まのさば とある少女の事件譚   作:フリッカ・ウィスタリア

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天音カオリの裁判から数日。ホノカは解読作業を急いでいた。今回の裁判にはいくつか疑問点があった。しかし、自分が持っている情報ではまだ決定打に欠ける。何としてでもあの裁判の謎を解かなければいけない


沈黙の魔女

「ここは…『魔法』?いや違う。文字が少し違うし前後の文が繋がらないか」

天音カオリの裁判から早1週間。新たな事件は起こっていない

しかし、私の心には暗雲が立ち込めていた

「(あの裁判、今までの裁判と違って何かがおかしかった)」

明確に何がおかしかったと言える根拠はない。しかし、いくつも不可解な要素はあった

第一に溝倉シズカが亡くなる前夜、彼女は天体観測の最後、ボソリと何か呟き、気にしている様子があった

そしてその次の日の午前、遺体で発見された

「(偶然にしては、あまりに話が出来過ぎている)」

まるで、何か気付いてはいけない事に気付いた為に、口封じに殺されたかのようだ

そして、その最後に溝倉シズカが見ていた物と言えば

「念写した氷上メルルの写真…ね」

あの晩、氷上メルルの写真を私も見ようとしたがはぐらかされて結局見る事は叶わなかった。もし、あの写真に何か重大な事が映っていたのだとしたら、溝倉シズカは本当は天音カオリではなく、氷上メルルに殺されたのではないだろうか

「(今回の裁判、今までと違って途中から議論の主導権を氷上メルルが握っていた。それに、あまり推理をしてこなかったのに、今回に限って用意していたかのようにつらつらと推理を出してきていた)」

あまりの証拠品の不足に私も冷静さを欠いていた。しかし、思い返せばいくつも違和感が浮かんできた。そして、その全てが氷上メルルに関連している

「(この本の残り数ページに何か手掛かりがあれば…もう、あまり時間はないのに)」

前回の裁判の違和感に加え、私個人にも一つ変化が起きていた

「時間をかけすぎたわね…魔女化が進んできてる」

理性はある。殺人衝動もまだ抑えられている。しかし、焦りや苛立ちを覚えると脳に殺人を唆す声が聞こえるようになってきた。その声は堪らなく不快だというのに、どこか心地よく感じ、不意に身を委ねてしまいそうになる

「(桐本姉妹も柊木チヒロも、殺人を犯す前はこんな気分だったのかしら)」

よく観察してみると両手の指先も少し黒ずんできているようだ

「…駄目ね。ネガティブになったら余計魔女化が進んじゃうわ」

こんな時はナノちゃんの写真を見るに限る

「ナノちゃん、早く会いたい…絶対生きて帰らなきゃ」

写真を見て少し勇気と元気をもらうことが出来たため、私は再び解読作業に戻った

「それで、いつまでそこで私の事を見てるつもりかしら?氷上メルル」

「ひぅ!?やっぱり後ろにも眼が…」

「ついてないわよ。スマホに反射して見えただけよ」

「えっと…ここのところ毎日図書室に入り浸っていますよね?根を詰め過ぎているんじゃないかと心配になって」

「お気遣いありがとう。でも、大丈夫よ。ちゃんと休息は取っているから」

現状、少なくとも私の中では目の前の少女こそ以前見つけた日記を書いていた内通者である可能性が一番高い

そんな彼女にあまりこちらの手の内を晒すのは避けたいところだ

「(こんな考えも私の魔女化が進んだ事による疑心暗鬼なのかもしれないのだけれど)」

「そう…ですか。分かりました。本当に無理はしないでくださいね」

「ええ、ありがとう。気を付けるわ」

取り付く島もないと思ったのか、思いの外あっさりと諦めてくれたようだ。それとも、本当に私の体を心配してくれただけなのだろうか

「あぁ、そういえば」

トボトボと退室する直前にメルルは何かを思い出したのか、こちらを振り返った

「アヤさんを時々気にかけてあげてもらえませんか。彼女ここ数日ストレスが溜まっているようで…私もいろいろ考えて紅茶を淹れたり、お話ししようとしたんですけど、かえって彼女には鬱陶しかったようで、昨日は怒らせてしまったんです…」

「時雨アヤを…難しいお願いね。私も彼女は苦手だし、正直彼女とうまが合うとも思えないわ。私に頼まれても困るのだけれど」

「気にかけてあげるだけでいいんです。彼女も本当はあんな冷たい人じゃないはずなんです」

「ハァ…分かったわ。出来るだけ彼女の言動を大目に見るように努力はするわ。でも、それだけよ。彼女が他の囚人と仲良くできるように取り持ったりお悩み相談を受けるなんて真っ平ごめんだから」

