散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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十八話

 

 

あれから歳玄はこまめに市川邸に顔を出すようにしていた。自分の子孫のことが気になることもあるが、他にも武流に剣術の指南を頼まれ、時間が空いてる日などは指導している。

 

また前回のような事があってはならないという事もあり、武流が剣術の稽古に出掛けている日などは、なるべく歳玄が尊を女学校に迎えにいくようにしていた。

 

 

そして、2人と出会ってから10日ほど経ったころーー

 

 

 

「それじゃあ私は、愛子とお買い物してくるから留守は宜しくねぇ〜!!」

 

 

「おう!お前も気をつけろよ〜」

 

 

「歳ちゃん!暇だったら迎えに来ても良いからねぇ!」

 

 

「…俺はお前のお守りじゃねぇっての」

 

 

「…俺は無視かよ」

 

 

「じゃあねぇ〜!!」

 

 

 

そこにはすっかり仲が深まった3人の姿があり、今日は尊が学校の友達と出かけるという事もあり門まで見送りに来ていた。手を振りながら駆け足で去っていく尊を見送り歳玄と武流は家に戻る。

 

 

 

「しゃあ!今日も修行するぞ〜!!」

 

 

「…ふっ」

 

 

 

 

あいも変わらず剣術の事しか考えてない武流に昔の自分(土方歳三)を重ねた歳玄は思わず笑みを溢してしまう。

 

 

 

「いいか?…この構えは相手が"格上"…それか"自分の命と引き換えに相手を殺す"覚悟を決めた時のみ使用を許可する。俺の教える"型"は相打ち覚悟の実戦剣のみだからな」

 

 

「…相打ち…」

 

 

「そうだ…普段のお前なら慣れしたしんだ上段打ちの構えが適切だろう。お前は普通の人間より筋力に優れているし、瞬発力も悪くねぇ。…並の相手なら負ける事はねぇだろうな」

 

 

「…」

 

 

「…だから俺が教えるのは…お前の全てが通用しなくなった時…それを覆すに値する一か八かの大博打の剣技ってわけだ。」

 

 

「…おす」

 

 

 

歳玄が教えるは"平青眼"…それも"土方歳三"オリジナルの型である。

 

通常'平青眼"とは、基本かつ実戦的な構えの一つで、「中段の構え」とも呼ばれており、攻めと守りを同時に成立させる最もバランスの取れた型の事を指すだろう。

 

だが"土方歳三"が扱う"平青眼"は通常とは大きく異なる。

 

 

まずは切先…刀は常に己の心臓と相手の心臓の中心に置き、利き腕で横から握り、反対方向の手は刀の持ち手に添えるだけでよし。

 

次に足元は軽く開き利き足を軽く前に傾け重心を少し前に持ってくる。こうする事で相手より早く攻撃に転じる事が可能となるからである。

 

これを持って土方歳三の平青眼の構えは完成する

 

 

 

そしてここから何より大事なのは初太刀ーー

 

相手の攻撃を瞬時に見極めることーーただしこれは相手の攻撃を避けるためじゃ無い

 

相手の攻撃は寧ろ受けてしまえ…心臓と頭部以外は捨てて構わない

 

刀で切り裂さかれようがそんな物はどうでも良い…刀が突き刺さろう物ならそのまま取り上げて仕舞えば良い

 

 

その代わりーー

 

 

こちらの攻撃は必ず当てる

 

 

ーー"心臓や頭部といった急所"

 

 

命を断ち切る箇所に必ず

 

 

そうなのだ…土方歳三の平青眼というものは守りの一切を捨て去った、所謂"諸刃の剣"という事である。

 

おそらく今の剣術を指導している指南役が聞けば必ず止めに入るであろう。…なにせこれは"相手を殺す"ための剣技なのだから

 

だが土方歳三はこの剣で数々の敵を葬ってきたのもまた事実である。

 

 

それ故、必殺…奥の手…諸刃の剣とはよく言ったものである

 

 

 

そしてこの型を自らの子孫に伝授しているこの剣術馬鹿とそれを嬉々として教わっているこちらの剣術馬鹿も狂人の類いであることは間違い無いだろう

 

 

 

 

「にしてもお前本当に14か?…とても14の言動には思えねぇぞ。その化け物じみた強さもな」

 

 

「あ、あぁちょっとキツい修行を重ねてきたからな」

 

 

 

まさか2度目の人生である事を言うわけにはいかない歳玄は適当にはぐらかす。

 

 

 

「今日はこの辺で切り上げるか」

 

 

「そうだな飯の支度もしなきゃらならねぇし」

 

 

 

2人が修行を始めてから数刻の時が過ぎ去り日は傾き始め、景色も暗くなり始めている。

 

 

 

「なぁ…尊の奴は何時頃に帰ってくるんだ?」

 

 

「そうだなぁ〜いつもならもう帰ってきてもおかしく無いんだが」

 

 

「…俺が見回りに行ってこよう。」

 

 

「あ、なら俺も行くぜ!人数は多い方がいいからな」

 

 

 

 

日が暮れ始めても戻らない尊を心配し街に散策しにいく歳玄と武流

 

 

