驚いていると寧々がこちらに気付く。

 

 

 「そ、青空…?病院に居なくていいの…?」

 「同感だ」

 「あ〜、もうその話終わったんで」

 「終わってないわ」

 

 

 司としては今すぐにでも入院してもらいたい気持ちは変わらないのだが今は置いておく。一番にやるべきことは寧々への謝罪なのだ。

 

 

 「寧々…済まなかった!感情に任せて言ってはならない事を言ってしまった!お前にどう思われても仕方ない…だが!どうかもう一度俺とショーをしてほしい!皆を笑顔にする最高のショーをするにはお前の力が必要なんだ!」

 「私からもお願いします!!」

 「……」

 

 

 勢いよく頭を下げる2人に寧々は黙って考え込む。しばらくそうしていたが何かを決めたのか不安気に口を開く。

 

 

 「私も…話さないといけないことがあるから…聞いてくれる?」

 「話さないといけないこと?」

 「うん…場所だけ変えていい?」

 「まぁ人だらけですしね」

 

 

 ここまでの会話だけでも相当クラスメイトからの視線が集まっている。今からさらに大事な話をするのなら人の少ない場所でやるべきだろう。

 何処でするか頭を悩ませていると司が携帯を取り出す。

 

 

 「間違いなく外部に漏れないとなると1つだろうな」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 空を浮きながら移動するぬいぐるみ達、辺りから聞こえてくる賑やかな音楽に満天の星空が広がる不思議な場所。

 司の想いから出来たワンダーランドのセカイに入ってきた司達はベンチを見つけると横並びで座る。

 

 

 「ここいつ来ても賑やかだよね」

 「司くんがこういうの好きなんでしょうね」

 「まぁ静かなよりはな…」

 

 

 青空の言葉を肯定するが若干微妙な表情になってしまう。遊園地は嫌いな訳では無いがこの年になって自分の想いでここまで無邪気な空間が出来上がるというのは何だか照れくさい。

 司が赤らんだ頬を掻いていると寧々が口を開く。

 

 

 「…それじゃあ、話すね」

 「大丈夫か?あぁは言ったが無理しなくても」

 「いや、いい。話さないといけないことだから…このことを隠して、私にはステージに立つ資格はないから…」

 

 

 少し顔色の悪い寧々を司が気遣うも決意は硬いようだ。少し息を整えると意を決して話し出す。

 

 

 「私、中学の頃おっきな劇団のジュニアクラスに入ってたんだ。毎日毎日練習して…大変だけど楽しくって、ある日主役を演じられることになったの」

 

 

 あの時は嬉しかった。少しでもよく演じられるよう来る日も来る日も練習に励み、ステージで皆を笑顔に出来るショーをする事を夢見ていた。

 しかし、実際にステージにたったあの日の自分の姿は夢見た自分の姿からかけ離れたものだった。

 

 

 「ステージの見せ場で頭が真っ白になって…セリフが出てこなくなって…ショーをめちゃくちゃにしちゃったの。皆の頑張りも無駄にしちゃって、それから人前だと上手く話せなくて…ステージにも上がれなくなって…」

 

 

 口を開こうとすると蘇るあの日の記憶。それは寧々にショーに上がるどころか日常の交流にすら支障をきたすレベルの傷を残した。

 それでも諦められずにいたところに類がネネロボを持ってショーに誘ってきてくれた。

 

 

 「ネネロボ越しにやる久しぶりのショー、とっても楽しかったけど…また駄目にしちゃった。きっとこれからまたショーをしようとしてもまた迷惑かけちゃう…だから…」

 「寧々ちゃん…」

 

 

 声を震わせる寧々の痛ましい姿に思わず青空が声をかけようとする。しかし、それよりも早く司が口を開く。

 

 

 「『絶対に失敗しない方法がある』」

 「え?」

 「『何にも挑戦しなければいい、そうすれば一生失敗することはないだろう』!俺の尊敬するスターの言葉だ」

 

 

 絶えず挑戦し続ける物に失敗は避けられない、しかしそれを恥じる必要も忌避する必要もない。前に向かって新たな道を模索した証なのだから。

 自分自身も何度も救われ、信条としてきた言葉のはずなのに忘れていた。だからこそ今この場で再び胸に刻む。

 

 

 「お前は過去のトラウマを乗り越え挑戦しようとしていた、その結果がたとえ失敗だとしても自分を責める必要もないし、俺も責めてはいけなかった。すまなかった…」

 「そんなこと…!司も皆も必死だったんだし…!悪いのは私で…」

 「いや!そんなことはない!だがやはり…」

 

 

 自分を責めようとする寧々を制止しながらそれでも司にも譲れない一点がある。どれほどトラウマがあり、ステージへの恐怖もあるとしてもどうしても譲れない。

 

 

 「俺たちが最高のショーをするのにお前が必要なのは絶対だ!!頼む、辛く苦しい想いをするかも知れないが…もう一度俺たちとショーをしてくれ!!」

 「…!!」

 

 

 変わらず自分の力を求める司の言葉。それに寧々は驚いたような表情を浮かべると涙を浮かべながら口を開く。

 

 

 「いいの…?こんな話を聞いて…それでも私を仲間にしてくれるの…?」

 「あぁ、もちろんだ!!」

 「一緒にやりましょう!!」

 

 

 笑顔で応えてくれる2人の姿に涙を拭うも次々に溢れてくる。胸の中に沸き上がってくるものを抑えることができない。

 どれだけ失敗しても捨てきれずにいたショーへの想い、それが口をこじ開けてくる。

 

 

 「私も…やりたい…!!皆でショー…だから、よろしくお願いします!」

 「……!あぁ、勿論だ!」

 「やったー!!」

 

 

 寧々の返事に声を上げて喜ぶ。これでショーの再開に向けて一歩前進した。

 この調子で他のメンバーとも仲直りしてみせると心の中で誓うと携帯のアラームが鳴る。

 

 

 「ん?何の音だ」

 「あぁ、ここじゃチャイムが聞こえないんで時間が分かるようにアラームかけたんです」

 「なるほどね。それで、何分前に設定したの?」

 「丁度ですけど…」

 「意味無いだろバカ!!」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 放課後 宮益坂学園からの帰り道

 

 

 「お兄ちゃん!寧々ちゃんまたショーやってくれるって!」

 「……」

 

 

 司達からの知らせを受けたえむが嬉しそうに神楽に報告する。神楽自身も自身の携帯を確認し、その言葉が事実であることを確かめるも表情は優れない。

 えむがまだ知らない真実、それを伝える役目が自分にはある。

 

 

 「えむ…残念だけど、もうショーは出来ない」

 「え…?」

 「ワンダーステージは取り壊しが決まったんだ」

 

 

 苦々しい表情で発された神楽の発言にえむは信じられないような表情をすると勢いよく詰め寄る。

 

 

 「ど、どうして!?今度の連休まで待ってくれるって約束だったのに!!」

 「…現状維持ならね。今回僕たちはステージに失敗した、つまりマイナスイメージをパークに着けてしまったんだ。その事を経営陣は重く見てる」

 

 

 実際には体のいい理由として利用されただけだろうがエムには言わない。真実を教えれば食い下がる可能性が高まってしまう、何とか納得させるのが与えられた役割なのだ。

 出来ればこれで諦めてもらいたいがその願いは届かずえむは叫ぶ。

 

 

 「まだ…まだだもん!もう一回ショーやらせて!今度はきっと成功するから…そしたらまた前みたいに…」

 「…えむ、もうワンダーステージは」

 

 

 悲痛な叫びを上げるえむに心を痛めるもどうすることもできない。祖父の残したワンダーステージは彼女の心の大事な拠り所となっている。

 自分とは似て非なる想いを抱えた妹にどうにかして諦めてもらうため口を開こうとしたとき、突然悲鳴が響く。

 

 

 「きゃあー!!」

 「っ!?何だ!?」

 

