貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
仮想世界ツクヨミから逃れるようにログアウトした俺は、腕を組んで考え込んでいた。
「………ここから入れる保険あるってマジ?」
『ありませんよ。どうするんですかコレ』
「だよなぁ、困ったよなぁ」
スマホからのツッコミに天を仰ぐ。
ヤチヨに俺達の存在がバレた。
彼女はかぐやが月の超技術で過去に戻り、八千年を過ごした末の姿だ。
当然、かぐやの記憶は持っている。オマケに明らかに月人由来の記憶能力を持っているのは間違いない。そんな彼女が俺達の存在を、明らかにこの瞬間から認識し、猛リサーチを掛けているという事実。
「
『明らかに初見の反応でしたからね………』
「んー」
状況を整理してみる。
ぶっちゃけ、俺達としては原作ストーリーを傍で眺めたいだけだ。
皆がハッピーになって、メデタシしちゃってるところを見てメデタシしたいだけなのだ。
では、ヤチヨ視点ではどうだろうか。
永遠とさえ思える八千年の時を耐え続け、ようやく現代に辿り着き、やっと彩葉と巡り合うことができた。
あとは彩葉に自身の事を伝えるだけ。
自分そのものであるかぐやと彩葉が仲を深めたあとで、自分の存在を伝える機を見計らっている状況だ。
が、そこに明らかに過去の記憶に存在しない奴らが二人。
何か知ってそうな意味深な話しているうえに、自分の唯一の心の支えである少女の隣人として過ごしており、過去の経歴に不自然な点があり、おまけに月人由来のデータ干渉を防ぐ技術まで持っている。
「ツーアウトってとこか」
『どこら辺がツーですか、フォーアウトは余裕でいってますよ』
「わかってるよ、言ってみたかっただけだって」
客観的に見て怖すぎるな俺達。
少なくとも杞憂で済ませられるレベルじゃない。
『ちなみに、アパート周辺一帯の機器に、名称不明のユーザーから鬼アクセスされてます。とりあえず弾いていますがおそらくヤッチョでしょう』
「こわい」
こわい。
流石は電子生命体。
電波の通る場所ならば、プライバシーなんて存在しないのと同義か。
それを防いでいるイデアも大概だが。
『チート生まれは飾りではないのです。ヤッチョ単独のハッキングくらいならば問題ありません』
「頼りになり過ぎるなうちのAI」
当面はまあ安心か。
とりあえず寝ようか。
今後の方針はまた後で考えよう。
と、思った矢先にインターホンが連打されたので、玄関を開ける。
「レンジロ~、ライバーになりたいんだけど、なり方教えて~!」
「唐突だな………、彩葉に聞けよ。あとインターホン押すのは一回にしてくれ」
もっと彩葉と関われ。
仲良くなっててぇてぇ空間形成しろ。
「ヤチヨと会ってからずっとニヨニヨしてるんだもん。あと勉強始めちゃった」
「ああ、なら仕方ないな。………俺も課題するか、忘れてたわ」
「え”ぇぇぇええええ!! レンジローも!? やだー! 遊んで―!」
「ライバーの成り方聞きに来ただけじゃないのかよ」
この世の終わりみたいな声でかぐやがゴネる。
仕方ない。
「ライバーになるのは簡単だぞ。ツクヨミで表現活動をするだけだ」
「えー、それだけ?」
「そんだけ」
そもそも仮想空間ツクヨミは創作プラットフォームだ。
極端な話、ツクヨミでアバターを作り、活動しているだけでライバーと言える。
「活動が面白かったらファンが付くんだ。うまく行けばお金だって稼げる」
「おー! お金ほしい! 彩葉が喜ぶ!」
だが、かぐやが首を傾げる。
「でも、なにをなにで表現? したらいいの?」
「表現の方法なんていくらでもあるからな、自分に合うものでいいと思うぜ」
「レンジローはなにしてるの?」
「小説投稿とオススメ作品紹介動画」
なんでもいいのだ。
絵、漫画、小説、歌、ダンス、ゲーム配信等々何でもあり。
創作ないし、表現って言うのは楽しむものだ。大事なのは何をしたくて、何を見せたいかってことくらいか。
「ま、大切なのは楽しむことだよ。結局そこが一番大事」
「んー、わかった!」
「推しが楽しんでるところをファンは見たいもんだからな」
大抵の場合、楽しんでいる人間に、周りの人間は集まってくるものだ。
弱小ライバーの俺から言えるのはそのくらいか。
それ以上のことは、もっとライバー活動に専念しているやつに聞くのがいいだろう。
「相談するなら綾紬か諌山が………、ああ、そうだ。ライバーのコツを知りたいなら適任がいるな。………ほい」
「スマホ?」
懐からスマホを取り出し、かぐやに手渡す。
「イデア、頼むわ」
『ふふふ、仕方ありませんねぇ! マスターの頼みであればねぇ! 断れませんねぇ!』
「イデアじゃん! さっきぶりー!」
『さっき振りですね、かぐやさん! 私が来たからにはもう安心です。このパーフェクトAIのイデアちゃんがライバー道のいろはを手取り足取り教えましょう!』
「おー!」
かぐやがクルクルと回りながらイデアと話す。
イデアはかぐやとヤッチョ推しだ、それはもう丁寧に教えるに違いない。
俺も課題に向き合えそうだ。
「じゃあな、スマホは終わったら返してくれ」
「わかった! ありがと!」
花が咲くような笑み。
後ろ暗さも後悔も、微塵も感じない笑顔。
それが、どうにもツクヨミの管理人を思い出させた。
どういうわけか、寂しそうに笑うヤチヨの表情と、妙に重なって見えた。
扉を閉める手を止める。
「………なあ、かぐや」
「どうしたのレンジロー?」
「たとえ話なんだけどさ、自分のハッピーエンドの直前に、ソレを眺めてる奴がいたらどうする?」
「えー? なにそれ? テツガクとか? クイズ?」
「そんな感じかな。当人に邪魔をするつもりはなくて、誰かのハッピーエンドを見たくてその場に居合わせてるだけなんだ」
んー、とかぐやが腕を組んで唸る。
「やっぱ邪魔かな?」
「あっ! わかった!」
ぽんと手を叩いてかぐやが顔を上げる。
「それってライバーとファンってことじゃん!」
「………お、おお」
「かぐやならファンは大事にするからねー。ハッピーエンドを見たいならみんなにバッチリ見せつけちゃうかなー!」
うんうんと彼女が頷く。
いまだファン0人の人間の筈だが、しかし自信満々にそう言われると納得してしまうものがある。
「どう? 正解?」
「まあ、そういう解釈もあるか」
「なにそれ!?」
「ちなみに正解はない」
「はー? 意味わかんないじゃん!?」
「ははは」
ぷんぷん怒るかぐやをみて笑う。
まあ、なるようになるだろう。
失敗を挽回できる程度には、強力な転生特典を持っているのだから。
「イデア、アクセス制限は解除しといてくれ」
『………いいのですか? おそらく私たちの全てがバレますが』
「変に拗れるくらいなら、教えとく方が無難だろ」
とりあえずは敵ではないアピール位はしてもいいだろう。
最終的に全てを調べたヤチヨがどう結論付けるかはわからないが。
「あとは、アクセス元にメッセージでも入れといてくれ」
『わかりました。内容は?』
「そうだなぁ」
俺達は傍観者だ。
別に多くは語る必要もない。
というか、転生者云々を開示されても困るだろうし。
だからまあ、ファンとして一言くらいが適切だろう。
つまり、こうだ。
――――――次のライブも楽しみにしています。