貸せ、本当のハッピーエンドはこうやる 作:四辻ヨキトキ
小説版早く届いて………
かぐやのライバー活動が始まった。
それは正に圧倒的な速度の成長だった。
アシスタントであるいろPを引き連れ、やりたいことを手あたり次第に手を出し、それを面白おかしく配信していく。
歌って、踊って、ゲームに料理、とにかく片っ端から試していく。
何事も全力で。
無我夢中で
それがどうにも面白く、そして見ていて心地よい。
見ているだけで本当に楽しそうで、見ている自分も楽しくなっていく。
加速度的に、ファンの数が増えていく。
そんなこんなで、あっという間にライバーたちの存在にその存在を認知されていくのだった。
「「「いえ~い!!」」」
「い、いえーい………」
彩葉宅にて、ジュースの入った杯が打ち鳴らされる。
メンバーは彩葉、かぐや、そして親友の
机の上には大量に買い込んだお菓子。
それぞれが思い思いの好物に手を伸ばしながら、わいわいと盛り上がっていた。
「いやー、それにしても凄いね。案外、ヤチヨカップ優勝も夢じゃないかも」
「かぐやちゃんゲーム上手いしね~。見てて楽しーもん」
芦花の言葉に、真美が頷く。
今回はかぐやのファン獲得数一万人突破記念。
新人ライバーとしては異例の速度での急成長であり、ファン獲得数を競うヤチヨカップではかぐやの人気そのものがランキングに直結していると言っていい。
今なおファン数は伸び続けており、理想的な大成功だ。
「ふっふっふ、まだまだこんなもんじゃありやせんよ~! 目指せナンバーワン!」
「なんでもいいけど、勉強の邪魔はしないでよね」
「ええ!? そんな事言わないでー、彩葉も一緒に遊ぼ?」
「ちょ、熱い、くっつくなー!」
はしゃぐかぐやに彩葉が釘を刺す。
かぐやがすり寄り、彩葉が押しのける。
「………ほんと、変わったよね」
「ねー」
その光景を見ながら――――――芦花と真美が目を細める。
かぐやという少女が彩葉の家に居候を始めてから、彩葉の様子が明らかに変わった。
いままでの彩葉は完璧超人でありながらも、どこか破綻した危うさがあった。
何処か自罰的で、つねに限界を試し続ける様な、破滅的な生活を送る日々の彼女。
芦花も真美も何かと理由を付けて、食事に誘ったりと気に掛けていたが、彩葉の線引きを超えることはできなかった。
芦花は問う。
「彩葉、今楽しい?」
「いやっ、全っ然っ! 五月蠅いし! 食費掛かるし! あと勉強の邪魔するし!」
「また彩葉が意地悪言ってる!」
否定こそすれど、どこか楽しそうな彼女。
化粧で隠していた顔色の悪さも、食生活が変わったのか血色も幾分か良くなっている。
「あはは、ほんと良かった」
「ええ!? 今の会話で良い要素在った!?」
不満げな表情をする彩葉を可愛らしく思いながら、芦花たちはジュースを飲む。
「あ、もうこんな時間。そろそろ帰るね」
時計を見れば17時を回っている。
夕食の時間にはまだ早いが日も沈みかけている。
芦花と真美が帰ろうとする。
「えー、一緒にご飯食べよ―よ! 今日カレーだし!」
「カレー? 今から作るの? 食材無かったよね」
「レンジローが今日はカレー作るって言ってた」
「食べに行く気なの!?」
カジュアルに男の家に上がり込もうとするかぐやに、芦花たちが衝撃を受ける。
詠坂 蓮二郎。
芦花は苦手だ。
これと言って特徴が無い少年。
友人達とはよくゲームや漫画などの意見交換を良くしている。よく彩葉の後方で腕を組んで頷いている姿を見かけていた。
たしかに隣人であることは知っていたが、一緒に食事するほどに仲がいいとは思わなかった。
「めっちゃ料理上手いんだよ!」
「ダメだからね。迷惑になっちゃうでしょ」
「そんな事言ってー、彩葉も誘われたら断らないじゃん?」
「あ、アレはご飯が勿体ないと思って――――――!」
気が付けば、隣室から足音がする。
噂をすれば蓮二郎だろうか、ゴミを出しに出てきたのかもしれない。
「あ! レンジロー! ご飯一緒に食べよー! カレーとか!」
「ちょっとかぐや! 待てコラ!」
飛び出すかぐやと追いかける彩葉たち。
外に出れば、友人の隣室が開け放たれているところだった。
家主が姿を現す。
それは、腰ほどの背丈のなにかだった。
尖った鼻と耳、ぎょろついた眼。
薄緑色の肌と――――――何より小さな角が生えていた。
その謎の生物は、ゴミ袋を片手に引き摺っており左右を見渡して――――――彩葉たちと目があった。
「「「「…………」」」」
「…………………ギャア」
やべっ、とでも言いたげな表情で緑の小人が扉に引っ込む。
「あ、逃げた!」
