まのさば とある少女の事件譚   作:フリッカ・ウィスタリア

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柊木チヒロの裁判を終えた一同は自室へ戻って来た。2度の裁判を通し、みんな精神的に追い詰められてきているようだ。このままではまた殺人事件が起こってしまうと考えたミツキは『危ない橋』を渡ることにした


危ない橋

昼 監房

自分の牢へと戻ってきた私は、まだ昼だというのにベッドへ横になった

「ミツキ、さっきの裁判やけど」

「ごめんなさい。今は話をする気になれないわ。後にしてくれるかしら」

「…そうやな。ウチもちょっと休むことにするわ」

一回目の裁判も精神にダメージを負うのに充分であった。しかし、桐本姉妹は互いへの嫉妬に燃え、結果凶行に走った結末の処刑であった

しかし、今回の柊木チヒロは累積された過去のトラウマ、自身が隠し他者に見せたくないと鍵をかけていた禁忌を覗かれた結果の事件だ

もちろん、人を殺すことが正当化されることはない。しかし、彼女の苦しみ、悲しみは重く、辛い物であったことは想像に難くない

ましてやストレスを糧に花開く魔女化という花を育てるのには十分すぎるトラウマであっただろう

ゆえに、自分達が下した彼女の処刑という決断が正しいものだったのかを考えさせられる

「(この牢屋敷において、自分の身を守るためには他の少女の罪を暴かなければいけない。でも、その考えこそが魔女化を進行させる糧になってる)」

どう頑張っても捕らわれている少女達の心が癒える事はなく、時間経過とともに疑心暗鬼に陥るように設計されているのだ

「(明日は我が身…か)」

少なくとも私の家庭は円満であったはずだ。もし過去を覗かれたとて魔女化に至るほどの大きなトラウマは身に覚えがない。しかし、気を引き締めていないと悪魔に吞み込まれてしまう気がして不安が募って来た

「(ダメダメ、こういうネガティブな考えが魔女化を進めるんだから…)」

もう何度目かの自戒を心で唱え私は眠りについた

 

 

夕方 監房

「(…今、何時だろ)」

スマホを取り出すと、19時半を迎えていた

「お昼ご飯…結局食べなかったから、お腹空いたわね。夕食は食べなきゃ」

質の悪い睡眠でボーとした頭を揺り動かし私は食堂へ向かった

 

 

食堂

食堂に入ると、数名の少女は食事をしていたが、皆一様に淀んだ眼をしていた

「(柊木チヒロのトラウマを知って、各々思うところがあったんでしょうね)」

言い換えれば、まだここにいる少女達は心まで侵されてはいないという事だ。そうでなければあの話を聞いて心を痛めるはずがない

「(とはいえ、みんな精神が参ってきてるわね。当たり前だけど…)」

正直、私達にはあまり時間は残されていないのかもしれない

「(あまり危ない橋は渡りたくなかったけど、やむを得ないわ)」

私はさっさと食事を終え、再び監房へ戻っていった

 

 

 

監房

「これでよし、後は…」

自分の牢から出ると、私は二つ隣の牢を覗いた

「何の用?私錬金物の整理で忙しいんだけど」

「お願いがあるの」

私の目的は樋口マドカだった

「何?面倒事ならごめんなんだけど」

「プラスドライバー、最悪、先端が十字の小さな棒でもいいわ。錬金できるかしら?」

「ハァ?何に使うのよそんな物…」

「前に見つけたゲストハウスの地下、通れなかった扉の向こうに行くために必要なの。それで、出来るの?出来ないの?」

「…できるわ」

「ならお願い。時間が惜しいの」

「アンタもサキも私のペースを崩すのが上手ね…ちょっと待ってて」

マドカは牢の奥に隠していた廃材の一つを手に取ると、飴細工のように形を変形させ、こちらへ投げ渡してきた

「はい。でも先に言っておくけど、看守にバレた時は私は知らぬ存ぜぬで通すからね」

「ええ、それで十分だわ。ありがとう」

ドライバーを受け取ると私は急いでゲストハウスへ走った

 

 

