プロジェクトセカイ feat 仮面ライダー 作:ミッツー116
早く進められるように頑張ります。
月が輝き始めてしばらく経った。人々が昼間の喧騒から解放されそれぞれ憩いの時を過ごす。
家族と過ごすもの、一人で趣味に興じるものときっと様々だ。だがそれでもこの場は異常だろう。
薄暗い立体駐車場、その中で黒と白の2つの人影が手に持った武器をぶつけ合わせ激しい火花を散らしている。
「ぐぅぅぅぅ!?」
「ほらほらどうしたぁ!?」
鍔迫り合いになった武器を弾かれ、ビートの体に激しい剣撃が刻まれる。
壁に背中を打ちつける姿を嘲笑いながら逆手の剣を振り下ろすもビートはツインエッジの持ち手で受け止めてみせる。
「うっっ…らぁぁ!」
刃を受け止めている持ち手、それをひねると分割され剣を受け流しながらビートはスワンプの背中に周り片手の剣を逆手に持ち替え突き立てようとするも即座に振り返った腕で捕まれる。
逆の手の剣も即座に放つもスワンプの武器で受け止められる。パワーで下回っている以上膠着状態はマズイ。
そう判断したビートは無理やり足を上げるとお互いの手を払いのけ距離を取り体に刻まれたシャドウラインを弾く。
「お?これは…」
スワンプとビートを影で出来たドームを包み込む。光が差し込まない暗闇の空間。
この中で行動出来るのは音により完璧に状況を把握出来るビートだけだ。自らの優位な空間を作り出した事で一気に攻めようと走り出す中、スワンプは新たなスフィアを取り出す。
『カイザ!!』
「っ!」
鳴り響く音声に足を止める。明らかに何かを狙った行動に対応を迎撃に切り替えた。
しかし、この判断は間違いだった。優位を手にするためにはこの変身は妨害しなければならなかった。
『CHANGE THE KAIXA!!』
『complete』
暗闇で見えない中スワンプの体が泥に包まれる。姿を変えていることだけはビートにも分かるがどんな姿になるかまでは予測できない、このスフィアでなければ。
泥の体を黄色く光るラインが走っていく。漆黒の空間に生まれた予想外の光源に照らされビートの姿がスワンプの視界に収まる。
その輝きが最高潮に達すると共にビートの体に斬撃が刻まれ、ドームを砕きながら吹き飛ぶ。
「がっ!何が…!?」
地面をバウンドしながら何とか体勢を整える。視界の先にいるのは姿を変えたスワンプ。
黒一色だった体には2本の黄色のラインが全身に走っており発光している。
想像もしていなかった方法で技を突破された事に驚いているとスワンプはスフィアをベルトから外しジャスティスブレードにはめる。
それを見たビートもスフィアをツインエッジにはめ必殺の体勢に入ると持ち手を分割させ二刀流になる。
必殺技のぶつかり合いと言うならこちらが有利。一刀目で相手の技を弾き、二刀目でスワンプを狙いにいく。
「そううまくいくかな?」
「こい!」
狙いを見透かしたように笑うスワンプに対してビートは臆せず叫ぶ。互いの武器にエネルギーが限界までチャージされた瞬間、スワンプがその場で剣を振るい斬撃波を飛ばす。
「いけるっ…!?」
振るわれた一撃を完璧に見切り、自身の剣を合わせる。斬撃波にツインエッジがぶつかった瞬間、ビートの全身が格子状のエネルギーに包まれ磔にされたように動けなくなる。
「何っ…!?」
「ほーら言ったとおりぃ!」
『ゴルドスラッシュ!!』
驚くビートに向かってスワンプが走り出すと光に包まれ四角錐型のエネルギーとなり突撃する。
そのまま激突するとビートは体から大きく火花を散らしながら吹き飛び、柱に激突すると変身を解除させながら倒れ込む。
「があっ…!!」
「日向!」
苦しそうに呻く影を心配し絵名が駆け寄る。スワンプは変身を解除すると2人をニヤニヤと見つめながら近づく。
絵名はそれに気付くと焦りを見せるも何かを思いついたかのように携帯を取り出し、次の瞬間光となって消える。
「ありゃ、あの娘もセカイの持ち主か。それは予想外、まぁどうでもいいけど」
スワンプはそう言うと入り口に向かって歩いていく。そこにはカメラが設置されておりその中の映像を確認すると怪しく笑う。
「さぁて、忙しくなるね」
ーーーーーーーー
誰もいないセカイ、そこに光と共に絵名と影が現れる。スワンプが追いかけてきたりなどしないかと少しヒヤヒヤしていたが何も起こらないことに胸を撫で下ろす。
「ぐっ、あぁ…!」
「っ!ちょっと、大丈夫…!?何か手当て出来るもの…ここにあるわけないか…」
怪我が痛むのか苦しみだした影に絵名は焦ると何か出来ないか服のポケットなどを漁ってみるが絆創膏の一つも入っていない。
どうにかしようと思考を巡らせていると突然後ろから声をかけられる。
「何やってるの」
「な、雪……!?……この際あんたでいいわ!なんか包帯とか持ってない!?」
「……待ってて」
焦る絵名の言葉にまふゆは顔を覗き込ませる。傷を負い地面に横になっている影の姿に状況を把握するとセカイから消え、しばらくして救急箱を持って戻ってくる。