「なになになになにいまの」
「子ども!? でもかなりカジュアル過ぎだったっていうか!」
「ハリポタの屋敷妖精みたいだったよぉ………」
四人が顔を合わせて頷く。
夕方故に暗くて良く見えなかったが、どうやら幻覚ではないらしい。
子どもの仮装だろうか。
だが、いまは夏休みが始まったばかり。
ハロウィンはまだまだ先だ。
「………とりあえず、蓮二郎に聞こう」
あの少年なら何か知っている、と彩葉が結論づける。
あの風変りな高校生なら、説明をくれるに違いない。
緑の怪生物が部屋に入った蓮二郎の安否が気になるというのもある。
大丈夫だ。
彩葉のフィジカルなら、成人男性ぐらいのサイズの生物なら単独で制圧できる。
「下がってて」
彩葉が意を決してドアノブを捻る。
カギは――――――掛かっていない。
少しだけ、扉を開けて中を覗き込む。
「……………え?」
扉の先は暗闇だった。
光を吸い込むような闇。
足元だけがほのかに光に照らされ、古めかしい石畳の通路が舗装されている。
それは誰かを誘うように、下へ下へと伸び続いていて――――――
――――――彩葉は扉を閉じた。
「………なんだ今の」
自分の目頭を揉み込む。
明らかにアパート部屋らしからぬ景色が見えた気がする。
疲れているのだろうか。
疲れているんだろうな。
「どしたーん彩葉? 開けたげるね」
「あ、ちょ」
彩葉が止める間もなくかぐやが、扉を開ける。
そこは怪しい石畳の別世界――――――ではなく、見慣れた蓮二郎の一室が目に入った。
いつものように平凡な少年は、ガチャガチャとノートパソコンを叩きながら、誰かと会話しているようだった。
「やっぱ隕石をなんとかできないか? 隕石の軌道ずらすとかできればKは八千年ルート回避即再開じゃん」
『全力でシュミレートしていますが、アレはKの時間移動中のアクシデントです。時期不明では隕石の対応どころか特定すら………、そもそも未来や過去の隕石には手を出せません』
「んー、やっぱむりかー………?」
見れば普段は彼が飲まないエナジードリンクの空き瓶が大量に散乱している。
どうやら徹夜していたらしい。
睡眠だけはしっかりと取ると豪語する彼らしからぬ様子だった。
『いっそのこと月から直接Kを奪い返しては?
「それ下手したらキレた月と全面戦争だろ。………死人が出る可能性の作戦はナシだ」
『相変わらずですね』
「苦労かけるな」
なにかを夢中になって入力している。
いつになく真剣な表情で、彩葉たちに気が付かないようだ。
「そうだ、前世のピクシブデータから最良のSSを探そう。何かヒントがあるはずだ。ハーメルンもチェックしよう」
『斜め上のアプローチですね、ですが悪くないアイデアです』
「………バッドエンドルートもの結構多いな。原作下手につつくとこうなるよな。あっ、この呪術廻戦×超かぐや姫の面白過ぎないか? 五条悟と両面宿儺と虎杖とダブラ呼んでハッピーエンド」
『マスター、マスター、少し休みましょう。明らかに疲れが出てます』
「……………ま、無理なら諦めるさ。とりあえず、そろそろ飯にするか」
今日カレーなんだよなーと、蓮二郎が立ち上がり、こちらを見て固まる。
視界の先には、当然のように彩葉たち四人が立っている。
「人払いように迷宮展開してたよな?」
『いつの間にか解除されてますね、ジャックの仕業でしょう』
ぼそぼそとスマホを片手に話す蓮二郎。
想定外の客のような微妙な反応。
「お、お邪魔しまーす?」
「い、いらっしゃいませー?」
***
「どうぞ、詠坂宅カレーです」
「ほわ~、いただきます!」
各々が熱々のカレーを口に運ぶ。
「なにコレ、美味しすぎ………」
どうやら女子達の口にも合ったようだ。
俺もカレーを口に運ぶ。
突如、鼻を突き抜けるスパイシーな香り。
口内に広がる肉の油の旨み、野菜からにじみ出る甘み、ルーのしょっぱさが、混然一体となって深い味わいになっている。夏らしくナスにピーマン、トマトにかぼちゃと季節の野菜をゴロゴロと入れたのが良かったか。
硬めに炊いたご飯の仕上がりもベストだ。
結論、ウマい。
諌山 真美が目を剥いて固まっている。
「詠坂君、これどうやって作ったの? 秘伝のスパイスとか使ってる?」
「市販のカレールーだけど」
ありえない、美味しすぎるって………と繰り返しながら真美がカレーをパクついている。
そういえば諌山はグルメ系ライバーだったか。
味覚が鋭いのか、グルメゆえに舌が肥えているせいか、転生特典の効果によって味がブーストされているカレーの妙な旨さに気が付いたらしい。種も仕掛けもないので答えには辿り着くことはできないだろうが。
