まのさば とある少女の事件譚   作:フリッカ・ウィスタリア

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牢屋敷での生活が始まったが、環境は劣悪そのものだった。ミツキは手始めに牢屋敷の中を歩き回ることにした


牢屋敷の暮らし

集団生活が始まり、私がまず最初に取り掛かったのは各部屋の間取り確認や何か使える物がないかの探索だった

「まずは一通り部屋を周ろうかな」

 

B1F 監房前

「特に変わった物はないわね」

改めて自分たちのこれから住む監房を眺めていると劣悪環境極まりなかった

「(せめてカーテン位付けてほしいものね。いや、それじゃ看守たちが見回りの時に囚人の様子が分からなくて監房の意味がないか)」

 

焼却炉

「暗いわね…明かりがなかったらほとんど何も見えないわ」

手探りで壁を触っていくと、電灯のスイッチを見つけた

「よし、これで少しは見やすくなったわね」

見渡してみると部屋はそこまで広くないようで、焼却炉を含めても10m四方程度の広さだった

「えっと、『焼却炉は毎週月曜日の15時に自動で稼働します。焼却物はそれまでに廃棄し、燃えない物は投棄しないように』か」

 

1F ラウンジ

ラウンジを通り抜けようとした時、中から誰かが出てきた。

「ゴクチョー…」

「おや、貴女は…黒部ナノカさんでしたね。なーんでそんな怪訝そうな顔してるんですか」

「聞きたいことがあるの」

「何ですか。私、こう見えて忙しいのですけれど」

「時間は取らせないわ。この屋敷、どこか立ち入り禁止場所はないのかしら」

「立ち入り禁止場所ですか…特にはないですが、規則に書いているように、自由時間以外に出歩いていればどこにいようと看守は見つけ次第捕まえに行きますし、鍵がかかっているような場所の扉や鍵を壊そうとしているようなら看守の捕獲対象となるので、そう言った所でしょうか」

「なるほど、管理者側の部屋には鍵がかかっているのね」

「違いますよ。裁判所などは必要時以外は鍵をかけていますし、懲罰房も自由に出入りされては困るので鍵をかけているので鍵を壊さないでくださいと言っているだけです。まったく、最近の若い人ってみんなそんな疑り深いんですか?」

「こんな所に急に連れてこられて何も疑うなという方が無理だと思うのだけれど」

「まあ、それを言われてしまっては私もあまり強くは言えませんが…とりあえず、もういいですか?そちらの質問には答えましたが」

「ええ、思ったより私達を放任してくれるつもりなのが分かったわ。ありがとう」

「ほんと、問題を起こさないでくださいよ。サービス残業は嫌ですからね。やれやれ」

愚痴をブツブツと言いながらゴクチョーはどこかへ飛んで行った

 

医務室

医務室の中に入ると、そこにはメルルがいた

「えっと、氷上メルルだったわね。こんな所で何をしているのかしら」

「あっ、はい、ここはお屋敷の医務室だそうで、何か役に立つ薬や救急キットなどがないかと探していたんです」

「誰か怪我でもしたの?」

「いえ、でも、慣れない環境で生活するなら怪我の一つや二つ起きてもおかしくありません。なので、先に備えておこうかと」

ぎこちない笑顔を向けてくる彼女の献身の心は見習うべきものがある。こんな環境に突然置かれ、自分も不安だろうに、他者の事を気にかけているあたり、心優しいのだろうと思う反面、自己犠牲も厭わない危うさも感じる

「優しいのね」

「いえそんなことは…ナノカさんはなぜここに?もしかして、何か怪我をされたんですか?」

「違うわ。ただ館内の状況やここがどこか分かるような物が無いかをあっちこっち周って探しているだけよ」

「そうだったんですね。私はまだ暫くここにいるので、何か手当てが必要であれば来てください。こう見えて魔法以外でも手当は得意なんですよ」

「ええ、頼りにさせてもらうわ」

メルルに別れを告げ、私は医務室を後にした

 

