貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる   作:四辻ヨキトキ

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 変な奴だ。

 

 

 酒寄彩葉は、詠坂蓮二郎と初めて出会った時にそんな印象を抱いた。

 

 初めて出会ったのは学校ではなく安アパートだ。

 上京して間もない頃に、アパート出かける時間が重なって知り合ったのだ。

 

 いかにも学生ですと言った、これといって特徴のない風体。

 

 街を歩けば見かける様な、どこにでもいる少年。

 ただ妙に擦れ切ったような、あるいはどこか疲れ切ったような、長い時間の中ですべてが億劫になったような印象を受けた。

 

 けれど、自分を見た瞬間、どうにも嬉しそうに頬を緩めた彼をよく覚えている。

 

『初めまして、俺は詠坂蓮二郎。お隣さんだよな? コレも何かの縁だし仲良くしようぜ』

 

 聞けば自分と同じ上京してきた学生で、さらには同じ高校に通う予定らしい。

 

 なんとも珍しい偶然だと、当時は驚いた。

 少し興味が出て、上京までして一人暮らしをする理由を聞いたが、これがまた俗っぽい理由だった。

 

 

 

『………………推し活?』

 

 

 

 それだけのために、わざわざ上京して進学校に通うことにしたらしい。

 親から逃げるために上京した自分も大概だが、目の前の少年もなかなかに変な奴だった。

 

 悪い奴ではなさそうなので、蓮二郎とはそれなりにつるむようになった。

 

 いまでは同じ一人暮らし同士、助け合うこともある。

 

 

 仲の良さは――――――まあ程々だ。

 

 

 別に特別仲がいいというわけではない。

 

 普通に話すし、時間が合えばゲームもする。

 ヤチヨのライブには必ず揃って参加するし、お互いにグッズも集めて見せあうこともする。

 

 

 けれども、詠坂蓮二郎はどこか違うのだ。

 

 

 その場にいるくせに、一歩引いて俯瞰しているような。

 楽しんでいるように見えて、どこか冷めているような。あるいは――――――そもそも自分たちとは見えている景色が違うような。

 

 彩葉とは違った理由で、何かを抱えているのだろう。

 

 何かを知っているのに白々しい。

 

 仲良くしたそうなのに、自分で線を引いている。

 

 楽しそうに見えて、どこか寂しそうな、変な奴だ。

 

 だから、まあ、昨日の蓮二郎は意外だった。

 

「アイツ、あんなことも言うんだ………」

 

 目を覚まして、布団から身体を起こす。

 やや寝ぼけた頭で、少年の言葉を思い返すと、ほんのりと心の底が温かくなった。

 

「よし、頑張ろう!」

「あう~」

「………とりあえず、アイツ起こすか」

 

 いまだ解決しないゲーミング電柱生まれの赤ん坊に対処するべく、少女は隣人の少年を起こすことにした。

 

 

 

 

***

 

 

 

「ねみー………」

「ちょっと、しゃんとしてよ」

 

 いや、ちょっと昨日は眠れなかったよね。

 

 布団に入ったまではいいが、ゲーミング電柱ベビーを見てしまって興奮が醒めなかった。

 

 結果、寝不足である。

 

「警察には、それとなく連絡入れてみたけど。別に届け出とかはなさそうだったぞ」

「だよね………」

 

 すでに一回、警察から説明を放棄している彩葉は諦め気味だ。

 

 そもそも月から来た赤ん坊に捜索届が出るはずもない。

 本来なら嘘をならべてでも警察に渡すのが、まあ間違いなく正しいのだろうが、それをやられると超かぐや姫の原作ブレイクどころの話ではないので、あえて指摘しない。

 

 すまない酒寄彩葉。

 

 俺はおまえとかぐやの絡みが見たいだけなんだ。

 

「ま、とりあえず様子見でいいんじゃないか」

 

 朝っぱらからインターホンを連打され、連れてこられたのはベビー用品店だ。

 様子見がてら歩き回れば、学生の身分からは考えられない、金額のアイテムが山のように積み上げられている。

 

 奥さん、最近は紙オムツが高いんですって。

 

 まー嫌ザンスねぇ、困っちゃうわ。

 

「無理……………、無理無理無理無理無理無理無理!!」

 

 おお、値札を見て彩葉様が発狂しておられる。

 

 だが、追い詰められた言動と表情とは裏腹に、手だけは必要なモノを買い物カゴにどんどん投げ込んでいる。超人彩葉はそのまま死んだ表情でレジへ向かう。

 

 その額、ざっと15,000円。

 

 おいおい、ほとんど消耗品だぞ。高すぎんだろ………。

 

 世の中のパパとママに敬礼。

 

「うう………、ふじゅ~で支払いお願いしま――――――」

「隙あり」

「え」

 

 彩葉が支払おうとスマホを置こうとした瞬間、流れるように俺のスマホを横から差し込む。

 

 支払いが完了したとの電子音。

 

 き、気ん持ちいィ~!

 

 まさか合法的に推しに万単位で課金できる日が来るなんてなぁ。感動だなぁ。

 

「ちょ、何してんの!? 買い物は付き合うだけでいいって言ったよね!?」

「すいませ~ん もう支払っちゃったんでェ」

 

 彩葉に胸倉をつかまれるが、気分は最高だ。

 この俺が、原作キャラに金を支払うチャンスを逃すわけないだろ。残念だが、俺の懐から出たお金でかぐやは粉ミルクを飲み、オムツを履くのだよ。まあ今日だけだけどな!

 

 まあ正直、今日限りしか使わない出費と知りつつ、友人に支払わせるのも悪いしね。

 

「ほら、レジから動こうぜ、店員さんも困ってるぞ」

「く………っ! 後でホントに返すからね!?」

「期待してまァ~す」

 

 ニコニコした表情の店員に見送られながらさっさと出る。

 

 荷物を抱えてぶらぶらと帰路を歩く。

 

「ホントにもう………」

「気にしすぎだろ、誰が払っても一緒だって。もし親が見つかったら請求するからさ、領収書も取ってあるし」

 

 まあ、そんな親は何処にもいないのだが。

 

「なんでここまでしてくれるのさ。言っとくけど、15,000円って大金だよ?」

「そうだな、ラーメンセット10回分くらいあるな」

「どんな例えだ………、まあそうなんだけどさ」

「別に、本当に大事なことは、彩葉にしか出来ないからな」

 

 結局のところ、俺は傍観者だ。

 

 俺ができるのは原作を破壊しない程度に眺めることくらいだ。

 多少の手助けくらいは出来るだろうが、結局のところ、一番大事なところは彩葉とかぐやが頑張るしかないのだから。

 

 現実と向き合い。

 

 悩みを振り払い。

 

 運命を超える。

 

「頑張れよ。これから楽しくなるぞ」

「なんか納得いかないなぁ」

 

 

 

 

 彼女たちがハッピーエンドに辿り着くには、きっとそれしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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