貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる   作:四辻ヨキトキ

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簒奪

 

 夏休み、うだるような暑さのなか。

 

 今日も今日とてゲーム日和だ。

 

 

 

「なあ、KASSENしようぜ!」

「ん? 詠坂か、悪いけど今日は無理だな」

 

 スマホ越しに今最も熱い遊戯であるKASSENをフルパで遊ぼうと、ご友人共に掛けるがにべもなく断られる。

 

 普段なら、なんだかんだ遊んでくれる奴らなのだが、どうやら今日は反応が悪い。

 

「なんだよ、連れないな」

「オイオイ知らないのかよ蓮二郎君」

「今日はとあるゲームで緊急イベントがあるんだよ」

「イベント? ゲーム名は?」

 

 俺は人理を修復するマスターで、大陸を救うドクターであり、またある時はトレーナーで提督でもあり、プロデューサーでもあるが、直近で何かイベント開催予定のゲームはなかったはずだ。最近は漂白されていたり、管理人もしていたりもする。

 

 いったい何のゲームだ。

 

「アーマードコア」

「お前それ買い切りゲームじゃねぇか、イベントなんてないだろ」

「いや、実はオンラインで対戦ができるんだが、そこにチーターが現れたらしい。別に強くはないんだが体力が1になると無敵バリアと弾幕を常時展開するらしくてな、面白いから腕試しに挑戦する」

「チーター出現をイベント扱いするな」

 

 フロムゲー民は、強敵に成りえそうな存在を見ると嬉々として飛びつく傾向にある。

 

 過去の死にゲー作品を通して、鍛えられたフロムゲー民にとって極上難度の強ボスを気持ちよく倒せるまで挑み続けるのは当たり前、とりあえずやり込む要素があれば満足いくまでしゃぶりつくすのが礼儀と思い込んでいる節がある。

 

 そこに対人要素なんて投げ込んだ日には、身体が闘争を求めるとか言いながら人を狩り続ける狂気のハイブリッドモンスターが爆誕する。 

 普段から鬼畜難度で感覚がぶっ壊れているため、他ゲーだと忌み嫌われるチーターも、1%でも勝ち筋があればゲームとして成立するので、いまごろ暇を持て余したプレイヤーがチーターに群がっているに違いない。

 

「チーターがいつまで遊ばれてくれるかわからんし、しばらくはKASSENは無理だな」

「はいはい、了解。せいぜい楽しんでくれ」

「KASSENにも面白いチーターがいたら教えてくれ、遊びに行くから」

「あのなぁ、そんなに都合よくチーターがいるわけ――――――」

 

 

 ――――――いや待てよ? 

 

 

「いや、案外悪くないか………?」

「どうかしたか?」

「いや、こっちの話。じゃあまた連絡するわ」

 

 通話を切り、伸びをする。

 

 外を見ればまだ昼過ぎだ。

 今日はバイトもないし、予定もないしで暇。かと言ってKASSENもフルパでしたかったので、ソロでやり込むのも気分ではない。

 

「………アイスでも買いに行くか」

 

 財布だけをポケットに突っ込み、くたびれたジャージを羽織る。

 

『散歩ですか? マスターにしては珍しいですね』

「まあな」

 

 基本的にインドア気質。

 だが、たまにはあてもなくぶらついてみるのもいいだろう。 

 

 

 そんなことを想いながら、街へ繰り出した。

 

 

 

 

*** 

 

 

 

 15分くらいぶらついて、俺は外出したことを後悔していた。

 

「ミスったか………?」

『タイミングが悪かったですね。今日は最高気温が更新されているようです』

「それ先に言ってくれよ」

 

 とにかく熱すぎる。

 

 これでは毎年、暑さで死人が出るというのも納得である。

 

 こんな日に出歩くとか正気じゃないぜ。

 良い子の皆は、危険な日中は出歩かないようにしような。

 

「ん………? アレは?」

『彩葉さんとかぐやさんのようですね』

「だな」

 

 見れば例の二人組だった。

 制服姿の彩葉と、ラフっぽい服装でキメたかぐやが何かを言い合いながら駄弁っている。

 

「こうしてみると、対照的だよな」

『容姿は真逆と言えますね』

「性格的にもなー」

 

 かぐやはカジュアルな服装だが、ただの外出でありながら彩葉は制服だ。

 たしか私服は持っていた筈だが、特別な外出以外は着ないようにしまい込んでいるのか。着るだけでもくたびれるしな、服って。

 

 どこまでも金銭的な面での苦しさが透けて見えるのが、なんとも彩葉らしい。

 

『声を掛けますか?』

「いやいや、夫婦水入らずだろあれは。百合の間に挟まる男になるつもりはないぞ」

『それなりに仲良くしてますし、別に問題ないようにも思えますが――――――マスター』

「あ」

 

 見れば彩葉の足取りがおぼつかない。

 背中を丸め、ふらふらと頼りなく歩き――――――しばらくして胸を抑えてしゃがみ込み、動かなくなった。

 