ゲストハウス地下 管理室

「この金具を…よし!開いた!」

前回来た時に通気口の蓋がねじ止めされていた事を覚えていたのが幸いだった

「後は向こうだけど…大丈夫そうね」

通気口からの出入りを想定していないのか、格子窓だと結露による氷結で通気口が閉塞するのを恐れたか、冷凍室側には何も蓋が付いていなかった

「足場になりそうなものは…あった」

冷凍室に降りたはいいものの今度は帰れなくなっては本末転倒である。真っ先に私は帰りの足場を組んでから探索にかかった

「冷凍室があるってことは、何かしら凍らしておく必要があるものがあるって事よね」

室内を見渡してみると、いくつか液体窒素を入れていそうな大きく頑丈そうなタンクが並んでいた

「(周りに何もない所を見ると、あの中に何かが入っているのだろうけど、簡単に開くとは思えないわね)」

他に何かないか探すと、奥の方に金庫が3つおいてあった

「ダイヤル式とボタン式の金庫だけれど、数字が皆目見当もつかないわ…ん?」

よく見てみてみると、一つ開け金庫の数字板に指紋がついていた

「1と2と5…あっ、2だけ2回押した形跡があるわ」

もし4桁の数字なら、12通り。試す価値はありそうだ

寒さに耐えながら数分粘り、ついに金庫を開ける事ができた

「これは…瓶?」

金庫の中に入っていたのは瓶に入った透明な液体だった

「ラベルが貼ってあるけど、『B』?残った金庫のどちらかにAの薬があるという事かしら」

もしかしたら、3つとも別々の薬が保管されていて、3種の薬を混ぜる事で何かの薬が完成するのかもしれない

「フゥ…フゥ……寒っ…」

不意に身震いをしてしまった。そろそろ戻らないと本当に凍死してしまいそうだ

足早に用意した足場を上り私は再び通気口から管理室に戻り、そのままエレベーターに飛び乗った

「勢いでこの薬持ってきてしまったけれど、どうしようかしら」

私は薬学に明るくない。ましてや魔法や魔女に関する薬だったならなおのこと分からないだろう

「…そうだ。明日の朝、氷上メルルに相談してみようかしら」

いつも医務室にいる彼女なら、何かわかるかもしれない

エレベーターを降りて慎重にゲストハウスへつながる階段を昇った私は、ゲストハウス前に誰もいないのを確認し扉に手をかけた

「…あれ?扉が開かない」

ドアノブは回るが、閂がされているのか押しても引いても扉は開かなかった

「しまった…夜はゲストハウスも施錠されるのね。なら、看守がゲストハウスの鍵を開けるまで私はここに閉じ込められたままって事ね」

一瞬開錠の隙を見て逃げようかとも考えたが、逃走行為と取られて殺されるかもしれない。そのリスクを負うのは悪手だろう。今回ばかりは大人しく捕まるしかない

幸いゲストハウスは先程の地下と違い寒くはないため、死ぬことはないだろう。私はせめてソファの柔らかさを堪能し眠りについた

 

 

同時刻 監房

「(ちょいちょいマズいで、ミツキ帰ってけぇへんかったやん。どこ行ったねん)」

布団に包まりつつ牢の外の様子をうかがうエツコ。ついに看守が牢の前に立ち、中を覗いてきた

「…いさぬおyじ」

若干観察時間が長かったような気もするが、看守はミツキがベッドで寝ていない事に気付かず次の牢へ歩いて行ってしまった

「(えっ…マジで?確かに布団膨らんどったけど、布団がピクリとも動いとらんのに違和感感じへんかったん?)」

とんだザル警備もあったものである

 

 

 

朝 ゲストハウス

ソファで夜を明かしたミツキだったが、目を覚ました段階で周囲に看守の姿はなかった

「まだゲストハウスの鍵を開けには来ていないのかしら」

試しにドアノブに触れてみると、簡単に開ける事ができた

「え?開いてる…鍵だけ開けて中を確認せず他の部屋の鍵を開けに行ったのかしら」

仮にも牢屋敷の看守の仕事だというのに、そんなに雑な管理で大丈夫なのだろうか

スマホを確認してみると6時になっていたため、私は昨晩の成果と共に食堂へ急いだ

 

 

食堂

「あっ、ミツキやっと帰って来たんやな。昨日はヒヤヒヤしたで」

「晩のうちに返ってこなかったから、黒部も看守か闇に隠れた誰かに殺されたのかと思ったわ」

「ごめんなさい。夜には帰るつもりだったのだけれど、ゲストハウスの鍵を閉められてしまって、閉じ込められちゃったの。でも、その口ぶりから察すると、私の偽装工作はうまくいったようね」

「こっちは気が気じゃなかったわ…」

「確かに昨日の久遠は看守が来ていないタイミングはずっとブツブツ何か言ってたわね」

「そ、そりゃ同室の子に何かあったんかと思って心配にもなるわ…言っちゃなんやけど、こんな所や、アンタが言ったみたいに魔女化した誰かに殺されてしもたんやないかとかいろいろ不安にもなるし」