シャワールーム

脱衣所に入ると誰かが既に使用している気配があり、シャワーの音が聞こえてきた

「(このパーカー、アヤとかいう子の物ね。後から改めて来た方が良いかな)」

そんな事を考えているうちに件の少女が出てきたようだった

「…」

一瞬こちらを見たようだったが、すぐに興味をなくしたようで視線を外し、自身の服の方へ歩き出した

「ねぇ、貴女」

「私初日に言ったよね。慣れあう気はないって」

「ごめんなさい…」

取り付く島もないとはこのことを言うのだろう。少なくとも、今の関係性で会話は無理だ

アヤが出て行った後、シャワールームを見回ったが、ここも特段手に入る物はなかった。強いて言えば、脱衣所の各ロッカーに今着ている物と同じデザインの服が全員分用意されていることと、ダストシュートがあることくらいだろうか

「毎日服を捨てるのは勿体ないわね…」

思えば料理も生活環境も劣悪なこの牢屋敷においてなぜか衣服だけは装飾豊かで煌びやかである

「(一概に資金不足だから劣悪環境だというわけでもなさそうなのが引っ掛かるわ)」

 

2F 物置部屋

2階に上がってみると娯楽室とは別にもう一つ小さな部屋があった

「ここは…物置部屋かな。木材とかいろいろ置いてあるけど…学校の図画工作室に似てるわね」

奥に行くと、ベランダがあり、中庭の上に出ることが出来た

「物置部屋にしては優雅な立地してるわねアトリエとか、作業部屋に向いてそう」

何か変わった物が無いか探していると、棚の陰に隠れる形でダストシュートが見えた

「ここにもダストシュートがあるってことは、やっぱりここ作業部屋だったのかな」

その後も部屋の中を探索したが、役に立ちそうなものは何も見つからなかった

~♪

その時、スマホのアラームが鳴った。うっかりの自由時間外行動を防ぐために私が改めてセットしていたものだ

「もうこんな時間か。牢屋に戻らなきゃ」

明日は外に足を伸ばしてみようかと考えながら私は牢屋へと戻っていった

 

夕方 食堂

「うぇ…ここのご飯まっず…もうバケットのフルーツだけでいいや」

「食べられないことはないけど、何とも言えない味付けで、正直ボクも沢山は食べたくないね」

大皿に盛り付けられた何の肉かも分からない料理に萎びた野菜、色が悪い果物とまともな食事は並んでいなかったが、他に食べるものもなく、文句を言いつつ皆それを口に運んでいた。

「(現状のグループとしては私、エツコ、シズカのグループ、マドカとサキ、桐本姉妹、サクラとカオリの2人グループがあるだけで、あとの4人は全員どこのグループにも属していないわね。まあ、メルルに関しては中立の立場といった具合だけど)」

昨日ここへ連れてこられて、今日で二日目となるが、既にある程度のコミュニティは出来上がっていた。とはいっても、先に挙げたメルルを除く3人以外は概ね他グループの少女とも会話しているため、実質孤立しているのは3名のみだった

「(今は仲良く見えるこの子達がいつか殺し合いを…ううん、疑心暗鬼になっちゃダメ。そういう心の蝕まれから軋轢が生まれるんだから)」

しかし、こんな生活を続けていけば嫌でもストレスが溜まり、いつかは疑心暗鬼が爆発して奇行に走る者が出てもおかしくないだろう

「なにか、リフレッシュできる方法を考えなきゃね」

ボソリと呟いた私の言葉にシズカが反応した

「ナノカちゃん、明日どこか行く予定ありますか?」

「別にないわ。というより、どこも行けないでしょここじゃ」

「それはまあそうですけど、実は私、今日牢屋敷の外にある丘に行ってきたんですけど、景色がとってもきれいだったんですよ。明日一緒に見に行きませんか?」

「ええ、構わないわ。ちょうど気分転換をしたいと思っていたところだし」

「ウチも一緒に行ってええか?ここにずっとおったら息が詰まるわ」

「もちろん。じゃあ、明日は12時過ぎに玄関ホール集合にしましょう」

 

 