 

 突然の悲鳴に驚きながらも声の聞こえた方向に向けて走り出す。角を抜け下り坂を下がると黒い長髪の女性が羽根の生えた怪人に襲われている。

 

 

 「変身!!」

 『LETS ACTIVE MACH!!』

 

 

 仮面ライダーマッハの力を宿すと白い残光を残しながら高速で移動し怪人を殴り飛ばす。

 襲われていた女性を後ろに庇いながら怪人の姿をよく観察する。鳥の鉤爪のようになっている両足、エメラルド色の羽根と一体になった強靭な両腕、何よりイグニスが気になるのはその胸部と顔。

 今まで犬や岩、ピエロのマスクといった異形だったのがショートヘアの女性のようになっており胸にも確かな膨らみがある。

 

 

 「そんなに可愛いのに喧嘩なんてよしなよ、2人とも自分が相手してあげるからさ」

 

 

 イグニスの軽口への返事代わりと言わんばかりに怪人、ハーピィノーネイムは飛び上がると突撃を繰り出してくる。

 迎撃しようと銃弾を放つも当たらずギリギリで身を捩って突進を躱すと再び狙うも空高く上がられ諦める。

 

 

 「逃げる子を追いかけるのは趣味じゃないんだけど、しょうがないよね」

 『シグナル交換!カクサーン!』

 

 

 空に上がったハーピィに向かい弾丸を放つと拡散させる。しかしそのどれも当たることはなく、空中から羽根を羽ばたかせると風の斬撃を飛ばしてくる。

 シグナルをマッハに戻して女性を抱えながら物陰に隠れると状況を分析する。

 拡散のタイミングもこちら次第で回避に移れる時間もほとんどない位置を選んでいるつもりだがこの方法では中々厳しそうだ。だが問題はない、手段なら他にもあるのだ。

 イグニスは懐から黄色のスフィアを取り出すと起動させる。

 

 

 『ライブ!!』

 『Eeny・Meeny・Miny・Moe Eeny・Meeny・Miny・Moe』

 

 

 取り出したスフィアをベルトに装填するとカーテンに包まれる。

巨大な腕の指先に巨大な光る蝙蝠が止まると大きな翼でイグニスを覆う。

 大きな光と共にイグニスの姿が変わる。カウボーイを意識していた服装が西洋の貴族のような高貴さを感じさせる白い物に代わり帽子も同色のハットになった天からの使いのような姿。

 仮面ライダーイグニス、ライブセレクトに変身すると蝙蝠の羽根を広げ空に飛び上がる。

 

 

 『LETS ACTIVE LIVE!!』

 「さて、ハグでもしようか!!」

 

 

 空のハーピィと同じ高さまで上がると銃弾を発射する。距離が縮まれば当然当てやすくはなるが先ほど見せた回避力から考えれば躱されるだろう。

 しかし狙いはそこではない。イグニスの放った弾丸をハーピィは器用に回避する、しかし今や2人の条件は同じ。つまり余計な動きをしたほうが不利なのだ。

 回避のために意識を割いた一瞬の隙に距離を詰めるとハーピィを羽交い締めにし地面に向けて急降下する。

 

 

 「さぁてアスファルトのベットは好きかなっ…!?」

 

 

 このまま地面に叩きつけようと勢いを強めたとき、背中に衝撃が走る。不意の一撃に身体から力が抜けハーピィを離してしまうと地面に向かって蹴りで叩き落とされる。

 

 

 「ぐっ…!?」

 

 

 突然起きた異変に戸惑う。背中に謎の衝撃が走ったが痛みのようなものはなかった、にもかかわらず身体から力が抜けてしまったのだ。

 毒などを疑っていると後ろから肩を叩かれ振り返る。そこには物陰に逃がしたはずの黒髪の女性が手を後ろに回しながら微笑んでいる。

 

 

 「え、いや…危ない、んで…」

 

 

 戸惑いながら応対する。しかし美しい女性だ。流れるような黒髪は光を飲み込むかのように自分の目線も吸い込む。その身に包んだゴスロリ風の衣装も普通の女性では悪目立ちしそうな物だが彼女が着ればまるで物語の登場人物が飛び出してきたかのような印象を受け一切不自然さを感じない。

 美しいラインの鼻筋や女性らしい潤いと柔らかさを感じさせる唇、そして何より怪しく紫色の光を纏った両目を見ていると頭の中が彼女で埋め尽くされてしまう。

 

 

 「お兄ちゃん…?」

 「あら、貴方もいたのね」

 

 

 えむの存在に気付くもそのままイグニスに向かい指先を這わせる。それだけで身体をビクリと震わせると自然と変身を解除してしまう。

 虚ろな目であまりにも無防備な姿を晒す横にハーピィも着地するも膝を着いて動こうとしない。

 怪人を使役する謎の女、夜は不敵な笑みを浮かべると神楽の頬を撫でる。

 

 

 「貴方には私の物になってもらうわ、あの女を苦しめるためにね。ついでに…あの子も使わせてもらうわ」

 「えっ…」

 

 

 夜の言葉にえむが驚いたのも束の間、ハーピィが再び舞い上がり視界を埋め尽くした。

 

 

ーーーーーーー

 

 

 一方、神山高校からの帰り道。大きく肩を落としながら歩く青空の横で司達も頭を抱えていた。

 

 

 「まさか類もジェルもいないとは…」

 「類は午後からサボり、私を誘って類に会いに行っている間にジェルも帰っちゃうなんてね」

 「どうしましょう〜…」

 

 

 学校にいないとなると何処に探しにいけばいいのかまるで心当たりがない。寧々も特に居そうな場所は分からないらしく手詰まりだ。 

 以前のようにフェニックスワンダーランドでショーをしているようなこともないだろうしどうすれば良いのか。頭を悩ませていると何やら人混みが出来ているのを発見する。

 

 

 「ん…?やけに騒がしいな」

 「ここって…ゲームセンター?」

 

 

 何事かと覗くと店の前よりもむしろ中の何かの筐体に人が集まっているようだ。気になって中に入る人間と出てきた人間に話を聞いている人物のせいで入り口にも人が集まっているらしい。

 

 

 「中で類くんがショーをしている可能性…とかはないですかね」

 「無い…とは思うが」

 

 

 常識から外れた行動をすることも多い類のことだ、何か自分なりの理由さえあれば何処であろうとショーをするだろう。どうせ今は何の手掛かりもないのだ、試しに入ってようと人混みを掻き分け3人で筐体に向かう。

 

 

 「この方向…格ゲーのエリアだ…!」

 「あぁ、あのゲームセンターに絶対ある幾つも並んでるとこ…そんなとこでさすがにしないですかね…!」

 「だがここまで人混みを掻き分けたのだ…!確認するぞ!」

 

 

 圧迫感に耐えながらついにたどり着く。そこには向かい合うように設置された格ゲーの筐体、どうやら対面に座った相手と対戦するシステムらしい。

 司と青空は詳しくないため周りの人間の話に聞き耳を立てる。

 

 

 「おいおいマジかよ…あんなデカいやつを華奢な女の子が…!」

 「とんでもねぇ腕前だぜ…何もんだあの子…?」

 「へっ、知らねえのか?ここらで女王の事を知らねぇようじゃとんだモグリゲーマーだと思われるぜ」

 

 

 何やら有名な人物が対戦しているらしい。それだけでここまで人混みが出来るものなのかと対戦している2人に視線を移す。

 まずは話を聞くに負けている方の男、スキンヘッドのタンクトップにジーンズを履いた筋骨隆々とした姿。こいつ自身が格闘ゲームのキャラクターなのではないかと思うほどの大男が身体に見合わない小さいコントローラーを素早く操作する。

 素人目に見てもやり込んでいるであろうことがわかる動きだがその額には脂汗が吹き出しており彼の焦りが伺える。

 

 

 「く、くそっ!この俺がこんなチビに!」

 

