昼 ゲストハウス前
「ここがゲストハウスね」
昨日シズカが話していたゲストハウスの秘密を暴くため、私とシズカはゲストハウスへ足を運んでいた。
「見た感じただのログハウスですけど、何か隠せそうな雰囲気はありませんね」
「いや、貴女が何かがあると睨んでますって言ったんでしょう」
「そうですけど、改めてみると本当に何の変哲も無い家だなって。まあ、入ってみましょうか」
「ゲストハウスというからどん内装なのかと思ったけど、案外普通ね」
「あるのは戸棚が2個に机、俺にゴクチョーの木像?」
「悪趣味ね」
「そうですか?私はこの像嫌いじゃないですけど」
「戸棚の方は…何もないわね」
ゲストを招いた時用にマッチや茶菓子の一つでも入っているのかと思ったが、本当に何も入っていなかった
「床にも収納らしき物は無さそうね」
「ここはハズレですかね」
「ええ、次に行きましょう」
「さっきの所と瓜二つな内装ね。像まで一緒じゃない」
「ここの戸棚は…だめですね。こっちも空っぽです」
「(ゲストハウスと言っておきながら、誰かを招く準備はされていない。ただ管理者側が怠惰なだけかもしれないけど、常識的に考えれば滅多に外部の人間がこの牢屋敷を訪れることはないという事かもしれないわね)」
考えてみればそうだろう。頻繁に外部の人間が出入りしているなら、そのタイミングを狙って攫ってきた少女達が逃亡を企てる事も十分考えられる。
というより、私達を使ってデスゲームでもしていない限り、外部の人間にここの様子を見せる必要性を感じない
「となると、ここもハズレね」
「残ってるのは
「例に漏れず、ここも同じ内装のようね」
「あらら…これはただの増築だった線が濃厚になってきましたね」
「一応、ここも探索しましょう。増築前からあった建物なら、他の二つと何か違うものがあるかもしれないわ」
「そうですね」
大して広い訳でもないが、それこそ魔法が存在するのだ、魔法で収納や部屋が隠されている可能性もある。無駄はあっても損はないだろう
「(棚は空っぽ、内装に目立った違いはない。隠し扉も無さそうね)」
「ミツキさん、ここ見て下さい!」
シズカに呼ばれ、部屋の隅をよく見ると、うっすら床に線が入っているのが分かった
「床下収納かしら。開けてみましょう」
線に沿って周囲を触ってみると、一部分だけ床が沈み込み、床材を掴むことができた
「重っ…」
現れたのは床下収納ではなく、小さな階段だった
「隠し部屋…あったわね」
「ありましたね。どうします?」
スマホの時間を確認すると13:30。道のりにもよるが、まだ管理チェックの時間までは余裕がある
「行きましょう。何があるか分からないけど、二人いるんだから、危なかったらどちらかが助けを呼びに行けばいいわ」
「それはそうですけど、ミツキさんが詐欺とかに引っ掛からないか少し不安になってきましたよ」
「…?どういう事?」
「つい先日殺人事件があったというのに、この状況で2人きりで進む判断をするのって大分勇気がいると思うんですけど…私が暗闇に乗じて襲うとか考えないんですか?」
「別に勇気じゃないわ。殺すつもりだったならお互いゲストハウスを探索中にいくらでもチャンスはあった。それに私、人を視る目は結構自信があるのよ」
「そう言われたら殺そうと思ってても殺せないじゃないですか」
「あら、じゃあ私の作戦勝ちね」
今から未知の空間に足を踏み入れようとしている状況だというのに、少し和んでしまった
ゲストハウス 地下
「入り口は暗かったけど、奥は灯りがあるのね」
「入り口の場所といい隠し方といい、十中八九管理者側の空間ですね」
灯りに沿って奥へ進むと大きな扉があった
「これは…エレベーター?更に下に降りるのかしら」
エレベーターに乗り込むと、中のボタンは「▲」と「▼」のみだった
「階層はここと地下の二つだけみたいですね。降りてみましょう」
「▼」を押すと歯車の重い動作音の後にエレベーターが動き出した
B2F
エレベーターの扉が開くとすぐにもう一つ扉があった
「鍵はかかってないわね」
扉を押すと隙間から冷気が漏れた
「寒っ!何ですかここ冷凍庫ですか?」
「見た感じそういった設備には見えないけれど…」
どちらかというとそこは研究室かボイラー室といった見た目だった
