貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
転生者乱入開始
別の世界に転生をするなら、というもしもの話というものは案外友人間ではポピュラーなテーマだ。
呪術廻戦とか型月とか。
知り合いが思い思いの世界と、その理由を話す中で俺は言った。
転生するなら【超かぐや姫!】とかいいよね。
魔法魔術のファンタジーとかも人気だが、基本戦争に転用可能な技術がある世界は命の危険があるのでNGだ。大抵の場合、悪の組織やらなんやらによって世界が滅茶苦茶になるし、いろんな意味で安心ができない。
その点、超かぐや姫なら安心だ。
なんだかんだ世界が平和だし、近未来のゲームあるし。おまけにとある超人によって、とんでもないブレイクスルーまで確定しているので。概ね人類の未来はあかるいといっていい。
だからもし行くなら超かぐや姫の世界が良い。
とか言ってた時期が俺にもありました。
「いや、まさかホントに転生するとはね」
『仮想世界ツクヨミの存在、仮想通貨ふじゅ~の普及、間違いなく転生先は超かぐや姫でしょう』
俺の転生特典によって生み出されたAIのイデアが、スマホから音声を震わせる。
「マジかー、どうしよう」
『とりあえず転生特典使いまくって、衣食住確保するべきでは? 使い方次第では世界一の富豪にもなれると思いますが』
「いや、悪目立ちするのは良くない」
だが、確かに無一文の身分もない存在であることは事実だ。
とりあえず、転生特典で戸籍を偽造してー。
最低限の身分を得るために高校入学してー。
あとはバイトで金を稼ぎつつ、普通の人間として暮らせる程度に、生活を安定させるべきだろう。
幸い、ここは近未来の日本だ。
身分さえあれば、どうにでもなる。
「……………いや、待て」
『なんですか?』
「ここは超かぐや姫の世界なんだよな?」
『そうですね』
「当然、酒寄彩葉もかぐやもいるわけだ」
『そうなりますね』
「映画、滅茶苦茶面白かったよな」
『それはもう最高でしたね』
「俺、酒寄彩葉が推しなんだ」
『わたしはヤチヨとかぐやですね』
イデアの言葉にうんうんと頷く。
「これもしかして、推しを最前列で眺めるチャンスなんじゃないか?」
『ですが、原作破壊の可能性も生まれてしまうのでは? 私は心配です』
やや、イデアは乗り気ではなさそうだ。
「お前の推しのヤチヨとかぐやも見れるだろ」
『盲点でした。流石ですマスター。最前列で推しましょう』
斯くして、馬鹿な異世界転生者の無法極まりない推し活が開始されたのだった。
***
異世界転生に歴史あり。
異世界転生という
様々な物語が紡がれると共に、主人公を助けるための転生特典もまた無数に生まれた。
それは、あらゆる知性の壁を超越する【言語の翻訳】だった。
それは、相手の性能を看破する【遊戯の視界】だった。
こうあれば、という誰かの願い、その集積。
世界を塗り替えるほどに想い望まれた、名も無き人々の願いの奇跡の数々。
その力を今宵、詠坂レンジロウは一つ解禁する。
「酒寄ィィィイイイイ………、今晩は負けねぇぞ。我に秘策在り!」
「ふーん、面白いじゃん。いいよ、また負かしたげる」
時は夜。
場所は仮想空間ツクヨミ、ゲーム『KASSEN』内。
タイミングが合ったクラスメイトを引き連れ、稀代の天才である酒寄彩葉に3対3の仁義なき挑戦を叩きつけた。
超かぐや姫の主人公。
文武両道、才色兼備にして、学費を自力で稼ぎつつ作曲ができてゲームもうまい超人。
ちなみに同じ高校の同級生でもある。
そして俺の推しだ。
え? 推しをゲームで負かそうとするな?
