散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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三十二話

 

 

歳兄さんが僕たちの家から帰ってしまって数日が経過した。

 

歳兄さんがいなくなって正直寂しさもあるけど、同時に期待も膨らんできている。

 

なぜなら次会うまでに、歳兄さんから一本取る事が僕たちの生き甲斐として掲げられるようになったからだ。

 

"あの日"歳兄さんと出会ってから僕たち兄弟の関係も変化するようになった。以前までは2人で自給自足…まだ幼かった僕たちにとってそれは過酷で厳しいものであり次第に2人の関係も酷くなっていった。

 

 

僕も正直兄さんのことが分からなくなっていたし、僕のことを嫌ってると思っていた。

 

 

ーーでも

 

 

あの日僕を守ろうと歳兄さんに立ち向かった兄さんを見て僕は嫌われてなかったと信じることが出来た。

 

 

 

さらに

 

 

 

僕たちの間には新たにーー

 

 

 

「っくそ!やるなぁ無一郎!」

 

 

 

「力じゃ兄さんには勝てないからね!」

 

 

 

僕たちは毎日朝から昼までは剣術の稽古に励んでいた。…歳兄さんに"剣"を指導してもらってからと言うもの僕たちは"取り憑かれた"かのように打ち込むようになった

 

 

あ、と言っても嫌々とかじゃなく自主的にやっているだけなんだけどね

 

 

 

それでも僕たち…ただの木こりの家の子供だと思っていた僕たちに"特別な才能がある"と言ってくれた歳兄さんの期待に応えたい

 

 

その想いと刀が僕たち、家族の仲をさらに深くし生きる活力を与えてくれているのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

そんな日々を送っている今日…僕達はいつものように朝から昼まで歳兄さんが残してくれた剣術の書に従いながら修行を行っていた。

 

そしてその日の最後には毎日一度だけ本気で打ち込み稽古を行う約束である

 

 

 

「っくそ〜!!僕の負けか〜。まさか体ごとぶつけてくるとは思わなかったよ」

 

 

 

「まぁな!正直剣術に限っては無一郎の方が上手いからな!こう言う術もあることは歳兄さんから聞いてたんだ!」

 

 

 

今日の試合結果は有一郎の勝ちであった。

 

序盤は互角の展開を見せ、有一郎が高い身体能力を目一杯使い豪快に木刀を振り抜き、それを無一郎が流したり避けたりしながらいなし、隙をついて木刀を振り抜くと言う展開が続いた。

 

そして試合が動いたのは後半、より木刀を振り回し体力を使った有一郎が勝負に出る。

 

有一郎は木刀を上から振り抜く、無一郎の木刀がそれをいなそうと木刀同士がぶつかった瞬間、有一郎はそれを分かっていたかのように同時に体ごと突っ込んでいく。

 

 

 

「くっ!?」

 

 

 

驚きつつも避けようとした無一郎であるが、身体能力で有一郎に敵う訳がなくそのまま後方に吹き飛ばされてしまい、倒れた無一郎に刀を当てた有一郎の勝利となったのだった

 

 

 

「じゃあ今日の夕食任せたぜ!」

 

 

 

「はいはい…あ、そう言えばお米が切れてるかも。買い出しに行かなきゃ」

 

 

 

「お?それじゃあ俺もついて行こうか?」

 

 

 

「いやいいよ。負けたんだし修行ついでに僕1人で行くとするよ」

 

 

 

 

このような会話ができるようになったのも最近の話だ。…以前までは普段の日常会話すらままならなかった。

 

しかし、それも全てあの日に歳兄さんと出会ってから一変した。僕たちに活力と暖かさを与えてくれたあの人に今度は僕たちの"成長"を見せたい。今はその一心で埋め尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜刻…無一郎は約束通りに夕食の買い出しと足りない食材を買い足しに街へと降りていった。

 

 

 

 

 

「ちょっと買いすぎちゃったかな。これなら兄さんと一緒に来てもよかったかも」 

 

 

