1F 中庭
「千歳ミドリ…なんで…」
首を吊っている彼女の顔に生気はなく、死んでいるのは明らかだった
だが、少なくとも食堂で朝食を食べていた時はこんな事するようには感じなかった
「自殺…でしょうか」
「確証はないですけど、拙は違うと思います」
各々が勝手な想像を話していると、ゴクチョーが屋敷の屋根から降り立ってきた
「あっ、もう皆さんお集りの様で…ならわざわざ通知はいりませんね」
業務を一つ省略出来る安堵か現状へ対する落胆か、ゴクチョーは一つ溜息をつき言葉を続けた
「それにしても…また起きてしまいましたね。殺人事件。裁判は…12時から行いましょうか。嫌な事は早く終わらせる方が良いでしょうから。それまで皆さん自由に捜査をして頂いて構いませんよ。それでは私はこれで」
相変わらずこちらの反応そっちのけで言いたい事だけ言うとゴクチョーはどこかへ行ってしまった
「とりあえず、捜査せんと。自殺でも他殺でも、事件の真相を明らかにせんとウチら皆殺しにされてしまうで」
「…そうね。捜査をしましょう」
千歳ミドリの遺体と周囲の状況を写真に残した後、遺体を地面に下ろした
「(千歳ミドリがこんな事をするなんて考えづらい。何かしらの方法で殺されたのなら、この子の為にも、それを私が見つけてやる)」
頭の先から足の先まで観察し、遺体に目立った外傷がない事を確認した
「(あるのは首の絞首痕とひっかき傷だけ。なら、死因は首吊りによる窒息死と考えるのが妥当だけど…ん?)」
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首元に触れてみると頭がぐらついていた
「(手足は固まってるのに頭がぐらつくってことは、首の骨が折れてるのね。)」
しかし、それ以外にも何か違和感がある。しかし、その正体が何なのかまでは分からなかった
「周りにこれ以上の手掛かりは無さそうね」
ゴーン ゴーン
裁判の時間が来てしまった。皆重い足取りで裁判所へ向かい、全員が裁判所に入ると看守が裁判所の扉を閉める
「さて、始めましょうか。前回同様、この中から犯人を見つけてください。もし見つけられない場合、全員処刑するのも変わりません。皆さん自殺を疑っているようですが、それなら相応の証拠を提示してくださいね。それでは、魔女裁判開廷です」
裁判所を見渡すと、皆一様に表情は暗い。一見自殺に見える今回の事件も内心では皆、また殺人が起きてしまったと思っているのだろう
「今回の事件の第一発見者は誰なんや」
「私よ」
名乗りを上げたのは樋口マドカだった
「いつもの様に錬金物の調子を見てて、帰って来たら、中庭の方で音を聴いたの」
「音?どんな音なの?」
「えっと、ドサッて何か物が落ちたかぶつけたかしたような音ね。それで、何の音か気になって中庭に行ったら千歳が首を吊って死んでたわ。時間は…9:45位だったと思う」
「その話が本当なら、ミドリさんはマドカさんが駆け付ける直前に首を吊って亡くなったという事でしょうか」
「そうね。もし何かトラブルがあったなら私がもう少し早くに駆け付ければ救えたかもしれない」
「いえ、そうではなくて、犯人はどこに消えてしまったんでしょう」
「そりゃ逃げて…ん?」
「拙も今の話を聞いてそこは疑問でした。あの中庭は出入り口が1つしかないんです。もし逃げたのなら、直後に来たマドカさんとすれ違いになっているはずなんです」
「じゃあ、中庭に隠れてたっていうの?」
「いや、その可能性も低いんとちゃうか?発見後はずっと中庭に居たんやろ?一瞬見ただけやったら見逃すかもしれへんけど、あの中庭大して広くないし、隠れる所もあらへんから隠れるんは厳しいと思うで」
「ちなみにその後、皆はどれくらいで集合したのかしら」
「私が全体チャットで事件について送ったら、数分もしないうちに氷上とサキと天音の3人が来たわよね」
「はい、私は医務室に居たので、すぐに中庭に向かいました。そしたらラウンジの方からサキさんが走ってきて一緒に中庭に出たんです」
