あれから僕たち兄弟は歳兄さんに剣の指南役をお願いした。僕は元々剣に惹かれていた部分もあったけど兄さんはそうでもなかった筈だ。
しかし、歳兄さんに教わってからというもの僕たちはのめり込む様に1日を通して剣を磨くことに集中した。
後、少し剣に触れてみて分かったこともある
それは"歳兄さんの異質さ"である
僕みたいな素人から見ても歳兄さんが強いことは分かる。
なんて言うんだろう…立ち姿?雰囲気?…どこか普通の人間とは一線した存在であると言うことが分かるのだ
ある時、歳兄さんが僕たちにかけてくれた言葉
『お前達には"特別な才"が眠っている』…と
でも僕たちはそんな風には微塵も思えなかった
なにせ、素人とはいえ2人がかりで挑み続けて一太刀も入れることが叶わなかったのだ。…僕たちが天才ならあの人は"化け物"だ
それにまだ何か隠している様な気がする
もっと重要な…特別な力のナニカを…
歳兄さんがここを去る最後の日…
僕たちは歳兄さんに"重要な話がある"と伝えられた。
僕たちの家の中で向き合う歳兄さんと僕たち…
いつもと雰囲気が違う歳兄さんに僕たちは固唾を呑みながら、口を開くのを待った。
そして歳兄さんから口が開かれる
「…以前俺に刀を所持している理由を尋ねたことがあったな」
「「…」」
それは僕たちが初めて出会った日のことだ
「この廃刀令が出されてからの時代、個人で刀を所有している者も数少ない中…俺が所持している理由…」
「「…っ」」
その得体の知れない含みを持たせた言い方をする歳玄に双子は唾を飲み込む
「…それは俺が"ある存在を斬る者"であるからだ」
「「ある存在??」」
歳玄の言い方に不思議そうに顔を傾ける双子
「あぁ…お前ら"鬼"って聞いたことあるか?」
「…鬼?…あの昔話とかに出てくる鬼のこと?」
無一郎が答える
「あぁ…と言っても俺が言っているのはそんな生優しいもんじゃねぇがなぁ」
「「…」」
「もっと凶悪で残忍…嬉々として人を殺し喰らう…どうしようもないほどの"悪"」
歳玄の脳裏にはこれまで出会ってきた鬼達が瞬間的に現れる
その瞬間ーー
「「ひっ!?…」」
ズドォォォォォン…と歳玄から溢れ出た殺気が部屋を覆い尽くし、その威圧感に怖気ずく2人。
初めて受けた殺気が、鬼殺隊士ですら気絶させてしまうほどの威力を誇る歳玄の殺気である。2人は奥歯を鳴らしながら震えている
「おっと…すまない。2人とも」
「「っ…はぁ…はぁ…はぁ」」
2人の様相に気付いた歳玄は慌てて殺気を引っ込める。
息すらままならない空間にいた2人は、それまで我慢していた酸素を一気に吸収する。
「…はぁ…はぁ…今の言い方だと…現実にその鬼がいるみてぇな言い方じゃんか」
息も絶え絶えの有一郎が答える
「…あぁ…そう言ってるんだ…"鬼"という生物はこの世にいる」
「「!?」」
「それも無数にな」
「で、でもそれとその刀がどう関係あんのさ!」
歳玄の言葉に驚きながらも、質問する有一郎
「まぁ聞けよ。」
「「…」」
「鬼は無数の能力を有している。人間を遥かに凌ぐ身体能力…そしてどんな傷も再生してしまうほどの回復力…なにより…」
「「…」」
「"血鬼術"と呼ばれる怪技的な力」
「「…血鬼術…」」
「あぁ…個体によって能力は様々だが並の個体でも大の大人が百人いたとて敵わないほどの力を持つ」
「っ!?そ、そんな化け物がいるの!!」
無一郎は歳玄の鬼の説明に驚き、恐怖する
「あぁ…だが奴らにも弱点が無いわけじゃねぇ」
「「…」」
「第一に奴らは夜間でしか活動しねぇ…その理由が太陽…奴らは日光に弱く、浴びた途端に崩れ散るように死に絶えていく」
「「…」」
「そして二つ目…それが"この刀"だ」
歳玄は己が所有する刀を掲げる
「この刀は【日輪刀】といい、特別な鍛治師達によって造られた刀だ」
「で、でも再生能力がある鬼に刀で切っても効かないんじゃあ…」
無一郎の疑問は真っ当なものだろう
「この刀は普通の鉄鋼で造られたもんじゃねぇんだ… 1年中太陽の光が当たる「陽光山」という山で採れる 「猩々緋砂鉄」(しょうじょうひさてつ)と「猩々緋鉱石」(しょうじょうひこうせき)の鋼がを使用した"対鬼特攻"の刀だ」
「「…対鬼特攻…」」
「勿論この刀を持っているからと言ってただの人間が鬼に勝てるはずがねぇ」
「「…」」
