散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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十三話

 

 

 

「厄介ね……!」

 

 

 

「範囲が広すぎる!それにこの氷の造形……おそらくあの怪物同様、すべてアイツの血鬼術だ」

 

 

 

吹雪の中、氷柱が乱立する。

 

 

 

視界も、足場も、すべてが敵に支配されている。

 

 

「……カナエ!」

 

「ええ!」

 

 

 

一瞬の間で意思が通じる。

 

 

「怪物共は俺がやる」

 

 

「分かったわ。あの鬼は私が引き受ける」

 

 

互いに頷くと同時に――

 

二人は別方向へと駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グォォォォッ!!」

 

 

三体の雪の怪物が一斉に歳玄へ襲いかかる。

 

 

(硬い上に数もいやがる……だが)

 

 

歳玄は腰を落とし、呼吸を整える。

 

 

(時間はかかるが――俺に斬れない相手じゃない)

 

 

一体目が拳を振り下ろす。

 

 

ドゴォンッ!!と地面が砕ける。

 

だが――

 

 

「遅ぇ」

 

 

歳玄はその隙に懐に潜り込む。

 

 

「桜の呼吸・弐ノ型――散華」

 

 

踏み込みと同時に、無数の連撃が華のように怪物に叩き込まれる

 

 

ギギギギギィンッ!!…と火花のように氷片が散る。

 

 

(やはり浅い……なら)

 

 

次の瞬間、二体目が横薙ぎに腕を振るう。

 

「っ!」

 

 

受け流しながら距離を取る。

その隙に三体目が背後から迫る。

 

 

(囲まれてるな……)

 

 

だが――歳玄の目は諦めていなく

 

むしろ、研ぎ澄まされていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方――

 

 

 

「私があなたの相手よ」

 

 

 

カナエは静かに構える。

 

 

空中に浮かぶ鬼女が、くすりと笑う。

 

 

「ふふ……綺麗な剣ね。でも――」

 

指を鳴らす。

瞬間、空中に無数の氷の刃が生成される。

 

 

「壊れてしまえば、意味がないわ」

 

 

氷の刃を一斉射出する

 

 

「っ――!」

 

 

カナエは舞うように回避する。

 

 

「花の呼吸・弐ノ型・御影梅(にのかた みかげうめ)」

 

 

 

自分を中心に剣を回転させるようにした流れるような剣が氷刃を弾き、砕く。

 

だが――

 

 

(多い……!)

 

 

攻撃の数が異常に多く

 

避けても避けても、終わらない。

 

さらに――

 

 

バキィッ!!とカナエの足元から更に氷柱が突き出る。

 

 

「っ……!」

 

 

飛び回り逃げ切った着地の隙を狙われる。

 

 

(空間そのものを支配してる……!)

 

 

 

カナエの頬に一筋の傷が走る。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

徐々に、体力が削られていく。

 

 

(まずい……このままじゃ)

 

 

鬼女は余裕の笑みを崩さない。

 

 

 

「どうしたの?もう終わり?」

 

 

 

その言葉と同時に――

 

真上に巨大な氷塊が生成される。

 

 

 

「ならこれで潰してあげるわ」

 

 

 

振り下ろされる右腕の合図から巨大な氷塊が落下してくる

 

明らかに回避が間に合わない距離にいるのが分かる

 

 

 

(――っ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨大な氷塊がカナエに近づいてくる

 

その瞬間――

 

 

 

「カナエ!!」

 

 

カナエの脳裏に声が響いた。

 

 

 

ドンッ!!

 

 

氷塊が、真横から“斬り裂かれる”。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

視界に入るどこまでも頼もしい想い人の背中ーー

 

 

「歳くん……!」

 

 

 

そしてその背後には――

 

倒れ伏した三体の怪物。

 

白い毛は裂け、両手足が切断されているのが見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、少し手間取った」

 

 

 

歳玄は肩で息をしながらも、刀を構える。

その刃には、うっすらと血が付いている。

 

 

 

「……全部、倒したの?」

 

 

「ああ。硬かったが……斬れないわけじゃなかったからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼女の表情が初めて歪む。

 

 

 

