遥か昔より――
神々は、人類を見守ってきた。
時に導き。時に裁き。
時に恐れながら。
だが文明は発展し、人は欲望を肥大させていく。
戦争、差別、環境破壊、終わらぬ争い。
やがて神々は、一つの結論へ辿り着いた。
「人類は、滅ぶべきである」
それは千年に一度開かれる神々の会議――
《人類存亡会議》にて下された決定により
神々は、人類の終焉を宣告した。
しかしその時――
異を唱えた者がいた。
戦乙女と呼ばれるブリュンヒルデ を長姉とする十三姉妹である。
すなわち、“ワルキューレ”。彼女達は神の従者でありながら、人類に可能性を見出していた。
そしてブリュンヒルデは神々へ提案する。
「ならば戦わせれば良い」
神 対 人類ーー
一対一による十三番勝負。勝ち越した側の存続を認める最終闘争――
《ラグナロク》
後に、終末のワルキューレ
と呼ばれる戦いである。
だが本来――
人間が神に勝てるはずなどない。
神の肉体は、人類の武器では傷一つ付けられないからだ。
そこでワルキューレ達は禁忌を犯した。
《神器錬成(ヴェルンド)》
ワルキューレ自らの魂を、人類戦士の武器へ変える秘術。
命を共有し、
運命を一つに結ぶ、
神殺しの力。
それによって初めて、人は神へ刃を届かせる事が出来る。
かくして始まったラグナロク。
神話の英雄…剣豪…王…古の怪物…
歴史に名を刻んだ人類最強達が、神へ挑む戦い。
そして現在――
勝敗は互角。
神側五勝。
人類側五勝。
まさに均衡。
世界の命運は、あと数戦で決まろうとしていた。
そんな中で行われた第十一回戦。
人類側闘士は
幕末最強の剣鬼――
"沖田総司"
対するは――
神側の闘士は
天を裂き、荒ぶる嵐を司る武神ーー
"須佐之男命"
互いに“剣”へ人生を捧げた者同士の戦いは、まさに死闘だった。
神速の三段突き。嵐を纏う神剣。超次元の攻撃力により飛び交う血飛沫と咆哮の数々
斬って。斬られて。それでも尚笑い前へ進む。
その姿に、人類も神々も魅入っていた。そして決着に終止符がうたれ、誰もがその死闘に感極まっていた。素晴らしい闘士達に神も人類も関係ない…正にその様な光景か広がっていた
だが――
その戦いが終わった直後。
誰も予想しなかった“災厄”が姿を現す。
「――なんたる腑抜けようか」
その一言が、闘技場全体を震わせた。
刹那――全てを照らしていた太陽が沈み込み、快晴だったはずの空が暗く黒い雲に覆われていく
沖田総司と 須佐之男命 の激闘によって沸き立っていた神観客も、人類観客も、一斉に声を失う。
「「「っ!?」」」
そしてまるで空そのものが沈み込んだような圧力が会場中を包み込み、人類も神も関係なく全ての生物を呑み込む。そして天を裂き現れたのはーー
ただ黒き巨影の姿…今まで現れた神達より遥かに巨大な姿とその身に纏う外套は焼け焦げた夜のようであり、肩から溢れる炎は、まるで世界の終焉そのもの。そして――
その右手…握られていたのは、一振りの巨大で禍々しい魔剣
剣身は赫く。脈打つように灼熱を放ち。存在しているだけで空間を蒸発させていた。
「……誰だ、あれは」
観客席の誰かが、掠れた声で呟く。
神ですら、答えない。
否――答えられなかった。
北欧神界最奥ーーラグナロクすら“余興”と見下す終末の巨王。
世界を焼き払う、終焉そのもの。
ズゥン……と彼が一歩踏み出した瞬間。闘技場の石畳が、音もなく熔け落ちる。
「ほう……」
神席に座していた オーディン が、僅かに片目を細めた。
「…なぜ貴様がここにいる…」
北欧神話最強と名高い雷の狂戦士(バーサーカー)"トール"は現れたその神に対し呂布と戦闘していた時とは遥かに違い憎しみを込めた眼差しで睨みつけていた
「ふぉっほっほ…どこで嗅ぎつけたか…厄介な奴が現れたわい」
そう話すのはギリシア神話の最高神。本来は、最後の試合に出場する予定だったものの、ワガママを言って第2回戦に出場し普段は弱そうな老人の姿をしているが、戦闘時には筋骨隆々の巨漢の姿になる神の中の神(ゴッドオブゴッド)"ゼウス"
神達が飾って警戒…または下を向き平伏したこの神とはーー
『おおっとぉぉぉぉぉ!!』
『会場に突如として現れた乱入者ァァァッ!!』
神側観客席がどよめく。
人類側もざわめきに包まれる中、ギャラルホルンを片手にした実況役――
ヘイムダル
その額には、珍しく汗が浮かんでいた。
『な、何故だ……!?』
『何故この男が此処にいるゥゥゥ!?』
震える声が会場中にこだまするそれは単なる驚愕ではない。
“恐怖”…神ですら本能的に理解してしまっていた。
目の前に立つ存在が、常軌を逸した“終末”そのものである事を。
ヘイムダルが唾を飲み込み、叫ぶ。
『北欧神界最深部――』
『灼界ムスペルヘイムを統べる炎の王!!』
『神々すら畏怖する終焉の化身!!』
『その名はァァァァァ――!!』
ーード ゴ ォ ォ ォ ォ ッ!!!!