「はい!ありがとうございます」

私の返答を聞いて安心したのか、そそくさと図書室を出て行った

「(本音を言えば、彼女が時雨アヤを気遣う理由が分からないわ。あんな言動の子、私ならすぐに見放して距離を置くもの。やっぱり、彼女の性格なのかしら)」

争いや不和を嫌う彼女ならではの感覚なのだろう。おそらく一生私には理解ができない

そんな事を考えていると、再び図書室の戸を開く者が現れた

「げっ…やっぱりいるじゃん」

今しがた話題に上がった時雨アヤだった

「あら、何か私に用かしら」

「あるわけないでしょ。いつもの寝床探しよ。アンタ毎日ここに通い詰めてよく飽きないね」

開口一番に嫌味とは良い性格をしている。しかし、先程のメルルとの約束もあるため、私はその言葉を受け流した

「貴重な手掛かりがあるんだもの。私は1日でも早くここから帰らなきゃいけないの」

「へーへーそうですか…ご立派な事で」

「(あぁ…駄目だ。やっぱりこの子とは分かり合えない)」

これ以上会話をしてもお互いヒートアップするだけである。私はあえて時雨アヤの言葉に反応せず、解読作業に戻った

 

 

解読作業に熱中していると、不意に机の上に手が伸びてきて、机の上に置いてあった私の写真を取り上げた

「なにこれ、アンタの写真?」

「返して。溝倉シズカに作ってもらった大切な写真なの」

「キショ…写真に収めたい程この子の事好きなの?」

「ええ、大切な妹だもの」

「あっそ。てか何この緩みきった顔。バッカみたい。妹の方もすました顔でアンタの事見つめてて気持ち悪いし」

写真の中で相手を見つめているのはホノカの方で、笑っているのはナノカなのだが、現在ホノカは魔法でナノカの姿で生活しているため、アヤは黒部姉妹を逆に認識してるようだった

しかし、ホノカにとって今はそんな事どうでもよかった

「(いま、この子ナノちゃんの事をバカって言った?)」

心の奥で黒い感情が燻ぶった

今までの会話でもイライラすることはあった。しかし、今私が彼女に抱いているのは明確な殺意だった

「(私の事はなんと言われたっていい。でも、ナノちゃんをバカにするのだけは許さない)」

流石に今の発言は我慢ならなかった

「…他所で作業することにするわ。貴女がいるとイライラして集中できないもの。写真も今すぐ返して」

写真の返却を催促する手に力が入り、自然と視線も睨み付ける形となっていた

「はいはいどうぞ」

怒りのあまり写真を受け取るその手でアヤの顔面に拳を叩きこみたい衝動にかられたが、すんでの所で踏みとどまることが出来た

「(危なかった、もう少しで手が出ちゃうところだったわ)」

正直今も心の中で黒い感情が渦巻いているが、私は何とか平静を保ち、図書室から出て行った

「ほんとバカみたい…家族なんて血の繋がってるだけの他人じゃない」

 

 

中庭

ダァン  ダァン

「…よし、射撃精度は申し分ないわね」

「弾ブレも少ない。これまでの試作品の中で一番うまくできてるんじゃない?」

「うん、サキと久遠のおかげね」

「でも大元の設計はマドカがしてたし、調整も私は少し手伝ったくらいよ」

「やっぱり素人の思い付きやで時間かかってもうたけど、やっと形になったな」

「ええ、最後の仕上げをするわ。久遠、お願い」

「まかせとき」

エツコがマドカの手を取り、もう一方の手で銃に触れると、エツコの指先が淡く光り、銃に何やら紋様が刻まれた

「これでアンタの魔法が少しこの銃に宿ったはず。無限とはいかんけど、毎日1発だけ銃弾を補充してくれるで」

「道のりは長かったけど、これで誰かが暴れ出しても遠距離から鎮圧出来るわ」

「まあ、そこそこ威力あるから急所に当たったら流石に死ぬだろうけどね」

ここ数日にわたり、3人は互いの魔法を利用して銃の制作を行っていた

前回の裁判では牽制用と言ったが、実際は手足など非急所を打ち抜くことで魔女化しかけている少女への鎮圧・対抗手段として制作したものだった。

「でも、この銃を造るために集められたんかってくらいおあえつらえむきな魔法の3人が同じ時期に拉致されてきたもんやな」

マドカが周囲の金属類を『錬金』して銃身を造り、サキが『電磁力』で射出機構を作り、エツコが『エンチャント』で特殊効果を付与する。現実では需要はないだろうが、ファンタジーな世界なら武器工房を3人で開けば繁盛したことだろう