次の日

「お待たせ、昼ご飯の調達してきたで」

「ありがとうございます。早速行きましょう」

昨日は牢屋敷の中をずっと探索していたため、外の状況はほとんど分からない。ここは昨日も出かけていたシズカに道案内を任せることにした

牢屋敷横の小さな林を抜けると、昨日シズカから聞いたとおり、小高い丘が広がっていた

「これは…たしかにいい景色ね。牢屋敷での生活がなければ普通にピクニックとかにぴったりな環境ね」

「でも、こんな所まで外出してええんか?脱走とか疑われそうなもんやけど」

「いえ、多分それは大丈夫だと思いますよ。だってほら」

シズカが指さす方を見ると、向こうに見える壁の周囲に何やら鳥のようなものが飛んでいた

「あれは、うみねこ…ではなさそうね。あんまり見たことがない鳥のようだけど」

「近くで見るとわかるんですけど、あれ、カモメみたいな姿のゴクチョーなんですよ。昨日私も壁伝いにグルッと島を周ってたんですけど、所々にあの鳥達が巡回してて、脱走者を警戒してるみたいですね」

「ようそんな危険な事したな。一歩間違ったら即処刑やのに」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずですよ。あまり消極的な動きしかしてないと、とびきりのスクープを取り逃がしてしまいますから」

「記者みたいなこと言うわね」

「まあ、私記者志望ですから」

「マスゴミって言われないように気を付けてね」

「ハハハ…手厳しいですね。でも、偏向報道とか印象操作多いですもんね」

私達が他愛のない話をしながら丘でピクニックを楽しんでいると、時間はあっという間に過ぎていった

「そろそろ15時になるし、戻りましょうか」

「そうやね、うっかりして看守に目を付けられるのはごめんや」

結局、私達が外出している間に看守が私達を探しに来ることはなかった

「(あの監視鳥を信用しているのか、単に目が行き届かなかっただけか)」

 

 