「どいて」
「えっ」
「早く」
端的に言い放つまふゆに思わず言うとおりにしてしまう。影の隣に座るとテキパキとした動きで処置を済ませていく。
「出来た」
「おぉ…ありがとうございます」
「…別に。休んだら出ていって、ここは貴方達のいるべき場所じゃない」
言葉を残すとさっさと背中を向けて去っていく。引き留めようと絵名が動くも影がその手を掴んで止める。
「なんでよ…さっきのやつのこととか聞いた方がいいでしょ?」
「さっきのやつなら人間じゃないです。もう人と怪人の音の違いは覚えました」
「なにそれ…」
さらりと言ってのける影に若干引く。その絵名の様子に思い出したかのように口を開く。
「そういえば学校…」
「あ!」
第四話 「部外者」
春、穏やかな陽気が支配する朝。小鳥のさえずりが耳をくすぐり窓から指す陽光に瞼を撫でられる、そんな朝。
ピンク色の壁紙にアニメのポスターが貼られた部屋、棚に飾られたフィギュアや漫画本は部屋の主の趣味趣向が一目瞭然だ。
ベットの上でまだ眠い頭を掻きながら大人しい藍色の髪に見合わぬ派手なピンクのインナーカラーやメッシュを入れた少女は窓を開く。
「まぶしっ」
眼球を直撃する太陽光に思わず声が出る。目をパチパチと開閉させ徐々に慣らしていき頭も覚醒させていく。
大きく体を伸ばすと息を整え頬を叩いて気合を込める。
「さて、今日も頑張って可愛くしよ!」
そう言うと部屋の中のメイク台に向かっていく。校則で禁じられていないから好きにすればいいとは言えあまり濃すぎるのは目的に反する、しかしかといって薄すぎるのも不安だ。この塩梅が難しい。
中学からコツコツ練習しているが未だに納得のいかない日も多い、今日はまぁまぁだ。
ヘアアイロンを使って髪をまっすぐと飛ばし、持ち前のロングヘアーを整える。髪は結わずになびかせるのがこだわりだ。
制服に着替えると鞄を持ち玄関に向かう途中でリビングに向かって叫ぶ。
「行ってきまーす!」
「あ、朝ごはんは!?」
「ダイエット中だからいらなーい!」
母親に返事を返しながら家を飛び出す。少ない体力を切らさないように調整しながら駆け足気味に道を進む。
すれ違う近所の人たちへの挨拶も忘れないようにしながら何かに急かされるように走ると、学校近くの曲がり角で急停止し店のガラスの前で身だしなみを確認する。
「……よしっ」
寝癖もない、メイクもおかしなところは何処にもない、息を整えると落ち着いた様子で角を曲がりゆっくり歩いていく。
学校が近づいてきた事で同じ制服の人間も増えていく中、知り合いが居ないか探す。
(みんなもう登校してるのかな)
声をかけたかった対象の人物が誰もいないことに落胆と少しの安心感を覚えながら校舎に入る。
靴を履き替え、階段を上がり自身の教室の前にくる。早まる鼓動を感じながらドアを開けると大きく手を上げながら出来るだけ快活に叫ぶ。
「皆の衆、おっはよーう!!」
「あ、弓ちゃん!おはよー!!」
少女、弓の声に気付くと金髪のウェーブがかったツインテールのクラスメート、天馬咲希が抱きついてくる。
それに対して抱きしめ返していると黒髪ロングのクラスメート、星乃一歌も近づいてくる。
「おはよう、弓」
「おはよう2人とも〜。咲希ちゃん今日も元気で何より〜」
「えっへへ〜、ありがと〜」
咲希の頭を撫でながら教室を見回す。目当ては扉から2番目、黒板に最も近い最前列。
そこに目当ての人物がいることを確認するとその斜め後ろの自分の席に荷物を置くと声をかける。
「し、新一〜おはよう〜」
「ん?あぁ弓か、おはよう」
鞄から荷物を取り出す作業をしながら新一と呼ばれた青年は振り返る。それに対して弓は机の前に回ると両手をクッション替わりにして机に顎を置いて新一を見つめる。
「……どした?」
「お気になさらず」
「気になるだろ」
そうは言いつつも慣れているのかそのまま放置し荷物の整理に戻る。その様子をじっと見つめる弓、周りから見ても意図が分からない行動だ。
普段からクラス内では少し浮いた存在の弓が何故か目立たない新一によく絡んでいる。幼なじみだというのは周知の事実なのだが、最もそれを言えば咲希も新一とは合っているとは傍から見れば思えない。
そんな弓が何を考えて新一の事を見つめているのか、その答えはクラスメートが想像するより遥かにシンプルだった。
(カッコいい〜〜〜!!)
決して周りには気付かれないように細心の注意をはらいながら新一を見つめる。気を張っていかなければすぐに頬は紅潮し口角が上がり目からはキラキラと効果音を流れそうな視線を送ってしまうだろう。
何も考えていない無表情を装いながら新一の顔を凝視する。
(あ〜真剣だな〜!教科書出すだけでなんでそんな真面目な顔出来るんだろ〜!授業中の横顔もクールだし!でもでも最近はバンドも再開出来て柔らかい表情も見れるしそこもいいなぁ〜!!あ、なんか探してる!ちょっと困ってるの可愛い!)