 

 

 

無一郎の両手には野菜やらお肉やら大量の食材が入った編み物でできた入れ物が二つ。そして肩には無一郎の小さな体を覆い尽くすような大きさの米俵が担がれていた。

 

小さい少年が大人でも持てないほどの大荷物を抱えると言う異様な光景に通行人や町人の視線に晒されながらも、自宅へと戻っていく無一郎

 

 

 

 

「…くん…くん…ん?」

 

 

 

 

自宅へと近づいてくると、何やらいつもと違う鉄の匂いが充満していることに気づいた無一郎

 

 

 

「…何の匂いだろう?」

 

 

 

少し違和感を感じながらも自宅へと進んでいるとーー

 

 

 

「ーーっぐっ!」

 

 

 

 

ガコッ!バキッ!…と言う何かが打ち付けられているような音が鳴り響いていた。無一郎はその音に惹きつけられるようにおずおずと近づいていくと、そこにはーー

 

 

 

 

「…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

 

「くっくっく。人間のくせに中々やるじゃねぇか」

 

 

 

ーーそこにいたのは、左肩から血を垂れ流し、ダラリと宙ぶらりになっている左手を庇いながら"敵"に立ち向かう兄の姿と

 

 

ーーそんな兄を見ながら愉悦に浸るように下賎な笑みを浮かべる"怪物"…まず目を引くのはその筋骨隆々の肉体。上半身は異様なまでに発達しており、肩から腕にかけては岩のように盛り上がった筋肉が浮き出ている。肌は人間のそれとは違い、どこか灰色がかった不気味な色合いで、人間離れした異様な雰囲気を漂わせている

 

 

 

 

「に、兄さん!!」

 

 

 

 

たまらず無一郎は兄に声を掛ける

 

 

 

 

 

「っ!?無一郎!?」

 

 

 

「なんだ。もう1匹餓鬼が居たのか。」

 

 

 

 

こちらに気づいた有一郎が振り向く。それに伴い無一郎も有一郎の隣へと並びたち、腰の帯についた木刀を抜き去る

 

 

 

 

「な、何なのこいつ!」

 

 

 

「俺も分からない…けど心当たりはある」

 

 

 

 

以前、師である歳玄が口にした言葉…

 

 

【鬼】

 

 

現代に蔓延る異形の化け物であり、人間離れした身体能力と生命力を兼ね備えた御伽話でしか聞いたことのなかった存在である

 

 

 

 

「…コイツが歳兄さんが言ってた…」

 

 

 

「…おそらくな。お前が街に降りた後、薪を焚べていた時に背後から襲われたんだ…」

 

 

 

 

血が流れている肩口を見ながらそう答える有一郎

 

 

 

 

 

「くっくっく…俺が鬼だと知っているようだな…それでもまだ歯向かう気か餓鬼共」

 

 

 

 

薄ら笑いを浮かべる鬼

 

 

 

 

「「…」」

 

 

 

双子は互いの顔を見合わせて大きく頷く。…そしてーー

 

 

 

 

「「お前なんて歳兄さんに比べれば怖くない!!」」

 

 

 

 

双子が初めて出会う鬼に対し、物怖じせずに挑める理由…それは歳玄との修行にあった。短い間とは言え、あの"剣鬼"に師事していた双子である。…肌に突き刺さるような凄まじい剣圧、目視するのも難しいほどの身体能力、そして圧倒的な実力…もはや目の前の鬼が可愛く見える程の鬼畜仕様である

 

 

 

 

「なんだとぉぉ!!俺が怖くないのかぁぁ!!」

 

 

 

そう言いながら伸びた爪を双子に向けながら飛び掛かる鬼

 

 

 

「「ふっ!!」」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

しかし、双子はその行動に驚きもせずに左右に飛び散り避ける。鬼の攻撃は双子のいた地面に突き刺さり、ドゴォォォン!!…と言う音を響かせながら地面を抉ったのだった

 

 

 

「無一郎!!」「うん!!」

 