いやでも、推しとゲームできるなら絶対にやりたいでしょ。あとマジでKASSEN面白いし。やらないとか無理。
「詠坂さぁ、言っとくけどコレ貸し1だからな。マレニア倒しに行こうな」
「これ終わったらナイトレイン2するから、レート上げ手伝ってくれよな」
「わかったわかった」
ほら貝が鳴り響き開戦。
KASSENの2Dマップを開きながら出撃。
いちはやく彩葉の所在を確認し、そのまま全速力で突っ込む。
見敵必殺。
目視した瞬間から使用武器である黒い盾を担ぎ、獣人アバターの少女を撃破しようと振り回す。
が、当たらない。
間合いが見切られてるのか、紙一重で躱されてしまう。
あと場所選びミスった。
竹林エリアで仕掛けたのだが、視界が悪いし盾を振り回しにくいしで戦いにくい。
ちなみに相手はブーメラン型特大ブレードなので切り払いながら戦える。
ずるい。
「平地で挑めばよかった………!」
「秘策在りっていって、結局タイマン撃破狙い? レンジロウがいつも通りなら私が勝つけど?」
やや呆れ気味に、彩葉が動く。
ブレードを分割して二刀流に。
さらにアンカーを使い、竹林内を立体的に飛び回り始める。
で、でたー! 酒寄選手お得意の立体機動だー!
本人の反応速度と卓越したキャラコンありきの超絶テク。
対抗しようと俺も齧ったことがあったが、要求される技術が多すぎてマネできなかった。
頭上を乱反射気味に飛び回られて、目で追えなくなったところを真っ二つだ。
思い返せばこの技を出されると、ほぼ確実に背後を取られてブレード2本に細切れにされている。
「し、死にたくねェー!」
「はい、おしまい――――――」
「――――――というとでも、思っていたのか?」
ここで転生特典、発動ォ!
【
俺の魔力無限! 魔力で自分を強化することで反応速度を最強にするぜ………!
背後に立っていた彩葉のブレードを盾で受け止め、そのまま弾き飛ばす。
「………は? なに今の反応!? こわ!?」
あらゆるファンタジーにおいて魔法魔術の源泉と目されるエネルギー。それを後先考えなく使い放題というのだから、常識的に考えて弱いわけがない。
魔力を使っている内は肉体は常に強化され続け、常人を遥かに超える耐久力と膂力を得られる。多少の傷は秒で治るし、隕石が直撃しても致命傷にならない。ほぼ不眠不休で活動できるうえに、泥水啜ってもお腹を壊さないで栄養に変えられる。
転生先で理不尽に屈さぬように、不条理を覆すために願われた。
逆境を圧倒的力業による解決を目的とした、超強力な転生特典だ。
肉体を強化するという事は、反応速度も強化するという事………!
ぶっちゃけ現行人類の限界を超えてる。
あらゆる挙動に対してラグなしで動けるぜ。
「ゲームで転生特典使うのはズル? いやいや、相手は超人酒寄彩葉。全力で挑まない方が失礼ってもんだろ!」
「何の話してんの!?」
「気にすんな! そんなことより負けた時の言い訳でも考えておくんだな!」
この圧倒的反応速度! 今日強化された肉体によるコントローラー破壊寸前の指捌き!
彩葉の立体機動も見失わずに捉えられている。
これなら勝てる! タイマンで一度も勝てたことのない酒寄彩葉に勝てる!
勝利の雄叫びを挙げながら突撃をかます。
盾で叩き潰してやるぜェ!
「いや、敗けないよ。このくらい」
「え?」
突進をあっさりと飛んで躱される。
攻撃に合わせ、頭上を飛び越える様な鮮やかな回避。
慌てて振り返る。
いや、焦るな。
動きは目で追えている。盾を構える余裕は全然ある。
だが、彩葉は斬りかかってはこない。
むしろ何かを引っ張るようにブレードを引いて――――――
「―――ん、なんだこれ?」
なんか首に紐が掛かってるな。
そう思った瞬間に、視界が暗転。
気が付けばスタート地点に戻されていたので、どうやらキルされたという事だけ解った。
そのまま他のメンバーも、彩葉によってキル。
出撃場所で全員リスキルされまくって敗北。
こうしてKASSENは、一方的な蹂躙で幕を閉じたのだった。
後で解ったことだが、彩葉のブレードから伸ばしたワイヤーで首を斬り飛ばされたらしい。
あのワイヤーって、そんな使い方あんの?
