まのさば とある少女の事件譚   作:フリッカ・ウィスタリア

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小さな一歩

地獄のような魔女裁判が閉廷し数日が経ったが、頭にこびり付いたあの光景はしばらく忘れる事は出来そうにない

「…はぁ、眠れない」

当たり前である。あんな事があったのだ。図太くスヤスヤ眠れるほど私の肝は座っていない

「ウチもや。目ぇ閉じるとあの姉妹の処刑風景が見えてきよる。これは何日かうなされるで…っと、夜間の会話は懲罰対象やったな。堪忍な」

「…」

私は考えていた。あの姉妹がなぜあんな恐ろしい事をしたのか

私はここに来てからの二人しか知らない。しかし、少なくとも初日と2日目の二人の姿はとても明るく、気の置けない仲になれると信じていた

だが、最期に見た『彼女達』は残虐で、冷酷で人とすら思えなかった

「(心の中に隠し持った残虐性がここにきて発露したのか、この牢屋敷自体が精神を蝕み、狂暴性を助長させているのか)」

世の中には残酷な犯罪者はごまんといる。それらは生来のものもあるが、何かしらの境遇や抑圧された感情が爆発して出現するものだ

そのどちらも彼女達の話では見受けられなかった

その時、再びゴクチョーの言葉が頭を過ぎった

「(『魔女の因子を持つ者は他害のリスクが非常に高く、人を殺したくなってしまう』…か。なら、本来の小さな凶暴性を魔女因子が増幅して『魔女化』した時に爆発するってことなんでしょうね)」

この屋敷に来てまだ3日。既に事件が1件起こってしまった。

「(疑心暗鬼になっちゃいけないけど、ここに居る皆は例外なく魔女因子を持っている。なら、皆いずれその時は来てしまうということね)」

何にしても、私達はあまりに情報不足過ぎる。明日は過去の囚人が何か手掛かりを残していないか探してみることにした。

 

 

1F 食堂

「皆おはよう。少し話があるの」

翌朝、食堂へ向かうと既に全員が食事をしていた。昨日の私の考えもそうだが、私にはもう一つ皆に伝えておかなければならないことがあったからだ

「数日前にあんなことがあった矢先にこんな事を言うのは憚られるのだけれど、せめてもの誠意として言わせてちょうだい」

呼吸を整え、私は再び口を開いた

「私は、黒部ナノカじゃない。本当の名前は黒部ミツキよ」

それを聞いたみんなの反応としては大きく2通りだった

「えっと、偽名を使っていたことは何か問題が?」

「『問題はあるでしょ。素性を隠していたということは、何か後ろ暗い理由があるからということでしょ』」

「ええ、そう思われてもしょうがないわ。でも、私は自分の素性を隠すために名前を偽ったんじゃない。妹を…ナノカを助けるために身代わりでここへ来たの。残念ながらその事の証明は出来ないけれど」

「まあ何でもええけど、えっと、ミツキ?何の為にそないな事、自分からバラしたんや?」

「昨日の彼女達を見て、皆はどう感じた?」

「『どうもこうも、気味が悪い、悍ましいとしか言いようがないけど』」

「アヤはどーでもいいよ。小うるさい奴が二人も消えて、ちょっとは静かになるなって思っただけだし」

「わ、私は…人は見かけによらないなって…あのお二人、とても優しそうだったので…想像もつきませんでした」

「ええ、私もそう感じたわ。初日にゴクチョーも言ってた通り、魔女因子を持ってる私達は次第に狂暴になるみたいね。でも、何の予兆もなく、急に狂暴になるんだったら、自由行動なんて与えない気がするわ」

「『何か魔女化が進むきっかけ・トリガーになる物があると考えているわけね』」

「その通り。話は戻るけど、皆にはそのトリガーが何なのかの情報収集の協力をしてほしいの」

私のお願いに対し、少女達の反応は思いのほか良かった

「そうですね。拙も訳が分からないままじっとしているのは性に合いませんし、協力します」

「どうせ何もすることがないんですから、スクープだと思って私も調査します。もしかしたら思わぬ特ダネがあるかもしれませんし」

「アンタいつもそれやな。まあ、じっとしててもそこの陰気臭い女みたいにカビが生えそうやしウチも賛成や」

「私は…正直乗り気になれないわ。自分なりにはここの事を調べていくつもりだけど、協力するっていうのはちょっと…」

「マドカ、一緒に行動しないでも、情報共有だけしたら?その方がお互い利益が大きいと思うわ」

「…分かった。見つけた情報は全体チャットで共有する。でも、それだけよ」

サキの一声で、マドカも多少協力する気になってくれたようだ

「(そういえば、前回の事件の時もあの二人一緒にいたわね。意外な組み合わせだけど、何か共通点があるのか、うまくやってるみたいね)」

何にせよ、人と人の溝が少ないのは良い事だ

「アヤは勝手にさせてもらうよ。群れるの大っ嫌いだから」

相変わらずこちらの方は協力する気は皆無のようだ

「『私も人と群れるのは好まないわ。でも、その所為で殺されたり容疑者になるのも嫌だし、防げる事なら魔女化を防ぐ方法を知りたいのも事実。協力するわ』」

「わ、私はもちろん協力します。皆さんが辛い思いをしないでいいなら、それに越したことはないので」

「ありがとう皆」

 