スルトが魔剣を地へ突き立てた瞬間、闘技場の石盤が爆ぜ、赤黒い炎が巨大な柱となって天を貫く。
観客席へ熱風が吹き荒れた。
『“黒焔の終末王”――!!スルトゥゥゥゥゥッッ!!』
ーーゴォォォォ……
その背後で揺れる炎は、まるで世界滅亡の幻影。
『神話においてラグナロクの到来と共に現れ!!神界すら焼き尽くすと言われる災厄!!奴が振るうは滅界の魔剣――!!』
スルトの握る剣が、脈動する。
刀身に走る赫い亀裂がはいりそこから漏れ出る炎は、生き物のように蠢いていた。
『魔剣《レーヴァテイン》!!世界樹すら灰へ変えると言われる“終焉の炎剣”だァァァッ!!』
観客席が震える。神々の中には、既に席を立っている者すらいた。
そしてヘイムダルは、さらに声を張り上げる。
『しかもこの神はァァ!!かつて北欧最強神との戦いにおいて――唯一!!決着が付かなかった男でもあるゥゥゥ!!』
その瞬間…神観客席最上段にて巨大な雷槌を肩に担ぐトールの圧が更に強まる
「…スルト…」
会場がざわめく。
『神界史上最大戦争――!!《神滅戦争(ラグナ・エクリプス)》!!神界を二分し、九日九晩燃え続けたあの大戦!!その最終決戦にて!!雷神トールと激突し――!!天地崩壊級の激戦の末、勝敗が付かず“引き分け”に終わった唯一の怪物ッ!!』
ーードクン……
その言葉に、空気が重く沈む。
そして次の瞬間――スルトは、ゆっくりと剣を持ち上げる。
ーーゴ ォ ォ ォ ッ!!!!!
空気が燃え盛り、会場中…いたら箇所がその熱気に当てられ溶解し建物としての意義をなさなくなっている…まるで闘技場そのものが悲鳴を上げているかの様にーー
「――脆い」
低く地の底から響くような声が響く
「この様な児戯など我が終わらせてやる…神も…人も…我の前では全ては煤塵に還り意味を為さない」
魔剣が、僅かに抜かれる。
瞬間――
斬撃ですらない“熱”だけで、遥か上空の雲が真っ二つに裂けた。
観客席がどよめく。
「おいおい何するつもりだ奴さん!?」「まだあんな化け物を隠してやがったのか!?」「…これは少しまずいかもな」
ワルキューレ達や人類側が最強の戦士達ですら顔を強張らせる中――
ただ一人…人類側通路から、“笑った男”がいた。
「……ハッ」
会場中がスルトの闘気に呑まれる中…カツ、……カツ、……と静かに響く草履の音が会場にいるもの達の耳に響き渡り神も人類も皆がそちらを見つめる
神々ですら忌避する終焉の巨王。正式な出場神ですらない存在。神側ですら制御不能。世界を焼き払うためだけに存在する、滅びそのもの。…数々の異名を持つその怪物に対し立ち向かう者が現れる
人類側通路より、一人の男が現れる。
男は無駄のない長身細身の体躯であり暗めの桜色の長髪を白いリボンで高く結い上げられ、鋭く刃のような切れ長の蒼の双眸を持つ美青年である。常に蒼色の羽織を着用しており結婚してからは桜色のリボンを着用している。
「「「歳(さん)!?」」」
先ほどまで死闘を繰り広げていたはずの沖田総司並びに新撰組一同はその男を見た瞬間驚きのあまりに声を上げた
『現れたのは!!えぇ…となになに…ふむふむ…』
実況席に立つ ヘイムダル は、急遽神側から渡された羊皮紙へ視線を落とす。
しかし。
読み進めるほどに、その顔色が変わっていった。
『…………は?』
会場がざわつく。ヘイムダルが、困惑したまま再び紙を見る。
『人類側乱入闘士……新選組副長――又の名を“鬼の副長”……』
ゴクリ、と喉を鳴らす。
『"土方歳三"ッ!!』
人類側観客席がどよめいた。なにしろ読み上げられた名は幕末…最期の侍にして
修羅のように数多の死線を潜り抜けた剣鬼の名。
だが――
ヘイムダルの視線は、その下に書かれた“追記”へ移る。
そして次の瞬間。
『……ッ!?!?』
明らかに、顔が引き攣った。
『お、おい待て!!なんだこの記録はァ!?』
紙を持つ手が震える。
『現代転生個体だと……!?前世継承型剣士……!?まだまだこの男には続きあるぞぉぉ!?現在名――!!』
ヘイムダルが叫ぶ。
『鬼殺隊・桜柱・"悲鳴嶼歳玄(としはる)"ッ!!』
ドクン――その名が響いた瞬間。
一部の神々が、僅かに眉を動かした。
転生…輪廻…本来、人が前世の記憶やましてや技量など継承するなど有り得ない。
しかし。闘技場中央へ立つ男から放たれる気配は――
紛れもなく、“修羅”にして"神"にも届きゆるほどの壮絶な闘気(プレッシャー)であった
最前列にいた下級神数柱が、無意識に一歩後退り、上級神ですら額から冷や汗を噴き出している
そして歳玄――
否…土方歳三は。
静かに口を開いた。
「……随分と、デケェ図体してんじゃねぇか!!」
これはラグナロク正式戦ではない。
勝敗にも数えられない。
ただ――
“滅び”と“誠”が激突する。
誰も記録しない、
もう一つの戦いが、
今、始まろうとしていた。