散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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二十三話

 

 

 

歳玄が入院してから2週間ほどの時間が過ぎ去り、やっとの思いで退院する事となった。入院中は刀すら握らせて貰えなかったせいで、軽くストレスが溜まるほどであった。

 

そして歳玄を悩ます理由がもう一つ…

 

 

 

「…だから!なんで貴方がついて来るのよ!」

 

 

「あら良いじゃない。それに歳ちゃんからは許可を貰ってるのよ。」

 

 

「だからってここは私達夫婦の家なのよ!他人の貴方が入り込む余地はないの!」

 

 

「他人?歳ちゃんは私のことを家族のように思ってるって言ってくれたわ!それに部屋ならまだいっぱい余ってるじゃない!」

 

 

「あぁそうね!家族とは結婚出来ないもんね可哀想に!」

 

 

「なんですって!!」

 

 

「何よ!!」

 

 

 

現在自宅の屋敷の居間で取っ組み合いが始まりそうなほどの喧嘩をしているのは歳玄の妻・しのぶと武流の妹・尊である。

 

 

「…ほら2人とも良い加減…」

 

 

「「歳(ちゃん)はどっちの味方なのよ!!」」

 

 

止めに入った歳玄にまでキレる始末である

 

 

 

「…はぁ…」

 

 

「「…何」」

 

 

「…尊…ここは俺たちの家だ。そしてしのぶは俺の妻だ。それ相応の礼儀は弁えてくれ。」

 

 

「…はい」

 

 

「しのぶ…確かに勝手に尊のことを許可したのは俺だ。すまない…だが…俺は尊も家族だと思っている…勿論、兄貴や師匠…武流もだ。家族に対してその言い方は無いんじゃないか?」

 

 

「…すいません」

 

 

 

 

歳玄に咎められた2人は先ほどまでとは打って変わり消沈したように気落ちしている。…俺の我儘で2人に対し我慢をしいらせてしまった事を今更ながら後悔している

 

 

そんな時

 

 

 

 

「はいはい〜!この件はこれでおしま〜い!3人とも!カナエ特製の和菓子・みたらし団子を作ってみたの!みんなで食べよ!!」

 

 

 

 

こういう時に場を明るくしてくれるカナエには本当に救われる。

 

こういう事は俺には出来ないからな…俺に出来ない事をカナエが支えてくれるように俺も皆の為に支えたい。

 

気づけば2人も夢中になってカナエのお菓子を食べている。こんな風に過ごしていけたらな…そう思う歳玄であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレから数ヶ月の月日が流れた。日常的に変わった事と言えばーー

 

 

 

「しのぶ〜ここの病気だと何を投与すれば良いと思う?」

 

 

「どれですか?あぁ…これはですね」

 

 

 

机に広げられた診療記録を覗き込みながら、尊が気軽な調子で声をかける。

 

 

 

「発熱と咳、それに血痰……。おそらく肺の病ですね」

 

 

「あぁ〜やっぱり?」

 

 

「それに近いですが……この経過を見る限り」

 

 

 

指先で記録をなぞりながら続ける。

 

 

 

「急性ではなく慢性――となると、結核の可能性が高いでしょう」

 

 

「となると咳には鎮咳薬…痛みや熱には解熱剤――場合によってはモルヒネも使わなきゃね」

 

 

 

医学の知識をふんだんに使った高水準の会話が繰り広げられる。

 

実はこの2人…しのぶは以前から鬼殺隊の隊士になるよりも隊士達を助ける医師を目指す決意を固めつつあり、尊は学校で医療系の学問を学びながら医療系の職につく事を目標としていた。

 

そして意外な一面で共通の趣味が重なった2人はすぐに意気投合し仲良くなってしまった。

 

若い女の子達の会話が高医学についてなのはどうかと思うが…

 

 

 

 

そしてもう一つ…鬼殺隊として大きく変わった事と言えばーー

 

 

 

「どうしから?似合う?」

 

 

屋敷の和室で歳玄に向かって、笑顔で"桜色の羽織を羽織った"隊服を見せるカナエの姿ーー

 

 

「あぁ…綺麗だ。…カナエには華がよく似合う」

 

 

「ふふ…ありがとう。貴方もカッコいいわよ。」

 

 

カナエがとうとう柱に昇格したのだ。最近"空き"が増えた柱の席に3人新たに柱が任命される事となり俺と兄貴の推薦もあり先日お館様の方から直接打診された。

 