一ノ瀬弓、15歳。花の高校一年生。彼女は、幼なじみに恋していた。
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私が新一と出会ったのはまだ幼稚園の頃、医者である父と警官である新一のお父さんが知り合いだった事がきっかけだった。
体が丈夫な子に育ってほしいという親心から新一の家にある道場で空手だか柔道だかを習うことになったのだ。そこで新一と出会った。
私は昔から人見知りが激しく、通っていた幼稚園にも友達はいなかった。始めは新一ともろくに話せず、お互いに距離があった。
そんなある日のこと、練習終わりに新一のお母さんの誘いでお菓子を食べさせてもらえることになった。
「うまい!」
「うん、おいしい」
「良かったわ〜、どんどん食べてね」
テーブルの真ん中に大量に置かれたクッキー、それぞれの小皿に取り分けられたそれをみんなで食べた。
おばさんの手作りのクッキーはお店のものかと思うくらい美味しかった。
(美味しい…もっと欲しいな…あっ)
自分の皿からクッキーが無くなる。おばさんに言えばもっともらえるのかと考えるも言い出せずにいると、兄が大皿から直に取って食べ弟もそれに続いた。
(私も…あ、でも行儀悪いかな…怒られちゃうかも…)
悩んだまま動けずにいるとクッキーが乗った小皿が目の前に置かれた。置いたのは隣の椅子に座っていた新一だった。
「え…これ…」
「あげる。俺そんなに甘いの好きじゃないから」
ほっぺたにクッキーのカスをつけながらモゴモゴと喋る姿を今でも覚えてる。
内気な新一が勇気を出してくれたのが伝わってきた。その顔を見ていると何故か顔が熱くなって、胸がドキドキって言い始めた。
「ありがと…」
「うん…」
初めて出来た異性の友達。兄や弟にはない不器用だけど優しいその男の子に私はいとも簡単に落とされた。
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「以上のことから〜両者の争いは激化したと考えられ〜」
(あぁ〜、どうすれば新一を振り向かせられるかな〜。やっぱこれかな〜)
歴史の授業を熱心にする教師の思いなどつゆ知らず、弓は新一との恋模様の事ばかり考えていた。
もう10年は経とうかと言う付き合いになるが想いは伝えられずにいる。色々努力はしているが最後の勇気が出て来ない。
しかし、今の自分には奥の手がある。机の横に置いてある鞄、そのジッパーを開け中を覗く。
そこには銃を模したバックル、ネライドライバーが入っている。
(私が仮面ライダーって知ったらビックリするよね…でも、それだけで上手くいくとも限らないし…どうせならカッコいいバラし方を…)
『うわー!怪人だー!誰か助けてー!』
『待てーい!おりゃあー!』
『すごい!かっこいい!』
『実は…』
『弓!』
(こんな感じが理想!でもそのためには新一が危ない目に遭っちゃうし…あ〜、なんか上手い方法ないかな〜)
授業の最中であることなど忘れ思考をそちらに割く。その中で思い出す、このベルトを手に入れたときのことを。
ーーーーーーーー
それは、高校生活が始まって1週間とすこし立っていたある日のこと。やけに上機嫌な弟が鼻についていたときだ。
「〜〜♪」
「なに、変に上機嫌なんだけど。ウザい」
「なんかまたバンドやるんだってよ、ほら新一達と中学別だったろ」
「あぁ、そういう」
確か優二と新一が喧嘩していたはずだが仲直りできたのだろうか。そのうち鼻歌がサビに入り勢いが増し始める。
「弟がはしゃいでるの見てられないわ…部屋戻る」
「おう、早く寝ろよ」
「無理」
階段を上がり自室に戻ると中から鍵をかける。防音でもあるため隣の兄弟たちの部屋にも音が聞こえることはない。
「さて、アニメの一気見でもしようかな」
ベットに寝転がると携帯を取り出しサブスクアプリを開こうとする。しかしホーム画面のアプリをタップした時、目測を誤りその隣の音楽アプリを開いてしまう。
「ん?なにこれ?『untitled』?」
見覚えのない曲がインストールされていることに首を傾げる。何かのアニメのOPかと記憶を辿るも覚えがない。
「まぁ再生すればわかるよね」
仮に間違って入れただけの曲だったらさっさと消してしまおう。軽い気持ちで再生ボタンを押すと携帯から光が放たれ眩しさに目を閉じる。
光が収まるのを待ち、目を開ける。そこには一面に広がる白い空、見渡す限りの地平線。
「死んだ…?」
「早とちりだな〜」
思わず口から出た言葉に返ってきた返事に驚き飛び起きると聞こえてきた方に向き合う。
そこにはセカイとミクが並んでおり弓は見慣れない2人に両手を尖らせたファイティングポーズをとる。
「な、なにやつ…」
「ここの住人ってとこだ」
「セカイ、この人まふゆの想いに共鳴してないのに入ってきてる。どうして?」
「これは相当珍しいな、ベルトに対する適合率だけで入ってきてる」
「ベルト…?」
セカイは首を傾げる弓に答えるように懐から四本のドライバーを取り出す。
一つ一つ指でなぞっていくとネライドライバーを手に取り、弓に向かって投げる。
「喜べ、今日からお前はヒーローだ」
ーーーーーーーーー
放課後、弓道部にまふゆは練習の為にやってきていた。しかし、そこにいる予想外の人物に立ち尽くす。
「……なんでいるの」
「色々あった」
練習場の中で袴姿の満を見て思わず言葉が漏れる。聞かれた満の方も若干不服そうにしておりまふゆからすれば意味が分からない。
頭の上にハテナマークを浮かべる様子に気づいているのかいないのか分からないが満はそのまま会話を続ける。
「しかし弓道部ってのは意外に暇だな。今日一日弓に触れてないぞ、仮入部の時は触らせてもらえたのに」
「入部したては徒手練習からだからしょうがないわ。でも、夏前には触らせてもらえるからそれまで頑張りましょう?」
「あ、日野森先輩。……割と遠いっすよそれ」
同じく袴姿の雫と話す満に昨日見た影の怪我のことは話すべきか考える。
しかし詳しい事情を知っているわけではない、どうするべきか悩んでいると入り口に制服姿の生徒が現れる。
「お~い、日向〜」
「…?誰だ?」
「なんか、入り口でモジャモジャ頭の奴がお前呼んできてくれってよ」
「あいつか…分かった、着替えてから行く」
「あ」
生徒の言葉に満は更衣室に向けて去っていく。悩んでいる内にタイミングを失ってしまったがそこまで気にかける仲でもないと気にすることはなく自分も女子の更衣室に向かう。
そんな中満は制服に着替え終わると校門に向かう。そこには予想通りスワンプが立っていた。
「部活初日でサボりたくないんだが」
「この時期から始めたの?ちょっと遅くない?」
「色々あったんだ」
「ふぅん…まぁいいや、そんなことよりこれ」
スワンプは携帯を取り出すと何かの映像を流す。すこし画面が暗いせいでよく見えないので満は顔をしかめながらのぞき込むとその顔を驚愕に染める。
『変身!!』
『START ABILITY SHADOW!!』
「これは…影!?昨日怪我して帰ってきたから何事かと思ったら…」
「知り合いなの?まぁでも問題はこのあとだ…」
