散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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三十話

 

 

 

 

とある山間に住む二人の少年――

 

 

 

木々に囲まれ、朝霧が静かに流れるその地で、ひっそりと暮らしていた双子がいた。

 

 

 

 

"兄の 時透有一郎 と、弟の 時透無一郎"

 

 

 

 

有一郎は、鋭い眼差しを持つ現実主義の少年だった。

 

幼くして両親を失った彼は、感情よりも生きる術を優先するようになり、その言葉はいつも冷たく、突き放すようだった。だがそれは、弟を守るために自ら心を閉ざした結果でもある。優しさを隠し、不器用なまま強くあろうとする――そんな兄だった。

 

 

一方、無一郎は対照的に、どこかぼんやりとした雰囲気を纏う少年だった。

 

澄んだ瞳は空を映すように穏やかで、感情を表に出すことも少ない。しかしその内側には、誰よりも純粋で優しい心が宿っている。兄の言葉に傷つきながらも、ただ静かに寄り添い続ける――そんな弟だった。

 

同じ顔を持ちながら、まるで正反対の性質を持つ二人。

それでも、互いにとってはかけがえのない唯一の存在だった。

 

 

それでも肉親だけでなく、外界をも閉ざした2人だけの時間と空間は…次第に2人の中にも溝を広げてしまっていたのだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕には双子の兄がいる

 

 

 

 

兄は山で薪をくべながらこう言い放った

 

 

 

 

「情けは人のためならず、誰かのために何かしてもろくなことにならない」

 

 

 

…と

 

しかし僕はその言葉を否定したかった

 

 

 

「違うよ。人のためにすることは巡り巡って自分のためになるって意味だよ」

 

 

 

父から受け継いだ言葉だった。母さんが早くに死んだ後、男手一つで僕たちを育ててくれた大好きな父だった。

 

 

 

「人のために何かしようとして死んだ人間の言葉なんて当てにならない」

 

 

 

…僕は兄の言葉が聞き捨てならなかった

 

 

 

「なんでそんなこと言うの?…父さんは母さんのために…」

 

 

 

「あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろ。馬鹿の極みだね」

 

 

 

…なんでそんな悲しい言葉を言えるのだろう。

 

…大好きな父に向かって

 

 

 

「兄さん…ひどいよ」

 

 

「嵐の中を外に出なきゃ、死んだのは母さん1人だったのに」

 

 

 

…僕の中で何かが切れたのが分かった

 

 

 

「そんな言い方するなよ!!あんまりだよ!!」

 

 

 

僕は生まれて初めて兄に暴言を吐いた。どうしても我慢出来なかった。…僕たちのために…僕たちを育ててくれた大好きな父を…

 

たとえ兄といえども…貶すことは…

 

 

 

しかし兄はさらに言葉を続けた

 

 

 

 

「"無一郎の無は無能の無"…こんな会話意味がない。結局過去は変わらない」

 

 

 

僕の頭の中でこの言葉が響き渡った

 

 

"無一郎の無は無能の無"

 

 

…確かに僕は兄に比べ鈍足だろう。…かけっこや薪割りで兄に勝てた事なんてないし。料理も洗濯も不器用だ。

 

でも僕なりに頑張っていたし兄の手助けになると思い一生懸命手伝ってきたつもりだった

 

 

しかし、今吐き捨てられた言葉は明らかに"嫌悪"が混じった言葉だった。

 

 

 

僕は兄が歩き続ける中立ち止まり、次第にしゃがみ込み座り込んでしまった

 

 

 

「…分からないよ…僕は…僕は"無能の無一郎"なの…」

 

 

 

今まで兄の為に…過ごしてきた時間や生活が一気に冷めていくのが分かった。そこからだ。次第に家の中で会話が減り、必要最低限の会話しかせず、できるだけ兄が家にいる間は外に出かけるようになった。

 

 

別に外に出てもこんな山の奥だ。やる事など何も無い。…それでもあの家にいるよりはマシだった。

 

 

 

そんな生活が続いたとある日のこと…

 

 

その日はやけに天気が悪かった。朝から曇り空が続き、時間が経つに連れてそれは悪化していった。曇りから雨…そして嵐へと…

 

風が吹き荒れ、大雨が降り注ぎ、山の中は霧が立ち込める様になっていった。

 

 

街灯もない山の中ではやる事などあるはずも無く、僕たちはそのまま布団の中に入り込んだ。

 

 

こんな雨の中…いや雨で無くとも僕たち以外にこの山に入り込む者はいない…

 

 

ーー筈だった

 

 

 

 

 

ドンドン!…と扉を激しく叩く音が響き渡った

 

 

 

「「っ!?」」

 

 

 

僕たちは2人とも飛び起きた。兄はすぐさま入り口にある薪割り用の斧を握りしめ扉の前に立ち上がった。

僕はいきなりのことで頭と体が固まってしまいその場から動けなくなっていた。

 

 

そして

 

 

 

「…すまない。誰か住んでいるものはいるのだろうか」

 

 

 

扉の外から声が聞こえた。

 

普通の人間の声に聞こえる。…でも…あり得ない。…こんな山奥に…しかもこんな嵐の中人が訪れるなんて…

 

兄も僕と同じ事を思ったのか、斧を手放さず逆に力を込めた。

 

 

 

 

そして

 

 

 

扉が開いた瞬間

 

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

兄はその陰に向かって斧を振り下ろしたのだった。

 