 

 男が操作している武道家のキャラクターが素早いコンボ攻撃を繰り出すも全て弾かれ、その度に対戦相手が使う着ぐるみのようなキャラクターから青い波動のような物がでる。

 

 

 「凄い、全部ジャスガしてる」

 「ジャ、ジャズ…?何て言いました?」

 「ジャストガードの略。タイミングよくガードすればガードゲージを減らさずガードが出来るの、コンボ全部に決めるのはそこそこ難しいから普通は初撃防いでカウンターに使うんだけどわざわざ全部防いでるから相当舐められてる」

 「詳しいな…」

 

 

 寧々の解説通り相当な実力差があるのか男の攻撃は全て弾かれている。しかし体力ゲージは両者とも満タン、これならまだ勝負は分からないのではないのだろうかと司が考えていると体力の下のゲージが光る。

 

 

 「溜まった!」

 「来るぞ女王のコンボが!」

 「な、何だ。やけに盛り上がり始めて…」

 

 

 沸き立ち始めた周りに司が戸惑うとここまで防御しかしていなかった着ぐるみが格闘家に向けて攻撃を当てると打ち上げる。

 空中に上がった格闘家に向けて着ぐるみもジャンプすると回転しながらの連撃の後地面へ叩きつけ下段攻撃でコンボを繋げながら素早く着地、体力が半分になったところで溜めたゲージを全て使うとキャラクターが特別なポーズを決め飛びかかり豪華ムービー付きの必殺技が流れ一気に残りの体力を削り切る。

 

 

 『PERFECT KNOCK OUT!!』

 「ば、バカな…また…」

 「な、何なんだ一体…」

 「ふ、教えてやろう若者よ。あのお方こそ数年前突如この街に現れた新星」

 「可愛いだけの素人と狩られながらもゲーセン通いを続けこの街の覇者へと成り上がった気高きお方」

 

 

 発言からして連続で同じやられ方をし続けてきたであろう大男が地面に倒れる。自分の常識から離れた光景に司が戸惑っていると周りにいた事情通らしきチェック柄の服をきた二人組が自慢気に話し出す。

 その内容を聞いていると女王と呼ばれた女性が立ち上がったことで筐体から顔をだし顔が見える。

 キラキラと輝く美しい銀髪、日本人以外の血を感じさせる顔立ち、そして雄々しくライオンが描かれ「百獣の王です」と書かれたシャツをきている。

 女性は立ち上がると腕を掲げ大きく叫ぶ。

 

 

 「シャアオラァ!」

 「バロン・オブ・クイーン!!ジェル!!」

 「何をやってるんだぁぁ!!」

 「へ?」

 

 

 大声を上げた司の存在に気づいたバロン・オブ・クイーン、またの名を聖ジェルは大歓声を受けながら顔を赤く染め上げていく。

 

 

 「きゃあぁぁ!!?」

 「まぁ叫ぶよね、こんなこと」

 

 

 数分後ーー

 

 

 「それで、何しに来たの?天馬先輩」

 「うぐっ…距離を感じる呼び方だ…」

 「よくその態度になれますねジェルちゃん、あんなところ見られて」

 「突っ込まないであげて」

 

 

 冷静さを取り戻したジェルは冷たい目で司を見つめる。先程までの熱気に支配されていた空間との温度差で風邪を引いてしまいそうだ。

 ショーを一緒にしていた頃の明るい笑顔はすっかり消えてしまったことに傷つくも気を取り直して司はジェルと向き合う。あの時のように接してもらいたいならやる事は1つだ。

 意を決して口を開こうとした時、青空のワンダーテレフォンがなる。

 

 

 『POST!!POST!!』

 「うわぁ!?聞いたことない音!?」

 「メールの音だよ」

 「ビックリしました…いったい誰が…!?」

 

 

 送られてきたメールを確認して唖然とする。えむのワンダーテレフォンから送られてきたそれにはえむ自身が鳥かごのような檻に囚われている写真が写っている。

 

 

 「青空?どうした?」

 「っ!いえ、その…」

 

 

 司に声をかけられ咄嗟に画面を隠す。メッセージには何処かの住所が入っていた。そこがえむの囚われている場所だろう。

 すぐにでも伝えるべきかも知れないがその場合ジェルはどうするだろうか。えむが捕まっていると聞けばさすがに手伝ってくれるだろう、もしかしたらそのままショーにも出てくれるかもしれない。

 しかしなぁなぁで話を進めてまた今回のような事が起きれば今度は修復不可能かもしれない。しばらく考えると司のワンダーテレフォンにメッセージを送る。

 

 

 「司くん、私ちょっと用事出来たので席を外しますね。あとで合流したいので場所送ったんで!ジェルちゃんとの話が終わったら見てください!」

 「え、おい!」

 

 

 一方的に言葉を残すとその場を急いで去る。唐突に走っていった青空の背中を見送りながら司は呆気にとられるも諦める。

 青空が突拍子もない行動を取ること自体には慣れているのだ。今回は合流場所を送ってくれているだけマシな部類に入る。

 本人の言う通りジェルに集中しようと振り返ると勢いよく頭を下げる。

 

 

 「ジェル、すまなかった!」

 「……」

 「お前の言う通り、翡翠もお前も俺たち皆を守るために必死に戦ってきてくれていたのに…そんなお前たちを迷惑がるなど…到底許される行為ではなかった!すまない!」

 

 

 心の底からの謝罪の言葉、司にとってこれ以上伝えられることはない。想いが伝わることを祈りながら頭を下げ続けるもジェルは非情な現実を告げる。

 

 

 「自分からもう関わらないって言っておいて…どうせ口だけ謝ってるだけなんでしょ。言っとくけどそんなので許すつもりはないから」

 

 

 厳しい言葉に司は何も言い返すことはせずただ頭を下げ続ける。

 

 

 (当然だ…!それだけの事を言ってしまった…だが…!)

 

 

 諦める事は出来ない。もう一度全員でショーをやると決めたからには誰一人欠けさせるような真似はしない、そのためにはどれだけ蔑まれようとも頭を下げ続けるつもりだ。

 しかしジェルには響かないのかその場を去ろうとする。その時、その背中を寧々が引き留める。

 

 

 「待って…!」

 「…寧々ちゃん」

 「もう少しだけ、司の話を聞いて上げて欲しい」

 

 

 その言葉にジェルは眉をひそめると寧々の方に向き直る。その表情にはわずかな不満と寧々への疑問が伺えた。

 

 

 「寧々ちゃんは許せるの?あんなに責められたのに」

 「…確かに、司は皆に酷いことを言ったと思う。普段から自信家でウザいし、声も無駄に大きい」

 「い、今は関係ないだろう…」

 「黙って」

 

 

 ピシャリと静止され司は口を閉じる。黙ったのを確認すると再び寧々はジェルに話を続ける。

 

 

 「でも、ショーに向ける想いは本気だと思う。だからこそあんなに怒った。でも、だからこそ…」

 「だからこそ…?」

 

 

 寧々は少し息を整える。自分が言っていることが正しいのかもジェルに響くかもあまり自信ない。それでも伝わると信じて口を開く。

 

 

 「適当な考えでジェルに戻ってきて欲しいって言ってるわけじゃないと思う。本気でジェルが…皆のことが必要だって思ってる」

 「…それでも」

 

 

 寧々の言葉に多少思うところはあるが首を縦に振ることには躊躇がある。やはりどうしても許すことが出来ないのだろう。

 その姿にどうするべきか悩むとそばにある格闘ゲームの筐体が目に入る。

 

 

 「ジェル、私と対戦して」

 「対戦…?」

 「私が勝ったらもう一度私達とショーをして。そしたらきっと司の本気も伝わるはずだから」

 「……いいよ、でも」

 

 

 寧々の言葉を了承すると再び筐体に向き直る。その顔は無表情ながら確かな揺るぎない自信が見える。

 

