貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
「………あっ、遅いですよマスター」
「悪い悪い」
仮想世界クツヨミ沿岸部にて。
俺は転生サポートAIのイデアと待ち合わせをしていた。
茶店の軒下でパフェを頬張る青髪の猫耳少女の隣に腰掛け、メニューにあったみたらし団子を一口頬張る。
うん、無味無臭!
そりゃまあゲームですからね。
「どうよ、調子は?」
「配信は順調ですね。有り難いことにファンも少しづつですが増えてきました。最近はやはりKASSENのプレイ配信が熱いですね」
普段はやることがないので、イデアはAI系ライバーとして活動しているのだ。
お前それヤチヨと設定被ってるじゃねぇか。
と、思わないでもないが、案外評判も悪くないらしい。
本人が月見ヤチヨのファンを公言しているので、周囲も生暖かく受け入れているのだとか。
あと肉体が無いゆえにほぼフルログインし配信し続けているため、巷では生活を危ぶまれたり、ライバー界の配信モンスターと呼ばれている。
夢は月見ヤチヨとのコラボ配信らしい。
頑張れ。
ちなみに俺は異世界転生者系ライバーとして活動している。
活動内容はオススメの創作物を紹介したり、気分次第で小説投稿したり………まあロクにファンもいない弱小ライバーだ。
モチーフ生物は亀。
KASSENでは甲羅を脱いで盾と鈍器代わりに運用している。
「しかし、ついに始まりましたね」
「ああ、ようやくだ」
イデアと顔を合わせてニヤリと笑う。
時系列的に、彩葉の親友である
酒寄彩葉に合掌していると、声を掛けられる。
「あっ、レンジローだ! 何してるの?」
見れば丈の短い着物(?)の金髪ギャル――――――もとい、かぐやがいた。
垂れ長のロップイヤーが特徴的。
2人で遊び回っていたのだろう、隣ではシックな色合いでコーデネートを決めた狐耳の少女の彩葉がいた。
「よう、かぐや、見ての通り寛いでるのさ」
「………あれ、かぐやの名前って蓮二郎に言ったっけ?」
彩葉に怪訝そうな表情で突っ込まれる。
やべ
そういえば、朝の時点では名前は決まってなかったか。
俺が知っているのはたしかに不自然すぎるな。
誤魔化しとこ。
「いや違うんですよ。かぐや姫っぽいからあだ名付けるなら、かぐやかな~って思ってたんだよ。スゴイグウゼンデスネー!」
「ふーん?」
「マスター、マスター! そろそろ私を紹介してほしいのですが」
助け舟を出すように、イデアが話す。
見知らぬ少女に彩葉とかぐやが首を傾げる。
「………あーところで! 俺の転生特t………知り合い? のAI………って設定のライバーのイデアさんです」
「こんイデア~! いつもニコニコあなたのそばに! やがて人類を
「おお~!」
「あ、聞いたことあるかも。最近人気のライバーさんだよね」
「お二人の話は聞いています! マスターがいつもお世話になっています!」
かぐやが手を叩き、イデアは御満悦といった様子だ。
だが、彩葉の胡乱な視線が俺を貫く。
「なに? あんた身内に自分をマスター呼びさせてんの?」
「いや違うから………、そういうロールプレイみたいなもんだから………」
「ふーん………」
妙だな。
さっきから彩葉の俺の株がどんどん暴落していっている気がするぞ。
「ほ、ほら。そろそろヤチヨのミニライブじゃないか? はやく行こうぜ!」
「あ、ほんとだ」
「ナイスですマスター、急ぎましょう」
道中、ヤチヨの話でめっちゃ盛り上がりながら移動した。
***
『ヤオヨロー! 神々のみんな! 今日も最高だったー?』
天女のようだ。
と誰かが思った。
