散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

20 / 37
十九話

 

そこは街から遠く離れた場所に佇んでいた

 

大正の世にありながら、屋敷はまるで戦乱の時代から取り残されたかのような威圧を放っていた。

 

分厚い土壁は歳月に削られ、ひび割れの奥に黒ずんだ影を宿している。外周を囲む高い塀はまるで城郭のようにそびえ、鉄を打ち付けた重厚な門は、何人の侵入も許さない

 

庭は手入れの気配を失い、伸び放題の草木が石畳を覆い隠す。風が吹けば、どこからともなく軋む音が響き、まるで屋敷そのものが生きているかのように唸り声を上げる。

 

窓は少なく、あっても格子や板で塞がれ、内部の様子は一切うかがえない。ただ、時折――人の気配とも、獣の気配ともつかぬ“何か”が、奥底で息を潜めているような不気味さが漂っていた。

 

 

 

中には無数の鬼が徘徊しており侵入者を排除する役目を担っている。数十年間に渡り蟻1匹の侵入すら許さなかった鉄壁の牙城である。

 

 

しかしこの日ーー

 

 

その逸話に終焉が齎された

 

 

 

 

 

「グハッ!」

 

 

「ギャハッ!?」

 

 

 

 

バギャァァン!!…と轟音のような音と同時に鋼鉄で出来た門が破られ門の外にいた悪鬼たちが吹き飛ばされるように飛び散る。

 

 

 

「な、なんだ!」

 

 

「何の騒ぎだ!?」

 

 

「侵入者だ!鬼狩りの侵入者が乗り込んできたぞぉぉ!」

 

 

 

門を破り入り口から現れたのは現桜柱にして『"剣鬼"』の異名を持つ男・悲鳴嶼歳玄…その人である

 

 

 

「ギャハハ!馬鹿め!まさか単身で乗り込んでくるとはな!」

 

 

「こちら側は何十ものの鬼が潜伏している要塞だぞ!!」

 

 

「たった1人に何ができると言うのだ!ガハハハ!!」

 

 

 

 

鬼たちが言うように既に歳玄の前には10数匹ものの鬼が立ちはだかっていた。

 

 

 

「…尊はどこだ…」

 

 

「あ?何言ってんだこいつ」

 

 

「この人数にビビって怖気ずいちまったか!」

 

 

「…尊はどこだって聞いてんだよ…」

 

 

「うるせぇ!!」

 

 

 

 

初めに飛びかかってきた鬼を抜刀術で一閃し首を吹き飛ばす。

 

 

 

「ギャハッ!?」

 

 

「つ、続けお前ら!?」

 

 

「「「うぉぉぉぉ!!」」」

 

 

 

最初の1人目が殺されたのを皮切りに次は複数人で向かってくる鬼達…

 

 

 

ーー桜の呼吸・弐ノ型・"散華"

 

 

歳玄が振るった刃は複数人で飛び掛かる鬼達を同時に斬り飛ばす。更に斬り飛ばされた舞い散る桜の斬撃が、確実に鬼の首を削いでいく。

 

 

 

「ば、化け物め!」

 

 

「ダメだダメだ!こうなったら一斉に囲んでしまえ!」

 

 

「「うぉぉぉぉ!!」」

 

 

 

多対1の状況ですら正面からは歳玄に敵わない事を判断した鬼達は歳玄を囲み全方位からの攻撃を試みる

 

 

 

「…その程度で俺を止められるつもりか」

 

 

 

ドンッ!という衝撃音と共に歳玄は跳躍する。

 

 

 

「「んな!?」」

 

 

 

天井付近まで飛び上がった歳玄は、刀を下にいる鬼たちへと向け

 

 

 

ーー桜の呼吸・淕ノ型・"宵桜・断"

 

 

 

鬼どもの頭上より降り注ぐ、終焉の桜雨が幾千の閃光となり、逃げ場すら与えずその四肢を切り刻む。

 

先ほどまで鬼達が立っていた地盤は歳玄の剣技により崩穿し、大規模な陥没が起きていた。

 

 

 

「…どこだ…どこにいるんだ尊」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん…ここは…私一体」

 

 

 

尊が目覚めると、そこは身に覚えのない、知らない場所であった。

 

屋敷の奥深く、人の気配が途絶えた一角に、その場はあった。

 

長い廊下の先、重々しい襖を開けた先に広がるのは、異様な静寂に包まれた広間。畳はところどころ黒く変色し、まるで古い血が染み込んでいるかのように不気味な模様を浮かべている。柱や天井には無数の傷が刻まれ、かつてここで幾度も刃が交わされたことを物語っていた。

 