 

 「この私に勝てるとは思えないけどね」

 「お、おい寧々…ほんとにやるのか…?どう考えてもジェルは凄腕だぞ…」

 「大丈夫」

 

 

 不安そうな司を横目に寧々も向かい側の筐体に座ると備え付けのレバーでは無く店に用意されている家庭用ゲーム機のコントローラーを接続する。

 

 

 「このゲーム、家庭版やり込んでるから」

 

 

 そう言うと淀みない動きでコントローラーを操作し美少女のキャラクターを選択する。ジェルの選んだ着ぐるみと睨み合いながら画面が切り替わるとゴングが鳴る。

 

 

 『Ready Fight!!』

 「勝負の厳しさを教えて上げるよ!」

 「…」

 

 

 開始と同時に勢いよく着ぐるみが掴みかかろうとするも払われる。その直後の隙に美少女の蹴りが顎に直撃すると空中に打ち上げられジャンプ攻撃からの連続コンボで下に叩き落とされる。

 起き上がると同時に壁際に追い詰められており逃げ場のない位置でガード不可の投げ技を繰り出されると再び吹き飛ばされ空中コンボで体力を削り切られる。

 

 

 『PERFECT KNOCK OUT!!』

 「か、勝った!」

 「まだ、このゲーム2ラウンド制だから」

 「ふ、ふふ?まぁまぁやるみたいだね?でも」

 

 

 第2ラウンドの火蓋が落ちると共に美少女が着ぐるみに飛びかかる。素早く放たれた連撃をガードするも先程のようにジャストガードする余裕はなくみるみるうちにガードゲージがなくなっていく。

 無くなると共に着ぐるみの体勢が大きく崩れると再び打ち上げられる。このゲームはガードゲージが無くなると受けるダメージが増大するシステムだ、先ほどよりも短いコンボで体力ゲージを削り切る。

 

 

 『PERFECT KNOCK OUT!!』

 「2ラウンド…つまり」

 「そ、これで私の勝ち」

 「……にせん」

 「ん?」

 

 

 あまりにも一方的に終わってしまった勝負に司が戸惑う中ジェルが小さく声を上げる。上手く聞き取れず思わず覗き込むように顔を向けると勢いよく立ち上がったジェルに驚き倒れ込む。

 

 

 「格ゲーの基本は2先だよねぇ!?」

 「のわぁ!?何だぁ!?2先ぃ!?」

 「別にいいけど」

 「何の話だぁ!解説してくれぇ!さっき集まってた人ー!!誰かいませんかー!」

 

 

 30分後ーー

 

 

 「負けました…」

 「いや、とうの昔に負けてはいたぞ」

 「さすがに疲れ…うわっ!?」

 

 

 連戦に次ぐ連戦でようやく諦めてくれたらしい。溜まった疲労を抜くために息を吐くといつの間にかまたギャラリーが集まっている。

 

 

 「何て女だ…女王を一方的に…」

 「新たな女王…いや、帝王の誕生ってわけか…!」

 「え、いや…変なあだ名はやめ…」

 「寧々ちゃん…君は今日から…」

 

 

 盛り上がり始めたギャラリーに嫌な予感を感じ始めていると地面に倒れ込んでいたジェルがゆっくり起き上がると寧々の片手を掴み振り上げる。

 

 

 「ニュー・エンペラー・ネネだ!!」

 「「うぉぉぉぉ!!!」」

 「い、いや……!やめ……!」

 「予想外の展開に着地したな…」

 

 

 ひとまずこれでショーに出てくれるということで良いのだろうか。話がまだ出来そうもない盛り上がりなのでひとまずこの後の青空との合流場所を確認しようとメッセージアプリを開くと目を見開く。

 

 

 「2人とも大変だ!えむがさらわれた!」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 「えむちゃん!無事ですか!」

 

 

 町外れの廃工場、指定されたその場所に着くと大きな声で叫ぶ。目を凝らすと中心に檻が設置されており中にえむが囚われている。

 その上にはハーピィノーネイムが停まっており急いで助け出そうとするとその檻の後ろから夜が現れる。

 

 

 「こないだぶりね、戴天青空」

 「…?誰ですか?」

 「あぁ、この姿で会うのは初めてだったわね。じゃあ…」

 

 

 夜は背中に手を回すとネライドライバーを取り出す。ゴスロリ衣装とは不釣り合いなそれを腰に巻いたその姿に青空が目の前の人物が何者かを察すると夜はスフィアを起動させる。

 

 

 『マジカル!!』

 

 

 ベルトにスフィアを装填すると銃口から泥が溢れ出す。それは意思を持っているかのように地面を這うと幾何学的な模様を描き魔法陣となる。

 全て出し切りのこったわずかな雫を指で掬い上げると顔を傾けそれを見つめながら唱える。

 

 

 「変身」

 

 

 魔法陣が妖しくケミカルな紫色に発光すると浮かび上がり、通り抜けた身体が変化していく。

 黒いアンダースーツに魔法使いの帽子をイメージしたヘルメット、女性的なくびれのある身体のライン、複眼は帽子で半分隠れているためよく見えないが口を模した端が上がったラインも相まり笑っているように見える。

 全身が変わると腕をかざし、その先に生み出した魔法陣から先端に宝石のついた巨大な杖を取り出す。

 

 

 「魅惑の誘惑、仮面ライダーヒュプノ。これならわかるでしょう?」

 「こないだ私を閉じ込めた人…仕返しに来たわけですね!」

 『セカイドライバー!!』

 

 

 ドライバーを取り出しすぐに変身しようとする。しかしヒュプノは杖を地面に刺してもたれかかるような体勢になると片手で青空を静止する。

 

 

 「あ~早まっちゃ駄目よ、あんたの相手は私じゃないから」

 「先に怪人に戦わせるつもりですか?良いですよどっちでも。ぶった切るだけです!!」

 「だからだ〜め、あなたの相手は…ホラ」

 

 

 逸る青空に笑いながらヒュプノはゆっくりと指を指す。苛立ちながらそちらを向くと見覚えのある影が歩いてくる。

 

 

 「彼がしてくれるわ。せいぜい痛めつけてもらいなさい」

 「あれって…!?」

 

 

 こちらに向かって歩いてくる人影が壊れた窓から差し込む光に照らされその姿を現す。

 用意された相手、鳳神楽はライブスフィアを取り出すと上下をひっくり返す。すると通常とは異なり上に向けられた底の部分にもスイッチが付いており押すと色が黄色から水色に変わる。

 

 

 『エビル!!』

 「変身…」

 

 

 真っ黒なカーテンに神楽の身体が包まれる。中では蝙蝠が大量に羽ばたいており羽音が響く。

 その大群を巨腕が握りつぶし1枚の布に変えると神楽に着せてその身を変化させる。

 

 

 『LETS ACTIVE EVIL!!』

 『バーサスアップ!Madness!Hopeless!Darkness!バット!仮面ライダーエビル!』

 「な、ちょ…!」

 

 

 

 襟の吊り上がったジャンパーのような装甲、水色に変化した瞳の色、頭のハットは黒いギャップに変化しており少し上にずらして被っている影響で角のようだ。

 高貴な印象を受けたライブセレクトとは違い何処にでも居そうな一般的な服を模した姿、しかしこれは親しみやすさのためではない。

 人を襲うために人に紛れる悪魔の発想が形になった姿、仮面ライダーイグニスエビルセレクトは手に持った専用アイテム、ツーサイドライバーの刃を青空に向かって振るう。

 

 

 「ちょちょちょ!どうしたんですか神楽くん!」

 「気をつけて!その人に操られてるの!」

 「嘘でしょ!?危なっ!」

 

 

 振るわれる刃を何とか躱しながら押さえ込むとえむの言葉に驚く。その隙にイグニスが剣を別の手に持ち替え放たれた突きを後ろに飛ぶことで回避する。

 

