散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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十七話

 

「はっ…はっ…はっ!」  

 

 

女生徒に言い寄っていたところを歳玄に咎められ無様に逃げ切った男はその後、とある屋敷に走り込んでいた。

 

中に入り館の中心部に入るとそこに居たのはーー

 

 

 

「あ、兄貴!」

 

 

「…む…」

 

 

大男に兄貴と呼ばれた男…上半身は脱ぎ捨てられ鋼鉄の筋肉に覆われた赤黒い肌が晒されている。頭の毛は丸刈りに刈り取られておりその額からは二対の黒い角が生えているのことからこの者が人間では無いことは間違いないだろう。

 

 

 

「居ましたぜ!…あ、兄貴が探している鬼狩りの奴です!」

 

 

「…どう言う容姿をしていた」

 

 

「ちょ、長身で、長髪…あ、"蒼い羽織"を羽織っていました!…それに"鬼のような殺気"を出してるやつでーー」

 

 

「で…そいつは殺したんだろうな?」

 

 

「え…ひっ!」

 

 

 

目の前の鬼のような男の筋肉がみるみると膨れ上がり、一瞬で大男の数倍の大きさまで登る。

 

 

 

「殺したかって…聞いてんだよぉぉ!!」

 

 

「こ、ころし…がはっ!」

 

 

 

怪物の手で全身を握られた大男は答える間も無くそのまま握りつぶされ見るも無惨な姿へと変貌してしまったのである

 

 

 

 

「…あぁ…また殺しちまった」

 

 

 

人1人殺したことすら、まるで虫を踏み潰したことのように振る舞う怪物

 

 

 

「長髪…"蒼い羽織"…鬼のような殺気…ひっひっひ!」

 

 

「随分と懐かしい男を想像しちまったじゃないか!!前は俺の手で殺しそこねちまったからなぁ〜。今度は俺の手で…ひっひっひ!」

 

 

「'土方歳三'…楽しみになってきたなぁ…」

 

 

 

 

かつて徳川家へ深い敵意を抱き、西郷隆盛率いる新政府軍に加担した男…名を"岩倉具視"と名乗り【禁中の怪物】とまで呼ばれた男が…鬼の手に堕ち現世まで生き延びていることなど…

 

 

 

歳玄は知る由もなかった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ここですここ!」

 

 

「…」

 

 

 

そう言いながら歳玄の手を引く女…尊につれられてきた自宅は… 白壁と木造の柱が調和した外観に、瓦屋根が静かに佇み、歳玄の自宅程の屋敷では無いがそれでも一般家庭よりは裕福なことが目に見える、どこか上品で落ち着いた屋敷であった。

 

 

 

「お兄ちゃんただいまぁ〜!!」

 

 

「…」

 

 

「おう。お帰り〜ってアンタ誰だ?」

 

 

「っ!」

 

 

 

そこに居たのは薄暗い桜色の髪を乱雑に切られた目にかからない程の短髪に整えられた、紅色の眼を持つ美青年…何を隠そう、前世での"土方歳三"そっくりの容姿をした男であった。

 

思わず歳玄本人すら言葉を失うほどの似た顔立ちであり"今の土方歳三"とは眼の色と髪型が多少違うものの、雰囲気や纏っている空気感などはそっくりである。

 

 

 

「あ、この人は悲鳴嶼歳玄さん!実はねーー」

 

 

 

そう言い兄の元へ行き事情を説明する尊

 

 

 

「本当にありがとう!アンタが居なかったら今頃…」

 

 

「気にしなくていい。俺もたまたま通りかかっただけだ」

 

 

「そう言うわけには行かないさ!あ、俺の名前は市川武流(たける)と言う。武流って呼んでくれ!」

 

 

 

兄の名前は市川武流と言うらしい。妹と違い立ち姿だけで只者ではない雰囲気を醸し出している。

 

それから兄の作った夕食を一緒に平らげることとなった歳玄…

 

 

 

「両親はいないのか?」

 

 

「あぁ〜ウチは貿易関係の仕事してるんですよ。」

 

 

「そうそう。今頃船の上だと思うぜ。ここには一月に数回しか帰って来ないんだ。だから普段は2人で生活してるってわけだ。」

 

 

「…ほう」

 

 

 

この年代で2人で生活すると言うことは簡単なことでは無いことを歳玄は知っている。

 

 

 

「歳玄は刀が好きなのか?」

 

 

「ん?」

 

 

「いやだってそれ…隠してるつもりだろうけど刀だろ?」

 

 

 

