校庭の中央、仁王立ちする阿久津ドロンジョ真矢。
その横には、ホイッスルを首に下げた副担任のボヤッキーと、巨大な重りを持つ体育教師のトンズラーが控えている。
「……何をしているの? 早く並びなさい。あなたたちがモタモタしている間に、正義の味方は必殺技のチャージを終えてしまうわよ」
真矢は黒い鞭で地面を叩き、生徒たちを震え上がらせた。
「いい? 体育とは、単に体を動かすことじゃない。『負けが確定した瞬間に、いかに美しく、かつ生存率を高めて戦線を離脱するか』。そのための身のこなしを叩き込む時間よ。人生には、どうしても勝てない局面がある。親の借金、不況、そして……ヤッターマン。そんな時、ただ泣き喚いて逃げるのは無能のすることよ」
真矢はボヤッキーたちにピシャリと合図を送った。黒板の代わりに用意されたホワイトボードに、『ドロンボ式・三段逃走術』が張り出される。
◇実践:ドロンボ式・三段逃走術
【第一段階】敗北の美学:爆発直前、カメラ目線でポーズ。
「絶望の淵でも、自分を見失わないプライドを持ちなさい」
【第二段階】高速ペダリング:3人乗り三輪車で全力疾走。
「チームで一番足が遅い人間が、真っ先におしおきを受けるのよ」
【第三段階】爆風利用:爆風に乗って遠くへ飛ぶ。
「逆境をエネルギーに変えて、次のインチキ商売の現場へ向かうの」
【恐怖のデモンストレーション】
真矢は列の中で泣き出しそうになっていた運動の苦手な生徒、真鍋由介を指名した。
「真鍋君。後ろを見て。あのドクロ雲の下には、あなたを甘やかす親も、優しくしてくれる友達もいない。あるのは『失敗』という名の巨大な爆発だけ。さあ、三輪車に乗りなさい。私がスイッチを押した瞬間、ペダルを漕ぐの。時速 40km 出せなければ、あなただけ居残りでおしおきよ。
……何をしているの? 『やっておしまい!』と言っているのよ!」
「ポチッとな!」
背後でボヤッキーが楽しげにスイッチを押した瞬間、校庭の端で派手な爆発音と煙が上がる。
「……逃げなさい! 必死に漕ぎなさい!あなたたちは、いつも誰かがゴールテープを用意してくれると思っている。でも現実は違う。『おしおき』から逃げ切った場所だけが、あなたの次のスタートラインなの。」
【授業の結び】
真っ黒に煤けた顔で息を切らす生徒たちを見下ろし、真矢は冷たく言い放つ。
「……いい加減、体で覚えなさい。ボロボロの服で三輪車を漕ぎながら、夕日を見つめて『次は勝つ』と強がる……。それが、この残酷な社会で生きていくための、最低限のメンタリティよ。転んでもただでは起きない。爆発しても、服が破れても、明日にはまた新しいインチキメカを組み立てる……。その『しぶとさ』だけが、あなたたちスカポンタンが唯一、エリートに勝てる武器なの」
生徒たちはヘロヘロになりながらも、なぜか「明日もまた頑張ろう(インチキ商売を)」という不思議な活力が湧いてくるのを感じていた。
(3限目・終)
(4限目へ続く)