まのさば とある少女の事件譚   作:フリッカ・ウィスタリア

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ある日、大好きな妹が泣いていた。理由を聞くと『幻視』で悪いビジョンを見たと。妹を守るため、私は妹の代わりにその悪いビジョンに立ち向かうことにした


姉の使命

「お姉ちゃんどうしよ…」

ある日、妹が私の袖を掴み今にも泣きそうな声で近づいてきた

「どうしたのナノちゃん。お姉ちゃんに話してみて」

ひとまず泣いている妹を宥め、落ち着かせた

「うん。あのね」

話を要約すると、ナノちゃんはさっき、自分がどこかの広間で周りの人に責められているところが見えたそうだ。

そしてその後、ナノちゃんは広間の中央で磔にされ処刑されるのだと

私はこの話を夢だとか、世迷言だとは思わなかった

ナノちゃんには断片的にではあるが過去や未来の出来事が視える魔法をもっていた。

しかし、まだナノちゃんの力は未熟で、視える内容は断片的だし、自発的に出来事を視る事は出来なかった。だから、今話した出来事がいつ起こるのかはナノちゃん自身にも分からない

「分かった。お姉ちゃんに任せて」

ナノカににっこりと笑いかけた後、私は自分の顔に手を当てた

「明日の健康診断。お姉ちゃんが代わりに受けてあげるね。そうすれば今話してくれた怖い話は夢になるから」

そう言いながら手を顔から離すと、ホノカの顔はナノカの物に変わっていた

私もナノちゃんと同じで魔法を使うことができた

でも、私には未来や過去は見えない。代わりに私は自分の姿を他人に変える事が出来た

この魔法を使って、明日行われる『健康診断』を装った『魔女選別診断』を乗り切ることにした

 

 

去年友人がこの検査で異常が見つかり、要精査と判断され、大きな病院に入院していった。しかし、その後その友人は帰ってくることなく、3学期始めの集会にて急逝したと担任教師から知らされた。

私はその事を不思議に思い、色々と調べたのだ。すると、とある掲示板にて全国の中学校を対象に3年生の12月に行われる健康診断は異能の力を持つものを炙り出す検査を行っているのだと書き込みがあった。そこで異能の力が判明すれば政府に秘密裏に消されるのだと。

ナノちゃんが視たという広間での処刑は政府による殺害現場を幻視したのだろう

ならば、私がナノちゃんのふりをして検査を受け、一般人だと認められればナノちゃんが怖い目に合わずに済む

大丈夫。自分の時だってうまく魔法の事は隠せていたんだ。うまくやってやる

 

 

結果は予想外のものだった

返却された検査結果は『要精査』つまり、魔法を持っている事がバレてしまったということだ

「(な、なんで…間違いなく私はナノちゃんを演じきったし、ボロなんて出してないはず…)」

「お姉ちゃん、ごめんなさい。もしかしたら、私の所為かも」

「どういう事?ナノちゃん」

「前に2回くらい、友達が怪我をする未来が見えたの。だから私、いつもと違う道で帰ろうって事故が起きないようにしたの。それを先生とかお医者さんは知ってたのかも。どうしよう…私、どこか連れていかれちゃうのかな」

私はナノちゃんを責める気になれなかった。だって、ナノちゃんは友達を大切に思って行動したのだ。少し鈍臭い所もあるし頑固な割にとても泣き虫だが、友人や周りの事をいつも気にかけている優しい娘なのだ。

「しょうがない。精査の日、私がまたナノちゃんに変身して疑いを晴らしてくるね。私の魔法は目立たないから、よほどのこがない限りバレないだろうし、何よりナノちゃんが捕まらなければナノちゃんがひどい目にあう未来なんて起こりえないんだから」

「そ、それはそうだけど、お姉ちゃんが危ない目に合うかもしれないんだよ?私それは嫌!」

「大丈夫。私は誰?ナノちゃんのお姉ちゃんだよ?安心して」

「で、でも…」

「でももヘチマもありません。ナノちゃんの幻視通りなら、捕まってもすぐ殺されるわけじゃないんでしょ?なら、捕まってる間を何事もなく過ごせれば晴れて釈放だよ。その点ナノちゃんは隠し事ができないんだから、捕まったらすぐ殺されちゃうぞ~」