「昔からこの魔法を好きになれなかったけど、こうやって力を合わせてたらこんな魔法でも役に立つんだって思えるわ。皮肉なものね」

「せやな。やからこそ、もう半分くらいにはなってもうたけど、ウチらだけでも元の生活に戻れるよう気張らなあかんな」

「さっきからバンバンうるさいなって思ってたけど、アンタ等のせい?」

友情に水を差す言葉が入り振り返ると、相変わらずの皮肉と嫌味を吐く時雨アヤの姿があった

「なんや、ここは今ウチ等が使ってるから、静かにならんで。静かな所やったら他所をあたり」

「言われなくてもそうするよ。アヤうるさいの嫌いだし」

「(じゃあなんでわざわざ来たねん…)」

中庭に出てきたと思ったらすぐに回れ右をして帰る姿を見て怪訝な目を向けるエツコ達を尻目に彼女はどこかへ消えた

「本当に何しに来たんやアイツ」

「まあまあ、空気間の合わない人は放っとくに限るよ。誰も得しないし」

サキがエツコを宥めていると、また誰かが中庭に出てきた

「なんや、まだなんか文句言い足りへんのか?…っと、ホノカやったか」

「…?どうしたの?」

「いやな、ついさっきまであの陰険女がおってな。嫌味言いよるから少し腹が立ってな」

「あぁ…私もさっき図書室で妹の写真をバカにされて頭に来たところだわ。なんでああ人の気に障る事ばかり彼女は言うのかしらね」

「知らんわ。もう相手にするのも嫌やわ」

「ハハハ…相当嫌ってるね…まあ、しょうがないか」

「ええ、あの子の言動には私もイライラさせられることが多いし、敵を作りやすいとおもうわ。まあ、私もあまり人の事を言えた性格じゃないけど」

「まあまあ、陰口はそれくらいにしましょう。それで、3人で何をしていたの?」

「前に言うとった銃。完成したんや」

「生憎、小銃と違って量産する気はないからこれ一つだけだけどね」

「明らかに危険物なのだけれど」

「まあそれは対魔女用って事で…私達もなるべくこれを使わないでいいように願ってるわ」

「そうだといいけれど…というか貴女達、誰か取扱いに経験あるの?聞きかじった程度で扱うのはとても危険だと思うのだけれど」

ホノカも銃の使用経験などないが、外国などで子供が銃を暴発させて怪我をしただ誤って人を撃ってしまっただという話は聞いたことがある。素人が安易に手を出して良い物ではないだろう

「サキが軽く経験あるわ」

「とはいっても自分の魔法の応用っていうのと、おじいちゃんが使ってるのを見て、少しだけ触ったことがあるってだけだけどね」

「まあ…聞いただけよりかは安心なのかしら…あんまり変わらないような気もするけど」

「何にしたって抑止力があった方がええ。サキが魔女化した場合は…今は考えんとこか」

「ちょっと、信用なさすぎない?」

私が図書室に篭っている間に、こんな軽口を叩ける程度にはこの3人のコミュニティも出来上がっていたようだ

「まあ、その銃で事件を起こさないでね。もうこれ以上、殺し合いは勘弁してほしいんだから」

「ええ、心身ともに健康に努めて、馬鹿な事をしないように気を付けるわ」

その後も細かい調整をする為か3人で何やら話をしていたようだったが、魔導書の解読に取り掛かった私の耳には届かなかった

 

 

1時間後

「そろそろ牢に戻る時間ね」

「せやな。実験と調整はまた明日やな」

「本を図書室に…いや、面倒だし夕方の自由時間の時でいいかしら」

各々身支度を整えている最中、4人のポケットでほぼ同時にスマホが鳴った

見覚えのある現象に、嫌な予感がした

他の3人も同じ考えに至ったようで、恐る恐るスマホのロックを解除する

ホゥホゥ

『また、事件が起きてしまいましたね。皆さん2階の空き部屋に集合してください』

私達の嫌な予感は当たってしまったようだ

「また…なんか。次はだれが…」

「とにかく、現場に向かいましょう」

 

 

2F 空き部屋

4人が2階へ着くと、既にメルルとサクラが来ていた

「おや、今回は集合が早いですね。協力感謝しますよ」

「そんな事はどうでもええ。何があったんや」

「いや、それに関しては私共も知りたいくらいなのですが…」

空き部屋を覗くと、部屋の奥に設置されている棚に寄り掛かるように時雨アヤが頭から血を流し死んでいた

「これは…なんというか…」

「ええ、今までで一番現実的な死に方をしていますね。でも、確実に何者かに殺されたとも言えます」

「お話はそれくらいにして頂いてよろしいでしょうか」

ゴクチョーが話に割って入ってくると、相変わらず返答を待つことなく話し始めた

「今回も殺人事件が発生したため裁判を行います。今回はそうですね…少し時間がありますが、今日の19時にしましょうか。それまでは皆さん自由に捜査をして頂いて構いません。私も夕飯を食べたいので」

「相変わらず時間設定が適当ね…」

「これでもいろいろ考えているんですけどねぇ…」

ボソッと愚痴を吐くとゴクチョーは窓から飛び立っていってしまった

「とにかく、捜査を始めましょう」

「そ、そうですね。アヤさんを殺した犯人を見つけなきゃですもんね」

「全員でこの部屋を捜査するのもなんだし、私とサキは別の所を探してくるわ」

「せやな、ウチは…ちょっと焼却炉見てくるわ」

「あっ、エツコさん私も一緒に行きます」

各々話は纏まったようで、2人一組となり探索することとなった

 

 

To Be Continued

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