「特別何かしたわけじゃないけど、良い息抜きになったわね」

「せやね。元々そんなに外で歩く趣味はないけど、ここでしばらく生活するんやったらそうでもせんとストレスが溜まるわ」

話をしながら牢に戻ってくると、他の囚人も戻ってきた

「楽しそうね桐本ユリ。そっちも何かしてたの?」

私の発言に一瞬後ろを振り向いた後、少女は私の方を向き直った

「え?あぁ、ボクか。ボクはマリの方だよ。ほら、蒼い髪留めしてるでしょ」

マリが首を捻ると確かに蒼い髪留めが見えた

「あっ…ごめんなさい。勘違いだったのね。ここ数日で見分けられるようになったと思ったのだけど…」

「まあ一卵性だから似てるよね。大丈夫気にしてないよ」

記憶力は良い方だと自負していたのだが、帰って恥を晒してしまったようだ

恥ずかしさで顔を赤らめながら私が牢屋に戻った後、自動で牢の鍵が閉まる

「…」

直後、看守が階段を下りてくる音が聞こえ、牢の前に姿を表した

「イサヌオyジ」

何語か分からない言語を呟きながら看守は私達の牢を順番に確認していく

しかし、中まで入ってくるわけではなく、外から中の様子をちらりと確認しているのみで、詳しくは見ていないようだった

「(昨日もサッと見渡して終わりだったけど、管理体制としてそれは大丈夫なのかしら?夜とか布団を膨らますなり何なりしてたら出歩いてても分からなさそう)」

現状夜中に出歩くメリットがないため行動に移すつもりはないが、看守の隙をつく事は出来そうだ

「あどこd。いあにあぎるよとみりk」

全ての牢を確認後、看守は何やら慌ただしく何処かへ立ち去ってしまった

「(何かあったのかしら?)」

牢屋にいる時間は何か出来る訳ではないためボーッとしていると、スマホが鳴った

『桐本ユリさんが自由時間外に出歩いているようですので、発見次第拘留します。はぁ…ルールぐらい守ってほしいものですね』

「え…桐本ユリは牢に戻っていないの?」

「そうなんだ」

不意に出た言葉にマリが反応した

「今日は別行動してたから、ボクもどこに行ったのか知らないんだけど、心配だな」

牢は横並びのため、マリの顔は見えないが、声は不安そうだった

「拙達も私語は慎んだ方が良いかと。明記されてないですけど、看守達に良い顔されないでしょうし、それに」

「うぅ…うるさい…静かにしてよほんと…」

「拙の同室者、神経質みたいなのでチャットで話しましょう。アヤちゃん、通知音が気になるなら全体チャットの通知をオフにしておいてくださいね」

「分かった」

向こうの牢屋も関わり合いになっていないもののうまくやって行っているようだった

『それで、さっきの話だけど』

『うん、昼食を摂った後、ボクとユリは別々で過ごしてたんだ』

『どこ行くかとか聞いてへんの?』

『うん、今更ながら聞いておけば良かったよ』

『どこかで怪我とかしてないといいですけど…あっ、すみません、縁起でもないおと言って』

『落ち着いてメルルちゃん、誤字しちゃってるよ』

『でも、何かしらのトラブルに巻き込まれている可能性はありますね。それか、この牢屋敷の秘密を掴んで一時的に姿を隠しているとか』

『どうだろう。ユリは確かに行動派だけど、何の連絡もくれないのは不安だよ』

『早くユリさんが見つかるといいですけど、後でゴクチョーに拘留されちゃいますね』

『規則通りなら懲罰房への拘留は2日間だし、拷問とか処刑されるわけじゃなさそうだからユリには甘んじて受けてもらおう。ユリにも一応チャットを送っておくよ』

 

 

食堂

管理確認の時間が終わり、夕方の自由時間となった

「監房にいる間にはユリさんの発見報告は来ませんでしたね」

「どっかにうまい事隠れてるんか、発見の報告は特にせえへんのか。何にせよウチらに出来ることはあらへんな」

「そうね。続報を待ちましょう」

夕食を食べながら私は嫌な予感がしていた。姿を消したユリ。返ってこないチャット。ゴクチョーの初日の言葉

(「魔女の因子を持つ者は他害のリスクが非常に高く…人を殺したくなってしまうのですよ」)

「(まさか…ね)」

周りを見渡すと、相変わらず各コミュニティに分かれているが特段変わった様子は見られていない

「(今日はシャワーを浴びたらさっさと寝ようかな…)」

日中の軽い気持ちとは打って変わって、嫌な予感に支配されたミツキの頭はずっしりと重たかった

「ごめんなさい。ちょっと疲れたから先にシャワー行ってるわね」

「ええ、行ってらっしゃいです。また後で追いかけますね」

「今日はピクニック行ったし、ウチもはよ休もうかな」

二人の会話を尻目に私はシャワールームへ向かった

 

 

シャワールーム

脱衣所にて服を脱ぎ、ダストボックスに投げ入れる

「…?なんか焦げ臭くないかしら…あっ、そうか、今日月曜日だから焼却炉の稼働日だったのね」

昨日焼却炉に掲示されていた一文を思い出し、納得した

「ん?何か落ちてる」

脱衣所のラックの下に隠れる形で何かが落ちているのを発見した

「これって…」

拾い上げてみるとそれはスマホだった。スマホケースに装飾がしてあるが、全員のスマホケースの特徴を覚えているわけもなく、持ち主は分からなかった

「誰か落としたのかしら」

その時、拾ったスマホの画面がつき、ロック画面のメッセージ通知が目に入った

《新着メッセージ》『ユリ、どこにい…』

心臓が早鐘を打ち始め、最悪のシナリオが私の頭を過ぎる

私はシャワーも浴びず急いで新しい服を着るとシャワールームを飛び出した

 

 

焼却炉

昨日来たばかりだというのに、目の前に佇む焼却炉はとても禍々しい物に見えた

恐る恐る焼却炉の扉に手をかける。既に焼却は終わっており、扉も熱を帯びていなかった

「(違うよね?そんな訳ないわよね?)」

意を決し扉を引くと

炉の中には真っ黒になった衣服類に交じり、大きな塊が焼け焦げて残っていた。そして、その塊の間にはユリが身に着けていた黄バラの髪留めが残っていた

 

 

To Be Continued

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