少し揶揄ってやるとナノちゃんはムスッとしつつ頷いた。

「絶対。絶対帰ってきてね。約束よ」

「うん、約束。絶対ナノちゃんの所に帰ってくるよ」

 

 

後日、検査入院のためと寄越された民間の救急車にナノカに変身したホノカはその場の誰にも疑われることなく乗車していた

「先生、私はどこに入院するんですか?」

「隣の県にある大学病院だよ。大丈夫ナノカちゃん、検査で何か見つかっても早期に治療できれば数週間で家に戻ってこれるよ」

そう話す医師の目は私を見ているようで、時折視線を外していた。

「(あの書き込み、あながちデタラメでもなさそうね)」

車を走らせ程なくして近所のトンネルに差し掛かった

「そろそろいいか…」

何か隣で医師が口を開いた気がしてそちらを見ようとした時、視界が揺らぎ、次の瞬間には車両の床に突っ伏していた

「(あれ…なんか…力がはいら…ない…それに、眠…)」

そこで私の意識は途絶えた

 

 

「…あれ、ここ…は?」

私はさっきまで車の中にいたはずだ。しかし、目を覚ますとそこは車の中ではなく、周囲の様子から病院のベッドでもなさそうだった

「どちらかというと…牢屋みたい」

周囲にあるのは石造りの壁、小さなモニター、そしておそらく2段構造のベッドのみであった

「えっ…ここ、どこ!?」

突然頭上から大きな声が聞こえ、ホノカも驚いてしまう

「誰!?」

「うわっ⁉誰誰誰!?」

向こうも自分以外の人間の存在に気付き大層驚いたようで、ベッドから転げ落ちてきた

「っ~!…頭打ったぁ…」

「だ、大丈夫?」

「ありがとう…って、アンタだれ?」

「私は」

ジジッ…

自己紹介をしようとした矢先、モニターから何やら音がした

『あぁ…これ映ってますかね?映ってると信じて話しますね。皆さん目は覚ましたでしょうか。私、ゴクチョーと申します。今からここでの生活についてご説明いたしますので、ラウンジに集合してください。もし従わなければ看守が強制的に連行しますが、面倒なので従って頂けると…』

「なにこれ、ここでの生活?看守?どういう意味?」

ホノカと少女が困惑していると、牢の鍵が開き、通路に背丈2mは超える怪人かがこちらを覗き込んでいた

「ヒッ⁉何あれ!化け物!?」

しばしのにらめっこの末、その怪人かのそのそと牢の中に入ってきた

「こ、来んでよ!」

「もしかしたらこいつがさっき言ってた看守じゃない!?なら外に出ればなにもされないはず!」

「じゃあ早く出よう!あんなんに捕まったら一巻の終わりや!」

怪人の横をすり抜け通路に飛び出すと、怪人も牢から出てきて、私たちを尻目に奥の牢へ向かっていった

「(何あれ…明らかに人間じゃない)」

起きてから意味の分からない事ばかりだ。いっそ本当はまだ夢の中で、頬を抓れば夢が覚めてくれるのではないかと期待してしまうほどだったが、どうやらここでの出来事は現実のようだった

前方に向き直ると、通路の先に自分と同じように捕らわれたと思しき少女達が階段を上っていく所が見えた

「(とにかく、ラウンジに行こう)」

 

 

ラウンジに入ると、すでに10人の少女達が席に座り、皆一様に不安そうな表情をしていた。

そして、私達二人と後からもう一人少女が入ってきた後に先程見かけた看守と思しき怪人が入り口を通せんぼした

それを見計らったように、頭上に空いた通気口からフクロウか下りてきた

「おっと、もう全員集まったようですね。お待たせしたようで申し訳ありません」

そのまま大机の端に着地した奇妙なフクロウはこちらの事を意にも介さず続けた

「改めて自己紹介いたします。私、ここの管理を任されているかわいいフクロウ、ゴクチョーと申します」

「ここどこなの!?なんか良く分かんないうちにこんな所つれてこられたし!」

「はぁ…だからそれを説明しますって先程も言ったと思ったんですけど…もしかしてさっきの放送うまく繋がっていませんでした?」

ゴクチョーの顔は仮面なのか模様なのか眼らしきものはあるが、ほとんど動かず表情が読めない

「ここはとある孤島を改修して作った、魔女を監禁する監獄です。皆さんは国の検査にて『魔女』の因子を持っていると判断されました。魔女の因子を持つ者は他害のリスクが非常に高く…まあ、簡潔に言えば、人を殺したくなってしまうのですよ。なので、他の人に危害が及ばぬよう、処刑される予定だったのですが…流石に受け入れられませんよね…それに100%正しい検査結果とも言い切れんせんし。なので、今日からここで囚人として生活してもらいます」