 

 

 

しかし

 

 

 

兄が振り下ろした斧は目の前の人物の"刀"で容易く受け止められてしまった

 

 

 

「っ!刀!?」

 

 

 

兄は驚きながら無一郎の方を振り向く

 

 

 

 

「無一郎!コイツ刀を持ってるぞ!お前は逃げろ!!」

 

 

 

「え!兄さんは!?」

 

 

 

 

兄は僕だけを逃がそうとしている。…自分が囮となって…

 

 

 

 

「俺のことはいい!お前がいても邪魔なだけだ!早くーー」

 

 

 

 

今になって分かる。…兄は僕のことを嫌ってなんていなかったんだ…命懸けで目の前の男から僕を遠ざけようとしている

 

 

しかし

 

 

目の前の男は刀の鍔で容易く兄の斧を弾き飛ばしてしまった

 

 

 

「おい」

 

 

 

目の前の男が呟く

 

 

 

(どうしよう!…どうしよう!…このままじゃあ…このままじゃあ兄さんが殺されちゃう!!)

 

 

 

そう考えた瞬間ーー

 

 

先ほどまで固まっていた体が僕の思い通りに動ける様になっていることに気づく

 

 

そして兄を…兄を殺させはしないと男に飛びかかろうとした瞬間

 

 

 

 

「っ!?な、なにを!?」

 

 

 

男は自分の刀を地面に捨てて両手を上げだしたのだった。

 

そして自分が此処にいる経緯と刀を所持している理由を簡潔に説明してくれた。兄はまだ疑っている様だったけど、僕にはそれが本心なのが理解できた。

 

なぜなら、目の前の男は僕たちなんか歯にかけないほどの強さを持っているにも関わらず、僕たちを殺そうとする素振りすら見せないこと…そして斧を振り翳した兄に対して驚きこそすれど怒りすら抱いていないことがコチラに敵意を持っていない証拠となるだろう。

 

 

そうして渋々納得した兄が家の中に男を案内する。

 

 

 

 

これが僕たち双子と"歳兄さん"との出会いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歳玄は遠方での任務を予定していた5日間…残りのすべての時間を双子と共に過ごした。

 

本来は早めに帰る予定であったが帰ろうとした途端ーー

 

 

 

「え……もう帰るの?」

 

 

 

「まだ日にち残ってるんじゃないの?」

 

 

 

無一郎からは目の端に涙を溜めコチラに訴えかけるように見つめられ、有一郎からはどうにか此処に引き止めようとする意思がみられた。

 

2人はまだ11歳になったばかりの少年だ。ましてや早くに両親を亡くし、此処は町から遠く離れた山の奥…人当たりも少ないこの状況で初めて心を許せる大人が現れたのだ。

 

初めは警戒し無一郎を守る為に疑心暗鬼になっていた有一郎も今では心を開いているのが分かる。

 

2人が寂しがるのも無理はないだろう。

 

 

 

ここで出会ったのも何かの縁かも知れない…そう思った俺は残りの日数をここで過ごすことに決め、黒羽を伝って妻達に連絡を取ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山間の静かな空き地。

朝靄がまだ地面に這い、木々の隙間から差し込む光が白く揺れている中、

 

歳玄は無言で二人を見据える。

 

無一郎と有一郎——まだ剣を握り慣れていない、だがどこか“異質”な気配を持つ双子。

 

 

 

「まずは構えだ」

 

 

 

歳玄はゆっくりと刀を抜き、正眼の構えを取る。

 

 

 

「剣は腕で振るもんじゃねぇ。身体全体で“運ぶ”もんだ」

 

 

 

歳玄は2人に剣の指南をする事を決めた。

 

 

 

「足は肩幅ほど。重心は真ん中よりやや前に」

 

 

歳玄は無一郎の足を軽く触り位置を直す。

 

 

「浮いてる。これじゃ踏み込んだ瞬間にブレる」

 

 

有一郎には顎を引かせる。

 

 

「視線は相手の“中心”。刀先じゃねぇ、全体を見ろ」

 

 

 

「一日千回やれ…と言いたいところだが、意味のねぇ回数は無駄だ」

 

 

歳玄は一本、見本を振る。

 

 

――空気を裂くように一閃する

 

 

2人はその素振りを見て息を呑む…素人目にも分かるほど鮮麗された一閃…幾千も幾万も振り込まれたであろう剣術の極地

 

 

 

「今のを“十回”、同じ精度でやれ」

 

 

 

• 振りかぶりは最短で

• 肘を締める

• 振り下ろしと同時に踏み込む

 

 

 

先に動きだしたのは無一郎である

無一郎はすぐに形をなぞる。

だが——

 

 

 

「…軽いな…脇が開きすぎて力が上手く伝達していない。…いいか?大人より力のねぇお前達は余分な動作は最小限まで省かなきゃならねぇ。…それでもまだ足りない…出来てからが出発地点と言ってもいい。まずは基礎。基礎を固め慣れてきたら次へと移る。焦らなくていい。一歩ずつ着実に成長していけばいいさ。」

 

 

 

 

「「はい!!」」

 

 

 

 

歳玄は才能の大きさに反し"それ"が脆く壊れやすいものだということもよく知っている。

 

だから基礎から教えた。コイツらに余分な癖や型を染み込ませない為に…

 

 

そしてそれがコイツらの礎となりいずれ役に立つ様に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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