どこのアサシンだよ、とか思いながら、俺は酒寄彩葉の凄さに感心して布団で眠るのだった。
***
『マスター、朝です。起きてください』
「うす………」
スマホが鳴らすアラームで目を覚ます。
狭いアパートの一室だ。
やや金属臭い部屋でぼーっとした後、身体を起こして布団を畳む。
パンを焼き、顔を洗い、着替えて、焼き上がったパンを齧りながらスマホを弄る。
『今日は音楽、数学、現国、体育実技………、まあいつも通りですね。忘れ物だけはしないように注意してください』
「了解っす」
『じゃあ私は推し活しておきますね。本日も健闘を祈ります』
「おまえヤチヨ推しだもんな、頑張れよ」
スマホ上の青髪AIのイデアに急かされながら、アパートを出る。
まあ出ると、登校時間がだいたい同じ少女と出くわすことになる。
「おはよ、蓮二郎。昨日は楽しかったね」
「おはよう彩葉さぁん、リスキルされる側は楽しくなかったぞォ!」
はい、というわけで、酒寄彩葉の隣の部屋に住んでまーす。
いえーい。
………………いや、違うんですよ。
うちの超性能AIが戸籍とか偽造するついでに、とりあえずの住処を探したんですけどね。
例のアパートがたまたま見つかっちゃって、隣室も空いてたみたいで。なら推しをなるべく近くで見たいよねって話で、即申し込んじゃったみたいなんですよ。
おかげで毎朝、推しを見れて寿命が延びまくりだ。
ああァ~! 推しの面が良過ぎる!
だがそれはそれとして、敗けたのが悔しすぎる。
マジでいつかタイマンでぎゃふんと言わせてやる。
「ね、昨日のアレ。何してたの?」
「リスキルされてました」
「違うって。なんか、戦ってる途中に突然動きが良くなったじゃん?」
「ははっ、アレねアレ。ははっ」
魔力で自分強化してイキってたやつね。
んで、反応速度を上げたところで、プレイスキルが上がったわけでもないし、初見技を対応できなかったら意味ねーだろっていうオチが付いたアレね。
恥ずかしすぎるだろ。
転生特典つかってボロ負けしてたら世話ねーよ。
いやでも、どうやって答えよう。
「…………あれは体内の魔力を全身に巡らせて自分の反応速度を上げてたんだ」
「ま、魔力………?」
「俺は転生者だからさ、魔力系の転生特典をもってるんだわ。それ使って本気出せば人類最強なんだよな」
「お、おおー?」
「………っていう設定でした~。いま異世界転生モノの小説書いてるんだ」
すまない、酒寄彩葉。
俺にはこの冗談じみた事実を信じさせる才能はなさそうだ。
いやほんとごめん、ドン引きさせてしまった。
いやでも小説書いてるのは本当だ。
ライバーとしてふじゅ~をほそぼそと稼いではいる。
「ま、ヨガパワー? みたいなもんだよ」
「あ、あーなるほど?」
「皆には内緒な? 昔それで酷い目にあったんだ」
「ああ………、そりゃ浮くよね………」
推しから注がれる、やや同情気味の視線。
おいおい。
たまんねぇな。
肌に張りが出る。
もっと蔑んで欲しい。
むしろ、なじってくれ。
「まあ、もしあり得ないことが起こったら相談してくれ。たぶん力になれる」
「ええ~………、別に起こって欲しくないんだけど。例えば、あり得ない事って何?」
「ん~、ベタなところなら幽霊見たとか超常現象――――――あっ」
丁度いい事例を思いついた。
胡乱な表情を浮かべる彩葉に話す。
「発光する竹とか見かけたら相談に乗るぜ! むしろ教えて!」
「かぐや姫かっ! ………ここら辺に竹なんて生えてないよ」
俺は酒寄彩葉に鼻で笑われた。