貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
かぐやがライバーを始めて以降、その人気は爆発的に増えていった。
いやー面白かったですね。
マジで。
とくにかぐや争奪KASSEN選手権は最高だった。
明らかにプロゲーマーも混じるプレイヤーたちを、いろPが蹂躙している様は正に圧巻だった。
後半は彩葉の腕前を聞きつけたバトルマニアが乱入していたので、明らかに求婚がどうこうって話ではなかった。
「しかし、すごい人気だな」
「グッズ展開も大々的にされてますからね。マスターも見習っては?」
「見習ってどうこうなるレベルじゃないよコレ」
仮想世界ツクヨミの、人気のない穴場のバーのような店内でイデアと駄弁る。
ファンとして鼻が高いぜ。
と、言いたいところだが、加速度的に増えるファンは、もはや異常な速度だ。かぐやという少女に天性のライバーの才能があるとしても、もはや何か別の力が働いてることすら疑いそうになる。
「やー、まさか短期間でここまで知名度上げるなんてねー? ヤッチョも驚いちゃった」
「………あのですね、ヤチヨさん」
「ヤッチョでいいよー!」
「あのなヤッチョ、天下のトップライバーが、なんでこんなところにいるん?」
隣席でニコニコ笑う歌姫に思わず突っ込む。
ミニライブでバッドなコミュニケーションをかまして以来、ヤチヨからアクセスが来ていたのは把握していた。
転生特典を駆使して、偽造した俺の経歴を詳しく調べると不自然な所しかない。
違法の塊みたいな存在なので、即通報されることもあり得ると思っていたのだが、ヤチヨはそうはしなかった。
どころかツクヨミをうろついていたら、いきなり声を掛けてきて今に至る。
本当にビビったわ。
お前普通に出歩けるのかよ。
いや、無理な理由も別にないだろうが、なんとなく重要な局面でしか動かないと思っていた。
「んー? でもまた会いましょうって、言ってくれたよね?」
「ファンです、次もライブに行きますってニュアンスだったんだけど」
「えー、でもレンジロー達がヤッチョの事がどれだけ大好きかを、あんなに長文で語られちゃったらな」
「???」
「読むのに一晩掛かっちゃった♪」
なにそれ知らん。
長文って何?
俺は、確かにイデアにメッセージを送るように頼んだが。
あの時、メッセージを送ったはずの青髪AIを見る。
「……………イデア?」
「~~~~~♪(口笛を吹く音)」
こ、コイツ!
目ェ逸らしやがった。
そういえばコイツ、ヤチヨの大ファンだった。
メッセージを送るタイミングを見つけたのをいいことに、大量のメッセージを送りつけやがったに違いない。
頭をかかえていると、ヤチヨが急に頭を下げる。
「――――――だから、謝りたかったんだ。疑ってごめんね」
まさか謝られるとは思わず、頭を掻く。
「謝ることはないだろ、むしろこっちが謝りたいくらいだ」
八千年ごしの想い人の隣室に、経歴不明の自称異世界転生者がいたら不安しかない。
本当に反省している。
転生特典使って、やりたい放題してすいませんでした。
「まさか、転生者がいるんなんてねー。ヤッチョ驚いちゃった」
「お、それ信じられるの?」
月の超文明があっても、まだ胡乱な存在な気もするが。
「イデアちゃん見ちゃうとねー、明らかに今の技術超えちゃってるもん」
「ふっふっふ、当然です! やがて人類を
「信じて貰えたならなにより」
まあ疑いが晴れたなら何よりだ。
これで安心して原作の流れに戻ってもらえるだろう。
いやー良かった良かった。
変に原作がズレてしまうのが一番良くないんでね。
マジで。
「ねえ、レンジロー? 転生者としての意見を聞かせて欲しいんだけど」
「ん? ナニ?」
たとえ話なんだけど、とヤチヨが区切る。