 最初は不思議そうにしていたかぐやも異変に気が付く。

 

 彩葉の名前を呼びながら、おろおろと寄り添う。

 

『どうします?』

「………ここで友人は放っておけないわな」

 

 原作どうこう以前の話だ。

 

 足早に彩葉たちに駆け寄る。

 

「大丈夫か?」

「れ、レンジロー………、彩葉の身体があつあつで、動かなくて………」

「………みたいだな」

 

 久しぶりに『遊戯視界(ステータス)』を使用する。

 

 その効力は、能力・状態の看破。

 

 酒寄彩葉 LV.36

 筋力C

 敏捷B

 耐久B

 知力S

 幸運D

 備考:過労、発熱、脱水、睡眠不足、頭痛、動悸

 

 状態異常のオンパレードだ。

 正直、良くここまで外出できたなとさえ思えるレベル。

 

 朦朧とした様子で、彩葉が視線だけを動かす。

 

「れん、じろー………?」

「辛いか?」

「………………大丈夫」

 

 それだけを言って、彩葉が視線を落とす。

 

 もう、そんな事を言える状況でもないだろうに。

 相変わらず見栄っ張りで、意地っ張りの友人にやや呆れながらさらに近付く。

 

 なんとも勝手な奴だ。

 

 困ってるなら助けてって言えよ。

 

 相手が勝手なので、俺も勝手に助ける事にした。

 

「俺は転生者で、転生特典を7つ持っている。1つ目が万物翻訳の『完全言語(ワード)』、2つ目が魔力を生成する『無限機関(リソース)』、3つ目が能力看破の『遊戯視界(ステータス)』って具合にな」

「レンジロー? なんの話をしてるの………?」

「んー………、呪術廻戦風に言うなら術式の開示。魔術的にいうなら詠唱ってやつ」

 

 戸惑うかぐやにひらひらと手を振る。

 

 詠唱はより力の出力をより高め、安定させ、精度を上げるための儀式的行為。

 

 いわゆる準備段階。

 

 少しでも強力に使いたいとき、デリケートな状況や、絶対に失敗したくないときにオススメだ。

 

「今回使うのは4番目の『無為簒奪(スナッチ)』。本来は相手の才能を奪い取る権能だが、真価は()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 簒奪

 

 

 それは転生譚の歴史においても異端の力。

 持たざるモノがそれを自覚し、それでも輝かしいモノを羨んだゆえの、格上を喰らうための才能。

 

 才能、道具、運すら問わず全てを奪い取る極悪の異能。

 

 だが、ゆえにこそ今回は役に立つ。

 

 右手に力が宿り、禍々しく黒く輝く。

 

「あらゆるモノ奪う力、だから使い道は()()だ」

 

 もはや意識もない彩葉の肩に手を置く。

 

 それだけで、全てが終わった。

 

 不安そうに、彩葉を抱えていたかぐやが、何かに気付く。

 

「あれ? 彩葉、あつあつじゃない」

「………だろうね」

 

 彩葉のステータスを覗き込む。

 

 酒寄彩葉 LV.36

 筋力C

 敏捷B

 耐久B

 知力S

 幸運D

 備考:気絶

 

 大量のバッドステータスはもう消え失せている。

 いまはただ、疲れ果てて眠っているというだけの状態だ。

 

「ま、今日は1日安静にしとくべきだな。とりあえず家まで運ぶか」

「でも………」

「バイト休むのも、連絡一本入れれば心配いらないしな」

 

 ここまで説明するが、かぐやの表情は明るくならない。

 

 もっと大喜びするかとも思ったが。

 

 意を決したかのように、かぐやが俺を見る。

 

「レンジロー大丈夫? なんか、顔色悪いよ」

「………………あ、わかる?」

 

 詠坂レンジロウ LV.1

 筋力E

 敏捷E

 耐久E

 知力E

 幸運E

 備考:過労、発熱、脱水、睡眠不足、頭痛、動悸

 

 ちょっとさっきから体調が最悪すぎる。

 

 つーか冷や汗が止まらん。

 頭が割れるように痛いし、全身が鉛のように思い怠い。凍えるように寒いのに身体が発熱してるのが分かる。すげー勢いで心臓が動いてる。

 

 簒奪で状態異常パクったはいいが、馬鹿みたいに苦しい状態になってる。

 

 正直、頭が回らない。

 

 ちょっと舐めてましたね。

 この状態で動き回ってたとか、ちょっと信じられない。

 

 酒寄一族のスペックってやっぱどうかしてるわ。

 

 突然変異かなんかの超生物集団じゃないか?

 

「やばい、なんか爆発する」

「爆発しないで!?」

「頑張るわ」

 

 身体を引きづりながら彩葉を背負う。

 

 え、軽っ!

 

 体重なさ過ぎる。

 あと明らかに痩せすぎだ。こいつ自分を追い込みすぎだろ。

 

 生活を改めるように言おう。

 

 

 

 

 かぐやに励まされながら、俺は気合で自宅まで帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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