貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
本編と関りはほぼありません。
原作のネタバレの塊なので注意がいるかも。
一般転生者が「超かぐや姫!」をオススメするだけ
ある物語を見て、俺は一筋の涙を流した。
熱くなった目頭を抑え、静かに上を向く。努めて冷静に落ち着くためのルーティーン。だが、俺の動作に反して、俺の豊か過ぎる情緒は嵐のように荒れ狂っていた。
こんなにも感情が震えたのは久しぶりだ。
「とんでもねぇBIG LOVEを見せつけられちまったな………」
「うわ何ですか急に、気持ち悪っ!?」
「ひどくない?」
隣で寝ころんでソシャゲをしていた青髪サポートAI美少女が、ドン引きの表情でこちらを見る。
コイツの名前は転生者サポートAIのイデア。
本来は転生特典のスマホに自我があるが、気分次第でこうして自作した義体に電波を飛ばして乗り移って遊んでいる暇人だ。
普段はバーチャル動画配信をやっている。
「自分のマスターが急に涙流してLOVE…とか呟きだしたら嫌でしょ」
「はあ? そんなこと………………あるな、一理ある」
一理どころか、百理しかなかった。
野郎が自室で涙流して愛を呟いてるのは、たしかにアウトだな.........。
なにも知らない他人が見たら、クトゥルフ神話TRPGなら問答無用でSANチェックもの、フロムゲーなら発狂ゲージ蓄積不可避、つまりかなりヤバイ絵面だ。
反省しよう。
「で、何を見てたんです? この一流V配信者イデアちゃんにも教えてくださいよ」
「俺を気持ち悪がってたくせに………、そこはしっかり聞いていくんだな?」
「いいですかマスター。面白いものは人類の共有財産です。面白いものは他人に紹介する義務があります。マスターに罪はあるかもしれませんが、作品に罪はありません。あとぶっちゃけ気になります教えてください。」
いろいろ言いたいことはあるが突っ込むまい。
まあ、俺も今見た作品を自分で整理したい。
試しにイデア相手に話してみるのはいいアイデアかもしれない。
抱えていた観賞用のタッチパネルを操作し、問題の作品を青髪アンドロイド女に見せる。
あっでも、ネタバレすることになるな。
え? 後で記憶消せる?
ああ、そうですか、便利な奴だAI配信者。
「んん! ………ハロー新世界! 新人異世界転生者のレンジロウだ! 今回の紹介は個人調べでかつ独断と私情と偏見によって構成しているから鵜呑みにするのは勘弁な! 正しい情報は自分で調べてくれ!」
「そこから始めるんですね? いいんですね?」
「う、うるさいな気分だよ気分。………今日紹介するのは~コレ! 【超かぐや姫】」
華やかに彩られた街並みに、美少女が三人描かれたイラスト。
イデアが目を丸くする。
「ああー! 知ってますよコレ! 今一番話題のアニメじゃないですか! まだ見てませんけど!」
「映像時間は142分、2時間22分の作品となっているぜ」
「超大作ですね………。120分オーバーってめちゃくちゃ長いじゃないですか」
「ああ、だがこの作品はその時間の長さを感じさせないくらい魅力的な内容になっている」
何から話すべきか。
「まずは、【超やぐや姫】あらすじか」
時はむかしむかし、ではなく遠い未来、でもなく。
ちょっと先の現代にて、文武両道才色兼備の完璧主義者である17歳の美少女、「
親から離れて上京し、高校に通うための学費を自力で稼ぎ、ゲームで遊び、推し活し、高校では常に成績でトップを取り続ける。あまりにも超人的な彼女だが、当たり前のように一杯いっぱいで過労死寸前。そんなある日、突如七色に光るゲーミング電柱から現われた赤ん坊を拾う。
拾われた赤ん坊「かぐや」は爆速で成長し、ありえん事象にぶっ壊れる一歩手前の彩葉を引っ張って、二人はバーチャル空間【ツクヨミ】で配信活動をしていく。
「ちょっと待ってください」
「なんだなんだ」
「なんですかその「僕の考えた最強の一般女子高生像」みたいな主人公は。遊んで推し活しながら学費稼いで成績トップって、ハッキリ言わせてもらいますけどね。人間として最強過ぎて現実感無いですよ! うだつの上がらないモブ人間がトラックに撥ねられた拍子に運よく異世界転生しましたの方がまだ納得できますよ!」
それ俺の事言ってる?