「ありがとう久遠エツコ。でも無茶はするつもりはないわ。今回はちょっと想定外があっただけよ」

「ハァ…それで、何か成果はあったんか?」

「無かったと言えば嘘にはなるけど、期待以上の物は見つからなかったわ」

「そっか…まあ、無茶はせんときや。この屋敷あちこちに、よう分らん仕掛けがある感じがするし」

「そうね。気を付けるわ」

「あっ、そういえば久遠。少し相談があるんだけど」

食堂を見渡すと端の方の机で一人、探していた少女が朝食をとっていた

「氷上メルル。おはよう」

「あっ、おはようございますミツキさん」

「少し手を借りたいことがあるのだけれど、いいかしら」

私の問いにメルルは目を輝かせていた

「はい!何をお手伝いすればいいですか?」

「これなのだけれど」

私は地下の冷凍室で見つけた「B」の薬品瓶を取り出しメルルへ見せた

「っ!?…それをどこで?」

彼女はひどく驚いた顔で薬品瓶を見つめていたが、改めて私の顔を見上げた

「以前話したゲストハウスの地下で見つけたわ。この薬が何の薬なのか知っているの?」

「え?…あっ、いえ、知りません。でも、特徴的な瓶だったので、出所が気になっただけです」

「そう…残念だわ。医務室にいつもいる貴女ならこの薬が何なのか知っているかもと思ったのだけれど…」

「そうですね。ラベルと薬の色だけでは何の薬かは分かりませんが、少し時間を頂ければ調べられるかもしれません。その瓶をお預かりしても良いですか?」

「ええ、お願いするわ。どうせ私が持っていてもしょうがないもの」

薬品瓶をメルルに渡し、私も朝食を食べることにした

「(相変わらず酷い食事ね…でも、この味に慣れてきている自分にもびっくりだわ)」

そんな事を考えながら黙々と食事をとっていると、突然誰かの怒鳴り声が聞こえた

「いいですよね天音さんは!自分の魔法で眠れるんですから!」

「そ、そんなことはないよー。私も不安なのは一緒だよー」

「その間延びした声、今は一段と腹が立ちます!」

出所は意外にもシズカだった

「(溝倉シズカ、彼女もだいぶんストレスが溜まってきているわね…)」

シズカはカオリを怒鳴りつけるとさっさと食堂を出て行ってしまった

「シズカちゃん、まってー。話を…」

「着いて来ないでください!」

「あ、あの、カオリさん。一度お二人は離れていた方が良いと思います。多分今はお互い冷静に話をできないと思いますし…」

「…うん、そうするねー」

「(幸い、天音カオリの方は対立の意思はないし、溝倉シズカの方も頭に血が上っただけみたいね。時間が経てば冷静になって仲も戻るでしょう)」

この牢屋敷において同じ事が言えるかは正直自信がないが、この手の喧嘩は第三者が入ると碌なことがない。あまり干渉しない方が良いだろう

 

 

昼 ロビー

私の予想通り、少し時間はかかったがシズカの頭も冷え、シズカの方からカオリに謝りに来た

シズカも何やら前後の会話で無神経なことを言ってしまっていたようで、お互い謝り合っていた

「(殺伐としてたこの牢屋敷での生活だったけど、やっぱり友達ってこうでなきゃね)」

何処まで行っても他人なのだ。時にはぶつかることもあるし、すれ違うこともある。でも、話し合いやぶつかり合いを通してお互いを分かり合っていくのが友であると私は思っている

二人の事を見ていると、不意に私とナノちゃんが重なり、ナノちゃんに会いたい気持ちが膨らんできた

「…絶対、ここから生き延びてナノちゃんの所に帰ってやる」

その為には、あの書籍を解読して、少しでもこの島についての情報を集めなければいけない

 

 

図書室

「あの子、こんなに…」

前回私が眠りこけている間にエツコがかなり解読を進めてくれていたようだ

おかげで挿絵のあるページには限るが、内容が見えてきた

「内容としてはサバトの手順を解説しているページだったみたいね。こっちのページは…っ!魔法について書いてあるわ!」

魔法は唯一無二な物であり、保有者が死ぬ・なれはてとなることで次の魔女見習いに引き継がれる事。魔女化が進むことでその力も強くなる事。なれはては死なない事。様々な事が載っていた。

「今なら、前に渡されたこっちの本も解読できるかもしれないわ」

ミドリに託された手書きの古い本を開き、私はそちらの解読も開始した

 

 

『魔女は簡単に死なない。多少の傷であればすぐに癒え、致命傷とはなりえないのだ。だが、人間は■■を手に取り、私達を襲った。力で勝る私達も、数の前には無力だった。

一人、また一人と倒れ、魔女の数は減っていった。その結末は魔法で人間達を島に閉じ込めることで、飢えた人間達の餓死により私達の勝利に終わった。しかし、こちらも残ったのは4人の魔女と島で拾った一人の人間の■■だけ。意趣返しのつもりで■■を化け物にしてやろうと思ったが、まだ試作の魔女■■では不十分だったのか、発現した魔法の影響か目立った変化はない。バカな子だ。化け物の体にされているというのに私に懐いている』

 

『この島では実験対象がいない。外に出るほかないだろう。あの娘を置いていくのは心苦し

あの子がいるとジャマだ。置いていこう。』

「これは…魔女の日記…なのかしら。でもそれが何で図書室に…」

先程の文面から察するに魔女はこの島を離れたのだろう。しかし、日記は続きがあった

『大魔女様の日記を見つけました。ここの管理をするにあたって私も日記を付けようと思います』

「筆跡が変わった…別の魔女の手に渡ったのかしら…いや、文章的には島に残された人間の子の方がしっくりくるわね」

ここにきて1週間。やっとこの牢屋敷につながる手がかりを掴む事に成功した。

私はこのチャンスを活かさねばと心に決めるのであった

 

 

To Be Continued

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