「……へぇ…やるじゃない。あの子たちを全部壊すなんて」

 

 

 

だが次の瞬間、冷たい笑みに戻る。

 

 

「でも、もう遅いわ」

 

 

カナエの呼吸は乱れており

 

傷も浅くはない。

 

鬼女の唇が、ゆっくりと吊り上がる。

 

 

 

「その女は――もう限界でしょう?」

 

 

 

鬼が指摘するようにカナエの肩が、わずかに上下する。

 

呼吸は乱れ、足元も僅かに揺れている。

 

歳玄はその横顔を一瞬だけ見る。

 

 

 

(……無理をしているな)

 

 

だが、それを口には出さない。

 

代わりに――

 

 

「カナエ、時間を稼げるか」

 

 

カナエに指示をだす。なぜなら胡蝶カナエがこんなものではない事を誰よりも歳玄は知っているから…

 

"その意味を理解した"カナエは微笑む。

 

 

 

「ええ、少しだけなら」

 

 

 

そしてその言葉に、歳玄は頷いた。

 

 

 

「十分だ」

 

 

 

その瞬間――

 

 

 

ドンッ!!と雪がえぐれるほどの踏み込みで地を蹴る歳玄。

 

鬼女の視界から、一瞬で歳玄が消える。

 

 

 

「――っ!?」

 

 

 

慌てて探そうとする鬼だが…直後、横から斬撃のようなものが繰り出される

 

 

 

ギィィンッ!!

 

 

 

慌てて氷の壁が瞬時に生成され、刃を受け止める。

 

 

「速いわね……でも――」

 

 

「足りねぇよ」

 

 

低く呟いたその声は――鬼の背後から聞こえたーー

 

 

 

「なっ――!?」

 

 

鬼が振り向くより早く、

 

 

「桜の呼吸――弐ノ型・散華」

 

 

 

一閃、二閃、三閃――

 

 

闇に溶けるような斬撃が連なり、

 

氷の防壁ごと鬼女を切り裂く。

 

ガギィィィンッ!!

 

 

生身の体から発せられる音とは思えない音が響く――

 

 

 

「惜しかったわね」

 

 

そう言った瞬間鬼女の体にヒビが入り砕け散る。

 

 

“氷の分身”とでも言うべきなのか

 

 

(本体じゃない……!)

 

 

歳玄が理解した

その瞬間ーー

 

 

ズドォォンッ!!と歳玄の上空から無数の氷柱が降り注ぐ。

 

 

「歳くん!」

 

 

遠くからカナエが叫ぶ。

 

 

 

だが歳玄は避けない。

 

刀を握る手に力がこもる。

 

 

 

呼吸が、さらに深く――鋭くなる。

 

 

 

「――見えた」

 

 

 

その目が、わずかに細められる。

 

 

 

吹雪の中…氷の生成…空気の流れ…

すべてが“線”として繋がる。

 

 

 

(ここだ…)

 

 

 

その瞬間――歳玄が真上へ跳ぶ。

 

 

 

氷柱の雨を掻い潜り、

 

一点へと一直線に踏み込む。

 

 

 

「――そこだァ!!」

 

 

 

空を裂く一撃。

 

 

 

「っ――!?」

 

 

 

何もないはずの空間から、

 

鬼女の姿が“引きずり出される”。

 

 

 

「なぜ分かった……!?」

 

 

 

初めて浮かぶ、明確な動揺…

 

 

 

歳玄の刃が、その頸へ届く――

 

 

 

ーーしかし

 

 

 

ガギィィィンッ!!…直前で、極厚の氷が首元を覆う。

 

 

 

「……くっ!」

(硬ぇ……!)