 

 

そんな攻撃に目もくれず双子は迎撃体制に移る。

 

掛け声と共に鬼に向かって突き進み、有一郎が先に飛び込む

 

 

 

「クソ餓鬼がぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「ふん!!」

 

 

 

有一郎に気づいた鬼が振り向き様に爪を伸ばすが、有一郎はそれを分かっていたかのように下へと潜り込み避ける。

 

そしてそのまま伸びた腕に飛びつく。

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

「今だ無一郎!!」

 

 

 

「うん!!」

 

 

 

腕に飛びつき、全身で抱きつくように腕を固定し身動きを封じる有一郎とそれに驚く鬼。

そして、そんな2人に向かって飛び込む無一郎。

 

 

 

「んん!!」

 

 

 

「んがっ!?」

 

 

 

無一郎は鬼よりも高い位置からの飛び込みの上段切りで、勢いと威力を増加させ振り抜く。…その一撃は有一郎が抑えている鬼の片腕を吹き飛ばす。

 

 

 

「良いぞ無一郎!このままたたみ込むぞ!!」

 

 

 

「うん!!」

 

 

 

 

一気に形成を逆転させ、鬼を追い込む2人

 

 

しかし

 

 

 

 

「くっくっく…まさか餓鬼2人にここまでコケにされるとはな」

 

 

 

「「っ!?まさか!」」

 

 

 

目の前で起こっている自体に2人は驚く。…そう。切り落としたはずの腕がすでに再生していたのだった。

 

歳玄から聞いていたはずだったが、【日輪刀】という特殊な刀を持ち要らない限り鬼への有効打は当てにならないのだ。ましてや今2人が所持しているのは木刀である。

 

 

 

「ぐっ!?」 「かはっ!?」

 

 

 

回復した鬼は即座に詰め寄り、有一郎の腹に拳を叩き込もうとし、辛うじて防ごうとした有一郎の木刀ごと吹き飛ばし、無一郎に対しては胴体に回し蹴りを炸裂させ吹き飛ばしたのだった

 

 

 

「少しはやるようだが所詮は人間の域を出ない…鬼である俺とは基礎的な能力が違いすぎるんだよォォォ!!」

 

 

 

「ぐっ…」

 

 

 

「いつつ…」

 

 

 

有一郎は鬼の様子に歯を食いしばり、無一郎は蹴られたお腹をさすりながら立ち上がる

 

 

 

「次は僕が仕掛けるよ兄さん。"締め"はお願い」

 

 

 

「…無一郎??」

 

 

 

鬼の生命力を目の当たりにしても微塵も恐怖を抱いていない弟に困惑する有一郎

 

そしてーー

 

 

 

「はやっ!?」

 

 

 

ドンッ!!…という地面を踏み砕く音と共に無一郎が駆け抜け瞬時に鬼の懐へ入り込む。

 

そしてそのまま、木刀を横に一閃…胴切りを放つ

 

バコッ!!…と言う音を響かせながらも、無一郎の追撃は止まらない。肩から脇へ斜めに斬る"袈裟斬り(けさぎり)"

 

振り抜いた木刀を袈裟斬りの逆方向…下から上へ斬り上げる"逆袈裟(ぎゃくけさ)"

 

 

 

「ぐっ!?」

 

 

 

「…無一郎」

 

 

 

 

いくら耐久力の高い鬼でも痛みは感じるらしく、その連続の攻撃に対し苦悶の表情を浮かべている。

 

反対に有一郎はこれまで見たことのない…いや見せたことない剣技を見せる弟に驚きを隠せない。

 

 

 

 

「ふん!!」

 

 

 

無一郎は下から上への斬り上げで顎が上がった鬼に対し、頭上から真っ直ぐ振り下ろす一撃… "唐竹割り(からたけわり)"を打ち込む

 

しかし

 

 

 

 

「舐めるんじゃねぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

怒気を膨らませた鬼が無一郎の木刀を両手で掴み上げる。…こうなってしまうと一気に形成が逆転し、劣勢に立たされる無一郎。

 