「人間を超越した力を持つ鬼に対抗するもう一つの力」
「「…っ…」」
「それが"呼吸"だ」
「「呼吸??」」
いきなり出た呼吸という言葉に首を傾げる2人
「勿論ただ息を吸い吐き出すことを言ってるんじゃねぇぞ?俺のいう"呼吸"とは特別な呼吸法で、酸素を大量に取り込み、身体能力を極限まで高める技術のことだ」
「「…」」
「更に呼吸を極めればその先…【全集中の呼吸】が使用できる様になり筋力・瞬発力・反応速度などが人間離れした練度まで引き上げられ、そのうえで「型」と呼ばれる剣技を繰り出すことができる様になる」
「「??」」
2人はどんどんと出てくる聞き慣れない新しい単語に疑問を浮かべる。その様相に歳玄はクスッと笑いを浮かべなから話し出す
「まぁこれに関しては見た方が早い。とりあえず外に出るぞ」
そうして2人が向かったのは、いつも訓練を行なっている森の中の少し広がった空間
その空間の中心に歳玄が立ち、双子は少し離れた場所で"それ"を見守る
そして双子の眼の前で"それ"は起こった
ーー桜の呼吸・壱ノ型・"桜花一閃"(おうかいっせん)
刀を鞘に入れたままの状態から、ドォン!!…という轟音と共に歳玄の姿が消え去り数メートル先にある空間を抜刀し斬りつけた。
歳玄が刀を振り抜いた瞬間ーー
「「っ!?」」
「…」
「…綺麗」
ブワッ!…と2人に刀の風圧が飛び掛かり、それと同時に辺り一面に桜の花弁が舞い散るように散乱した
そして次の瞬間、再び轟音と同時に姿が消えた歳玄…
「っ!…はっ!上だ!」
「え!?」
消えた歳玄を見つける為に辺りを見渡した双子、そして有一郎が上空に歳玄がいる事を発見する
その強靭な脚力で地上から約500寸(15メートルほど)の高さまで飛び上がった歳玄は桜色に輝く刀身を地上に向ける。
そして
ーー桜の呼吸・淕ノ型・"宵桜・断"(よいざくら・だん)
双子の頭上より降り注ぐ、暴風の桜雨が幾千の刃となり閃光のように降り注ぎ、獲物の逃げ場を奪うかの様に地上に降り注ぐ。
「「っ!?」」
(何が起こってるの!?)
(剣を振り抜く初動すら見えなかった!)
2人の眼からは突然、地上から姿を消したと思えば、遥か上空に現れ、瞬く間に無数の閃光が地上に激しく降り注ぐという災害のような気分を味わっていた。
そして数百という桜剣を振り翳した技が終息し、砂埃が徐々に収まり始め目の前が明らかになった時ーー
「「んなっ!?」」
2人の眼の前には底が見えない程の"巨大な崩穴"が出来上がっていた
元々、歳玄に対し一種の人間を超えた力を身につけているのを肌で感じていた2人だが…
もはやコレは"そういう次元"じゃない
まさに【天災】と呼ぶに相応しいほどの力
2人は改めて師の力の前に畏敬と畏怖を併せ持った想いを抱くのだった…
◆
「まぁ全集中の呼吸にも様々な力の種類があるが…それらの力を磨き鬼を討伐する責務を担っているのがーー
ーー俺たち"鬼殺隊"だ」
「「…鬼殺隊」」
歳玄は2人に鬼殺隊士がなんたるかを説明する。
「鬼殺隊」とは、昔より人喰い鬼から人々を守ってきた鬼狩りの剣士、また剣士たちを支える人達が集まった政府非公認の組織だということ。
所属メンバーはそれぞれ1〜10段階の階級が与えられており、自らがその頂点…【柱】の一柱に名を連ねている事…
そして全てを双子に話した理由…それはーー
「"成長したお前達と血肉湧き立つ様な闘いをしてみたい"」
「「っ!?」」
歳玄から溢れんばかりの闘気が噴き出す
そして双子を…いや…その先にある"ナニカ"…"誰か"を見透しているような気分になる2人
「…て言うのは冗談だ」
「「え」」
「雨の日に助けてもらった恩もあるしな。ここで出逢ったのも何かの縁だ。鬼に出会わなくても山賊やらが出る可能性もあるからな。剣を覚えておいて損はないだろう」
「「…」」
2人は渋々ながらその言葉に納得するしかなかった。
しかし、歳玄本人はーー
(アイツらの姿に…"才能に"…総司を重ねてしまった…またアイツと…いや…呼吸を覚えた芹沢とやった時以上かも知れない総司と闘れるかも知れない…そう考えただけで体中の血液が暴れ出す)
最近は結婚やら、鬼の出没頻度が下降したりなど…戦闘とは無縁な生活を送っていた歳玄であるが根の根底にあるのは"土方歳三"そのものである
"剣に飢えた獣"が再び、吠える日も近いのかも知れない