一度携帯を戻すと何かを操作する。次に見せられた画面に映っているのは黄色の線が走ったライダーが影の変身したライダーに必殺技を撃ち影が変身を解除されながら倒れ込む映像だった。
「!!」
「どうやら奴は俺達の思っているより遥かに凶悪だ。怪人もライダーも関係無しに力を振るうことを楽しんでいるとしか思えない」
満の拳を握る手に力がこもり、血が滴る。その様子に思わず口角が上がるのをバレない内に抑えると口を開く。
「悪いけど答えを待っている時間はない。あいつを倒す準備を始めておくべきだ」
「…あぁ、そうだな。俺達で叩き潰すぞ…!」
自らの拳に勢いよく満は手を打ちつける。スワンプは満足そうな顔をしながら後ろで笑みを浮かべる。
とことん人を疑うことに向かない奴だ。せいぜい利用させてもらうとしよう。
(次はコイツだ…)
作戦の次の段階を想像しながらポケットの中に手を入れる。そこには影を倒したカイザスフィアが握られていた。
ーーーーーーー
神山高校、1-Aの教室はすこし何時もよりも騒がしかった。といってもはしゃいでいると言うよりは、ヒソヒソと話す声が何時もより多いためだ。
その声の主たちの視線が集まる位置で、暁山瑞希が課題のプリントを手につけているとクラスメイトが声をかけてくる。
「瑞希、それなに?」
「サボりの罰〜。たまに渡されるんだよね〜」
「もう〜、ちゃんと学校来ないと駄目だよ!」
一見なんの変哲もない仲睦まじい友人との会話。しかし、周りの人間は奇怪なものでも見るようにヒソヒソ話を続ける。
「なぁ、あの話マジなの?俺入学早々体調崩してたから聞けてないんだけど」
「マジマジ。でも見えねぇなマジで。知らなかったら騙されるわ」
「てか、あわよくば狙ってんじゃねえの。ほら今横にいるやつとか」
(聞こえてるんだよなぁ)
周りの男子の声に鬱屈とした感情を抱きながら席を立つ。ここにずっといると気分がどんどん落ち込んでいきそうだ、こういうときは一度離れるに限る。
「瑞希、どうしたの?」
「ちょっと息抜き!ジュース買ってくるね!」
普段通り明るく言い放ち教室を去っていく。出来るだけ人のいないところに行こうと階段を降り、教室から一番離れた自販機に行く。
並ぶラインナップを眺め、何を買うか決めるとボタンを押す。お釣りを取ると飲み物を取り出し口から取り出す。
ここからどうやって次の授業まで時間を潰すか悩みながら振り返り歩こうとすると並んでいた人物にぶつかる。
「あいたっ、ごめんな…」
即座に謝罪しようと目の前の人物の顔を見上げ固まる。180センチはあろうかと言う長身の癖っ毛越しに無表情でこちらを見下ろす男子生徒。
セカイであった常世全治郎がそこにいた。
(こ、この人…!そういえばあの時もうちの制服だった…)
「…どいてもらえるか」
「あ!ご、ごめんなさい!」
思わず敬語で謝るとすぐに道を開ける。全治郎は特に気にした様子は無く飲み物を買うと近くのベンチに座って飲み始める。
「ふー…」
「………」
「…なんだ」
どこか疲れた様子で椅子に座る全治郎の様子が気になりつい見つめていると話しかけられる。
瑞希は一瞬困るも聞きたいことがあったことも思い出し、いい機会と思い直す。
「隣大丈夫?」
「…あまりオススメはしない。俺といるとろくなことにならないらしいからな」
「なにそれ?」
全治郎から返ってきた言葉に首を傾げる。口振りからして周りから言われているであろう感じだがどういう意味なのか。
瑞希がピンと来てないことに気づいたのか全治郎はすこし考えると口を開く。
「『不幸を呼ぶ男』、なんて呼ばれてる」
「それ、普通に悪口過ぎない?どうしてそんな風に」
「小さい頃に両親が死んで、引き取ってくれた先生も持病が悪化して2年前に死んだ。その話がいつの間にか広まって、今じゃ周りから煙たがられてる」
「……」
明かされた話に思わず言葉を失う。余りにも人の心がない話だ。
言っている側は面白半分なのかもしれないが言って良い事と悪い事の区別がついてなさ過ぎはしないだろうか。
全治郎は話終えると再び飲み物に口をつける。もしかしたらここに来たのも自分と似たような理由なのかもしれない。
瑞希はしばらく考えると全治郎の隣に腰掛ける。
「…話聞いてたかお前」
「聞いた上でだよ。僕も周りから色々言われてるし」
「…そうか」
瑞希の言葉にそれ以上追求することはなく飲み物をまた飲む。瑞希も自身の容器の蓋を開けると口にする。
喉を潤すと本来聞きたかったこともここで聞いてしまおうと話しかけていく。
「ねぇ、まふゆの幼なじみなんだよね?まふゆが消えたいって言ってる理由わかる?」
「…いや、さっぱりだ。実をいうと、最近まで会ってなかった」
「どうして?」
瑞希の疑問に全治郎は服の首元を開け痣を見せるとリストバンドも外す。
彼の自傷の痛々しい痕に思わず顔をしかめると全治郎は力無く話し出す。
「先生が死んでから、時々どうしょうもなく死にたくなってしまう。何度か実際に死のうとしたが…上手くいかなかった」
「…それ、まふゆにも話してなかったよね」
「あぁ、話せなかった。まふゆは…いいやつだから、心配をかけてしまう。まふゆの母親は知ってるけど、隠してくれてると思う」
話し終えると飲み干した容器をゴミ箱に向けて投げつける。オーバースローで投げつけたそれは一直線にゴミ箱に入り、瑞希は思わず口を開けて驚く。
「すっごいじゃん」
「そうでもない。運動も勉強も出来るが…出来ないことだって沢山ある。正直になることとか…友達作りとか」
「……」
全治郎の言葉に瑞希は手の中の空になった自らの容器を見つめるとゴミ箱に投げる。
放物線を描いたそれは縁に当たり弾かれてしまう。瑞希は頭に手を当て悔しがると拾いに行き、ゴミ箱に入れなおす。
「ねぇ、そういえば名前聞いてないや。僕は暁山瑞希、ピカピカの一年生だよ!」
「…常世全治郎、2年だ」
「ふんふん、全治郎ね」
瑞希は全治郎の元に戻ると背中で腕を組みながら覗き込むようにして笑顔を向ける。
「今日、予定ある?」
「ないが…なんでだ?」
「遊びに行こうよ!せっかく知り合ったんだしさ!」
「え」
予想外の発言に呆気に取られているとチャイムがなる。瑞希は全治郎が追求するまもなく教室に向かいはじめ途中で振り返る。
「放課後校門集合ね!約束だから!」
「お、おう」
戸惑いながら手を振る全治郎に手を振り返すとその場を去る。いつの間にか陰鬱な気分は何処かに消え去っていた。
ーーーーーーーー
放課後、宮益坂学園の校門にて弓は項垂れていた。その原因は昼休み、勇気を出してみて新一に放課後遊びに行こうと誘ったことだ。
『悪い、今日は楽器屋に電車でみんなで行くんだ。あ、着いてくるか?』
「デートがしたかったんだよぉ〜〜!!」
叫びながら地面に両手を着いて叫ぶ女子高生に周りの通行人が驚く。しばらくそうしていると突然跳び上がる。
「やけ食いだ…ショッピングモールにクレープを食べに行く!花のJKらしく!」
決意を露わにすると最寄りのバス停に向かう。バスが到着すると入り口に最も近い椅子に座る。
『次は〜神山高校前〜神山高校前〜』
「乗車〜。全治郎もバス通学なんだ?」
「バイクだったが…こないだ壊れた」
(くっ…カップルか…?)