…しかしその状況で無一郎は"笑みを溢した"

 

 

 

「今だ!!!」

 

 

 

「??なんだ……まさかっ!?」

 

 

 

無一郎の叫び声と共に無一郎の背後から飛び出してくるもう一つの影ーー

 

 

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

ーー現れた影…有一郎は両手の塞がった鬼の脳天に全力の一撃を叩き込む

 

 

 

 

「やめっ!?…ぐはっっっ!?」

 

 

 

 

一般的な年齢よりもやや小柄な体型な有一郎であるがその膂力は比較はならない…剣の才だけなら、無一郎には劣るだろう…しかし…有一郎が持つは師である歳玄すら認めた"天賦の肉体"

 

その圧倒的な膂力と出力から繰り出される一撃は先ほどまでの無一郎の連撃とは一撃の重さが比較にならないだろう

 

 

結果…有一郎の一撃は鬼の脳天をカチ割り、脳が見える程切り裂き、眼球は飛び出し、その頭部は見るも無惨な姿へと変貌していた。

 

 

 

 

 

「や、やった!!」

 

 

「まだだ無一郎!!鬼の首と両手脚を斬り落とすぞ!!」

 

 

「うん!!」

 

 

 

喜ぶ無一郎であるが、有一郎は先ほどまでの鬼の回復力を忘れてはいなかった。ここまでの重症ではすぐには回復しないことを見抜いた有一郎は斧を使い、無一郎と四股と首を切り離す。

 

 

 

「でもどうするの?…このままだといずれ回復してくるよ」

 

 

「…」

 

 

「朝日が昇るまでは持たないだろうし、回復してくると思う」

 

 

「…谷に突き落とそう」

 

 

「…谷に?」

 

 

 

 

有一郎は鬼の四股と頭部を谷に落とす計画を提案する

 

 

 

 

「あぁ。縄で縛るにしても鬼が回復すれば無理矢理にでも解くだろうし、かと言ってこのまま逃げるわけにも行かない」

 

 

「…」

 

 

 

そう言って家の中を見渡す有一郎と無一郎…この家には2人を産み育てた"父と母"の思い出が詰まっている

 

 

 

「だから谷に突き落として時間を稼ごう。…ここの渓谷なら恐らく数刻は掛かるはずだ。その間に荷造りをしてこの家を出よう」

 

 

「…でもどこに行くの?」

 

 

「歳兄さんのところに行く」

 

 

「!!そうだ!確か…」

 

 

「あぁ。いざという時にために歳兄さんの家の地図を書いてもらったんだ」

 

 

 

 

双子は歳玄と再び会う時の為に、歳玄の屋敷がある街と行き方をあらかじめ聞いておいていた

 

 

 

 

「一刻を争うぞ。急ぐぞ無一郎!!」

 

 

「うん!!」

 

 

 

 

2人は縄でそれぞれ四股と頭部を分けて結び直し、谷へと向かう

 

 

そして

 

 

 

「こいつ…もう回復しようとしてやがる」

 

 

 

「急ごう兄さん」

 

 

 

「おう」

 

 

 

 

そう言うと有一郎と無一郎はそれぞれ鬼の四股と頭部を谷への落とし、急いで家へと帰り支度を行なう。

 

産まれてから一度として家を離れたことのない2人は思わぬ形でここを捨てることとなってしまった。

 

思い出が詰まったこの場所だ…多少は寂しくはある…しかし、父と母…2人の思い出が詰まったものは全て持っていくつもりである。

 

 

だから悲しくはない。…2人は…家族4人はこれからもずっと一緒にいれるのだから。

 

 

 

 

「準備できたか無一郎」

 

 

 

「うん!いつでも行けるよ」

 

 

 

「うし。なら行くか」

 

 

 

「「歳兄さんの元へ!!」」

 

 

 

 

 

後に"鬼子の再来"とまで言われるようになる天才剣士達の旅路はここから始まるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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