「……まだ席に着かないスカポンタンがいるようね。座りなさい。人生に『一時停止ボタン』なんてないのよ」
真矢は黒板に、巨大な「イカ型メカ」の図解を貼り出した。そこには細かく「製作費」「パーツ代」「人件費」が書き込まれていた。
「いい? 算数とは、単なる数字のパズルじゃないわ。自分がどれだけ搾取され、どれだけの損害を出しているかを正確に把握するための、『防衛手段』よ。今日のテーマは期待値。ドロンボウ一味が毎回、インチキ商売で子どもたちから100円玉を巻き上げ、数千万円のメカを作る。この行動がいかに愚かか、計算してみなさい」
真矢はチョークを手に取り、冷酷な音を立てて悪の組織の『損益計算書』を黒板に書きなぐった。
◆悪の組織の「損益計算書」
【初期投資(支出)】メカ開発費:約5,000万円(ボヤッキーのこだわり代含む)
【収益(収入)】インチキ商売(お化け屋敷など)の売上:20万円
【リスク変数】ヤッターマンの乱入確率:99.9%
【最終結果】爆発による全損失 + おしおきによる治療費
「……見ての通りよ。期待値は常にマイナス。それでもなぜ、ボヤッキーやトンズラーはメカを作り続けると思う? それはね、彼らが『確率論』ではなく『感情』で動いているからよ。
『今度こそ勝てるかもしれない』『全国の女子高生が応援してくれる』……そんな根拠のない希望が、どれだけ家計を、そして組織を圧迫するか。あなたたちの親が、宝くじやギャンブルに手を出して生活を壊すのと、構造は全く同じよ」
【実践問題】:爆発までのカウントダウン
凍りつく教室の中で、真矢は一番前の席で震えている優等生、進藤ひかるを鞭でピシャリと指名した。
「進藤さん。このイカ型メカの自爆スイッチを押してから、脱出ポッドが射出されるまで3秒かかるとします。爆風の広がる速度が秒速 300m、生存圏外まで 1km ある場合、あなたならどう計算して生き残る?」
「えっ……あの、それは……」
「……答えられない?算数ができないということは、爆発に巻き込まれて死ぬということなのよ。この教室では、計算ミスは『×』がつく程度で済むけれど、社会に出れば、そのミス一つで三輪車を漕いで逃げる羽目になるの」
【授業の結び】
真矢は設計図を鞭で強く叩き、冷たく言い放つ。
「あなたたちがやるべきことは、1たす1の答えを出すことじゃない。
『ドクロベエという親会社から提示された予算で、いかにヤッターマン(競合他社)を出し抜き、ドクロリング(市場独占)を勝ち取るか』という、シビアなコスト管理を学ぶことよ。感情を捨てなさい。数字だけを信じなさい。そうしなければ、あなたたちの人生は一生、赤字のままよ」
生徒たちは、自分たちの「お小遣い帳」が急に恐ろしくなり、必死にそろばんをはじき始めた。
(2限目・終)
(3限目へ続く)