神校前で止まると全治郎と瑞希もバスに乗ってくる。それを見た弓は悔しそうに歯ぎしりしながら睨みつける。
自分のデートの誘いが失敗したせいで男女が2人で歩いていると過剰反応してしまう。
瑞希と全治郎はそういう仲ではないので言いがかりなのだが。
『次は〜ショッピングモール前〜ショッピングモール前〜』
「あ、着いた。降りるよ〜」
「おう」
(同じ駅…だと…)
別にそんなこともある。だがどうしようもない敗北感を感じたのか弓は先に降りる2人を抜き去っていくとそのままショッピングモール内に走り去っていく。
「なんだあいつ」
「トイレにでも行きたいんじゃない?さて、それじゃあ行こうか!」
「何処行くんだ」
「適当!まずは…服とか!」
先導する瑞希の後を全治郎は黙ってついていく。2Fの服屋に着くと瑞希はすぐに品物を手に取り物色していく。
「あ、これいい〜!あ、でもこっちもオシャレかも!ねぇねぇ、どっちがいいと思う!?」
「いいんじゃないか、どっちでも」
「ちょっと〜、真面目に考えてよ〜」
「そうは言われてもな」
正直服にあまり頓着がない。最低限TPOを弁えた服装なら何でもいいのだ。
そんな考えを見透かしたの瑞希はジト目で全治郎を見つめると何かを決意する。
「…よし!僕が全治郎をコーデしてあげよう!」
「は?」
「そうと決まれば善は急げだよ!ゴーゴー!」
「え、おい、引っ張るな」
瑞希は全治郎を試着室に連れて行くと中に押し込む。そこから店内を回っていくと幾つかの服を持ち帰ってくる。
「まずはこれ!無地の白シャツに半袖のTシャツ!それでゆったり目のパンツね。清潔感もあるし王道なスタイル!」
「何でボタン全部開けてるんだ、閉めろよ」
「オシャレなの!」
「サングラスにジーンズ、革製のベルト!シャツも敢えてズボンに入れて引き締まった印象になるよ!」
「行儀悪いだろ」
「革ジャン、ジーンズ、サングラス!男!って印象になるよね」
「バイク乗ってそう」
「乗ってたんでしょ?」
「足が長くないと成立しない丈の長いスプリングコート!これを着こなせるのは才能だよ!」
「これから夏になろうというのに」
「文句ばっかり〜!」
着せ替え人形のように次から次へと新しい服を試すが反応は芳しくない。
思わず嘆く瑞希に対して全治郎はカーテンを閉め、次に開けると元の制服姿で出てくる。
「あ〜着替えちゃったよ」
「もう十分だろ」
「うーん、まぁ気に入るものなかったならしょうがないか」
「いやこれとこれは買う」
「良かったの!?」
表情から感情を読み取るのが難しい男だ。調子を狂わされていると店の中にクラスメイトを発見する。
「あれ?あそこにいるの…」
「知り合いか?」
「うん、友達だよ。お〜い…」
「でもさ〜何であんな格好してるんだろうね」
「!」
声をかけようとした時、2人の会話が耳に届き足を止める。
「好きなのかもしれないけどさ、噂立てられるのが嫌なら学校ではやめればいいじゃん」
「瑞希ってそういうところあるよね〜周りに合わせられないっていうかさ」
「……」
瑞希がいるとは思ってもいないであろう2人。その内容は学校での様子からは考えられないような言葉。
状況からして本音はこちらだろう。瑞希のにこやかな表情は一気に温度を無くしていく。
(…分かってるふりなんかしなくていいのに)
彼女達なりの優しさなのかもしれない、しかしそれは余計なお世話だ。わざわざ陰で発散するくらいなら最初から関わらないでほしい。
(まぁいいや、慣れてるし。ちょっとずつ距離とって…)
自分の中で2人の存在がどんどん薄くなっていくのを感じていると全治郎が目の前を歩いていく。
一瞬理解が及ばずにキョトンとしていると向かう先が2人である事に気付き急いで引き止める。
「ちょちょちょ!何する気!?」
「よく分からないが気持ちの良い話じゃなさそうだ。一言言ってくる」
「いや行かなくていいから!」
「しかし」
納得していないのか食い下がってくる。相変わらずの無表情だがこういうときは分かりやすいようだ。
「いいよ別に、誰が何と言おうと僕は僕だし。」
「…本当にそう思ってるのか」
「……思ってるよ」
問いかけてくる目はこちらを見透かしているような、だが本当に疑問に思っているようにも見える。
その視線に耐えられず背を向けるとレジに向かって歩き出す。
「服買うんでしょ?お会計行くよ〜」
「…分かった」
促されるままに会計を済ませる。ひとまずここで出来ることはもう無いと瑞希は次をどうするか考え始める。
「う〜ん、なんかリクエストある?」
「…じゃあ飯」
「え、お腹すいたの?」
「…作るのも面倒だからな」
「………あ」
全治郎の言葉に学校での会話を思い出す。確か両親も引き取ってくれた人もすでにこの世には居ないのだ。
会話の内容からしておそらく今は一人で暮らしているのだろう。
(このまま帰っても一人で過ごさないといけないんだ…)
家で一人で食事をしている全治郎を想像すると胸が締め付けられる。確かここにはファミレスもある、そこに2人で行こうと誘おうとした時突然全治郎が頭を押さえ苦しみ始める。
「がっ…!?」
「ちょ、どうしたの!?大丈夫!?」
「これは…!」
強烈な痛みと共に頭の中にイメージが流れ込んでくる。そこに映し出されるのは服屋に来るために通った吹き抜けになっているエリア。
そこで人々を襲う茶色いヌメヌメとした怪人。目や口がどこにあるかも分からないその怪人は腕すら無くヒトデのような印象を受ける。
何を模しているかもわからないそれに悲鳴を上げる人々の様子を感知した全治郎は走り出す。
「あそこか!」
「一体どうし…なにあれ!」
吹き抜けを見下ろし怪人を発見する。追いかけてきた瑞希が驚いているが構っていられない。
鞄からベルトを取り出すと腰に装着する。