「うん、確かにメルルとカオリと中庭の前で合流したよ」
「拙とシズカさんが到着したのはその後ですね」
「その後にアヤとチヒロが到着して、ちょっと遅れてアンタら二人が最後に来たわね」
「(全員中庭の出入り口を通って入って来た所を誰かに見られている。殺害後中庭のどこかに隠れていた線は消えたわね)」
そうなると、一番怪しいのは第一発見者のマドカだが
「当り前だけど、私が殺したわけじゃないわよ。まあ、そう言っても証明する方法もないけど」
一旦、捜査で得た情報を整理してみると、ある事に気が付いた
「となれば自殺なんじゃないの?」
「いや、その可能性は私が否定させてもらうわ」
私はスマホで撮った遺体と周囲の写真をみんなに見せた
「千歳ミドリの首元を見てちょうだい」
「首元?ひっかき傷がありますね」
「ええ、何でだと思う?」
「それは首が絞まって無意識に縄を解こうとしたんじゃないの?死の間際になってやっぱり怖くなったとか。でも、解く前に意識を失って死んじゃったとか?」
「傷のでき方としてはそうでしょうね。でも、この傷、絞首痕に対して些か下過ぎないかしら?」
絞首痕は顎下にあるのに対しひっかき傷は首の根本。縄を掴もうとしていたのならもっと上に傷ができるはずだ
「それに、捜査で分かったのだけれど、彼女の首が折れていたわ。普通、首吊りで骨が折れたら即死のはずなのに、奇妙だわ」
「それと、樋口マドカの証言によると多少は時間は要したようだけど、数分以内には千歳ミドリの死体を発見しているのよね?」
「ええ、そうよ」
「でも、遺体の状態は死後硬直が始まっていた。少なくとも2時間程度は経っているはずなの」
「じゃ、じゃあ、やっぱり誰かに殺されて…」
「でもやっぱり誰も犯人を見てないのは変でしょ。それにマドカが聞いた音っていうのも分からなくなるし」
「ちなみに、千歳ミドリを最後に見たのは誰なの?私は6:30くらいに朝食を食べているのは見たけど、その後は知らないわ」
「ウチも同じやな」
「拙も見ていませんね」
「私は7時過ぎぐらいにミドリさんと娯楽室で資料を読む約束をしていて、7:30ぐらいには解散したので、亡くなったのはそれ以降です」
ミドリの言っていた用事というのはチヒロとの用事だったようだ
「じゃあ、7:30~9:45の間に死亡したと仮定するけれど、さっきの死後硬直の件を含めると柊木チヒロと別れた直後には何者かに殺されたか自殺しているという事になるわね」
「その仮定が合ってればですけどね。死後硬直についても個人差がありますし、寒い時期なら早く硬直が始まることもあるでしょうし」
「いや、理由は拙も詳しくないですけど、寒ければむしろ死後硬直はゆっくり進行するそうですよ。サスペンス小説で見ました。まあ、この季節の気温なら大きく硬直時間が左右されることは無いでしょうけど」
「じゃあ、ミドリが死んだ時間は概ね7:45前後で間違いあらへんな。その時間、皆は何処におったんや?」
「私は一人で図書室にいたわ。例の書籍を解読するためにね。でも、残念ながら8時頃に久遠エツコが来るまでアリバイは証明できないわ」
「あーそういえば居たね。8時前」
私の発言に意外な人物が反応した
「え?時雨アヤ、貴女も図書室に居たの?」
「いたよ。あの部屋、基本静かだからね。8時過ぎにそこのうるさい奴が来たから他の部屋に行ったけど」
「皮肉言わんかったら喋れへんのか?」
「事実うるさいじゃない。それで、そういうアンタはどこで何してたの?」
「ウチは医務室でメルルとカオリと昨日渡された書類の解読をしてたんや。とはいっても、ほとんどメルルにうちら二人の書類解読手伝ってもらってただけやけど」
「(氷上メルルは自分の物だけでなく、他人の書類まで解読できたという事?それは流石に変じゃないかしら)」
今の話にいくつか疑問は残しているが、少なくとも今回の事件とは無関係であろう。この話は後で改めて問いただすとしよう