「冷気はあそこのダクトから来てるみたいですね。そっちにも扉があるので、もしかしたらダクトで隣の部屋とつながってるのかも」
「なら、隣の部屋が冷凍室なのかもしれないわね。でも、それなら冷凍効率が下がるし密閉してそうだけれど」
奥の扉を押すが、こちらはビクともしない
「駄目ね。こっちの扉は鍵がかかってるわ」
「あとあるのは…何でしょうこのファイル」
中央に置いてあるパソコンの様な機械の隣に何かがファイリングされていた
「これは…あのよく読めない言語で書かれているけれど囚人の情報書みたいね。一応持っていきましょうか」
「そうですね。あとは何もなさそうですし、もう引き上げましょうか」
ゲストハウス前
「貴女達、何で
「っ⁉…ゲストハウスがどんな感じか気になって中を見てたの。ただの興味よ」
「1時間ほどいたようですが、大して広くもないゲストハウスで何を見ていたんですか」
これは地下に行っていたことを感づかれているとみて間違いないだろう
「ごめんなさい。
看守を連れていないあたり、処刑はないだろうが、管理者側のエリアに立ち入ったのだ。懲罰房行きは免れられないだろう
「ハァ…やっぱりそうですか。地下の鍵とか壊したりしてないですよね?」
「え?…まあ、何も破壊した記憶はないですけど」
「じゃあまあ、いいですよ。面倒ごとを増やされた訳じゃなさそうなので」
「私達を処罰しないのかしら?」
「褒められた事ではありませんが、別に規則に管理室に入ってはいけないなんてルールありませんし。物さえ壊さなければ私は何も言いませんよ。対応するのもめんどくさいですし」
管理者としてそれはどうなのか。常々よく分からない生物だが、この人間臭さは嫌いじゃない
「それでは。こう見えて私忙しいので」
そう言い残し、さっさとゴクチョーは飛び去ってしまった
「フゥ…ゴクチョーに見つかった時は肝が冷えましたよ」
「ええ、私も懲罰房行きだろうなって覚悟を決めていたところよ」
「とりあえず、成果は上々ね。手に入れた書類を後で皆に共有しましょう」
夕方 食堂
「チヒロちゃん、いつものお団子やのうて違う髪形にしとるやん。でっかい三つ編みやな」
「はい、ちょっと髪で遊んでみました。私髪が長いので、色々髪型を変えて気分転換しようと思って。ストレス発散にもなりますし」
「似合ってるで。今度ウチにも教えてぇや」
「はい、もちろんです」
「皆聞いてちょうだい。昼間に溝倉シズカとゲストハウスの地下に行ったの。そこでこれを見つけたわ」
「ちょ、ちょっと待ってください。いろいろ情報過多です。何があったんですか」
突然の情報にチヒロをはじめ数人の少女は困惑の表情を浮かべていた
「あ…そうね。まずはそこから話すべきだったわ。昨日彼女が初期の牢屋敷図を見つけた件は共有したわよね。だから二人でゲストハウスに行ってみたの。すると
「ゲストハウスの地下って…何でお客さん招く建物に地下室隠すねん」
「カモフラージュだったのかも知れないですね。ゴクチョー曰く『管理室』と言っていましたし、もしかしたらこの牢屋敷の設備を管理している部屋だったのかも」
「その部屋にはもう一つ奥に続く扉があったけど、そっちは施錠されてて行けなかったわ。それより、私が見て欲しいのはこの書類よ」
改めて管理室で見つけた書類を皆に見せる
「『これは私達の身辺調査書かしら』」
「拙達の写真もありますし、おそらくそうですね」
「私が時間をかけて解読してもいいけど、おそらく過去のトラウマやプライバシーに関わることも書かれてると予想できるわ。だから各自、自分の情報書を解読して、可能な範囲で構わないから文字や単語を共有してもらえないかしら」
「めんど…」
「ま、まあ、そう言わずに。アヤさんもなるべく早く解放される方法を見つけたいですよね?」
「はいはい、メルルちゃんはいつも尊い考えですねー」
アヤは私から自分の情報書をもぎ取るとさっさとどこかへ行ってしまった
「私はゆーっくり解読することになるだろうし、あまり急かさないでねー」
「ええ、気長に待ってるわ」
「私も…あまり国語は得意でないので時間が掛かるかもしれません。髪の手入れも欠かせなくて」
「気にしないで。私の我儘に付き合わせているのだけだもの」