「大切な人がいて、その人に逢いたくて今までを生きてきた。でも、その人の隣には、もう誰かがいるの」
「………………ああ」
「隣にいる娘はとても楽しそうで、眩しくて、大切な人を変えていく」
「………それは」
「でね、その時にふと思うの」
――――――私がいなくてもいいんじゃないかって。
「私は、どうしたらいいのかな?」
思わず、ヤチヨの顔を見る。
いつものニコニコと張り付いた笑顔ではない。どこか頼りない、不安げな表情。
現時点において、ヤチヨは俺が原作を把握している事実を知らない。
知る必要もない。
未来の流れを把握している人間の存在なんて、今を生きる人からすれば扱いに困るだろう。
だから、俺が言えることはそう多くない。
「転生者として、の意見か」
ヤチヨは彩葉を愛している。
だが、それゆえに八千年生きた自分が、彼女の重りになることを嫌っている。彼女がヤチヨという存在を受け入れられない可能性に怯えている。ヤチヨではなく――――――かぐやを求めることを恐れている
あらゆる可能性が彼女を縛る。
なら
そうだとしても転生者が伝えられるものは決まっている。
「転生者って言うのは、前世を全うできなかった人間だ」
「………うん」
「あんまり大したことはいえないけど、死を経験して、人生の終わりを感じて、得た学びがある」
理不尽、不条理、どうしようもない理由はあれど、現実に呑まれた名もなき敗北者たち。
俺達にとって【現実】は残酷だった。
死は絶対だ。
運命は不可逆だ。
夢も希望も、救いすらもない。
それでも生きようと藻掻き、それでも生きれず、無為に絶望に果てた。
どれほど次を面白おかしく生きようと、その事実だけは変わらない。
故に一つだけ、確かなことがある。
「
ヤチヨが困ったような表情を浮かべる。
「それだけ?」
「大事なことだよ、悔いは一生残るからな」
「でも、人は間違えるし、失敗もしちゃうよ?」
そうだな、と頷く。
「けど過ちも、失敗も、後悔の理由にはならない」
自分の信じる選択を選べなかった。
それだけが後悔の理由に成りえる。
「間違ってもいいんだ。失敗しても問題ない。なぜなら、それは自分が選びとった結末だからだ」
「結末を――――――選び取る」
「自分を信じてやれよ、幸せの結末は、ヤチヨ自身が決めていいんだ」
ヤチヨが目を見開く。
何かに気が付いたような。
とても大切なことに気が付いたような、そんな表情だった。
「そっか、そうだったんだ」
「まあ話半分に聞いといてくれよな」
「ううん、ありがとうレンジロー。私、何をすればいいのかわかったよ」
「………? なら良かった」
ヤチヨは用事があるらしく、このまま別れる事にする。
何かあれば相談する、とだけ言い残し、彼女は勢いよく店を飛び出した。
――――――私が彩葉をハッピーエンドに連れていく。
それだけを言い残して。
***
鼻歌まじりに、ツクヨミの路地裏を駆ける。
足取りが軽い。
こんなにも気持ちが軽いのはいつぶりだろう。
レンジローと出会えて本当に良かった。転生者がどこまで本当なのかはわからないけれど、彼の言葉で自分は最高の答えを見つけられた。
「そうだ、そうだったんだ………!」
どうして気が付かなかったんだろう。
彩葉をハッピーエンドに連れていく。
それが私の始まりで、それが永い時を超えるために寄る辺にしていた願いそのものだったのに。
私じゃなくていい。
彩葉が幸せになるなら、隣に居続けるのはかぐやでいいのだ。
「待っててね、彩葉! わたしがかぐやを守るから!」
壊れたように笑う。
くるくると踊る。
必ず貴方をハッピーエンドにして見せる。
どんな手を使ったって。
たとえ、
身代わりの別れ√が解放されました。
ヒント:ヤチヨとかぐやは同一存在