「私とマドカは7:30くらいから外の倉庫に行って錬金術の材料になる物がないか探してたよ。その後林に行って錬金術で作った物の実用性を試してたんだけど、その時私が指を切っちゃって医務室に一人で向かったから、9時過ぎくらいには解散したかな」
「確かにサキさんがそのくらいの時間に医務室に来て私が手当てしました」
「それにしても、7:30~9時過ぎまでって、結構長い間外にいたんですね」
「実験が軌道に乗って来たからね。もう少しで完成しそうなの」
「話が脱線してきたわね。溝倉シズカ達は何をしていたの?」
「朝食を終えてからすぐミツキさんに頼まれてた書類の解読をラウンジでしてましたよ。記憶の限りチャットで呼ばれるまでずっと解読作業をしてたはずです」
「拙は外壁が透視できないか巡回してました。一人で行っていたのでアリバイはありませんが」
「8時過ぎに倉庫近くで私は見たわ。その後は知らないけど」
「あっ、私も医務室の窓から9時前くらいに一度見ました」
「まあ、どっちにせよ拙のアリバイは極一部しかないようですね」
前回の裁判ではアリバイの無い人間が少なかったが、今回の事件では死亡推定時刻付近の明確なアリバイが無い人間が私、アヤ、チヒロ、サクラの4人もいる
「…ねえ、ちょっと変じゃないかしら」
私が犯人特定に頭を悩ませていると、マドカが討論内容に異議を唱えた
「変?何が変だったんですか?」
「溝倉、貴女ラウンジに朝食後はずっと居たって言ったわよね?」
「え?はい。トイレに行った記憶もないのでずっと居ましたけど」
「さっき柊木は7:30ごろに千歳と解散したって言ってたけど、そこから私が千歳を中庭で見つけるまでの間に千歳がラウンジを通ったところを貴女は見ていないの?」
「え…っ!確かに、見てません」
「なら、どうやって千歳は中庭に入ったのかしら」
「別の通路から入ったんじゃないの?」
「いや、確かにラウンジを通らずに中庭に入る道はあるけど、医務室を通るか、玄関からぐるっと回ってこんといかんなる。人に見つかりたくなかったんなら分かるけど、そうやないんやったら遠回りをする意味が分からんわ」
「じゃあ自殺だったんじゃないの?縄とか持って中庭に出て行ったら明らかに何かやらかす気満々じゃん。だから遠回りしてなるべく人目に付かないようにしたんでしょ」
「可能性はないとは言い切れないけど、もし人目を憚って自殺するなら外の林とかを選ぶと思うわ。追い詰められて正常な思考じゃなかった可能性もあるけど…」
「もう一つ可能性があるなら…2階からの侵入かな」
「2階から中庭には行く階段とか梯子なんてありましたっけ」
「ううん、普通に飛び降りるんだよ。3m位だし、花壇とかに降りれば大怪我はしないと思うよ」
「で、でも、ミドリさんの服に土汚れは付いていなかったと思います」
「あー…じゃあこの推理も違うか」
「…ちょっと待って。今の推理、あながち間違ってないかもしれないわ。あくまで推察でしかないけれど」
「え?ミドリさんが飛び降りて中庭に入ったってことですか?」
「そうとも言えるし、違うとも言えるわ」
「どっちやねん」
「そもそも、樋口マドカが聞いた音。私はさっきの話を聞いた時になるほどって思ったわ。だって千歳ミドリが中庭に飛び降りた時の着地音を聞いたのなら証言につじつまが合うのだからね。でも、ここで一つ矛盾が生じた」
「矛盾なんかありましたっけ」
「いろんな話をしていてみんな忘れているみたいだけど、千歳ミドリが亡くなったのは死後硬直の度合いから2時間程度前と推定されているわ。もしそうなら、最初の方の議論でも言ったけど、樋口マドカが音を聞いた段階では死後かなりの時間が経っていないとおかしい計算になるわ」
「じゃあ、マドカちゃんが聞いた音って何なのー?」
「犯人が千歳ミドリの死体を木に括り付けた時の遺体と木の衝突音よ」
「えっと…たしかにそれで音の件はどうにかなると思いますけど、今度はその犯人がどうやって身を隠したかと、どうやって犯人は千歳さんを中庭に連れて行ったかが判明しませんよね?」