いやまあ、実際ラッキーだと思ってますよ。ホント。
「おい、俺をディスるのはいい。だが酒寄彩葉を否定するのは許さねえ」
「うわ目ェ怖………っ! ガチのやつじゃないですか。なんなんですか酒寄彩葉って」
「俺の、推しだ」
「何人いるんですか、マスターの推し」
知らんがここで一人増やすことになる。
推しは何人いてもいいって古事記にも書いてあんだよ。
「まあいいや、この物語は3人のキャラクターを中心に描かれている」
主人公の酒寄彩葉。ゲーミング電柱から生まれたかぐや。そして仮想空間【ツクヨミ】の管理人の月見ヤチヨの3人だ。
ざっとキャライラストも見せる。
「3人ともかわいいですねぇ。あっ彩葉とかぐやは仮想空間で見た目も変わるんだ。印象変わるなぁ」
「ああ、二人は生身の人間だからな。仮想ならではの2面性も表現できてていいデザインだよな」
まずは主人公の酒寄彩葉。
黒上を後ろで纏め結った美少女だ。
推しは月見ヤチヨ。
文武両道才色兼備の優等生、そして自力で学費を稼ぐっていう完璧主義者だ。
分かっている所では成績はオール10、50メートル走は6.8秒、プロゲーマーと競れるレベルでゲームが上手い代わりに、ピアノが弾ける上に、作曲ができる。
そして順当に行けば東大合格が余裕らしい。
あれ、なんかこいつヤバくね………?
その設定は流石にファンタジーがすぎるだろ。
逆に他に何を持ちえないのか聞きたいまである。
「ほら! やっぱりオカシイじゃないですか! 設定がハイスペック過ぎるんですよ! よくあるラノベの主人公最強モノじゃないですか!」
「ち、違う! 酒寄彩葉は………、酒寄彩葉のスゴさはこんなもんじゃねぇ!!」
「まだ上がる要素があるんですか!?」
「………………いや、酒寄彩葉はたしかに人類主席かよってレベルのハイスぺ超人なのは間違いない」
だが違うのだ。
字面で読み取れるほど、酒寄彩葉は明るい人生ではないのだ。
どれほど才能に恵まれていても、彼女は等身大の少女として描かれている。
「作品の中で、酒寄彩葉は苦しそう生きてるんだよ」
「とんでもない才能があるのに、ですか?」
「まあ、才能があるのと、それを使いこなせるのかは、また別なんだろうな」
父親とは死に別れ、たった一人の母親にも不仲で頼れない。
逃げるように上京し、難関大学に受かるために学業に力を入れ、その上で労働に時間を当て学費を稼ぎ、残った僅かな時間は予習に食いつぶされる。時にゲームもするし推し活もする。けれどもそれはきっとごく僅かな時間なのだ。
たかが子どもが、たった一人で頑張るには重すぎる。
もっとラクで楽しく生きれるはずなのに自分を常に追い込み続ける。
だから完璧ではなく完璧主義。
実際、このままいけば遠からず彼女は壊れていたようにも思う。
まあ実際は、ある少女との出会いで変わっていくのだが。
「だから、酒寄彩葉に嫌味な要素は一切ない。むしろ頑張りを応援したくなる。それが彼女の魅力なのかもな」
「たしかに聞いてると応援したくなる女の子ですね」
「なんていうか、努力しているのに報われない感じの、幸薄美少女っていいよな」
「急に性癖の開示するの止めてもらえます? ビックリするので」
いや、ちがうんですよ。
俺ってキャラクターが幸せになるまでの過程で、適度に困難とかを乗り越える話が好きだから、自然と幸薄いキャラ(男女不問)が好きなだけなんだ。
あと酒寄彩葉は薄幸少女とかじゃないから。
薄幸な擬態してるだけで実際に蓋を開けたら、とんでもないストロングスタイルの超強い女だから。
「そんなにですか」
「明らかに人間としてのランクが違うんだよな。見た感じ作中で酒寄彩葉より性能が上の人間はたぶん登場してないし」
あまりにも強すぎるせいで、物語開幕から過労死一歩手前、メンタル崩壊寸前とかいう特大デバフを押し付けられて物語が始まるからな。
「あと与太話ではあるんだけど、ストーリーが進むと酒寄彩葉の脳の情報処理能力が異常に高い描写が出るんだよな」