『セカイドライバー!!』
「それ…!?」
「悪いな、ここを持ってすぐに離れろ。危ないからな!」
『CHANGE THE WORLD!!』
瑞希に鞄を預けると飛び降りながら変身する。すぐさまジャスティスブレードを取り出すと女性に掴みかかった怪人を頭から斬り裂き、真っ二つにする。
「瞬殺!?」
「…自分でもビックリしている」
まさか一撃で倒せるとは思っていなかった。ひとまず女性の安否を確認しよう、そう思った時。
「あ、あが…」
「!?」
掴みかられた女性の首を絞める怪人の腕の力が弱まる気配がない。いや、異変はそれだけではなかった。
2つに分かれた体がいつまでもその体勢を維持している。驚きに固まっていると女性に触れていない方の体の一部が突然伸びライダーを吹き飛ばす。
「ゴホッ!?」
「全治郎!」
地面に一度大きくバウンドすると空中で体勢を立て直し着地する。何が起きたのか怪人の方を見るとそこには信じられない事が起こっていた。
斬り裂いた断面がもぞもぞと動くともう一体の体も伸び始める。
片足で立っていたそれぞれが2本の足で大地を踏みしめ、先程体を伸ばした個体がその位置を移動させると腕として固定する。
頭部も再生され、そこには2人に増えた怪人が立っている。怪人は掴んでいた女性を離すと並んでこちらを向く。
三角形の頭部にある感情を感じさせない小さな目でライダーをとらえると怪人、プラナリアノーネイムは揃って走り出す。
「くっ!」
剣で斬ると増えてしまうと理解したライダーはジャスティスブレードを消して素手で対応する。1体目が振るってきた腕を弾くと2体目が折り曲げた腕を拳に見立ててパンチを放ってくるのをのけぞって躱す。
回避の隙を狙い放たれた1体目の足払いを片足を上げることで躱すと2体目の前蹴りがライダーの腹部を捉え蹴り飛ばされる。
「……ッ!面倒だ…!」
数で負けていることもそうだが連携に一切の乱れがない。ましてこちらは得意な戦法を封じられている。
相性の悪さに歯噛みしているとプラナリアは相方の腕を掴み思いっきり引っ張ると千切る。
「…!?」
仲間同士で行われる余りにも残酷な行動に思わず固まると千切った腕をこちらに向けて投げつけてくる。
なんなく躱すもそのまま投げた個体が飛びかかってくる。その腹を思いっきり蹴飛ばすと追撃を放とうとするも腕を再生させたプラナリアが妨害のために攻撃を仕掛けてくる。
後退しながらその攻撃を捌くと突然後ろからプラナリアに羽交い締めにされる。
「何っ!?」
視界の先には蹴り飛ばしたプラナリアと腕を千切られていたプラナリアが既にいる。
にもかかわらず新たな個体が現れた事にライダーは驚きながらも気付く。
先程投げつけられた腕、自身の後方に飛んでいったあの破片から肉体を再生させ3体目のプラナリアノーネイムが誕生していたのだ。
まんまと相手の策にハマってしまったライダーが後悔する暇も無く、1体目と2体目が動けないライダーを2人がかりで責め立てる。
「全治郎!どうすれば…」
2階から状況を見下ろしていた瑞希は焦りを浮かべる。どうにか助けたいが自分にはどうすることもできない。
何とかする方法を考えるために必死に頭を回転させていると何かが足元に転がってくる。
「え…?これって…」
転がってきた物体に驚きながら拾い上げる。そこにあったのは全治郎が変身するのに使っていたのと同じ物。
色だけが違うことから種類は違うのかもしれないが問題はなぜこんな物が転がってきたかだ。
戸惑っているとプラナリアの攻撃がライダーの腹部に強烈にめり込む。今までの中で特に正確に打ち込まれた一撃に苦痛の声を上げる様子に瑞希は咄嗟にそのスフィアを投げる。
「全治郎!これ!」
「!」
瑞希の投げたスフィアを受け取ると思わず頭に疑問符を浮かべる。何故瑞希がこんな物を持っているのか。
その疑問の答え、スワンプは物陰から2人の会話を聞くと満足そうにその場を後にする。
「さて、これで下準備は完了だ…」
満に与えた偽の情報、全治郎に与えたカイザのスフィア。後は2人をタイミングを見計らって出会わせれば作戦は完了だ。
自分を憎み合う者同士が騙されているとも知らずに潰し合う未来、それでいて自分の目的も達成出来るのだから最高だ。
泥の中に入り怪人のセカイに戻りながら歪な笑みを浮かべる。彼の悪意が全治郎達にジリジリとにじり寄っていた。
「考えてる場合じゃないな!」
覚悟を決めるとセカイスフィアの能力で全身に炎を纏い自身を羽交い締めにしていたプラナリアの体を焼く。
思わず離れた隙に跳び上がるとスフィアをキャッチし、離れた位置に着地すると振り返る。視線の先では体が燃え上がる個体を他の2体が必死に鎮火させている。
どうやら熱に弱いらしいことを察知するも、瑞希がくれたスフィアを見つめるとスイッチを押す。
『カイザ!!』
起動させたカイザスフィアをベルトに装填しその力を解放させる。
霧がライダーを包み込むとそのシルエットに黄色いラインが走っていき、閃光となり霧を包むと中からカイザセレクトへと変わったライダーが出てくる。
『CHANGE THE KAIXA!!』
『complete』
姿が変わると共にベルトから光が飛び出し両手にそれぞれカイザの専用武器、カイザブレイガンとミッションメモリーが現れるとスフィアから伝わる情報に従い装填する。
『Ready』
「……」
カイザブレイガンの下部から黄色く輝く刀身が伸びるとライダーはマスクの下で顔をしかめる。
逆手になるように現れたそれをひっくり返し順手に持ち直すと両手で構えるも、プラナリア達に焦った様子はない。
剣による攻撃ならばむしろ望むところだからだ。しかし、ライダーにも考えがある。
「行くぞ!」