「もちろんそれもさっきの話とどう関係あるのか説明するわ」
私は一つ息を吐き、再び話し始めた
「まず、犯人は何かしらの理由で千歳ミドリを襲った。首の傷から察するに首を絞めたんでしょうね。その後少し耐えたものの千歳ミドリは首を折られ絶命。犯人によって中庭に降ろされ、木に吊るされた。その犯行現場とは、娯楽室。つまり柊木チヒロ、貴女がいた部屋よ」
「ちょ、ちょっと待ってください!なんで私がミドリさんを殺す必要があるんですか!」
「それは私には分からないわ。でも、状況的に貴女しか犯行可能な人はいないの」
「私には無理ですよ。確かに犯行と中庭にミドリさんを降ろすところまでは出来るかもしれませんけど、そのあと私が中庭に入ったら今度は出て来られなくなっちゃうじゃないですか!」
「いいえ、貴女ならできるわ。だってあなたの魔法は『ヘアーコントロール』なんだから」
「そんなダサい名前の魔法やったっけ?」
「多分ミツキさんが勝手に命名しただけかと」
「…そこ、ちょっと黙ってて」
「私が髪を操れるのと今回の犯行、何の関係が!?」
「髪を操って先に木に縄を括りつけて、後から遺体をその縄に吊るせば貴女は中庭に降りなくても犯行は可能でしょう。桐本姉妹の事件の時の証言でも、天音カオリを髪で運んでいたといっていたわよね」
「確かに私の髪は人でも運んだりできるくらいには頑丈ですけど、アニメキャラみたいに髪が伸び縮みするわけじゃありません。ベランダからミドリさんが吊るされてた木まで直線距離でも5~6mはあるのに、私の髪はせいぜい1.5m。明らかに届かないじゃないですか」
「ええ、
「黒部、それはどういう事?」
「柊木チヒロ。貴女のその髪の毛、2つ折り、いや4つ折りかしら。何度か折り返して纏めているわよね?そうでなければ、その
「そ、それは…」
「さっきも言ったけど、これは状況証拠の推察。明確な証拠があって問い詰めているわけではないわ。だから、私の推理が違うというなら、その髪型、解いて見せてもらえないかしら」
「い、嫌です…」
「なら千歳ミドリを殺したのは自分だと認めるのかしら?」
「それは…でも…」
周囲の少女達から浴びせられる疑いの目線に観念したのか、チヒロはついに髪を結んでいるリボンを解いた
瞬間、宙に舞い広がる髪
「なんて長さ…」
広がった髪は床へ落ち、柊木チヒロの周囲を髪で埋め尽くした。
その全長はじつに8mに達していた。
「やっぱり、髪の長さを隠していたのね。貴女ははこの髪と魔法を使って彼女と自身の行動経路を短縮し、殺人を行った。今回の事件の犯人は柊木チヒロ、貴女だったのね」
その糾弾に彼女は何も答えなかった
投票の結果は全員一致で『柊木チヒロ』となった
少女達がスマホの処刑ボタンを押すと、中央の台座が開き、処刑台が姿を現した
揺れが収まると看守に連れられて処刑台へ連行される彼女に少女達は言葉を投げた
「なんで千歳を殺したの?アンタらの仲は悪くなかったはずでしょ」
「それは…」
「チヒロさん、言わなくていいです。拙、多分理由を知っていますから」
「え?なんでサクラが知っとるんや?」
「
「っ!?なんでそれを…」
「拙の魔法、忘れたんですか?」
「は、はは…そっか、サクラさんの魔法、『透視』…でしたね。じゃあ、ずっと私の顔、視えてたんですね」
「ハァ!?ちょっと待ちぃや!顔見られたとか…そんな事で人殺したって言うんか?た、確かに初日に顔を見られたくないって言ってたけど、もし本当やったら、イカれてんで⁉」
「私にとってはそんな事じゃないんです!」
すごい剣幕でエツコの方へ向き直ろうとするチヒロだったが、看守に体を掴まれそのまま処刑台へ拘束される
今朝、私はミツキさんに頼まれていた書類の解読を娯楽室で一人していました。約束をしていたこともあり、途中で千歳さんが来て、一緒に作業をしていたんです。