「へえ、頭が良いってことですか? どのくらい良いんです?」
「詳細は省くけど、五条悟の無量空処を数十分耐えられるかもっていわれてる」
「なんでバトル漫画の必殺技が仮定で出てくるんですか???」
***
「そして、酒寄彩葉の次に紹介するのはコイツしかありえない」
金髪のロングヘア―の陽気な娘。
竹から生まれたかぐや姫、もといゲーミング電柱から生まれた「かぐや」だ。
「さっきから言ってますけど、ゲーミング電柱ってなんです?」
「いや、ゲーミング電柱は………………ゲーミング電柱としか………」
「そんなことあります???」
「いや、金に光る竹の、現代解釈みたいなもんだから」
「適当言ってると、竹取物語の原作者に助走付けて殴られますよ」
「ゴメン次行こう」
かぐや、メインヒロインにして物語を進めるアクセルそのもの。
月からやってきた本物の宇宙人であり、他者との差異がない月がつまらなすぎて地球に降りてきた生粋のパリピ。何もかもが目新しい地球を楽しむため、酒寄彩葉の自宅に居候する。
って感じだろうか。
「あれ? 思ったよりもシンプルな説明ですね」
「個人的には、かぐやは解りやすいキャラだと思ってる」
赤ん坊で現れてから秒で少女に成長するし。自由自在に髪色も変えられるしで、宇宙人であることは間違いないし。
なにせ月がつまらないから、で地球にやってきた女だ。
あらゆるものが目新しくて何にでも興味津々。
だから、自分が楽しむために好き放題やらかすし、酒寄彩葉を引っ張り回す。
冒頭では彩葉からは悪魔呼ばわりされていたか。
「へえ、具体的に何をやらかしたんです?」
「彩葉のなけなしの貯金つかって12万のゲーム機買った」
「十二万のゲーム機を」
基本的に地球の常識を知らないので、とにかくやらかすことが多いのだ。
まあ生まれたてのかぐや姫が地球ルール熟知してるわけもないのでそりゃそうなのだが。
月由来の技術なのか本人の才能かは不明だが、電子通貨の数字をイジって増やすとかは簡単にできるし、なんか自作でペットAIを秒で組み上げてた。
「地球初心者に与えたらいけない才能すぎますね」
「そもそも【月】側の技術が地球文明を余裕で超えてるからな」
電柱内部に肉体を精製したり、逆に肉体を電子情報で取り込むくらいは出来るみたいだし。
「まあそこは酒寄彩葉がストッパーとして機能するからいいんだ。かぐやのやらかしはだいたい彩葉が何とかする」
「一杯いっぱいの現状で苦しむ彩葉さんに追い打ちを………………?」
存在が意味不明かつ金を勝手に使い込むので、酒寄彩葉からの心象は最悪なのだが、自由奔放に生きるかぐやに影響され、彩葉の価値観が少しづつ変化していく。彩葉とかぐやの姿が必見だ。
そしてもう一人、仮想世界【ツクヨミ】の管理者であり、トップライバーである月見ヤチヨだ。
歌って踊れて分身も出来る八千歳のAI、という設定のキャラクターだ。
あと彩葉の推し。
基本弱みや自分の本心をさらけ出さない酒寄彩葉が露骨にデレデレするくらいにはのめり込んでいる。
「あれ、ヤチヨには現実立ち絵がないんですね」
「………ええ、まあうんはい。あくまでヤチヨはツクヨミの存在だから、現実には出てくることはないんだ」
「へーそうなんですねー」
まあそこが面白いとこでもあるのだが。
物語の要所で彩葉たちとかかわり、助言をしたりするのだが、視聴後から振り返ると大きく印象が変わるキャラでもある。
***
「個人的に、超かぐや姫は『ハッピーエンドを目指す物語』だと思ってる」
「ハッピーエンド、ですか?」
「超かぐや姫を語る上で「竹取物語」があるわけなんだけど、コレって結末はあんまり幸せな終わりじゃないんだよな」
「まあざっくり言えば月から来たかぐや姫が、大人になったら月に強制送還って感じですからね」
超かぐや姫でも、竹取物語についてはかぐやが言及している。
こんなのはハッピーじゃない。
なんならバッドエンドじゃん。
だから自分でハッピーにする。
