キィィィィ……と、古びた教室のドアが鳴り、阿久津ドロンジョ真矢が入室する。
手には指示棒の代わりに、髑髏の頭がついた黒い鞭。彼女は教卓に立つと、無言で生徒たちを睨みつけた。
「……いい加減に目を見開きなさい。あなたたちはまだ、この世の中が平等だなんて、お花畑な夢を見ているの?」
真矢はチョークを手に取り、黒板に大きく『ドクロベエ』と書き殴る。
「いい? この世界は、たった一握りの『命令する側』と、圧倒的多数の『命令される側』で成り立っているの。
かの有名なドクロベエ様を御覧なさい。彼は自分では指一本動かさない。ただどこからともなく現れ、無理難題を押し付け、結果が悪ければ『おしおき』を下す。……これが、現代社会における資本家と労働者の縮図よ」
そう言うと、真矢は黒板にカツカツと巨大なピラミッドの図を描き出し、冷徹な声で解説を始めた。
◆世界の支配構造(阿久津ドロンジョ版)
【頂点】ドクロベエ(支配層)
姿を見せず、富(ドクロリング)だけを要求する絶対権力。
【中間】ドロンボウ一味(管理職)
現場で汗をかき、メカを自作し、失敗の責任をすべて負わされる。
【底辺】あなたたち(スカポンタン)
誰かに操られていることすら気づかず、三輪車を漕ぎ続ける大衆。
「ドロンボウ一味がなぜ、毎回ボロボロになりながらメカを作ると思う? それはね、『いつかドクロリングを手に入れれば、楽になれる』という幻想を見せられているからよ。
でも現実はどう? リングが偽物だと分かった瞬間、待っているのは爆発とおしおき。あなたたちが将来、有名企業に入って必死に働いても、会社の利益が上がらなければ、待っているのはリストラという名のおしおきなの。ヤッターマン(正義)なんて助けに来てくれないわ」
【質疑応答】
一番前の席で震えている神田和美が、恐る恐る手を挙げる。
「で、でも……一生懸命頑張れば、いつかドクロベエ様も認めてくれるんじゃないですか?」
真矢は冷酷に鼻で笑う。
「……甘いわね。ドクロベエ様にとって、私たちは替えの効くパーツに過ぎないの。
あなたたちがやるべきことは、泣き言を言うことじゃない。『なぜ自分たちが、いつもヤッターマンのメカに負けるのか』、その構造的な欠陥を分析することよ。
インチキ商売で資金を集め、ボヤッキーのような技術者が寝る間を惜しんでメカを作っても、最後にボタンの押し間違い一つで全てが灰になる。……あなたたちのテストのケアレスミスも、それと同じ。一瞬の油断が、人生を爆発させるの」
真矢は鞭をピシャリと教卓に叩きつけた。
「さあ、ノートを取りなさい。
今から、『なぜ正義の味方は常に後出しジャンケンで勝つのか』という、世界の理不尽なパワーバランスについて解説します。
……もたもたしているスカポンタンには、おしおきだべぇ」
1限目、終了です。
生徒たちは全員、青ざめながら「ポチッとな」という言葉の重みを噛み締めていた。
(1限目・終)
(2限目へ続く)