 

 

 

首が斬り切れない。後少しの距離…ほんの僅かに足りていない…

 

 

その一瞬の停滞――

 

鬼女の口元が、歪む。

 

 

 

「これで終わりよ」

 

 

 

ゼロ距離で氷刃が生成される。避け場はないはずだがーー

 

この状況で歳玄は笑みを溢す

 

 

「あなた何を笑ってーー」

 

 

「余り胡蝶カナエを舐めるなよ…」

 

 

歳玄がそう呟いたその時ーー

 

 

 

「花の呼吸―― 漆ノ型・花鳥風月(かちょうふうげつ)」

 

 

 

ヒュン――ッ!!と一陣の華のような斬撃が歳玄と氷の間に割り込む

 

氷刃が、まとめて断ち斬られる。

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

意表を突かれた鬼女が目を見開く。

 

 

 

「悪いな…これで終いだーー」

 

 

 

ーー桜の呼吸・壱ノ型・桜花一閃・"終ノ景"(おうかいっせん・しゅうのけい)

 

 

 

「ま、待ってーー」

 

 

歳玄から繰り出される神速の抜刀術は一閃目で鬼の首付近に造形された氷を破壊した。そしてこの壱ノ型が先ほどまでとは違う点…それはーー

 

 

 

一閃で終わるはずの型が、

 

“終わらない一閃”へと変貌していたことーー

 

一閃、二閃、三閃、と神速の剣撃が止まるところを知らず桜嵐のように暴れ回る。そして最後の一閃が走る。

 

 

――スッ…と鬼女の頸に、細い線が刻まれる。

 

 

「最後に…"あ、あの方"に…お会い…しとう…」

 

 

 

一拍遅れて、首が滑り落ち吹雪の中、その体は静かに崩れ、やがて灰となって消えていった。

 

 

 

「…終わったの?」

 

 

 

コチラに近づいてきたカナエが口にする

 

 

 

「…あぁ。俺たちの勝ちだ」

 

 

「これで十二鬼月じゃないなんてつくづく嫌になっちゃうわ」

 

 

「…」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや…あの鬼が最後に妙な事を口走りやがった」

 

 

「なんて言ってたの?」

 

 

「…"あの方"」

 

 

「あの方?…それってどういうーー」

 

 

 

 

カナエがそう口にした瞬間ーー空気が、変わった。

 

先ほどまでヒュゥゥ……と吹き荒れていた吹雪が、不自然に止む。

 

 

 

「……あれぇ?」

 

 

「「っ!?」」

 

 

場違いなほど軽い声が、背後から響く。

その声を聞いた歳玄の瞳が鋭く細まる。

 

 

ゆっくりと振り返ると――

 

 

そこに立っていたのは、

 

氷のように澄んだ瞳に薄気味悪い笑みを浮かべたままの扇を手にした男

 

そして何よりその眼に刻まれる"上弦"と"弐"の文字

 

 

 

 

「へぇ、へぇ。やるじゃないかぁ」

 

 

 

楽しげに手を叩く。目の前の男ーー

 

 

 

「俺の“遊び相手”を壊しちゃうなんてさぁ」

 

 

 

ゾクリ、と背筋を撫でるような違和感と同時に

唐突に2人に向かい"強烈な圧力"がのしかかる

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

(……こいつは、さっきのとは次元が違う)

 

 

 

「じょ、上弦の鬼…」

(な、なんなの…この悍ましいほどの殺気は!?)

 

 

 

歳玄が一歩前に出る。

震えるカナエを庇うように。

 

 

 

「まぁいいや!俺の玩具は壊れちゃったけど…代わりに…とっても可愛い子を見つけたから!!」

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

そう言い放ちカナエを見つめる目の前の鬼

 

 

 

「…てめぇ…何者だ…」

 

 

「えぇ〜男と話す趣味は無いんだけど…うんうん!君は合格だ!中々に美しい容姿をしているね!…それと気づいてるんじゃないのかい?」

 

 

「…」

 

 

「俺の名は"童磨"…君たちの天敵にして…あの方から上弦の弐の位を頂いてる者さ」

 

 

「上弦か…上弦と殺るのは初めてだな!!」

 

 

「っ!…へぇ…」

 

 

 

目の前の鬼…童磨から上弦の名が飛び出た瞬間、歳玄の"剣圧"がこの地一体に重くのしかかる

 

 

 

「素晴らしい闘気だね!君は柱かな?」

 

 

「…あぁ…名を悲鳴嶼歳玄…桜柱だ」

 

 

「へぇ〜やっぱり柱なんだ…君も魅力的だけど…やっぱり俺は…後ろの子の方が好きかな!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

そう言い放ち再びカナエを見据える童磨

 

 

