西日に照らされた校庭からは、下級生たちが無邪気に追いかけっこをする高い声が響いている。そんな平和な放課後の光景の中に、時折、どこか遠くで巨大なメカが不完全燃焼を起こしているような、重く湿った爆発音が混じり込んでいた。
真矢は無言で教壇に立つと、漆黒のラバースーツの懐から、骨の形をした不気味な通信機を取り出した。
彼女がスイッチを入れた瞬間、教室全体に鼓膜を刺すような謎のノイズが走り、天井のスピーカーから、地の底から響くような声が鳴り響いた。
『……ホ〜ホホホ。ドンドド・ドクロベエだべぇ。今日の6年3組の成果は……0点だべぇ』
心臓を鷲掴みにされるような不気味な笑い声。生徒たちが恐怖に息を呑む中、真矢は表情一つ変えずに通信機を元の位置に収めた。
「……聞いたわね。これが現実よ。あなたたちが今日1日、必死に算数を学び、爆風の中を三輪車で駆け抜け、泥水をすすって道徳を語っても、上の人間――ドクロベエ様が『0点』と言えば、それは無価値なの。あなたたちの努力も、流した涙も、社会という巨大なシステムの基準に合わなければ、全ては『失敗』として切り捨てられる……。
いい加減、目を見開きなさい。正義が必ず勝つなんて物語は、もう終わったのよ」
【真矢が語る「究極のおしおき」】
真矢はゆっくりと教壇を降り、生徒たちの間を歩き始める。黒いエナメルのヒールが床を叩く規則的な音だけが、静まり返った教室に冷酷に響く。
「これから、あなたたちには『おしおき』が待っているわ。でも、それは三輪車を漕ぐことでも、爆発に巻き込まれることでもない。本当のおしおき……それは、『この理不尽な世界で、普通に生きていかなければならない』ということよ」
真矢は足を止め、一人一人の顔を見渡した。
「明日になれば、また新しいインチキメカを作らされ、またヤッターマンに壊される。ドクロリングを手に入れたと思っても、それはいつも偽物。……そんな無限ループのような毎日を、死ぬまで笑顔で『やっておしまい!』と言いながら続けられる? 絶望せずに、立ち上がり続けられる?」
それは、この教室で彼女が教えたかった、最も過酷で、最も慈悲深い問いかけだった。
【最後の「やっておしまい」】
真矢は教室のドアを静かに開け、茜色に染まる廊下を指差した。
「……帰りなさい。でも、忘れないことね。あなたたちは今日から、ドロンボウ一味の予備軍よ。どんなに惨めに負けても、どんなにおしおきを受けても、最後は三輪車に3人で乗って、笑いながら夕日に向かって走る……。その強さを持った者だけが、この残酷な世界という名の教室を『卒業』できるの」
真矢の瞳が、仮面の奥で鋭く光る。
「……何をしているの? さっさと帰りなさい。『おしおきだべぇ〜!』と叫ばれる前にね」
生徒たちは、弾かれたように席を立ち、逃げるように、しかしどこか晴れやかな顔で教室を飛び出していった。
【エピローグ】
生徒たちが去り、静寂が戻った教室。
一人残った真矢は、ゆっくりと教卓へ戻った。
そこには、図工の時間に生徒が作った、歪で不格好な「ドクロマークの木箱」が置かれている。
真矢はそれを手に取り、指先で愛おしそうに静かに撫でた。
仮面の奥で、彼女は誰にも見せないほど微かに、慈しむような微笑を浮かべる。
「……スカポンタンども。せいぜい、しぶとく生き残りなさい」
窓の外、遠くの地平線で派手な爆発音が響いた。
鮮やかな夕空に、巨大なドクロ型の煙が、高く、そして誇らしげに昇っていった。
(聖ドロンボ学園 6年3組・完)