そして遊びに行った尊が行きそうな場所を虱潰しに当たっていく。しかし探せど探せど尊らしき人物の姿が見当たらず、2人の疑心と心配もどんどんと大きくなっていく。

 

 

 

「っくそっ!どこに行ったんだ尊のやつ!」

 

 

「もしかしたらもう家に戻ってるかも知れねぇ。…一度屋敷に戻るか」

 

 

 

辺りは日が沈みすっかりと暗くなってきており、女学生2人が遊んでいる時間を過ぎ去っている。もしかしたらすれ違った可能性に縋り2人は一度屋敷に戻ることにする。

 

 

 

「ん?」

 

 

「あれは…」

 

 

 

そして屋敷の前で座り込む一つの影を見つける

 

 

 

「おい!どうしたんだ!」

 

 

「あ、尊のお兄さん!!尊が!尊が!」

 

 

「おい!大丈夫か!」

 

 

「"攫われちゃったんです"!!」

 

 

「「なに!?」」

 

 

 

 

目の前の少女の名前は愛子(あいこ)と言い、尊と同じ学校に通う女学生であり今日尊と共に出かけたはずの少女である。

 

 

 

「おい!尊が攫われたってどう言うことだよ!おい!説明しろよ早く!」

 

 

「わ、私!」

 

 

「落ち着け!武流!」

 

 

「んだよ!これが落ち着いていられるかってんだよ!」

 

 

「尊の居場所を聞くためだ!お前が怒鳴り散らかした所でこの子が話しずらいだけなんだよ!」

 

 

「っ!す、すまん。」

 

 

 

武流の気迫に怯えた愛子が口に詰まっているのに気づいた歳玄は武流を咎め愛子に何があったのかを聞く。

 

 

 

「私たち今日はーー」

 

 

 

2人はいつものように街でお買い物をしながら楽しんでいたらしい。朝からお買い物したり美味しい茶屋に入ってみたり、愛らしい雑貨が置いてあるお店に立ち寄ってみたりと、ごくありふれた休日を満喫していた。

 

それが変わり果てたのは今から1刻ほど前のこと…

 

 

 

「そろそろ帰ろ!帰らないとお兄ちゃんと歳ちゃんに怒られちゃう!」

 

 

「もう!本当に尊はその2人の話ばっかりね!お兄さんは兎も角…その歳さんって人のことアンタもしかして…」

 

 

「え!?」

 

 

「え…何その反応もしかして本当にーー」

 

 

 

愛子の指摘に顔を赤らめる尊に更に問い詰めようとしたその時ーー

 

 

 

「あの…すいません」

 

 

2人の後ろから声をかけたのは… 街並みに紛れながらも、どこか異質な空気を纏う男――

 

 

黒に近い深藍の着流しに、やや古びた羽織を重ねている。布地は上質だが手入れが行き届きすぎており、不自然なほど皺一つない。帯は無地の暗色で、頭には目深に中折れ帽を被っている。影に隠れた目元は窺えず、口元だけがわずかに笑みを浮かべている。

 

 

 

「はい…何ですか?」

 

 

「ちょっとアンタやめなって!」

 

 

 

見るからに怪しい男を前に忠告する愛子を無視し、対応しようとする尊

 

 

 

「ちょっと道をお尋ねしたいんですけど」

 

 

「あ!良いですよ!私に分かるところなら良いんですけど…」

 

 

「ここでしてーー」

 

 

 

そう言いながら胸元から紙切れのようなものを取り出す。そしてそれを確認するために近寄る尊

 

そして

 

尊が男に近寄ったその時ーー

 

 

 

「むっ!?」

 

 

「尊!?」

 

 

「お嬢ちゃんを少しお借りするよ」

 

 

 

尊は男の手により捕まり、手を口元に当てられただけで意識を失ってしまった

 

 

 

「尊に何するのよ!?」

 

 

「ちょっとお使いを頼まれてくれませんか?」

 

 

「何を言ってるの!」

 

 

「このお嬢さんの家に入り浸る男…その男にこの紙をお渡しください。」

 

 

「…何を…言ってるの」

 

 

「来なければこのお嬢さんの命は…無いと思ってください。…時刻は今夜の子の刻(24時)まで…ではお願いしますよ」

 

 

「っ!尊ぉぉぉ!!」

 

 

 

愛子の叫び声も虚しくその男は霧と共にその場から尊ごと姿を消し去ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…歳玄テメェ!!」

 

 

 

 

事の経緯を知った武流は歳玄を呼びつける男が尊を攫った事を知り激昂し歳玄の胸元を掴み上げる

 

 

 

「…俺のせいだ…俺のせいで尊は…」

 

 

「っ!?」

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

歳玄が呟いた瞬間ーー身の毛もよだつような濃縮された禍々しい剣圧が辺り一面を覆い尽くす

 

その剣圧を浴びた2人は奥歯が震えるほど怖気付く…

 

 

 

「悪い武流…必ず尊は連れ戻す…俺の命に変えても」

 

 

「っ!お、おい!」

 

 

 

愛子から紙を掴み取った歳玄は武流の言葉を聞き流し紙に書いてある場所へと急ぐ

 

この時の歳玄の貌を見た人物たちは皆口を揃えてこう言った

 

 

 

 

『まるで人の皮を被った鬼神』

 

 

 

のようだったーーと

 

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