歳玄は廃刀令が出されて以降、刀を所持しているだけで怪しまれることを避けるため風呂敷に包み偽装している。

 

 

 

「…あぁ」

 

 

「おお!やっぱりそうか!ちょっと見せてくれよ!」

 

 

 

刀と知るや否や勢いよく食いついてくる武流に驚きながらも刀を見せる。

 

 

 

「刀身の色が他の刀とは違うのか…」

 

 

「わぁ〜綺麗〜」

 

 

 

通常の刀の色とは違う日輪刀をみた2人が感想をこぼす

 

 

 

「ウチのとはまた全然違うね!」

 

 

「馬鹿お前!ありゃあ国宝クラスの家宝だぞ!馬鹿にすんなよ!」

 

 

「えぇ〜でも〜」

 

 

「この家にも刀があるのか?」

 

 

 

何やらこの家にも刀を所持していると言う風なことを口走る2人に聞き返す歳玄

 

 

 

「…まぁ…あるにはあるが」

 

 

「…いや、別に無理に見せてくれなくても良いんだが」

 

 

「大丈夫よ歳ちゃん!お兄ちゃん本当は自慢したくてしょうがないんだから」

 

 

「そうなのか…って歳ちゃん!?」

 

 

 

 

ちゃん呼びされたことに思わず聞き返す歳玄。

 

 

 

「あれダメだった?」

 

 

「いや…ダメっていうか…何というか」

 

 

「じゃあ歳ちゃんで!」

 

 

 

尊の勢いに押されてしまい、ちゃん呼びを許可してしまった歳玄。…このことを後程後悔するハメになるとは今は思いもしなかった。

 

そして数分後、別の部屋から長方形の如何にも高級そうな箱を持ち出してきた武流

 

 

 

「いつ見ても堅苦しい入れ物に入れてるわね」

 

 

 

尊が呟くのも無理はない。なにせそれほど厳重に管理されている代物なのだ

 

 

 

「それ程の名刀なのか?」

 

 

「あぁ!聞いて驚くなよ!これはーー」

 

 

「っ!?」

 

 

 

武流が取り出した方を見て驚愕する歳玄…なぜならそれはーー

 

 

 

「名刀"和泉守兼定"(いずみのかみかねさだ)…江戸幕府"最強"を誇った人斬り集団・壬生狼…鬼の副長・"土方歳三"が愛刀にしていた。武を志す者なら誰しもが憧れる超名刀だからな!」

 

 

忘れるはずもない…なんせそれは…かつて俺と共にあの激動の時代を駆け抜けた愛刀であり俺と共に蝦夷の地に散ったはずの刀であるのだから

 

 

新八…もしかしてお前が回収してくれたのか…

 

 

 

「「ーー歳玄(ちゃん)!!」」

 

 

「っ!」

 

 

 

脳裏に齧り付いた思い出が溢れ出て、武流と尊の声に気づかなかった歳玄

 

 

 

「…泣いてるよ歳ちゃん」

 

 

「…あ…なんで」

 

 

 

尊に指摘され気づいた…"剣鬼"とも恐れられた漢が流した初めての涙である

 

 

 

「…済まない。醜いものを見せてしまった」

 

 

「っ!醜くなんて無いよ!…私…今日会ったばっかだし歳ちゃんのこと何も知らないけど…それでも今の涙が醜いなんて微塵も思わない!」

 

 

「あぁ…俺もだ。詳しい話は聞きはしないが相当な葛藤が垣間見えた気がした。決して醜くなんて無いぞ歳玄。」

 

 

「…済まない…ありがとう」

 

 

 

2人の優しさに思わず笑みが溢れる歳玄。…思えば初対面の相手にこのように感情を見せることなど今までなかったはずである。…しかしこの2人の前では何故か素を曝け出してしまう自分がいる

 

 

 

「…ていうかなんでこの刀がここにあるんだ?」

 

 

「ふっふっふ!聞いて驚くなよ歳玄!」

 

 

「??」

 

 

「俺と尊はな!あの"土方歳三"の末裔なのである!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 

土方歳三…今日2度目の青天の霹靂である。

 

 

 

(いや確かに面影があり過ぎる…尊の奴は"琴"に目元がそっくりだ…そんでコイツ…武流なんて…前世の俺(土方歳三)そっくりじゃねぇか!!)