灯りはほとんどなく、わずかに揺れる行灯の火だけが、影を歪に引き伸ばす。その影はまるで生き物のように蠢き、見る者の神経を逆撫でする。

 

 

 

「おや、お目覚めかな。お嬢さん」

 

 

「っ!?あ、アンタ誰よ!?」

 

 

 

尊の背後から現れたのは上裸の姿に赤黒い肌を晒している、人間とは思えない筋肉質の男…そして何よりこの男が人間と思えない理由は…

 

 

 

「つ、角…ば、化け物!?」

 

 

 

頭部から生えている伝書に伝わる鬼のように黒く長い角

 

 

 

「ふっふっふ…可愛らしいお嬢さんだ。」

 

 

「…な、なんで私はここに」

 

 

「それはあなたを餌にある男を呼び寄せるためだ」

 

 

「…誰のこと…」

 

 

「君もよく知る男のことさ…最近君の自宅に入り浸る男がいるだろ?」

 

 

 

 

その瞬間、尊の脳裏に思い浮かんだのは尊を悪漢から救い出してくれた、どこか兄に似ている男

 

 

 

「…歳ちゃん」

 

 

「…歳と言うのかその男は…ふっふっふ…名前まで重ね合わせるとは、これは偶然ではなくもはや運命と言う他あるまい」

 

 

「…何を言ってんのよ」

 

 

「いやはや、運命というものはつくづく残酷なものだが…これもまた天啓という他あるまいか」

 

 

 

 

 

訳のわかない事を口走る目の前の化け物に恐怖心が増していく尊

 

 

 

「ではもう少し眠っていただこうか」

 

 

 

そう言いながら尊に手を伸ばす男

 

 

 

「い、いや!助けて!歳ちゃん!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 

尊が叫んだその時ーー

 

 

爆発音と共にこの大会場の入り口の扉が破壊される

 

 

そしてその奥から1人の男が歩いてくるのが分かった

 

 

異常な剣圧を全身から迸らせ、蒼い羽織は血で赤く染まりきっており、貌は修羅のように怒気を馴染ませたその男はーー

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

ドバッッ!!と地面が抉れるような音が大会場に響き渡ったと同時に鬼の体が横に吹き飛ばされる

 

 

 

「…歳…ちゃん」

 

 

 

いつもの表情や雰囲気とまるでかけ離れた歳玄に驚く尊であるが

 

 

 

「悪い…助けるのが遅くなった」

 

 

「…歳ちゃん…歳ちゃん!!」

 

 

 

尊が下から顔を覗き込むとそこにはいつもの歳玄の顔が…そして嬉しさのあまり飛びつく尊

 

そしてそんな和やかな雰囲気を壊す闇の存在

 

 

 

「流石、童磨と引き分け"あのお方"が最も警戒する男…」

 

 

 

歳玄に斬り飛ばされたはずが無傷で現れる鬼の姿

 

 

 

「テメェか…尊を攫い俺を狙ってる野郎は」

 

 

「いかにも…私の名は"岩倉具視"…貴殿の名を教えていただきたい」

 

 

「っ!?」

(岩倉具視だと…まさかっ!)

 

 

「岩倉具視だと…随分と古びた名前じゃねぇか。まさか本人か?」

 

 

 

確かめるためにカマをかける歳玄

 

 

 

「貴方がそれを言いますか…ふっふっふ…あぁ。"その岩倉具視"と思ってもらっていい。…最も…人間であった時より遥かに強いがな」

 

 

「っ!?尊離れろ!」

 

 

「え!歳ちゃん!?」

 

 

 

尊を突き飛ばした歳玄…その瞬間…歳玄が何かに吹き飛ばされる

 

 

 

「ふっふっふ…貴方の方は"剣鬼"と恐れられ我々新政府軍を最も苦しめた男とは思えない体たらくだ。」

 

 

「あの時は直接相見えることはなかったが"土方歳三"の剣勇は俺の耳にも届いていた。」

 

 

「本来の貴方は最も冷酷で、剣に溺れ、剣に生きる正しく"剣鬼"の名に相応しい男だった!!」

 

 

 

するとガタっという音共に吹き飛ばされた瓦礫から歳玄が立ち上がる

 

 

 

「ガチャガチャ五月蝿ぇんだよ…俺ぁ…土方歳三じゃねぇ…鬼殺隊・桜柱・悲鳴嶼歳玄だぁ!!」

 

 

 

そう言い放つと同時に歳玄は高速で岩倉の元に近寄り剣を一閃する。

 

しかし

 

 

 

「んな!俺の刀を生身で!?」

 

 

「ふっふっふ…俺の上質な筋肉の前ではその程度の鈍刀…通用しない!」

 

 

「ぐっ!」

 

 

 

歳玄の刀を生身の腕で受け止めた岩倉はそのまま歳玄を投げ飛ばす

 

 

 

(…俺の刀が肌を切り裂けなかった…十二鬼月すら切り裂いた俺の剣技が…"そういう血鬼術"か?)