 

 「卑怯ですよ!恥ずかしくないんですかこんな真似!」

 「全然?ほら、危ないわよ」

 

 

 ヒュプノに抗議している間に振るわれた刃をスフィア越しに何とか受け止めようとするも変身している相手のパワーに敵わず腕を斬り裂かれる。

 このままでは本当にやられてしまうとスフィアを起動させ変身しようとするとハーピィが勢いよく檻を蹴る。

 

 

 「きゃあ!?」

 「えむちゃん!」

 「言っとくけど、あんまり生意気な真似したらこのお姫様がどうなっても知らないわよ?」

 「何処まで…!ッ!!」

 

 

 以前もそうだが自分は見ているだけで戦いに参戦しようとしてこない。それに加え今回は仲間を操り同士討ちを仕掛けてくる卑怯さに強い怒りも覚えるもどうすることも出来ない。

 振るわれる刃を何とかしようとせめてもの抵抗をする。

 

 

 『アルテマウェポン!』

 「うぐっ!」

 

 

 武器を取り出しイグニスの剣を受け止める。それだけで強い衝撃が両肩にのしかかり腕が取れてしまうのではないかと錯覚する。

 徐々に力を強めてくるイグニスに対し青空は叫ぶ。

 

 

 「神楽くん!こんな事してたらえむちゃんが悲しみますよ!」

 「ッ!」

 「早く正気に戻っ…ぐえっ!」

 

 

 神楽の意識を取り戻そうと必死に呼びかける。一瞬動揺が見えたことで効果があると確信し続けようとするも前蹴りで吹き飛ばされる。

 蹴り飛ばされた腹部への強い痛みと強烈な吐き気から思わずえずく。

 

 

 「オェッ…!オゴッ!オッ…」

 「勘違いしているみたいだけど、別に私は彼を洗脳しているわけじゃないのよ?」

 「ウォエッ…何を…ウプッ…」

 

 

 ヒュプノの発言の意味が分からず聞き返そとするも吐き気から上手く返せない。生身でライダーの攻撃を受け続けていることによるダメージが相当大きいようだ。

 その様子に仮面越しでも分かる喜びを見せながらヒュプノは解説を続ける。

 

 

 「私の力は感情の増幅。私は彼の中にあった隠された小さな感情を引き出してあげただけ、つまり今の行動は紛れもない彼の本心ってわけ」

 「そんなこと…ウッ!」

 

 

 ヒュプノの言葉を否定しようと立ち上がるるもイグニスに殴り飛ばされる。以前の泥人間達と同じように手加減を命じられているそれは致命的になることはないが確かな痛みを青空に与える。

 再び地面を転がるとスフィアを落としてしまい、近づいたヒュプノが拾い上げると煽るようにしゃがみ込む。

 

 

 「とんだ災難ね?信じていた仲間に傷つけられて、助けに来たお姫様を救う事もできない?絶望的でしょう?」

 「ッ!!」

 「おっと!危ない危ない」

 

 

 近づいてきたヒュプノからスフィアを取り返そうと手を伸ばすも躱される。荒い息を上げながら睨みつける青空に気分を良くしたヒュプノはそのまま手を踏みつける。

 

 

 「ぐぁぁぁ!!」

 「ほらほら、早く起きないと?それとも、こんな迷惑な2人を助ける気はなくなっちゃったかしら?」

 「め、迷惑…?」

 「あら、だってそうじゃない?」

 

 

 踏みつけていた足をどけるとえむの檻の元へと戻りもたれかかりながら青空に向かって話し続ける。

 

 

 「操られて襲いかかるその男もだけど、この子もこの子じゃない?あなた達を勝手にステージに招き入れてショーをさせて、その結果大勢の人間を傷つけた」

 「そ、それは…」

 

 

 ヒュプノの言葉にえむは思わず胸が詰まるような感覚になる。司は受け入れてくれたが皆を傷つけたことは確かにえむの中に深い傷跡を残している。

 それが分かっているのか意地の悪い笑みを浮かべながらあえて強調するように言葉を紡いでいく。

 

 

 「あなたが今そこで苦しんでいるのも…いいえ?仮面ライダーなんて事に巻き込まれているのもこの子が原因。あのステージにさえ来なければ普通に暮らせていたのに。本当、迷惑な存在よね」

 「……」

 

 

 えむの顔が俯き暗い表情になる。言われた通り、自分が誘わなければこんな事にはなっていなかったと後悔が胸を支配してしまう。

 その姿にヒュプノの頬が吊り上がる。いい調子だ、このまま口撃を続け忌々しいこの2人を完全に絶望させてみせよう。

 

 

 「あなた友達いなそうですね」

 「……は?」

 

 

 ここからの展開を想像し笑みを深めていたところに水を差される。状況に合わない罵倒に困惑しながらも平静を装いながら聞き返す。

 

 

 「どういう意味かしら?それは?」

 「だって友達がいればそんな事ないってすぐに分かりますし」

 

 

 今度は青空が笑みを浮かべながら喋り始める。その姿に思わずはらわたが煮えくり返りそうになりながらもヒュプノは話を聞き続ける。

 

 

 「どれだけ迷惑をかけられたって構いませんよ、友達なんだから。困ってるときは助けて、困ったときは助けてもらう。終わった後でありがとうを言って終わりです、それが友達ですよ」

 「は、ハァ?綺麗事を…」

 「それから神楽君のことですけど」

 「な、なによ…!」

 

 

 調子が崩れ始めたヒュプノを見て青空は笑みを深めると立ち上がる。その姿に思わず後ずさってしまうとヒュプノは息を呑む。

 

 

 「感情を増幅させるってことは、わざわざそうしないと出てこないものを無理やり出してるってことですよね?それは神楽君の悪い部分がほんのちょっとしかないってことじゃないですか?」

 「そ、それでもあるのよ!この男はあんたを傷つけたいと思って…」

 「目の前の人物に1つも嫌いなところがない方が珍しいでしょ。ちょっとしかないそれを増幅させるんだからそれで襲われても悪いのはあなたですよ」

 「……!…!!」

 

 

 言葉の応酬を繰り返した結果、マスク越しにヒュプノは口をパクパクとさせながら震える。見下していた相手に口喧嘩で負けたことと予想外に達者な口撃のショックが大きい。

 その様子を分かっているのか青空はトドメを放つ。

 

 

 「取り敢えず人から取ったもの返すところから始めましょうか。私のスフィアと…2人を自由にしてもらいます!」

 「……!!黙りなさい!もういいわ、殺せ!!」

 「…」

 『ダークネスフィニッシュ!!』

 

 

 我慢の限界がきたヒュプノがイグニスに指示を飛ばす。無言で指示に応えるようにツーサイドライバーを操作し必殺技を発動させる。

 刀身に水色のエネルギーが宿り光り輝くと青空に向かって走り出し、大きく振り被る。それを見たえむはこれから起こる惨状に思わず目を閉じる。

 

 

 「……は?」

 「?」

 

 

 目を閉じ最初に聞こえたのは悲鳴でも笑い声でもなく困惑の声。何が起こったのかとえむは閉じた目を開ける。そこには徐々に光を失っていくイグニスの剣、それが青空の首に当たるギリギリで止まっていた。

 力を込めているのかプルプルと震える刃を青空は撫でるように握り締めると口を開く。

 

 

 「あなたの話的には…どれだけ増幅しても本当にやりたくないことはやらせられないってことですよね、これは」

 「お兄ちゃん…!」

 「なら!!自分でやるだけよ!!」

 

 

 イグニスの行動に思わずえむが声を漏らす中ヒュプノは杖を振り上げる。エネルギーのたまっていく光景を見た青空は何かを取り出そうと懐に手を入れるがそれよりも早く飛んできた錨がヒュプノの杖を持つ腕を縛る。

 

 

 「!?」

 「青空ちゃん!今だよ!」

 「ナイスです!!」

 