そして彩葉も一緒にハッピーエンドに連れていく、と。
「かぐやは現代の「かぐや姫」なわけだが、当人からすれば竹取物語の展開はハッピーから程遠いと結論付けてる。だからハッピーになるために、これからの人生を全力で楽しもうと彩葉と過ごしていく」
「いまを悩みながら生きている彩葉とは対照的ですね」
「そうだな、何でもできるはずなのに現状を楽しむことができない酒寄彩葉と、全てを捨てて月から来たのに何事も全力で楽しむかぐやとの掛け合い、人間模様の変化が作品の魅力だな」
この作品の凄いところは、全体的な雰囲気が明るい事だ。
彩葉の過去が開示されると、なかなかに重いものだったりするのだが、描写や展開を工夫して視聴する側にはマイナスな感情を抱きにくくなるように作られているんじゃないかと思う。
負の感情が芽生える展開を抑えているというか。
明るい音楽も併せて、軽い心持ちで見ていられるし。
個人的には彩葉の成長もそれなりに穏やかな気持ちで見ていられたのは凄いと思う。普通に酒寄彩葉の母ちゃんとの関係性見てたらめっちゃ怖いもん。
だがそれを感じさせない面白さ!
もはや心地よささえ感じる様な展開の連続!
「つまり彩葉の成長も含めて、ストレス少なくハッピーな話が見れるんですね? 確かに現代はストレスフリーな作品が求められがちですからね! 確かにこれなら私も気軽に楽しめそうです!」
「うんうん、そうだろそうだろ」
「こうしてはいられません! 今すぐ見てきます!」
青髪AIがタブレットに飛びついて視聴を開始する。
俺はやさしい笑みを浮かべ、物語の世界へトリップするイデアを見送った。
□□□□□□(以下、ネタバレの塊)
「騙しましたね!? マスター!」
部屋の扉をぶち抜かんばかりの勢いで、イデアが突入してきた。
「え? なに?」
「知らないとは言わせませんよマスター。このイデアちゃんを騙しましたね?」
「その様子だと見終わったようだな。【超かぐや姫】を」
ぼろぼろ泣きながら睨んでくるイデアをみる。
「まあ、面白おかしく見れるんだけど、この超かぐや姫の話は何処まで行っても竹取物語なんだよな」
「月への強制送還あるなら教えてくださいよ!」
「逆に考えろ、かぐや姫を銘打っといて月へ強制送還がないとおもうか?」
無かったら、そっちの方が詐欺じゃないか?
あるに決まってんだろ悲しき別れがよ。
涙失くして語れない展開が、あるに決まってるよなァ!
「ぐ、むぅ………」
「でも、ハッピーエンドを目指す物語だっただろ?」
「そうでしたけどぉ! 本当に良かったですけどぉ! 後半の情報量が多すぎて感情が迷子ですよ!?」
だよな、いろんな意味で情報多すぎて情緒が破壊されるのが、超かぐや姫の終盤だ。
ハッピーエンドかは意見が分かれるところだが、しかし彼女達は全力でハッピーエンドへ向かって走っていったのだ。
「俺、幸せに対して真正面からぶつかりに行く展開に弱いんだよな」
「うう、ヤチヨ………、いいえヤッチョ………あなたって人は一途すぎます。どうか幸せになってください………、あと推しますどうか推させてください」
「わかる………」
公式MVの【ray】見た後だと余計にね。
明らかに大丈夫じゃない大丈夫なシーンあったし、いろいろヤチヨはおいたわし過ぎるよね。
本当に幸せになって欲しい。
「これは愛です。愛―――いいえ、とんでもないBIG LOVEを目撃しました」
「理解したようだな」
「ええ、これは現代のかぐや姫、後世に残すべき名作――――――いえ、この新たな解釈、辿り着いた結末はもはやかぐや姫を超えています!」
どかりとソファに座り込み天井を見上げる。
時間をおいてなお、思い返せば情緒が滅茶苦茶になる。
かぐや姫をテーマとし、悲しい運命が避けられぬものだとしても、それでもその先へと進んでいく。
過去のエンディングを
俺は両手を広げ、呟いた。
「まさに、いわば――――――」
なによりも真っ直ぐで美しい、その作品のタイトルは――――――