ゴクチョーの話を聞き、真っ先に異を唱えたのは私と同室の少女だった

「ちょっと待って。じゃあウチらは互いに殺人を犯すかもしれんのに共同生活させられるん?ふざけんでよ」

「そう言われましても…私もここの管理を任されているだけで皆さんを連れてきたのはもっと上の人達の命令ですので。まあ、諦めてください。大魔女さえ見つかればこんな仕事しなくていいんですがねぇ…あっ、失礼、個人的な愚痴を漏らしてしまいました。今のは聞かなかったことにしてください」

話を終えるとゴクチョーは飛び上がり、通気口に向かっていった

「あぁ、ひとつ言い忘れていました。ここでの細かいルールは皆さんお持ちのスマホに魔女図鑑というアプリが入っています。そこに書いてありますので、各自読んでおいてください。それでは私は失礼いたしますね」

「あっ、ちょっと待って!」

ホノカの制止を聞かずゴクチョーは今度こそ飛び立ってしまった

「(とりあえず、今言ってたスマホを確認しよう)」

服を探ってみると、確かにブレザーのポケットにスマホが1台入っていた

「(このアプリか…)」

アプリを開いてみると、今回集められた少女達の簡単なプロフィール、この屋敷のマップ、規則が記載されていた

ホノカが規則を確認していると、いつの間にか白いシスター服を着た少女が机の前に立ちオドオドと話し始めた

「あ、あの、とりあえず皆さん。自己紹介しませんか?急にこんな所に連れてこられて正直私も混乱してますけど、共同生活するんですから、お互いを知ってる方がいいと思うんです。えっと、私は氷上メルルといいます」

この子は本気で言っているのだろうか。今会ったばかりの人間同士で、しかもゆくゆくはお互いを殺しあうかもしれない関係だというのに

そんな空気がラウンジには満ちていた

「えっと…皆さんは自己紹介、嫌でしょうか…?」

「いや、そうだね。共同生活というのは抜きにしても、お互い名前も知らないのも不便だし、何より、疑心暗鬼の種だよ。そもそも、殺人事件もゴクチョーが言っているだけで現実的に考えれば起こる方がおかしい」

「あまり楽観的なのもどうかと思うけど、マリの言うとおりね。私は賛成だわ」

情けか性格か共に白黒のチェック柄のタキシードを着て、色違いのバラの髪留めをした双子の少女がメルルの意見に賛同し、自己紹介を始めた

「ボクは桐本マリ。それでこっちは妹のユリだよ。ところで、さっきゴクチョーが魔女について話してたけど、皆も『魔法』が使えるのかな?」

その問いに誰も答えなかった。しかし、否定しないということが何よりの答えになっているとも言えた

「マリ、相変わらず距離の詰め方が急すぎるわ。みんなを余計に警戒させてどうするのよ」

「だって、皆どんよりしてるから明るく行った方が良いのかなって…ちなみにボクの魔法は『裁断』だよ」

「祭壇?神様でも祭り上げるんか?」

「違う違う、布とかを着る方の裁断。僕が刃物を使うとなんでも綺麗に切れちゃうんだ」

「えっと…みんな安心して。この姉、今まで魔法を悪い事に使った事ないから。サイコキラー的なアレじゃないからね?」

マリが一言喋るたびにユリがフォローしているのを見て、不覚にも自信の置かれている状況を忘れクスッと笑ってしまった。しかし、二人のやり取りにより、多少なりとも場の張り詰めた空気が緩んだように感じる

「良かった。笑ってくれる人もいて…いっそ笑ってくれないとマジで危ない二人だと思われるところだったよ。あっ、アタシの魔法は『縫合』ね。マリの魔法と合わせてお裁縫が得意なの。はい、次は貴女よ」