でも、慣れない事はするものじゃありませんね。珍しく髪型を変えていたせいで、包帯の結び目を間違えてしまったんでしょう。作業中に包帯が解けてしまったんです。それで、あれほどお父さんに他人様に晒すなときつく言われていた私の顔を見られてしまったんです。顔を見るまでもなく、彼女が動揺しているのは髪を通して分かりました。だから、私、また周りの人に嫌われたくなくて、彼女の首を髪で…
その後、人気が無いのを確認してから中庭の木に彼女を吊るして、自殺したように見せかけました。でも、全部バレちゃいましたね。
看守がチヒロを処刑台へ拘束し終わると、処刑台の裏から誰かが姿を現した
「あれは看守…ではなさそうね」
裏から現れたのは見た目こそ看守に似ていたが、左腕が裁ちばさみ、右手が巨大なミシン針のようになっているなれはてだった
そして、その頭には見覚えのある2対の髪留めがついていた
「あのなれはて…まさか桐本姉妹…」
「おや、よく分かりましたね。ここで処刑された魔女のうち、御し易い者は看守の他、運営側のスタッフとして洗脳後、働いてもらっています」
「何それ、趣味悪…」
なれはては柊木に近付くと左手で柊木の顔を切り裂いた
「あ゛…あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛!」
切られ、台座に留められ、また切られ、また台座に留められる。まるで蝶の標本でも作っているかのように何度も何度も繰り返される処刑。その時、ついに柊木の顔を覆っていた包帯が解け、この牢屋敷に来て初めて彼女の顔を拝むことが出来た
彼女の禁忌である顔を
「眼が…ない」
包帯の下には予想されていた眼や隠していたはずの傷はなく、あるのは血の滲んだ口だけであり、日本妖怪ののっぺらぼうを彷彿とさせる風貌だった
「見ないで…こんな私を…み゛な゛い゛でぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛」
ある所に生まれつき顔の無い少女がいました
彼女は先天的に眼がなく、何も見えない『のっぺらぼう少女』だったのです
彼女はその顔のせいで周囲の子供達に気味悪がられ、仲良くする事は出来ず、家族である父親にも気味の悪い顔を隠して生きていけと罵られ続け育てられました
彼女の母親は彼女をそんな体に生んでしまった事を何度も何度も謝り、ついには心の病を患ってしまったのでした
しかし、彼女には分からないのです。私は生まれた時からこの顔で、失ったと思ったことなど一度もない。不自由だと思った事もないのに、何故みんなは私を『かわいそう』にしたがるのだろうと
成長するにつれて、彼女は顔を隠すために伸ばしていた自身の髪を自分の思う通りに動かせる事に気が付きました
同時に、髪から伝わってくる周囲の状況が情景として頭に広がっていき、杖を使わなくても周りの事がよく分かるようになりました
そこで初めて、自分が他者と違う『足りない子供』であると知り、母親が心を壊してまで自分に謝っていた理由を知りました。しかし、彼女に眼はありません。涙を流す事もできないのでした
体を、顔を切りつけられるたびに彼女の顔は傷つき、彼女が頑なに隠していた顔が露わになる。それに伴い、彼女の手は、足は黒く変色し、爪は伸び、声も姿も異形の者へと変化していく
「がわ゛い゛ぞう゛な゛も゛の゛を゛み゛る゛め゛でみ゛な゛い゛でぇぇぇ」
元々長かった髪は見る見るうちに伸び、体を覆い、一見、獣のようにも見える。そして、皮肉にも最後に変化が訪れたのは彼女自身が忌み嫌った、顔だった
「うげぇ…気持ち悪…完全に化け物じゃない」
彼女の顔には生来授かる事ができなかった『眼』が顔中に開き、周囲をギョロギョロと睨みつけていた
切り裂くのに飽きたのか、桐本姉妹のなれはては杭と見紛うほどの一際大きな針を柊木チヒロの胸へ突き刺し、処刑台に磔にされた彼女と一緒に地下へ消えていった
「はい、無事処刑も終わったようですし、これにて魔女裁判閉廷とさせて頂きます。皆さん、お疲れさまでした」
To Be Continued