「そういえばさ、蓮二郎の部屋に変な生き物が入っていったんだけど。何か知らない? 緑っぽい小人みたいなやつ」
「い、いや。ゴブリンの事なんて知らないな」
「ゴブリン?」
「緑っぽい小人なんて何も知らないぜ!!」
心当たりしかない。
大事な話をしたかったのでプチ領域展開してたのだ。いつの間にか解除されてたが。
「ほんとに?」
「隣部屋のお子さんじゃないか? 肝試し用の仮装をしてたとか」
「あー、なるほどね」
「そういうことかー」
芦花と真美が頷く。
彩葉はまだ納得いっていない様子だが、なんとか押し切れそうだ。
「そんな事より、ホラ、カレー食おうぜ。おかわりしたい人!」
「「「「はい」」」」
全員かよ。
げに恐ろしきは食べ盛りの少女達だった。
大量に炊いたご飯を空にして、芦花と真美が帰るのを見送り、その日は終了となった。
とりあえず使った皿を洗う。
「ねえ、さっき何の話してたの?」
「さっきって?」
スポンジに洗剤を付け、食器を擦る。
食器を洗うことにすら補正が掛かるため、さらりと汚れが落ちる。
気分よく食器を洗っていると、隣で食器を拭いていた彩葉に聞かれる。
「隕石とか、月とかの話してなかった?」
「………………」
「かぐやの事、だったりする?」
バッチリ聞かれてんなぁ。
適当に誤魔化してもいい。
別段、俺としては彼女たちがハッピーエンドに辿り着く姿が見れればいいのだ。彼女たちが納得の末に得た結末なら、俺はソレをファンとして肯定できる。
現状、原作が好転するような関わり方を俺は知らない。
物語を変に歪めないためなら、しらを切るのが一番無難だろう。
だが、彩葉たちは今を必死に生きているのだ。
物語を必死に走っている最中だ。
「かぐやは、月から来た少女だ」
「………うん」
「わざわざ言うまでもないことだけどな。竹取物語に則るなら、かぐや姫の結末は決まっているわけだ」
月からの迎え。
有無を言わせぬ強制送還。
人々の抵抗すら虚しく終わる絶対の別れ。
かぐやにも、ソレは必ず訪れる。
彩葉が戸惑うように視線を揺らす。
「でも、それは………仕方のないことだよ。受け入れるしかない」
「そうかもな。でも、悲しい話だよな」
「そんなのわからないじゃん、帰る事が幸せかも、しれないし………」
「まあな、かぐや姫は月に帰ってから、案外楽しくやっていくのかもしれない。なんだかんだで、実は月から地球に帰ってくるのかもしれない。いろいろな苦難の果てに――――――その先にハッピーエンドがあるのかもしれない」
だとしても、あの別れはやはり悲しいのだ。
どうしようもない話ではある。
月と地球の文明格差が大きすぎる。
そもそもがあちらの戦力は無限湧きが前提みたいなものだ。
プロゲーマーが2、3人でチートを使おうとも多勢に無勢だ。
所詮は、付き人にとっては戯れ。そもそもゲームで勝ったからと言って、かぐやの強制送還がなくなるわけではない。
そもそも情報を物質化したり、逆に取り込んだりができるみたいだし。
かぐやを現実から取り込んで、それで終わりだ。
今の彩葉にとって、運命は受け入れるものだ。
理不尽であろうと不条理であろうと、現状を飲み下すのが、彼女の処世術だ。
当人のかぐやですら、月からの送還はどうしようもなく、
「気を付けろよ彩葉。避けられない別れがあるなら、俺達はそれを踏まえて動くべきだ」
「避けられない、別れ」
「――――――って、イデアと話してたんだよ。迎えが来たら悲しいヨネーってな!」
やや重い話になってしまった。
空気を変えるように笑う。
原作に当たり障りない話なら、このくらいだろう。
「ま、可能性の話だよ。話半分に思っといてくれよ」
「………もう、なにそれ、ちょっと真剣になったじゃん」
「悪かったって」
大きく息を吐いて、彩葉が切り換えたように頬を緩める。
「あっ、締めにカレーうどん食う? 実は冷凍うどんをストックしてるんだな、これが」
「食べる。美味しいの作ってよ?」
「お任せあれ」
コンロを着火。
めんつゆとその他調味料を駆使して、カレー出汁を創り出す。
そうこうしている内に、芦花たちを見送っていたかぐやが戻ってきた。
「あー! 2人でなんかおいしそうなの作ってる! ずるい!」
「げ、バレたか。いいでしょ、普段から好き勝手ご飯作ってるんだし」
「ヤダー! 私も同じの食べる!」
彩葉とかぐやの言い合いをケラケラ笑いながら、うどんを鍋にぶち込む。
「ちゃんと3人分あるよ。座って待っといて」
なんとも楽しい毎日だ。
端役だとしても、原作を眺められるなんて幸運だ。
喜びに満ちた瞬間だ。
たとえ
いずれ悲しみが訪れるとしても。