 

「ねぇ君!俺のモノにならないかい!"君の弱さ"で今まで死ななかったことが奇跡だ」

 

 

「っ!?」

 

 

 

コイツは今何を言いやがった…"君の弱さ"…だと

 

 

童磨の言葉を聞いた歳玄は己の血液がとめどなく沸騰し血が滾るのが分かった

 

 

 

 

「どんなに努力を重ねても無駄だというのにやり抜く愚かさ…これが人間の儚さでもある、君は俺が喰うに相応しい人だ 永遠に共に生きよう」

 

 

 

そう言い放った瞬間ーー

 

 

 

「っ!?おっと!」

 

 

 

童磨に異常なほどの殺気が向けられる

その殺気を放つ者はーー

 

 

 

「…それ以上口を開くな…"殺すぞ"」

 

 

「…歳…くん」

 

 

 

これまでに見たことの無いほどの怒気を抱き全身から剣圧を放ち続ける歳玄…その人である

 

その様を見つめた童磨は、楽しげに目を細めた。

 

 

「……怖いねぇ」

 

 

言葉とは裏腹に楽しげな表情を浮かべる童磨

 

次の瞬間――

 

 

 

ヒュンッ!!と童磨の姿が消える。

 

 

「見えてんだよ」

 

 

歳玄も同時に踏み込む。

 

 

ギィィンッ!!…と刃と扇がぶつかる。

 

 

衝撃と共に氷片が弾け、吹雪が巻き上がる。

 

 

(速さも……力も……拮抗してる!)

 

 

側で見ていたカナエはそう評する

 

童磨の扇が舞うたび、空間が凍りつく。

 

だが歳玄の刃もまた、そのすべてを正面から斬り裂く。

 

 

 

「へぇ……やるじゃないかぁ!」

 

 

「黙れ」

 

 

そう言い放った歳玄は、更に一歩踏み込みーー

 

 

 

「桜の呼吸・参ノ型・“花影・連斬"」

 

 

 

無数の斬撃が嵐のように叩き込まれる。

対する童磨は、笑みを浮かべたまま――

 

 

 

「いいねぇ」

 

 

 

ヒュルリ、とすべてを受け流す。

 

かのように見えたが――

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

瞬時に背後に現れた巨大な殺気に気づき対応しようとするがーー

 

 

 

「遅えよ…」

 

 

そう呟いたと同時に歳玄の一閃が、童磨の頬を掠めた。そしてその瞬間初めて、童磨の表情が変わる。

 

 

 

「……何をした」

 

 

 

童磨の雰囲気が変わる。先ほどまでとはまるで違う悍ましいほどの殺気を放つ童磨

 

 

 

「…ここからが本気ってわけか」

 

 

「…君は必ず俺の手でーー」

 

 

 

そう言い放つ瞬間ーー

 

ビクッ…と童磨の肩が揺れ視線が、わずかに上を向く。

 

 

「…はぁ…お呼ばれしちゃった」

 

 

歳玄は刀を構えたまま童磨を睨む

 

 

 

「…逃げるのか」

 

 

「うーん……僕としても続きはやりたいんだけどねぇ…流石にこれ以上は出来ないね」

 

 

「…」

 

 

「君の名は覚えておくよ…悲鳴嶼歳玄くん…次は――もっと楽しませてよ」

 

 

 

そのまま、童磨の体が崩れ、風に溶けるように消えさっていったのだった

 

 

 

 

「…はぁ…はぁ…はぁ」

 

 

「っと!大丈夫かカナエ!!」

 

 

 

眼の前で童磨の殺気を浴び続けたカナエは童磨が消えた瞬間、崩れ落ちるように座り込んだ

 

 

 

「…歳くん…ごめんなさい…私…」

 

 

「…何も言わなくいいさ」

 

 

 

泣きながら謝るカナエに対し歳玄は抱き寄せる。眼の前で何も出来ずただ見つめることしかできないその辛さは歳玄には分かりようも無い…せめて少しでも"その痛み"を和らげようと頭を撫でる歳玄であった

 

 




この時点でのカナエは原作と違い、経験も実力も浅いので今回は童磨相手には何も出来ませんでした!
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