 

 伸びる鎖を視線で追うとそこにはアンカーモードのアルテマウェポンを持ったジェルの姿。ヒュプノが気を取られている隙に青空は走り出すと奪われたスフィアを持った手を蹴り上げると何処からか飛んできたネネロボがキャッチする。

 

 

 「おわ!?そんな機能あったんですか!!」

 「こいつ…!イグニス!取り返し…」

 「うぉぉぉぉ!!」

 

 

 ネネロボの性能に青空が驚く中ヒュプノはイグニスに指示を飛ばそうとする。しかしその瞬間聞こえてきた叫び声に思わず振り向くと司が全速力でえむの檻に向かっている。

 咄嗟にハーピィに指示を出し迎撃に向かわせるが光の矢に撃たれ吹き飛ぶ。

 

 

 「司くん!」

 「えむー!しゃがめーー!!」

 「え!?う、うん!!」

 「うぉぉぉぉぉ!!ハァーー!!」

 

 

 司の言葉にえむはすぐさましゃがみ込む。それを確認した司は一切スピードを落とすことなく走り抜けるとワンダーテレフォンを取り出し檻の間に挟むと操作する。

 

 

 『スライダーモード!!』

 「うぉぉぉぉ!?」

 

 

 ワンダーテレフォンが巨大化することで鉄格子を勢いよく歪ませる。あまりの勢いに思わず司が尻もちをつくもすぐに持ち直しえむに手を伸ばすと固く繋ぎネネロボのコントローラーを持った寧々とボウガンを構えた翡翠のもとに戻る。

 

 

 「ハッハー!!見たか!我等の奇策を!!」

 「自分が考えたみたいに言わないでよ」

 「考えたのは私だぞ、座長」

 

 

 自慢気に高笑いをする司に寧々たちが呆れる中スフィアを取り返した青空もジェルと共に合流する。

 しかしすぐに首を傾げると不思議そうに翡翠を見つめる。

 

 

 「あれ?何で翡翠くんいるんですか?退院しました?」

 「なんでって…お前が呼んだんだろう、ほら」

 

 

 青空の言葉に翡翠はメッセージアプリの画面を開き見せてくる。そこには囚われたえむの写真とここの住所。しかしこれは司に送ったメッセージのはずだ、なぜ翡翠にも届いているのかと眉をひそめるとあることに気付く。

 

 

 「あ、間違えてグループに送っちゃった」

 「ミスだったのか…」

 「ま、まぁ結果的にファインプレーだろう」

 

 

 てっきり狙っているものだと思っていた翡翠は思わず呆然としてしまうが気を取り直すとヒュプノ達の方に向き直る。

 アンカーから開放されたヒュプノはハーピィとイグニスを呼び寄せ並び立つ。その姿からはオーラが漂い怒り心頭なのが伝わってくる。

 しかし、翡翠が気になるのは別のことだ。

 

 

 「あいつとうとう変な女に引っかかったな。いつかやると思ってたわ」

 「いやあれ操られてるだけなので、神楽君の意思じゃないです」

 「そうなのか。まだセーフだったな、まだ」

 「言ってる場合か!」

 「んじゃ、行こうかアニキ!」

 

 

 司の叱責を受けると青空達はドライバーを取り出す。3人揃って懐からスフィアを取り出し始めたときジェルがあることに気付く。

 

 

 「あれ、青空ちゃんは今取り返したの使うんじゃ…」

 「へっへ〜、ジャジャーン!」

 

 

 ジェルの疑問に答えるかのように青空は懐に入れた手を勢いよく掲げる。そこには空色のフリーダムスフィアによく似た水色の別のスフィアが握られている。

 先ほどヒュプノが攻撃してこようとした時に使おうとしたのはこれだったのだ。

 2つ目のスフィアを青空が持っていたことに司は驚きながら問いただす。

 

 

 「お前、それは何だ…?2つ持ってたのか?」

 「ほら、前にセカイ君が言ってたじゃないですか。私達の想いに共鳴してライダーの力が宿ることがあるって、これはその私の想いに反応したスフィアです!」

 

 

 以前謎の空間に閉じ込められ、フリーダムスフィアが覚醒した時に一緒に覚醒していた。青空が自慢気に話しているとスフィアから光が放たれ翡翠のブランクスフィアを紫色に染め上げジェルのマジェードスフィアが呼応するかのように輝き出す。

 

 

 「これ…もしかして!」

 「何が何だか分からんが…せっかくならこれ使うか」

 「よーし!それでは私の新しい力、お見せしましょう!」

 

 

 それぞれの反応を示しながら3人は並び立つ。翡翠とジェルがドライバーを装着すると同時にそれぞれのスフィアを起動させる。

 

 

 『ガッチャード!!』

 『マジェード!!』

 『ヴァルバラド!!』

 

 

 全員が自らの腕を交差させた後それぞれのポーズをとる。

 青空は胸の前で交差させた腕を一度大きく広げると再び胸に持ってきたあと2回ほど重ね合わせたあとピースサインを突き出す。

 ジェルは何時ものようにターンをすると腕を上に掲げゆっくりと優雅に下ろし翡翠は鳴らす形にした指を前に持ってきたかと思うとキレのある動きで払った先で鳴らす。

 3人が別々の動きをしたあと最後は一斉に両手を突き出し三角形の形を作ると叫ぶ。

 

 

 「「「変身!!」」」

 『ガガガ』『ガッチャーンコ!!』『バースト!』

 

 

 カーテンに包まれた青空の元に大きなバッタと目のついた機関車が大きな布を持ってやってくる。近くまで来ると融合し1枚の巨大な水色の布になり青空はそれを掴み取ると羽織る。

 

 

 『ホッパー!!』『ス、チーム!!』

 「ご苦労さまです!」

 

 

 融合した布から聞こえる2体の声に労いの言葉を送りながら青空の姿が変わる。

 胸には釜を模したような装甲が追加され手足にも金属質な装甲、そして肩から錬金連合と呼ばれる組織の一員である証のマントがガッチャードと同じ色で装着される。

 目につけられたゴーグルを頭につけ直すことでスカイの前髪が押さえつけられヘルメットのような形になるも2本ほど髪が飛び出しまるで虫の触覚のようだ。

 仮面ライダースカイ、ガッチャードセレクトに姿を変えると大きく上に手を伸ばしたあとガッツポーズを決める。

 

 

 『CHANGE THE GOTCHARD!!』『スチームホッパー!』

 「お〜、オシャレゴーグル!」

 

 

 同じようにカーテンに包まれた2人も変身を遂げる。

 ジェルは二振りの剣が持ってきた衣装が混ざり合いマジェードセレクトに、翡翠には機械仕掛けの矢が矢尻のエンジンから紫色の炎を噴き出しながら飛んでき布を被せる。

 すると翡翠の緑色のアンダースーツに鋼鉄の装甲が装着され顔にも同じ素材のマスクがビスで留められる、紫と銀の入り混じった装甲に身を包んだ仮面ライダーカラット、ヴァルバラドセレクトに姿を変えるとその手に専用武器ヴァルバラッシャーをかまえる。

 

 

 『MY LOCK VALVARAD!!』『ヴァルバラド!』

 「ふむ、剣か…」

 『START ABILITY MAJADE!!』「サンユニコーン!」

 「おぉ~!やっぱり思ったとおりだー!」

 

 

 今まで使ってこなかったタイプの武器を眺めるカラットを余所にセイレンは自らの予想が当たったことに喜ぶ。

 3人の変身が終わったのを機にヒュプノ達も改めて構え、それをみたカラットとイグニスもこれからの戦闘に向けて気を引き締める。しかしただ一人、スカイだけは違った。

 まず最初にやるべきこと、そのために勢いよくポーズを決めると叫ぶ。

 

 