3人…という事はもう2人新たに柱に加わった人物がいる。

 

1人は歳玄もよく知る男…煉獄杏寿郎である。

 

元々杏寿郎は柱になる実力と結果は備わっていたのだが、その時の柱には前炎柱である杏寿郎の実父が在籍しており継子の杏寿郎には空きが無かった。

 

しかし

 

杏寿郎の父が"私情"により退席した事で見事杏寿郎へと炎柱は代替わりする事となった。

 

歳玄達隊士には私情としか伝えられていないがおそらく何かしら身内で起こったのだろう。ここ数ヶ月は任務にも出ていないし、柱合会議にも出席していなかったからな。

 

 

そしてもう1人…前の柱が殉職した事で繰り上がった者が今日任命されるのである。

 

 

 

「うし…じゃあ行くとするか」

 

 

「ええ…しのぶ、尊。家の留守は任せたわよ」

 

 

「頼むな」

 

 

「はい!私達に任せてください!」

 

 

「2人こそ気をつけてくださいね」

 

 

 

仲良く見送りをしてくれる2人…変われば変わるものである。少し前まで口を開けば喧嘩をしていたとは思えない変わりようである。

 

 

そうして俺たちは召集がかかった鬼殺隊本部へと足を向けるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊本部…産屋敷邸にて柱達が首を垂れる中当主である耀哉が話し出す

 

 

 

「先日…鳴柱に続き、後任の水柱が鬼によって殉職してしまった。おそらく争った形跡から2人を殺した鬼は同一人物として見て間違いないだろう」

 

 

「「「…」」」

 

 

「そして…2人が戦った場所には2人とはまるで違う'剣の後"が残されてたそうだ。…2人は水の呼吸と雷の呼吸を扱うがその2つと違う痕跡が見つかった」

 

 

「ここ一年で歳玄が上弦級の鬼と2回遭遇しているね。」

 

 

「…」

 

 

「おそらく今回も上弦の鬼…私はそう睨んでいる。」

 

 

「未だ決定的とも言える証拠すら残されていない状況だからあまり強くは言えないけどね」

 

 

「そして今日皆を召集したわけだが…新たに今日柱に任命する隊士が決定した。入っておいで」

 

 

 

 

お館様の言葉と同時に勢いよく隣の扉が開かれ2人の人物に手を押さえられた男が入ってくる

 

 

 

「ちょちょちょ!馬鹿野郎先輩達をそんな睨むんじゃねぇって!」

 

 

「お館様にも頭を下げろ!」

 

 

 

2人の隊士に連れられた男…

 

髪は短く、荒々しく跳ねた白髪を靡かせ鋭く吊り上がり、常に苛立ちと敵意を宿したような眼光でコチラを睨みつけている男…

 

 

何より目を引くのが

 

 

その全身に刻まれた無数の傷跡。

顔、首、胸、腕――至る所に古傷が走り、どれも浅くはない。

まるでこれまで潜り抜けてきた死線の数を、そのまま刻みつけたような肉体。

 

 

 

 

「テメェか…前線にも立たねぇ癖に偉そうに指示を出している奴ぁ…」

 

 

「あ?テメェ今何つった」

 

 

「そこのお前失礼だぞ!」

 

 

「お館様になんて口の聞き方!」

 

 

 

 

お館様に対し不遜極まりない発言をかます男に柱達からも怒号が飛び交う

 

 

 

「うるせぇ!俺はテメェらじゃなくコイツに聞いてんだよ!関係ねぇ奴は入ってくんじゃねぇ!」

 

 

「…そうだね…私は一度も前線に立った事はない…それは紛れもない事実だ」

 

 

「はっ!やっぱそうなんじゃねぇか…さぞ気持ち良いだろうな…自らの手を汚さず命の心配もなく鬼を駆逐するその様はよぉ」

 

 

「おいやめろ馬鹿!」「頼むやめてくれ実弥!」

 

 

「うるせぇ!俺はコイツにーー」

 

 

「「ひっ!?」」

 

 

 

 

その瞬間ーー

 

 

凄絶な剣圧が、一室を覆い尽くす

 

 

 

(っ!?…んだこの化け物じみた剣圧は!?人間が出して良いもんじゃねぇぞ!)