そう促された白ワンピースの少女はまだ若干の警戒を残しつつ口を開いた

「樋口マドカ。魔法は言いたくないわ。それを言ってあんまりいい記憶がないんでね」

「で、でも、今後何かあった時に魔法が分からないと他の人に変な勘繰りをされちゃうかもしれないですし…」

「…ハァ、『錬金』よ。鉄とかアルミとか、触った物から金属を抽出して別の物を作れるの。はい、次行って」

「ウチは久遠エツコ。魔法は自分でもよく分かってへんけど、物の強度とか、性能を少しだけ強化できる…ゲームで言うバフ?みたいなことができるわ」

私の同室のこは久遠エツコというらしい。口調は多少荒いが取っ付きにくい子ではなさそうだ

「次は私ね」

その時、ふと私の頭に一つの考えが過ぎった

「(もともと私はナノちゃんの代わりに連れてこられたんだし、ここで本名をバラすのはまずいか…とりあえず、しばらくはナノちゃんのふりをして過ごした方が良いかも。でも、ナノちゃんみたいに未来とか見えないし…)」

「私は黒部ナノカ。魔法は『変身』よ。あと、一応動かなければカメレオンみたいに背景に同化できるわ」

「いや癖強っ…」

「そうね。でも、正直生活の中で役に立つ魔法じゃないから、あまり期待しないで」

「次は私だね。卜部サキだよ。魔法は『電磁力』なんだけど、正直私のもあまり生活の上では役に立たないかなぁ。はい、次君だよ」

サキが隣の少女に促すが、話し始める様子はなかった

「えっと、自己紹介したくない感じ?」

「『あまり話しかけないで。私、話すのがあまり得意じゃないから』」

その場にいる全員の脳内に直接何者かの声が聞こえた

「今の声って…」

「『私よ。千歳ミドリ。魔法は『テレパシー』。こんな風に遮る物がなければ意思を伝達できる。正直貴女達と仲良くする気なんて無いから、不必要に関わってこないでほしいわ』」

先の2人と違い、この少女は少し気難しい子のようだ。まあ、むしろこちらの方が適切な反応なのだろうが

「えっと、柊木チヒロです。魔法の名前は詳しくないですけど、自分の髪を少し操れます。あと私、顔に大きな傷があるので、皆さんあまり私の方を見ないでもらえるとありがたいです…」

顔を長い髪で隠しながら自己紹介をするチヒロという少女の顔には包帯が巻き付けてあり、目元が見えなかった。あれで前は見えているのだろうか。

「時雨アヤ。魔法は『消音』。うるさいのは嫌いだから、アヤに話しかけるのも必要最低限にして。特にそこの頭弱そうな女」

「あ、頭弱そうやて!?失礼過ぎんか!?」

「あぁもう、うるさい!」

そこまで大声を張っているわけでもないが、アヤは両耳を塞ぎ至極迷惑そうな顔でエツコの事を睨んでいた

「次は私ですね。溝倉シズカです。魔法は『念写』で、私の見た景色とか記憶を紙とかに写すことができます」

「またうるさいのが一人増えた…」

「うるさいとは何ですか。私の自慢の魔法なのに」

「もう全員黙ってよ…」

この数分でアヤはうんざりといった表情だった

「次は…って、寝てますね」

シズカが隣を見ると、少女が眠りこけていた

「ん…んぅ。なあに?」

「自己紹介。お願いしますね」

「ん-。天音カオリ。魔法は『催眠』だよ」

「え?催眠?人を操ったりするあれ?」

「ん-ん、貴方はだんだん眠くなーるってやつ。まあ、ほとんど自分にしか使った事ないけどねー。ナノカちゃんだっけ?催眠で人を操ったりするのはエッチな本の見すぎだよぉ」

「ち、違っ…」

唐突なエッチな奴認定にどんどん顔が熱くなっていくのを感じた

「後は拙だけですね。神戸サクラ。魔法は『透視』。説明は…いらないですかね。そのまんまですし」

そんなこんなで、やっと集められた13人の少女の自己紹介が終わった

「…あれ、そういえば氷上メルル…だったわね?貴女の魔法はなんなの?」

「私ですか?私の魔法は『治癒』です。でも、あまり大きな傷は治せなくて…ごめんなさい」

別に何も責めてはいないのだが、先程も感じたがこのメルルという少女、とても気が弱いようだ

「いや、傷の手当てができる人がいるのは正直助かるわ。この館、内装はともかく医療器具が完備されているようには見えないし」

「分かりました。私、頑張ります」

「ええ、期待しているわ」

こうして、疑問を山ほど残した少女13人による監獄生活が幕を開けた

 

 

To Be Continued

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