 「異なる3つの意思を1つにし、未来へ向かって跳び上がる挑戦の戦士!字は…仮面ライダースカイ!ガッチャードセレクト!!」

 「…何してんだ、お前」

 「名乗りですよ名乗り。ヒーローならビシッと決めないと」

 「番組が30分ズレてない?」

 「いいからいいから、2人もやってくださいほら」

 

 

 困惑する2人に対して同じように名乗ることを要求する。戸惑うがヒュプノ達も動く気配が無い、不意打ちで勝つつもりは無いようだ。

 観念したようにため息を吐くとカラットは一歩前に出る。

 

 

 「この身を悪意に焼かれ打ち倒されようと、その度に固く、眩く磨きがかかる!奇跡の復活を遂げた輝石の戦士!字は仮面ライダーカラット、ヴァルバラドセレクト!!」

 「お〜、パチパチ」

 「やるんだねアニキ…」

 「うるさい、ほらつぎお前の番」

 

 

 後ろに下がるカラットと入れ替わるようにセイレンが前に出る。多少不服だが一人だけやらないのも仲間外れみたいで嫌なのだ。

 

 

 「天を貫く一本角!これこそ私の生き様そのもの!何にも染まらぬ純潔の戦士!字は…仮面ライダーセイレン!マジェードセレクト!」

 

 

 ポーズを決め名乗りを上げる。一瞬の沈黙のあと気恥ずかしくなりすぐに下がる。

 

 

 「感想は?」

 「これすっごい恥ずかしい…//」

 「何かチーム名が欲しいですね、最後にビシッと決めたいし」

 「もういいかしら!!」

 「逆になんで待ってくれたんだ」

 

 

 痺れを切らしたように叫ぶヒュプノに困惑しながら聞き返す。こんなふうに言ってはなんだが襲ってくれれば名乗らずにすんだのに。

 

 

 「決まってるじゃない、余裕ぶった奴を正面から倒したほうが気持ちいいからよ!!」

 「性格が悪い!」

 「残念だけど倒されるのはそっちだから!」

 「それじゃ…やるか!」

 

 

 それぞれの叫びを皮切りにお互いに向かって一斉に走り出す。先陣を切って飛び出してきたハーピィにスカイがホッパー1の力を引き上げられたジャンプ力で掴みかかるとその場を離れる。

 イグニスの振るう刃をカラットがヴァルバラッシャーで受け止めそのまま鍔迫り合いに持ち込みセイレンはヒュプノを相手取る。

 

 

 「どう見ても遠距離タイプ!私がやるのが有利だよね!」

 「舐めないでもらえるかしら!」

 

 

 近接での土手空拳で攻めるセイレンの攻撃を杖で防御しながらヒュプノは叫ぶと杖の水晶が光り輝く。放射状に放たれた光に当たると身体に衝撃が走りセイレンは大きく吹き飛ばされる。

 距離が開いた隙にヒュプノは片手を銃の形にするとセイレンの方に向ける。指先にハートマークのエネルギーが生み出されるとわざとらしい声を出しながら放つ。

 

 

 「はい、バ~ン♡」

 「こんなの…!」

 

 

 放たれたふざけた形の攻撃を腕ではたき落とそうと手刀を放つと当たった瞬間染み込むように身体に溶けていく。瞬時に失敗を悟ると同時に頭にモヤがかかったように思考が阻害され動けなくなる。

 

 

 「う……あ…」

 「はい、これで貴方も私のもの」

 

 

 目を妖しく光らせながらヒュプノはセイレンに近づく。人数の有利を得たヒュプノは目を同じように紫に光らせフラフラと身体を揺らすセイレンの顎に手を当て新たな指示を出そうとすると、セイレンの瞳がオレンジに戻る。

 

 

 「!?」

 「ハァッ!」

 

 

 自らの能力の証が消えたことに驚くと強烈な掌底で吹き飛ばされる。地面を転がりながら腹部の痛みに悶えるとセイレンに向き直る。

 

 

 「ぐっ…どうして…」

 

 

 間違いなく決まったはずの自分の魔法が打ち消された事に思わず不満を吐く。それに対してセイレンは身体から聖なるオーラを放ちながら答える。

 

 

 「私に力を貸してくれるユニコンの浄化能力だよ!私にあなたの魔法は効かない!」

 「面倒な…だったら正面から行くだけよ!」

 

 

 ヒュプノが杖から光弾を放ちセイレンはオーラを纏った両手ではたき落とす。

 一方でイグニスとカラットの戦いも激しさを増しお互いの武器を勢いよくぶつけ合わせていた。

 

 

 「オラァ!!」

 

 

 催眠のかかり具合に変化が生じ始めているのか無言で青空を痛ぶっていたころとは違い荒々しい声を上げてカラットを狙う。

 その激しい剣撃を防ぎながらもカラットはイグニスに話しかける。

 

 

 「妙な女に操られて妹の誘拐に加担し、あまつさえ俺たちに襲いかかるとはな!笑えないジョーク…だ…?」

 

 

 口から自然と出てきた言葉に思わず固まる。こんな台詞回しをするつもりはなかった、ウォズセレクトの時の祝辞と同じで勝手に言葉が出てきた。どうも自分はスフィアの影響を受けやすいらしい。

 頭を抱えていると剣を弾かれ首元に向けて斬撃を放たれるも装甲で止まる。カラット自身の宝石とヴァルバラドの鋼鉄が混ざった特殊装甲の防御はそう簡単に破れない。

 刃を掴むと拳に紫炎を纏わせイグニスを殴り飛ばし、地面に弾かれたヴァルバラッシャーを拾い上げる。

 

 

 「お前の行動は私の兄としての美学に反する。手加減はしないぞ」

 

 

 最後にのこったスカイとハーピィ、この2人の戦いもまた行われているが少々他とは様子が異なっていた。

 

 

 「よっ!」

 

 

 強化されたジャンプ力で空中のハーピィに向かって跳び上がる。足を掴んで引きずり下ろそうと伸ばした手が触れそうになった時、ハーピィが高度を上げて空振りそのまま落下する。

 

 

 「あ〜」

 「ヒッヒッヒ」

 

 

 このように先程から空中に居座るハーピィに向かって跳び上がっては届かず落下するの繰り返しだ。ガッチャードの専用武器であるガッチャートルネードやガッチャージガンによる攻撃も試したが当たらず、アルテマウェポンを投げつけてみたりもしたが駄目だった。

 もっともあちらもこちらを警戒しているのか近づいてこないためお互いノーダメージだが。

 

 

 「おい!お前確か元の姿なら飛べるだろう!」

 「そうだ!姿を変えたら…」

 「え、いやいやいやいや!いけますよ!こっちには頼もしい仲間がいるんですから!ね、2人とも!…2人でいいのかな」

 

 

 フリーダムセレクトに変える事を勧める司達の言葉を強く否定する。せっかく披露した新しい力に何の見せ場もないまま終わらせることなど出来ない。

 その気合に答えるかのようにベルトのガッチャードスフィアに込められたケミーが力を開放する。

 

 

 『ホッパー!』『スチーム!!』

 

 

 ベルトから光が放たれるとスカイの装甲が分離し、残された本体が煙へと変化する。残された装甲のみが組み合わさるとマントを携えた巨大なバッタ、仮面ライダースカイガッチャードセレクトワイルドモードへと再錬成される。

 

 

 「な、何だその姿は!?」

 「青空ちゃんがバッタさんになっちゃった!?」

 

 

 あまりにも常軌を射した変身に司達が驚きの声を上げる。それに対し、スカイ自身も声を上げる。

 

 

 「何ですかこの姿ぁーー!?」

 「し、知らないの!?」

 「だ、大丈夫なのか…」

 

 

 どうやら変身したスカイ自身も予想外だったらしい。戸惑いの声を上げていると隙と判断したのかハーピィが後ろから迫る。

 

 

 「ッ!?危なっ!」

 

 