互いに向かって走り出す。3対1、圧倒的有利な状況でまずはプラナリアAが腕を振るうもカイザブレイガンによる斬り上げを浴びせられる。
その間に割り込むように現れたプラナリアBを斬り裂くと最後に残ったCの足元に銃撃を放ち牽制する。
足が止まったところに急接近すると走り抜けるように一閃、これら全ての斬撃を先ほどのように両断するのではなく裂傷に留める。
再生はされるだろうが増えることはないはず、そう考えていたがさらに嬉しい誤算が出てくる。
高出力のフォトンブラッドを宿した刃、それに斬り裂かれたプラナリアの体は熱で焼かれたように傷が固まり再生されない。
「嬉しいことだが…やっぱり剣は厳しいな」
得意の武器は使うことは諦めミッションメモリーのみを残しカイザブレイガンを投げ捨てる。
次に取り出すのはデジカメを模したアイテム、カイザショットにミッションメモリーを装填すると腕にメリケンサックのようにつけベルトを操作する。
『FINISH THE KAIXA!!』
『EXCEED CHARGE』
「フッ!」
痛みに悶えていたプラナリアのうち1体に向けて拳を放つ。無防備な体に打ち込まれた一撃はその身体にΧの字を浮かび上がらせ青い炎を上げながら焼失させる。
仲間がやられたことに気付きさらに襲いかかってきた個体に蹴りをぶつけるとカイザショットを外し、今度は双眼鏡を模したアイテムであるカイザポインターにミッションメモリーを装填し足にハメると必殺技を発動する。
『FINISH THE KAIXA!!』
『EXCEED CHARGE』
ポインターの先から光線が発射され四角錐型のエネルギーが突き刺さりプラナリアの体を拘束する。
ライダーは空中に向かって跳び上がると両足を突き出す。
「ハァァァァ!!!」
プラナリアに向かっていくライダーがエネルギーに吸い込まれるとそれ自体もプラナリアの体に消えていく。
通り抜けるようにライダーがプラナリアの後ろに現れると再びΧの字が現れ焼失する。
最後に残った1体は勝ち目がないと判断したのか背中を向けて逃げていく。
ライダーはジャスティスブレードを取り出すとベルトのスフィアを取り外す。
三度目の必殺技を発動しようとしたその時、ライダーに異変が起こる。
「っ!?」
突然足に力が入らなくなり地面に膝を着く。何が起きたのか理解できずにいるとスーツが光となり消えていき変身が解除される。
手の中のスフィアのスイッチを押してみるも何の反応も示さない。
(体が重い……息切れってやつか…?)
フォームチェンジに加え連続の必殺技の使用によりエネルギーを使いすぎてしまった。
自らの失敗を後悔しているとプラナリアがジリジリとこちらに近寄ってくる。
「チャンスと見たか…舐めるなよ…」
変身は出来なくとも武器だけでも出せないかと試すも上手くいかない。それでも黙ってやられるものかと震える足で何とか立ち上がろうとする。
プラナリアは諦めずに足掻こうとする全治郎を嘲笑うように体を揺らすと腕を振り上げ駆け出す。
「全治郎!」
迫る危機に思わず瑞希が叫ぶ。しかしそれにより何かが起こるわけではない。
2人の距離はどんどんと近づくいていき、全治郎の命の期限が迫る。瑞希が思わず目を瞑りそうになったその時、何処からか飛んできた矢がプラナリアの目の前を横切る。
「ありゃ、外しちゃった。クレープ持ちながらは無茶だったか」
3人の視線が矢が飛んできた方向に集中する。そこには片手でヒットシューターを、もう片方の手でクレープを持った弓が立っている。
弓はクレープの残りを急いで食べると袋を丸めて近くの棚に置く。
続いて懐に手を入れドライバーを取り出そうとしたところでヒットシューターの持ち手にクリームが付いていることに気付き拭き取ると今度こそ取り出す。
「さぁ、ヒーローの出番かな!?」
『シック!!』
装着したベルトにヒットシューターをジョイントさせるとスフィアを装填する。
そこから両手を前に突きだし親指が上に来るように手でハートマークを作る。
崩すと左手はそのままの位置で、右手は何かを摘むような形にしながら顔の横に引っ張っていく。
最後に右手を開くとウィンクをしながら少し口を尖らせキメると叫ぶ。
「変身!!」
『MY LOCK SICK!!』
弓の体が霧に包まれシルエットのみになる。すると煙に勢いよく穴を開けピンク色の矢が飛び出す。
飛び出した矢は空中でハートマークを描くと煙の穴から見える弓の顔に目掛けて戻ると突き刺さる。
頭に矢が突き刺さった衝撃で後ろに倒れ込むようにバランスを崩すも途中で止まる。
矢が顔に纏わりつくように溶けていくとそのまま広がっていき全身を覆い、スーツを形成し終えるとエネルギーを放ち霧を吹き飛ばす。
「お待たせ、やろうか?」
全身を覆うピンクの装甲、胸に矢が突き刺さった心臓のイラストが描かれている。
ヘルメットは半分ほどが黒マスクにより覆われ表情を覆われている。そのマスクには牙をむき出したようなイラストが描かれ垂れ下がった複眼も加わり笑っているかのようだ。
弓が変身した戦士、仮面ライダーラヴァーはヒットシューターを構えると矢を放つ。
真っすぐに飛んでいった矢はプラナリアの体を貫通し穴をあけ、すぐに再生される。
「あっれぇ…」
予想外のプラナリアの挙動に思わず固まる。プラナリアは自らの優位を感じ取ったのかラヴァーに向かって駆け出しその腕を振るう。
勢いよく放たれたフックを少し仰け反ることで的確に躱す。追撃に放たれた逆の腕も動きに合わせて回転することで空を切り次に放たれた攻撃も舞い上がるように躱すと2Fの手すりに腰をかける。
「面倒くさいなぁ…」
手すりの上で頬杖を突きながら対策を考えているとプラナリアが腕を引きちぎる。
それをラヴァーに向かって投げつけるとラヴァーもヒットシューターの矢を放つ。