2F 図書室

情報収集といえば、やはり文献だろう

ここならもしかしたら過去に連れてこられた少女達の痕跡や研究、この島や館の事を知る事が出来るかもしれない

「(2日目は館の事を知るために歩き回ってたけど、先にこっちに来ておくべきだったわね)」

私の案に参加してくれたのは11人中7人。マドカ、チヒロ、アヤ、カオリの4人は乗り気ではなかった

「(樋口マドカと柊木チヒロはアタシの案が嫌というより、まだ周りの子達とどう関わるか決めあぐねてる感じね。正直、そこまで険悪ではなさそうだから、そのうち打ち解けていけると思う。カオリは単純に情報収集に向かない性格ね。いたら何か情報を掴むかもしれないけど、ほとんど寝てるしおそらく力にはならない。いい意味で肩の力が抜けるマスコット的なありがたさはあるけどね)」

ただひとり、私にもどう関わればいいか分からない少女がいた

「(時雨アヤ、彼女だけは掴みどころのないというか、壁が厚くて無関心。でも干渉に対してはやけに反発するし、自分に向けられたものでない刺激に対しても感覚が過敏。性格と感覚が絶妙にかみ合ってない)」

私の魔法の性質上、容姿は同じに出来ても癖や思考までは私が考えて真似しなければいけない。だから、私は他人の機微な動作や反応。口調や考え方を観察する目は肥えている方だ。

だが、あの時雨アヤという少女。彼女だけは私の今まで出会ってきたどのパターンとも当てはまらない

「向こうが拒絶している以上、こっちが必要以上に関わっても逆効果ね。しばらくは観察だけにしときましょう。それより、情報収集ね」

とりあえず、手当たり次第に図書室の本を手に取り、中央の大机に積み上げていく

「『何か情報はあったかしら?』」

情報収集に取り掛かろうと気合を入れていると後ろからミドリのテレパシーが聞こえた

「いいえ、まだ探し始めたばかりよ」

「『そう、じゃあ、この2冊の本の解読を手伝ってくれないかしら』」

「この本は…見たことない言語で書かれているけど、何の本かしら」

「『それは私にも分からないわ。でも、中の挿絵からするに、魔法の事について書かれているようね』」

「中の言語を読めたの?」

「『私にも分からないって言ったでしょ。挿絵で判断しただけよ。でも、注意して読んでみるといくつか同じ文字の羅列があるの。そこから予測して解読しているのよ。でも、こっちの本の方はダメ。挿絵もないし手書きだから何が書いてあるのか見当もつかないわ』」

「この短時間でそこまで…」

「『違うわ。この本は昨日見つけて、重要そうだったから解読し始めていたのよ。とはいっても、まだここからここまでのほんの数行だけだけどね』」

「それでもすごいわ。私にも協力させて」

彼女の方を向き直ると、彼女は驚いた顔をしていた

「『…貴女って、案外取っ付きやすいのね。初日の印象だと干渉を好まず、単独行動をしてそうだったけど』」

「初日は特に気を張っていたから…嫌な気にさせていたならごめんなさい」

「『それはお互い様よ。まあ、私は変わらず馴れ合いは好まないけどね』」

その後はミドリと共に魔法について記されたと思しき書籍の解読に明け暮れた

 

 

~♪

「っと、一旦はここまでね。牢屋に戻りましょう」

「『そうね。午後はサクラと用事があるから解読は出来ないけど、あなたはどうするの?』」

「私はこの本の解読の続きをするわ。この本、絶対何かの手掛かりになるわ」

「『そう、じゃあ午後からは貴女に引き継ぐ形になるけど頑張ってね』」

各々が牢に戻り、9時になると看守が定例の管理チェックにやって来た

「いさぬおyじ」

「あdにすおm、いあにおめらd」

相変わらず看守は何語か分からない言語を話しているが、何かがあったわけではなさそうだ

一通り牢屋を確認すると看守は再びどこかへ行った

 

 

2F 図書館

食事もそこそこに私は図書室へ籠り、例の本の解読を開始した

「(この文章、挿絵から察するにこんな文章のはず。ならこの文字列は…いや、同じ文言がこっちにも出てきてるけどこれだと当てはまらない。むしろこっちの意味の方が…よし、それなら成立しそうね)」