 ハーピィの突進に気づいたスカイが跳び上がる。その勢いはライダーだった頃を確かに上回っていた。……天井を突き破って空高く消えていくほどに。

 

 

 「……え」

 「…どっか行っちゃった」

 

 

 予想外の展開の連続に思わずハーピィも司達も立ち尽くしてしまう。何がしたかったのだろうか、そして何よりあんなに高く跳んで戻って来れるのだろうか。

 呆然としていると何かが空の彼方から聞こえてくる。

 

 

 「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

 「ぐほぁ!?」

 

 

 消えていった穴からスカイが再び降ってくる。遥か上空から落ちてきたことにより重力が加わったことで隕石のような勢いになったスカイの身体がハーピィの上にのしかかり地面に叩き潰す。

 

 

 「あ、ごめんなさい」

 「ギギギ…」

 「ん〜〜エイッ!」

 

 

 申し訳なさそうに上から降りるも地面にめり込んだハーピィは動かない。しばらく考えると後ろ足で思いっ切り蹴り飛ばし姿も元に戻る。

 必殺技の体勢に移ろうとした時、吹き飛ばしたハーピィの元にイグニスとヒュプノも吹き飛んでくる。

 

 

 「そろそろ決めるとしよう」

 「一緒にね!」

 「では、ご一緒に!」

 

 

 3人で並び立つとベルトを操作する。3人の身体からオーラが沸き上がり混ざり合うと七色に光り輝く。

 

 

 「異なる力が混ざり合い光り輝く力を生み出す!」

 『FINISH THE GOTCHARD!!』

 「フッ!」

 『ENEMY LOCK VALVARAD!!』

 「ハッ!」

 『MASTER ABILITY MAJADE!!』

 

 

 輝きが最高潮に達すると同時に3人のライダーが跳び上がりキックの体勢になる。

 それをみたイグニスはツーサイドライバーを操作するとハーピィを掴みライバー達に向かって放り投げる。

 

 

 「ヒッ!?」

 『ダークネスフィニッシュ!!』

 「ハァ!!」

 

 

 ハーピィを盾代わりにしながら自らも必殺技で3人のライダーキックに対抗する。少しの拮抗を見せるが3人のライダー達は押し切るためにエネルギーをさらに込める。

 

 

 『スチームホッパー!フィーバー!』

 『ヴァルバラドクラッシュ!!』

 『サンユニコーン!ノヴァ!』

 「「「ハアァァァァッ!!!」」」

 

 

 七色の輝きがさらにその力をましハーピィごとイグニスとヒュプノを蹴り飛ばす。

 地面を転がっていったハーピィの身体が全身に溜まったエネルギーでチカチカと輝く。それをみたスカイが振り返り決めの台詞を叫ぼうとした時、セイレンが何かを耳打ちする。

 

 

 「ヒソヒソ…」

 「ふむふむ、では改めて。これにて〜」

 「「ガッチャァァァ!!」」

 「…ガッチャ」

 

 

 2人が決め台詞を叫ぶと同時にハーピィの身体が爆発する。爆炎を背に受けながら腕を掲げる2人に遅れてカラットも叫ぶが頭を掻く。

 スフィアの影響からか違和感が凄い、どうもこの力の持ち主はガッチャード達と相性が良くないようだ。力は似通っているが。

 そんな事を考えながら変身を解除しようとしたとき、炎の中から殺気を感じて振り返る。

 

 

 『ジャスティスフィニッシュ!!』

 「危ねぇっ!」

 「えっ」「キャッ!?」

 

 

 カラットが勢いよく2人を突き飛ばす。すると爆炎の中から強力なエネルギー弾が飛び出しカラットに直撃する。

 

 

 「ぐぁぁぁ!!」

 「アニキ!」

 「今のは…!?」

 

 

 カラットに駆け寄るセイレンを狙わせないためにスカイが前に出ながら爆炎の中をみる。

 炎が収まるとそこにはライブセレクトに変わったイグニスが銃に変形させたツーサイドライバーを構えている。

 

 

 「倒しても戻らないとは…笑えないジョークだ…」

 「当然よ、これは彼の意思なんだから」

 「ヒュプノ!」

 

 

 イグニスの後ろから出てきたヒュプノに向けて構える。庇われた結果今の攻撃でも対してダメージを受けなかったらしい。

 戦闘の再開を覚悟するとイグニスが膝から崩れる。

 

 

 「っ!」

 「あら、さすがに限界?」

 「神楽くん!」

 

 

 肩で息をするイグニスにしゃがみ込みながら考えるようにすると杖を掲げ魔法を使う。

 

 

 「しょうがない、今日はお暇するわね」

 「ッ!待て!」

 

 

 追いかけようとするもイグニスが弾丸を放ちスカイの足元を牽制する。ヒュプノが輝く杖を振ると地面に魔法陣が浮かび上がり2人が消える。

 

 

 「逃げられたか…」

 「翡翠くん、大丈夫ですか?」

 「あぁ、この姿はかなり頑丈だ」

 「皆〜!」

 

 

 悔しそうに歯噛みするカラット達の元にえむ達が駆け寄る。それを見たスカイ達は変身を解除すると申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

 「ごめんなさいえむちゃん、神楽くんを取り戻せませんでした」

 「そんな…私を助けてくれたんだから謝らないで」

 「恐らくまた現れるだろう、その時こそ何とかするぞ」

 「オッケイ!」

 

 

 えむのために決意を新たにする3人。そんな中翡翠は青空の方をじっと見つめる。

 

 

 「……」

 「えっ、ちょ、何ですか翡翠くん。急に見つめて…照れちゃう」

 「お前頭大丈夫か」

 「急に悪口」

 「いやそうじゃなくて」

 

 

 翡翠が指で自分の後頭部を指さす。何が言いたいのか分からず青空は手鏡を取り出し自分を確認すると後頭部から穴の開いたペットボトルのように血が噴き出している。

 

 

 「おうふ…」

 「青空ぁーー!?だから病院にいろと!!」

 「きゅ、救急車呼ばなきゃ!」

 「2台頼む」

 「え?」

 

 

 翡翠の言葉に思わず振り向く。その視線は下に落とされており司たちもそれを追うと腹部から足にかけて真っ赤に染め上げられている。

 

 

 「お腹痛い……」

 「傷開いちゃってるうぅ!!?」

 「お前ら怪我人何だからじっとしていろーー!」

 「これ入院ですかね…」

 「たぶんな…」

 

 

 ワンダーステージ再結成まで、あと二人ーー




設定
 仮面ライダーイグニス ライブ/エビルセレクト
 仮面ライダーライブ/エビルの力を宿した姿。ツーサイドライバーによる銃撃/斬撃を得意とし、飛行能力を持つ。
 もっとも特質的なのは入れ替えるようにフォームチェンジすることで身体のダメージを変身中一度に限りリセット出来る点。今回もその能力で必殺後の隙を襲った。


 仮面ライダースカイ ガッチャードセレクト
 仮面ライダーガッチャードの力を宿した姿。多種多様なケミーの力と錬金術で多彩な戦闘が可能。
 再びワンダーステージの仲間とショーをするという目標に向かって突き進む青空のガッチャに反応して生まれた。

 
 仮面ライダーカラット ヴァルバラドセレクト
 仮面ライダーヴァルバラドの力を宿した姿。カラットの防御力をさらに上昇させ、より安定した戦闘が可能。
 ガッチャードスフィアに宿ったオカルトケミーとマシンケミーの力がスフィアに宿り生まれた。


 ハーピィノーネイム
 ハーピィを模した怪人。空中への飛行能力と高い知能による連携や作戦行動への適応能力が武器。
 戦闘に使うためネイルができないのが悩み。


 次回予告
 「類に戻ってきてもらうにはこれしかない」
 「奴が次にやる事の予想はついてる」
 「あなた自身の手で壊してもらうわ」
 「作戦通りいきますよ!」

 第六話  『結成!掲げるその名は』
 「マル!!」
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