正確に放たれた両者の一撃は真っすぐにぶつかり合う。だがそこからは先ほどとは違う。
ラヴァーの矢がプラナリアの腕に刺さった瞬間、その矢が爆発し腕を吹き飛ばす。
プラナリアが思いもしない展開に驚いていると、空中に上がった爆煙から追加で放たれた矢が幾つも飛び出しプラナリアに刺さると爆発を起こす。
「うん、成功」
ラヴァーの持つヒットシューターは当然ただの弓矢ではない。彼女の指先のセンサーからその想いを汲み取り望んだ効果を持つ矢を放つ能力を持つ。
爆発の勢いで地面を転がっていくプラナリアを眺めながら手すりから飛び降り地面に着地する。
新たに現れた敵もまた自分に対する有効打を持っていることを察したプラナリアは今度は自分の頭を引きちぎる。
「!?」
さすがに頭まで外せると思っていなかったラヴァーが驚いているとプラナリアがその頭を地面に置く。
置かれた頭はそのまま高速で這うように移動すると逃げていき、残された体からは新しい頭が生えラヴァーに向かって駆け出す。
「逃げようってわけか…やらせるわけないよね!」
『ENEMY LOCK SICK!!』
ベルトを操作し必殺技を発動させると地面にエネルギーで出来た弓のイラストが浮かび上がる。
その先端にラヴァーが踵を叩きつけると矢の先が現れ、足を後ろに引いていくのと連動して伸びていく。
最大まで引き絞った後、足を地面から放す。すると矢が放たれると同時に弓の弦が勢いよく戻り軸足を前方に向かって吹き飛ばす。
「ライダーキィィック!!」
前方に足を突き出しながら吹き飛ばされたラヴァーが放たれた矢に追いつくとそのまま後ろから押し出すように飛んでいく。
矢がプラナリアに突き刺さるとラヴァーのキックにより体内に注入され、逆の足でもう一度蹴りつけるとバック転の要領で後ろに跳び着地すると同時にプラナリアの体が爆発する。
「さらに!」
ベルトのスフィアを外すとヒットシューターに装填する。持ち手を捻りながら構えるとその先端にエネルギーが充填されていく。
プラナリアの頭は後ろで狙われているのを感じながら高速で逃げていくも、ラヴァーのセンサーがその姿を捉えるとマスク内にターゲットスコープが現れロックオンする。
「一心必中!」
『シンドロームショット!!』
ラヴァーが手を放すと同時に光の矢が放たれる。高速で迫る必殺の一撃に追いつかれると判断したプラナリアは矢の軌道から離れるように側溝に入り込む。
しかしその上を矢が通り過ぎようとした時突然直角に曲がりプラナリアに向かって一直線に突き刺さり爆発する。
プラナリアの焼失を確認するとラヴァーは中指と薬指以外の指を立てたハンドサインをしながらポーズを決める。
「アーイムウィナ〜〜!!」
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「……ん?」
敵を倒し満足な気持ちに包まれているが視線を感じる。振り向くとそこにはじっとこちらを見つめる全治郎の姿がある。
全治郎の目は警戒を帯びており厳しい目つきをしている。
(こないだの奴は帰ったが…どうでてくる…)
今のところ全治郎の中にある他のライダーの情報は2通り。
出会ってすぐに襲いかかってきたスワンプと地下通路で姿のみ確認し何処かに消えたレイジだ。
前者は論外だが後者も味方と断定することは出来ない。警戒を解かずにいる全治郎に対してラヴァーも思考を巡らせる。
(すっごい見てきている…やっぱり仮面ライダーって男子受けいいんだ…これなら新一も…)
しかし大したことは考えていない。自らの恋路の成就の可能性を見いだしながら咳払いをすると口を開く。
「おっほん!では私はこれで!ヒーローは忙しいのでね!風邪ひくなよ少年!」
「…は?」
ラヴァーの発言に思わず拍子抜けしてしまう。相手から見ても自分は警戒すべき対象であることは間違いないはず、かける言葉として余りにも軽い。
実はこの時、全治郎は気付いていなかった。膝をつき前傾姿勢になった今の自分は、ラヴァーからドライバーが見えないようになっていることを。
彼女から見たら怪人に襲われたただの一般人、気にすることはなくその場を去ろうとする背中を引き留めるとカイザスフィアを投げ渡す。
「待て」
「ん?何?サインならしないよ…って!おっと!」
突然投げられたスフィアを落としそうになりながらも何とかキャッチする。
手の中に収まったスフィアを不思議そうに眺めながら首を傾げるラヴァーに対し全治郎は淡々と続ける。
「借りを作るのはごめんだ、それをやる」
「おぉ…ありがとう!」
「よし…瑞希、メシ行くぞ」
「え、今から!?いいけど…」
満足したのか全治郎は瑞希を連れて去っていく。ラヴァーはそれを見送ると後ろで変身を解除する。
スワンプの立てた悪意ある計画、その歯車がカチリと確かに狂った音がした。
「あ、クレープのゴミどこだっけ?」
設定
仮面ライダーラヴァー
弓が変身する仮面ライダー。専用武器『狙撃弓ヒットシューター』は使用者の望んだ効果をもつ矢を発射することが出来る。
どの程度の効果を発揮するかは使用者の想いの強さに比例する。
仮面ライダーオリジン/スワンプカイザセレクト
仮面ライダーカイザの力を宿した姿。多種多様な武器と高出力のパワーを活かした戦闘を得意とする。
スワンプは原典通り武器を逆手に持つが、オリジンはスワンプへの忌避感から順手で持つ。
プラナリアノーネイム
プラナリアの姿を模した怪人。常識はずれの再生能力を持ちそれを活かして分裂などの戦法をとる。
書いてて非常に楽しい。スライム以来である。
次回予告
「お前には雇われてるだけだ」
「来たよ、お父さん」
「誰かを救う音楽ってどうしたら作れるのかなって」
「俺は俺を取り戻す」
第五話 『偽者』
「サヨナラ、常世全治郎」