 

 

(てことは琴…お前…"あの時")

 

 

 

歳玄の脳裏に浮かぶは、最後の会津での場面…愛しの女を信頼する仲間に預けた時…あの時琴は腹に歳三の子がいるとは言わなかった。

気づいてなかったのか…それとも…いや…琴の性格上知っていても俺のために隠し通した可能性が高い。

 

そうか…お前は生き延びて…"繋いでくれていた"のか…

 

 

蝦夷の地で散った俺なんかの血を後世に語り継ぐまで伝えてくれていたのはコイツらの反応を見ただけで一目瞭然だ。

 

 

 

(ありがとうな…琴)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「土方歳三の末裔ってことはお前も剣を扱うのか?」

 

 

「お!わかるか!俺も実は剣術道場に通ってんだよ!今日はそれで尊の迎えに間に合わなかったってのがあんだよ!」

 

 

「私は剣なんて握ったことすらないけどね。痛いし怖いだけだもの」

 

 

 

どうやら武流の方は剣に覚えがあるようだった。

 

 

 

「なぁ!歳玄も剣術やってんだろ!ちょっと勝負してみようぜ!」

 

 

「え!ちょっとお兄ちゃん!」

 

 

「…ふっ…いいぜ。その勝負受けてやる」

 

 

 

武流の出した勝負にこの剣術馬鹿が乗らないはずもなく、屋敷にある庭で勝負することになった2人

 

 

 

今回は流石に真剣で斬り合うわけにもいかないので互いに木刀を片手に向かい合う形で立ち会っている

 

 

 

「それじゃあいい?怪我だけは辞めてね!」

 

 

「「ああ」」

 

 

 

尊の言葉に頷く両者

 

 

 

「…はじめ!!」

 

 

「うぉぉぉ!!」

 

 

 

開始の合図と共に歳玄に向かい突っ込む武流…構えは両腕で木刀を高く構えた上段であり、この時代に於いては体格に優れる武流が取る構えとして相性が良いのであろう。

 

 

しかしそれは

 

 

自分より体格や筋力が劣っている場合の相手に限るが…

 

 

 

「っ!ぐっ…」

(コイツ片手で!!)

 

 

 

「…ほらどうした」

 

 

 

ガコッ!と武流の上からの打ち下ろしに対し、歳玄は片手で受け止める。そして鍔迫り合いの形に持っていくが基礎筋力の差で徐々に武流が押し込まれる形となっていく。

 

 

 

「ま、まだだぁ!」

 

 

 

「お!」

 

 

 

鍔迫り合いの際全力の押し込みで歳玄の木刀を下に押し込む。そしてその瞬間、武流は一瞬で木刀を鍔迫り合いの形から少し離すことで、押し返すために力を込めていた歳玄の木刀は反射で宙に浮いてしまう。

 

 

 

「貰ったぁぁぁぁ!!」

 

 

 

そしてその瞬間ーー空いた胴目掛け武流は横から水平に打ち込もうとする

 

 

 

ーーしかし

 

 

 

「やるじゃねぇか」

 

 

「んな!」

 

 

 

 

歳玄はその経験からくる読みにより武流の胴への打ち下ろしを一歩下がるだけで躱しきり、刀が反対方向に流れた隙に自らの木刀を武流の頭近くに当てる

 

 

 

「…ま、参った。降参だ」

 

 

「…ふぅ…」

 

 

「歳ちゃん。凄いすごいよ!お兄ちゃんが負けるのなんて初めて見たよ!」

 

 

 

勝負が決まった後、歳玄にむかい尊が飛び掛かる。

 

 

 

「本当だよ。全く。これでも道場では免許皆伝も貰ったんだけど…」

 

 

「…いや、お前も中々強かったぜ」

 

 

「年下のお前に言われても嫌味にしか聞こえねぇっつうの。…お前どこの流派だ?」

 

 

「…"天然理心流"」

 

 

「っ!なに!」

 

 

「何有名なのお兄ちゃん」

 

 

「馬鹿かお前は!天然理心流といやぁ、江戸時代末期、今よりも数々の流派が存在し…それこそ、北辰一刀流・神道無念流…など数多くの流派の中で"実戦剣"最強と謳われた"失われた流派"の一つだぞ」

 

 

「へぇ〜」

 

 

「お前絶対分かってないだろ」

 

 

「ま、まぁ色々あってよ。師匠から受け継いだんだ」

(ここは誤魔化しておくか)

 

 

 

 

 

前世での己の血筋との邂逅…愛刀との再会…思わぬ縁からの繋がりで結びついてしまった繋がり。…しかしそれは必ずしも良い事ばかりとは限らないのである。…今歳玄の知らぬ間に既に事は動き始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

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