朝 食堂
昨日の夕方に渡した情報書を朝には解読して持ってきた少女が1人いた
「私、皆さんの役に立ちたいんです」
「ありがとう氷上メルル。でも、ちゃんと寝れたの?」
「元から夜更かしは慣れているので」
「『あら、見た目に反して案外やんちゃな所もあるのね』」
「駄目よ体に悪いし。特にこんな所での生活なんだからちゃんと休息は取らないと。それに、看守に見つかったら懲罰房行きにされてしまうわ」
「ふふっ、心配してくれてありがとうございます」
「お人好しなのは美徳だけれど、貴女の場合少し過度よ。他人に尽くして信頼を得たい気持ちは分からなくもないけど、自分の体あってこそでしょう。自分の体を大事にしなさいな」
「そう言ってくれるミツキさんも十分お人好しですよ。だから私も力になりたいんです」
メルルの過去を詮索する気は毛頭ない。しかし、ここまでの献身はいっそ依存的ともいえる。過去におそらく何かあったのだと勘繰ってしまう
「でも、助かったわ」
「はい!」
「『今日も図書館で解読作業をするのかしら?』」
「ええ、そのつもりよ」
「『分かった。私も少し用事を済ませてから図書室に向かうわ』」
手渡された書類を手に私は図書室へ向かった
図書室
メルルの解読した文字列と例の書籍を見比べ、同じ文字の羅列がないか観察すると少ないながらも共通点があった
「なるほど、ここは『魔女』、こっちは『仲良く』って書いているのね」
その他にも『傷』『癒す』『親』『死亡』など様々な翻訳単語はあるが、私の見る限りでは共通項は見つけられなかった
「(まだ解読がほとんど進まない。予測では書いている内容を理解できるけど、不明瞭なところも多いし、焦って勘違いの情報で皆を危険にさらすのも避けたいわ)」
「やっぱりその本の翻訳のために情報書を各自翻訳させてたんやな」
「久遠エツコ、翻訳が終わったの?」
「せやな。でも、大したこと書かれてへんかったから役に立つか分からへんで」
「それでも構わないわ。今は少しでも情報が欲しいの」
「なら、ウチも翻訳手伝うわ。案外ひらめきで読み解けるかもやし。ミツキはちょっと休んだらどうや」
その言葉に内心ドキッとした
メルルに自分を大事にしろと言った手前申し訳ないが、ここ数日魔法と魔女化の究明についてずっと考えていたせいか、流石に疲れが出てきているようだ。顔には出していないつもりだったが、見透かされてしまったのだろうか
「…それもいいかもしれないわね。少し休ませてもらうわ」
図書室の一角に置かれている粗末なソファに寝転がると思いの外すぐに睡魔がやって来た
「(これは…自分で思っている以上に疲れてるのね)」
そんな思考をしたのは果たして現実か、夢の中か。私はいつの間にか眠りについていた
久しぶりに、夢を見た
母さんがいて、父さんがいて、私がいて、そしてナノちゃんがいる。
父さんと母さんは共働きで学校から帰っても家に居なかったけど、沢山愛情を注いでもらったし、私も両親やナノちゃんが大好きだ。
でも家でナノちゃんと遊んでいると、真っ黒な靄みたいな人が家に入ってきて、両親二人を包んで消えてしまった。
次は私達の番だ。
私はナノちゃんを守らなきゃという一心でナノちゃんに覆いかぶさりナノちゃんを守ったけど、私もその靄にやられてナノちゃんを置いていっちゃう。そんな夢。でも、これは夢だって分かってる。だから怖くない。ナノちゃんを置いて私が消えるなんてありえないんだから
「・・・キ。ミツキ。なぁ、はよ起きてや!」
「う、うぅ…どうしたの。何か解読で分かったの?」
「違う!ウチもさっきサクラにメッセージで聞いただけやから詳しくは知らんけど、事件がまた起こってしもたらしい!」
その言葉で、私の霧がかった意識は一気に晴れた
「なんですって…現場は」
「中庭や」
私達はすぐに監房へと戻った
1F 中庭
四方を壁に囲われた庭に出てみると他の少女達は既に集合していた
「皆、事件があったと聞いたけど何…が…」
少女達に近付きながら投げかけた質問に対する答えを聞く前に、私は『それ』が目に入り嫌でも理解してしまう
「な、なん…で…」
私の目に飛び込んできたのは『千歳ミドリの首吊り死体』だった
To Be Continued