銀糸のような髪を纏め上げ、着物を着流した美しい少女。
揺蕩う深海のような穏やかさと、浮世離れした神秘性を纏った存在。何もない暗闇の中に光を見つけた時のような、手を伸ばさずにはいられないナニカ。
惹かれ者とでもいうべき彼女に、俺達は夢中になっていた。
「うおおおおおおお! ヤチヨ様最強! ヤチヨ様最高!」
「最高ですっ! 貴方こそが神なんですよ!!」
彩葉とかぐやからは離れた位置で唾を飛ばしながら、自作した応援グッズの団扇をふる。
「今宵もみんなを誘っちゃうよ!」
「「誘ってェェェェエエエエエエエ!!」」
悲しきかな、握手券を手に入れる事が叶わなかった。
邪魔にならないように、彩葉たちとは別の場所で俺とイデアはライブを眺めていた。
「Let's Go on a trip!」
そうして、歌姫の声が世界に満たされていく。
誰もが聞き入り、心を震わせる。
当然、俺もだ。
はあー最高過ぎる。
いやしかし、あらゆる意味で神懸かり過ぎるだろ。
海という全てを包み込むイメージもヤチヨによくあっている。
歌の名は『星降る海』
未だ人類が到達できない不可侵領域。
宇宙と深海、二つを対比とした幾星霜の時の流れとその孤独。そこに寄り添うような願いの言葉。
歌詞にヤチヨの全てが詰まってんだよな。
うーん、ダメだ。
泣いた。
「はぁ、………最高だったな」
「同意です………。しかし、そろそろですよ」
見ればヤチヨカップの開催の宣伝だ。
期間内にファン獲得数が一番多いライバーとヤチヨがコラボライブするという異例の事態。
そこに野郎三人組のライバー『ブラックオニキス』乱入!
そしてかぐやもライバーとして参戦する旨を、超大声でヤチヨに叫ぶ!
うお声デカ。
早速、ライバーになろうとログアウトするかぐやと、それを追いかける彩葉。
あ、ファンと交流するために分身しているヤチヨと彩葉が握手してるシーンを目撃。
あぁ~(寿命が延びる音)
「………心配ですね、ちゃんと
「杞憂だろ彩葉もかぐやも、
ヤチヨ。
文字通り八千年の時を生きた少女。
その正体は、かぐや姫として月に帰り、そして彩葉にもう一度会うために地球に戻ったかぐやだ。
ただし、時空を超えて地球へ戻る際に隕石に衝突し、八千年前の日本に辿り着いてしまい、月に帰ることも出来ず、現代まで生き延びる事しかできなかった。
だが、ようやく彼女も報われる。
ここまでくれば、後は予定調和だ。
彩葉はかぐやとのライバー活動を通して成長し、彩葉がヤチヨの正体に気付くことで、ヤチヨは八千年の呪縛からようやく解放される。
そして彩葉の覚醒。
有り余る超人スペックをフル活用し、技術革新を連発しまくり、電子の肉体しか持たないヤチヨに義体を用意し、めくるめくハッピーエンドへ向かうのだ。
「ええ~? ヤッチョも幸せになれるの~?」
「たりめ~よ、俺達は、ただその時を待てばいいのさ!」
笑いが止まらないとはこの事だ。
誰もが羨む、推しの最前列にして特等席、そこで三人が幸せの絶頂に至る瞬間を眺めるチャンスが来るとは。
「「あはっはっはっは!!」」
イデアも満面の笑みで笑っている。
いや、なんならよく見ると笑ってない。
やや気まずいというか、ヤバい事態を間近で見てるみたいな感じで、頭を抱えている。
「あ、あああああのあのマスター、一旦落ち着きましょう」
「は?」
隣で笑ってるのがイデアじゃないなら、じゃあ誰だよ。
とか思いながら見ると、美少女がいた。
つーか、ツクヨミの管理人。
トップライバーの月見ヤチヨだ。
流れる様な銀髪を纏めた少女。
仮想アバターの分身体なのだろう、ややあどけなさを残した容姿の彼女が、ニコニコとこちらを見ていた。
…………これ、不味ったな?