この推理も『同じ文字列=同じ意味』という前提で進めているが、今のところ解読は進んでいた

「現状分かっているのは、『魔法は~により強くなる』という部分だけね」

翻訳が正しければ、私達の魔法は何かの因子か外力によって強くなる可能性があるということだ。もし本当ならば、この牢屋敷から脱出する術が見つかるかもしれない

「その『何か』が重要ね」

「ミツキさん、進捗どうですか?」

解読に明け暮れていると、いつからそこにいたのか、シズカが声をかけてきた

「まずまずと言った所ね。いつからそこに?」

「5分ほど前から。それにしてもすごい集中力ですね。目の前に人が座っても気づかない程なんて」

「ええ、この手の作業はあまり得意ではないから、昔から集中しないと進まないのよ」

「未知の言語を翻訳するのを得意とする人なんて探検家くらいでしょうね」

「そうね。ところで、貴女は何か見つけたの?」

「私はこれを」

シズカが取り出したのは地図だった

「これは…この牢屋敷の地図?」

「ええ、そうです」

「でも、地図ならスマホの中にもう入っているでしょう?不要だと思うのだけれど」

「私も最初はそう思いました。でも、これを見てください」

差し出されたのは1Fの地図だった

「…これがどうかしたの?」

「ここ、スマホの地図と少し違うんですよ」

シズカの指差す場所をスマホの地図と照らし合わせてみると確かに違いが分かった

「ゲストハウスの数が違うわね」

「はい、単に建築時は1つだったものを何年か経って必要になって増築しただけかもしれませんが」

「何かあると貴女は睨んでいるのね」

「はい、私の勘ではこの3棟のどれかに何か隠し部屋か重要な手掛かりがあると思ってます」

「(もしそこに何かがあるとしたら、確実にこの牢屋敷の重要な手掛かりね)」

ちらりと時計を確認すると14時を回ったところだった

「確認に行きたいのはやまやまだけど、今日中に行くのは得策じゃなさそうね」

「夕方に見に行くんじゃだめなんですか?」

「駄目ではないけど、暗い時間の外は周囲が見えづらくて危険よ。お互い協力しようといった私が言うのもなんだけど、魔女化が進んだ誰かが隠れてても気づきにくいし」

「確かに一理ありますね。あんな事があったばかりですし、少し慎重に行動する方が良いかもしれませんね」

少女達の誰かが他の少女を殺すなんていう事を勘定に入れないといけないのはとても心苦しいが、事実昨日はそういった事件が起きたのだ。そして、おそらく過去にもこの屋敷で幾度となく

人生はゲームではない。命尽きればそれで終わり。コンテニューなんて生温いシステムはないのだ

 

 

夕方 食堂

「皆、なにか収穫があった人はいるかしら」

「ウチはないわ。娯楽室とか探したけど、ホラー映画とか置いてあるだけで役に立ちそうな物はからっきしや」

「拙もこれといって見つからなかったです」

流石に今日提案して今日何かが見つかるといったうまい話はなさそうだった

「ミツキさんとは話しましたけど、この牢屋敷の初期の頃の地図を見つけました」

「『正確には昨日だけど、私は図書室で魔女について書いてありそうな本を見つけたわ。今は私とミツキ、サクラで解読中よ』」

あの本の解読には神戸サクラも関与しているようだった

「わ、私は誰かが残した日記を医務室の戸棚で見つけました。全部は読み込めてませんけど、魔女について書いてくれているみたいです」

「やはり、皆考えることは同じなのね」

しかし、それはつまり過去の人たちはその末に脱出に失敗したということに他ならない

「魔女化についても少し記載があるみたいですね」

「っ!それは本当?」

「は、はい、ここに」

メルルの持ってきた文献は本というよりメモ用紙を何枚も重ねて作った即席のノートのような物だった

 

「これは…大収穫ね」

「はい!これで皆さんが辛い思いを少しでもせずにいられたらいいですけど」

「そうね。ストレスを溜めない事に関しては簡単だけど、トラウマに関しては共有しておけば大丈夫という物でもないわ。寧ろその話をする事が一番のストレスになりかねないから」

「そうですよね…でも、いづれにせよ牢屋敷に長い期間居続けたら、みんな心が参ってしまいます。そうしたらやっぱり悲しい争いが起こってしまいますよね」

「でも、これってホンマなんかいな」

「正直真実だという確証はないけれど、合点の行くところもあるわ」

「『あの姉妹、お互いの魔法が羨ましくてあんな事したんだったわね。そのうえ、かつての自分達が彼女達の新たな嫉妬の種にならないように殺した』」

「でも、何でこのノートは医務室にあったんですかね?図書室とか誰かの牢に置き忘れられていたとかなら分かりますけど」

「メルルちゃんみたいに医務室によくおった子が書いただけやないん?それかゴクチョー達に見つからないように隠したか」

「なんにせよ、有力そうな情報は手に入ったわ。皆、引き続き協力をお願いするわ」

 

 

To Be Continued

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