「おはよー!!愛ちゃん!」
最初はただのうるさい声だと思っていた。
「え!今日のおかず唐揚げなの!?いいなぁ〜」
暗くて本ばかり呼んでいる私に話しかけてくる変人。
「えへへ〜、今日もおにぎりにしちゃった!お弁当のおかずってやっぱり難しいね!」
どうでも良かった。私は勉強が出来ればそれで良かった。
「愛ちゃ〜ん...ここわからないよぉ〜...」
泣きついて来た顔が、少し可愛いなと思ってしまった。
ただそれだけ。
「...どこがわからないの?」
「...え、えぇっ!?愛ちゃんが話してくれた!?明日雪でも降るのかな!?」
......
「...やっぱり教えない」
「あぁ嘘嘘ごめん!冗談だってぇ〜泣」
「ここなんだけど...」
なんだか妹ができたみたいだった。
すごく元気で明るい、まるで太陽のような娘。
守ってあげたかった。
この太陽を沈ませてなるものか。と本気で思った。
いいや、この子を死なせてなるものか
だから...こんなことになるなんて、わかるわけがないじゃない…
「ごめんね…愛ちゃん… 大好き」
お願い…私を置いていかないで
出会ったのは、屋上に上る階段の裏
いつも私が、私だけがそこでご飯を食べていた。
いつもと変わらない愛情のこもったお弁当
栄養バランスの整ったおいしいお弁当
静かに箸を動かして一人で食べる。
そんな暗い日常に、彼女は突然やってきた。
「ねぇねぇ!いつもここで食べてるの?えぇっと…向日葵愛ちゃん!…だよね?」
彼女はクラスのムードメーカーで、成績優秀スポーツ万能、暗い自分とは真反対な性格
なんで話しかけてきたのかわからなかった
私をバカにしに来たのかと…そう思った、思ってしまった。
「いきなり何?うるさいんだけど。」
声に出した瞬間「失敗した。」と思った
どうして自分はこんな言葉しか吐けないんだ
もっと違う言葉にできただろうと、言い終わってから後悔の波に襲われる。
「えっと…ごめんね。いつもお昼休みに見かけないから、どこで食べてるんだろうって思ってたから・・・見つけて嬉しくなっちゃって…その、邪魔しちゃってごめんね!それじゃ!」
彼女は少し悲しそうな、寂しい目をして帰っていった。
私は深く後悔した。でも、それと同時に少し安心していた
(彼女はこんな日陰にいるべきじゃない。クラスのムードメーカーとして生きてくれれば、私は陰でいられる。無駄に目立つことも、ない。これでいい、彼女はもう突き放した。もう寄ってくることもないだろう)と…
そう、思っていたのだけれど
「ねえ愛ちゃん!一緒にご飯、食べよ!」
翌日、いつもの階段裏に行くと彼女がいた。
「…えっ…なんで?」
思わず素で返してしまった。目を丸くして驚いた様子の私に、彼女は少し不格好なおにぎりを持ちながらこう言った。
「だって、友達だから!」
「友達とご飯を食べたいっていうのは、当然のことでしょ?」
「だって、昨日…ひどいこと言ったのに…」
「まあ、突然話しかけた私が悪いし!誰にでも強く当たっちゃう日ってあるしね!」
「でっ、でも!友達が教室で待ってるんじゃ…」
「あー!もう!でももだってもないの!私が一緒に食べたいからここに来たの!私みたいな馬鹿に何でもかんでも理由があるって思わないことだよ!愛ちゃん!」
そう言い切った彼女の瞳に反射した太陽の光が、キラキラしていて、私にはもったいないほど、まぶしかった。
「…好きにして。私は勝手に食べるから」
ぶっきらぼうに言い放ったのに、彼女は舞い上がるように飛び上がり、子供のようにはしゃぎながら、隣に座った
「やった!ふっふーん…今日はね~おにぎりにからあげとコロッケ詰めたんだ!名付けて、『からコロ地獄の詰め込み飯』!」
その独特なネーミングセンスに少し顔がほころんだ
「あっ今笑ったね!へっへーん、私の勝ちぃ!」
いや、笑ってないし何も勝負はしてない…
なんて言ってもこの子は聞いてくれないんだろうな…
それから、階段裏は私だけの場所じゃなくなった。
毎日、彼女は不格好だけど具材たっぷりのおにぎりを持って現れる。
中身は大体、からコロシリーズのどれかだ。
「今日は進化版!『からコロ地獄の詰め込み爆弾・チーズマシマシばーじょん』!」
「それ絶対カロリー爆弾じゃん」
「そう!だから一緒に食べると罪が半分になるんだよ~」
「いや、私は自分の弁当あるから…」
「まあまあ、よいではないかよいではないか~」
彼女はいつもそんな調子で笑いながら、私の隣にどっかり座る。
最初は「うるさいな」と心の中で毒づいていたのに、
いつの間にかその声が聞こえないと、階段裏が妙に広く感じるようになっていた。
ある日、彼女がやってこなかった。
珍しいな、と思った。
風邪でも引いたのかな。いや、でも教室にはいたよな…とぼんやりと考えながら、いつもよりお弁当を食べるペースが速くなる。
「…来ないのか。」
呟いた瞬間、自分がそれを待っていたことに気が付いて、胸がきゅっと締め付けられた。
当然だ。
むしろ今まで一緒に食べられていたのが幸運なくらいだ。
彼女は友達が多い。
私なんかと食べなくても他にも一緒に食べる友達がたくさんいる。
でも、そう思うと何故か心が締め付けられて、苦しかった。
(もともと一人で食べていたんだ。今更一人に戻ったところで…)
そう思っていた時、あの声が聞こえた
「愛ちゃーん!ごめーん!食べ終わっちゃった?委員会が長引いちゃって…」
天使かと思った。
駆け寄ってきた彼女の笑顔は少し汗ばんでいて、光をキラキラと反射していた。
「…いや、まだ少し残ってる。」
「よかったぁ…今日はね!『からコロ地獄の詰め込み爆弾・ピリッと甘辛ヤンニョムソース入り』だよ!」
彼女の相変わらずのネーミングセンスと変わらない笑顔で、救われた気がした。
彼女ががぶりとおにぎりにかぶりつく。
「ひぃっ辛いぃ…唐辛子入れすぎたぁ…」
「ふふっ…大丈夫?水、いる?」
途端、彼女の目がまんまると開かれ、こちらを見た
「…どうしたの?」
「今、笑ってくれたよね!?今ふふっ、て!わーい!」
そう言われてやっと気づいた
思わず顔が赤くなる。
「あっ赤くなった!恥ずかしくなっちゃった?ねぇねぇ!」
「うるさい…//」
熱くなった頬を手で冷ましながら詰め寄る彼女を押しのける
おそらくこれが、私が彼女に惚れた瞬間だったのだろう。
だから私は、彼女を守ると誓ったのに
『愛ちゃん、落ち着いて聞いて。』
『○○ちゃんが、自殺未遂で病院に運ばれたわ。』
『今一通り治療が終わって寝ているから、落ち着いたら来てね。』
どうして、気づけなかったんだろう
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