 

 

 

初めて受けたその圧倒的すぎる剣圧に実弥は冷や汗を流し思わず片膝をつきながらその正体を探す。

 

まずは目の前のコイツ(耀哉)…戦闘は出来ねぇって言ってたしそもそも、目の前なら分かるはずだ。

 

そして俺と共にきたコイツらもあり得ねぇ。よく知っている間柄だし今も泡を拭きながら気絶している

 

ならば残るは…

 

 

鬼殺隊の頂点…柱の面々だが…皆一様に冷や汗を流したり苦悶の表情を浮かべている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー否、ただ1人を除いて

 

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

コチラを見つめている長髪の男…口元が少しずつ上がり笑みを浮かべた瞬間更に剣圧が重くなる

 

 

 

「…っ!はっ…はっ…はっ…」

(や、やべぇ…意識が…)

 

 

 

実弥の意識が遠のき…完全に消えかかるその時

 

 

 

 

「歳玄」

 

 

 

透き通るような声と共に耀哉が声を出した瞬間、その剣圧は消え去った

 

 

 

「許してやっておくれ…お願いだ」

 

 

「…」

 

 

「…はぁ…はぁ…はぁ」

 

 

 

歳玄の剣圧を受けた実弥は両膝をつき地面に手を当てている。息も絶え絶えであり全身の毛穴から汗が吹き出ているのが分かる

 

 

(…な、なんで…この男は平気な顔してやがる…どう考えてもテメェが1番弱ぇくせに…)

 

 

 

柱ですら冷や汗をかき握り拳を作っているというのに、戦闘力が微塵もない男は汗すらかいていないことに驚く実弥

 

 

 

「あぁ…私が平気なのが気になるかい?」

 

 

「…はぁ…はぁ…」

 

 

「私にはその圧が届いていない…と言うより歳玄が私には当てないようにしてくれた…と言う方が正しいかな?」

 

 

「…はぁ…はぁ」

 

 

 

 

そしてゆっくりと地面に手をつく実弥に近づく耀哉

 

そして同じように膝をつき目線を合わせる

 

 

 

 

「ごめんね」

 

 

「…っ…」

 

 

 

安らぐような笑みを浮かべながら謝罪する耀哉に思わず呆気に取られる実弥

 

 

 

「刀は振ってみたけれどすぐに脈が狂ってしまって十回も出来なかったんだ。叶うことなら私も君たちと同じように体一つで守れる強い剣士になりたかった…」

 

 

「けれどどうしても無理だったんだ…辛いことばかり君たちにさせてごめんね」

 

 

 

実弥はその言葉と言動に声が出なかった

 

 

 

「君たちを捨て駒だとするならば私も捨て駒だ。鬼殺隊を動かす駒一つに過ぎない。私が死んだとしても何も変わらない。私の代わりはいくらでもいる」

 

 

「実弥は柱合会議に来たのが初めてだから勘違いしたと思うんだけど私は偉くもなんともないんだ」

 

 

「皆が善意でその如く扱ってくれているだけ、嫌だったら同じようにしなくて良いんだよ」

 

 

「それに拘るよりも実弥は柱として皆の命を守ってくれ」

 

 

「それだけが私の願いだよ」

 

 

 

 

実弥は心の中で理解していた。『目の前の男は"命を軽く扱う"ような男ではない』

と…それでも一言…一言言ってやりたいと思っていた理由があった

 

 

 

「匡近は…アンタの命令で…」

 

 

「… 粂野匡近だね…」

 

 

「…アンタ…名前」

 

 

「不死川…お館様は当主になられてから亡くなった隊士含め全員の名前と生い立ちを記憶していらっしゃるのだ」

 

 

 

行冥が驚く実弥に対して口にする

 

そしてそれは鬼殺隊にいる柱含め誰1人として出来ないこと…

 

 

 

 

「実弥…鬼殺隊の隊士は皆遺書を書いているよね」

 

 

「…」

 

 

「その遺書の内容がね、不思議なことに皆似通っているんだ匡近も同じだったよ」

 

 

 

そう言い懐から折り畳まれた紙を取り出す耀哉

 

 

「渡そうと思っていたんだ…実弥に…匡近は失った弟と実弥を重ねていたんだね」

 

 

「…」

 

 

 

そしてその手紙を受け取り目を通した実弥は

 

 

 

「っ!…くっ…あ、あぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

泣き崩れるのであった。そんな実弥を包み込むかのように優しく抱擁する耀哉の姿。

 

泣いている実弥の髪を掻き分けるようにして

 

優しい風が吹きかけたのだった

 

 

 

 

 

 

 

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