 

 

「己の剣が通用しないことがそれほど不思議か?」

 

 

「あ?」

 

 

「十二鬼月ですらないこの俺に"柱"であるお前の剣が通用しないことに腹を立てているのかと聞いているんだ」

 

 

「…」

 

 

「確かに俺は上弦ではない…しかし」

 

 

「っ!テメェ…まさか」

 

 

 

 

そうして歳玄が目にしたのは、岩倉の"額に現れたもう一つの眼"

 

そしてその眼が開かれた時、刻まれているのは

 

ーー"零"の数字

 

 

 

「新しき俺は"あのお方"に認められた直属護衛団…"参謀"…

 

 

 名を

 

 

 

 "零煌"(れいこう)という」

 

 

 

「…はっ…上弦じゃねぇってことは…上弦になれなかっただけじゃねぇのか」

 

 

「ふっふっふ…それはお前の眼で確かめてみるといいさ」

 

 

 

その瞬間ーー

 

 

ドッ!!…と音と同時に零煌の姿が消える

 

 

 

 

ーー血鬼術・冥龍鬼脈(めいりゅうきみゃく)

 

 

 

 

「魔装・龍牙裂断(りゅうがれつだん)!!」

 

 

 

 

 

 

黒く膨れ上がり鱗のような鎧を纏った零煌の脚はーー歳玄を蹴り殺そうと一閃する

 

 

 

「っ!?」

(左!?)

 

 

「歳ちゃん!?」

 

 

瞬前のところで反応した歳玄は刀で受け切ろうとするが、破壊的な威力を誇る零煌の脚は、それを許さず歳玄の体ごと吹き飛ばす

 

 

 

「ぐはっ!」

(い、一撃で、骨が何本か逝っちまったか)

 

 

 

「おっと…俺は足癖が悪くてな…先ほどの話の続きだったな。"十二鬼月"…俺は自ら断ったのさ。何分、不便なことも多くてな」

 

 

 

「…」

(断った…つまりこの男の力は…)

 

 

 

「単純な力だけなら俺は上弦…それも上澄みの奴らよりも上にいる」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

上弦…それも童磨よりも強いかも知れない。…そう告げる零煌に驚きを隠せない歳玄

 

 

 

ーー魔装・鋼皮(こうひ)

 

 

 

零煌の両腕が黒い鱗に覆われ腕先からは長い爪が伸びる

 

 

 

「我が手脚は龍の蹄の如く」

 

 

 

「っ!くっ!」

 

 

 

歳玄に向かい飛び掛かり、上から下へと腕を振り下ろす零煌。

 

すんでの所で避けた歳玄であるが、打ち下ろされた地面は百六十余寸(5メートル)ほどのクレーターが出来るほどの破壊力を見せていた

 

 

 

「…化け物め」

 

 

 

「心外だなぁ。俺は神に近づいたのさ」

 

 

 

「はっ…神だと…鬼に成り下がったの間違いじゃねぇのか…」

 

 

 

「なんとでも言いたまえ…所詮弱者の言い訳に過ぎないのだから」

 

 

 

「…ふっ!」

 

 

 

 

先に仕掛けたのは歳玄…

 

 

 

ーー桜の呼吸・参ノ型・“花影・連斬"

 

 

 

踏み込みと同時に間合いへ溶け込みむ。

 

 

 

「見えてますよ」

 

 

 

そう言い放ち歳玄を捉えた打撃はーー

 

 

 

「…馬鹿が」

 

 

 

実体と“影”を錯覚させる軌道で零煌の打撃を躱した歳玄は、刃を走らせ花弁の影のように無数の刃を宿す連続斬撃を繰り出す

 

 

 

ーー魔装・龍鱗金剛(りゅうりんこんごう)

 

 

 

繰り出された斬撃は零煌の腕から伸びた鱗が巨大な盾となり、全て弾き飛ばされる

 

 

これまで圧倒的な実力で敵を退けてきた歳玄…

 

しかし目の前にいるのは自分を遥かに凌駕する怪物…

 

自らの攻撃は全て無効化され、相手の攻撃は一撃が致命傷となり得る破壊力を持つ

 

 

この絶望的状況に歳玄ーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふっ…」

 

 

「??何を笑っている」

 

 

 

ーー笑みをこぼした

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。