散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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四話

 

 

 

 

 

 

夜が、静かに更けていく。

 

線香の煙が、細く揺れていた。

 

寺で共に過ごした子供たちの名を、ひとつひとつ心の中でなぞりながら、歳玄は目を閉じる。

 

 

 

(……守れなかった)

 

 

 

脳裏に焼き付いているのは、あの夜の光景。

 

血の匂い。悲鳴。折れる音。

 

そして――己の無力。

 

拳が、無意識に震えていた。

 

 

 

「……歳」

 

 

 

隣から、低く穏やかな声がかかる。

 

 

「兄貴」

 

 

「無理に、背負う必要はない」

 

 

 

静かな声だった。

 

だがその奥にあるものは、痛いほど伝わってくる。

 

悲鳴嶼行冥自身もまた、同じものを背負っているからだ。

 

 

 

「……違ぇよ」

 

 

 

歳玄は、ゆっくりと首を振った。

 

 

 

「これは、別に背負うとかそういうんじゃねぇ」

 

 

「……」

 

 

「忘れねぇためだ」

 

 

 

ゆっくりと目を開く。

 

その瞳には、幼さとは似つかわしくない光が宿っていた。

 

 

 

「俺は――あいつを斬れなかった」

 

 

 

あの時。

 

確かに“線”は見えていた。

 

だが、斬りきれなかった。

 

骨まで届かなかった。

 

それが全てだ。

 

 

 

「……力が足りねぇ」

 

 

 

ぽつりと零れたその言葉に、行冥は何も返さなかった。

 

否――返せなかった。

 

その言葉が、あまりにも真っ直ぐだったからだ。

 

 

 

 

「兄貴」

 

 

「……どうした」

 

 

「俺、強くなるぜ…今よりももっと」

 

 

 

迷いはなかった。

 

一切の躊躇もない。

 

 

 

「鬼を斬る」

 

 

 

空気が、変わる。

 

 

 

「もう二度と、ああいうのは見たくねぇ」

 

 

 

歳玄の脳裏に浮かぶのは、あの夜の“終わり”。

 

守れなかった命。

 

崩れ落ちた日常。

 

 

 

「そのための剣を――俺は振るう」

 

 

 

静かに、だが確固たる決意。

 

それを聞いた行冥は、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

短い言葉で返す。

 

だが、その一言に込められたものは重い。

 

 

 

「ならば――私も共に行こう」

 

 

 

「……あぁ」

 

 

 

その時だった。

 

障子の向こうから、足音が近づいてくる。

 

すっと扉が開かれ、柔らかな気配が部屋に差し込んだ。

 

 

 

「話は、まとまったようだね」

 

 

 

穏やかな声が響く

 

産屋敷耀哉だった。

 

 

 

「……聞いてたのかよ」

 

 

 

歳玄が少しだけ不機嫌そうに言う。

 

耀哉は微笑むだけだった。

 

 

 

 

「少しだけね」

 

 

「……チッ」

 

 

「だが、とても大切な話だった」

 

 

 

そう言って、二人を静かに見つめる。

 

その瞳は優しい。

 

だが同時に――どこか底知れない深さを持っていた。

 

 

 

「鬼と戦う道は、決して平坦ではない」

 

 

「……」

 

 

「多くの命を見送り、時に自分自身すら見失う」

 

 

 

静かに、言葉を紡ぐ。

 

 

 

「それでも進む覚悟はあるかい?」

 

 

 

問われる。

 

だが――

 

 

 

「あるに決まってんだろ」

 

 

 

即答だった。

 

間髪入れず。迷いなど、一切ない。

 

 

 

「……そうか」

 

 

 

耀哉は、静かに頷いた。

 

 

 

「ならば――君たちは、鬼殺隊へと来るといい」

 

 

 

空気が、張り詰める。

 

 

 

「力を貸してほしい」

 

 

 

それは懇願ではない。

 

だが命令でもない。

 

ただ、未来を託すような声音だった。

 

 

 

「……面白ぇ」

 

 

 

歳玄は、口の端を吊り上げる。

 

 

 

「ちょうどいい」

 

 

「このままじゃ終われねぇと思ってたとこだ」

 

 

 

ゆっくりと身体を起こす。

 

まだ痛みはある。

 

だが、それすらどうでもよかった。

 

その夜。

 

二人は、新たな道を選んだ。

 

鬼を狩る者としての道を。

 

そして――

 

歳玄の中で眠っていた“剣”が、静かに目を覚ます。

 

 

それは始まりに過ぎない。

 

やがてそれは、無数の型へと昇華されていく。

 

桜のように――

 

美しく、そして儚く散る剣へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから一月後…俺たち2人はとある山の麓までやってきていた。

 

 

俺たちが鬼殺隊に入隊するにあたって未だ足りないものが多すぎるためだ。力、知識、経験…何もかもが足りない。

 

それに気づいた産屋敷耀哉がここを紹介したのである

 

 

 

 

「あそこには2世代前の鬼殺隊の頂点"柱"なる者がいる」

 

 

 

 

そして現在…

 

 

山道は険しく、空気は冷たい。

 

その中で――二人の前に立っていたのは、一人の男だった。

 

 

年の頃はおそらく三十代前半。長身で、痩せているように見えて隙がない男だった。

 

男はゆっくりと目を開いた。その瞳は――淡い黄金色をしている

 

 

 

 

「君たちがお館様が言っていた子たちかな?私は――桜庭 綾之丞(さくらば あやのじょう)…そして元・鬼殺隊剣士だ」

 

 

 

「……元、ねぇ」

 

 

 

歳玄の顔が曇るのが分かった

 

 

 

「逃げたのか?」

 

 

 

空気が、一瞬で凍る。

 

だが――

 

 

 

「…ふむ…いい質問だ」

 

 

 

綾之丞は否定しない。

 

 

 

「私は運良く“生き残った”だけだ」

 

 

 

その一言に、重みがあった。

 

行冥はすぐに理解する。

 

この男は――“地獄を見た側”だと。

 

 

 

「お前たちを鍛える理由は一つ」

 

 

 

綾之丞は、二人を見据える。

 

 

「――無駄死にさせないためだ」

 

 

静かだが、絶対の意思。

 

 

「だがその前に――」

 

 

スッ、と木刀を抜く。

 

 

「才能があるか、見せてもらう」

 

 

――次の瞬間

 

一瞬で消えた。

 

 

「っ!?」

 

 

歳玄の視界から完全に消失。

 

だが――

 

 

(後ろ!!)

 

 

振り向きざまに木刀を振るう。

 

ガキィン!!

 

刀に衝撃が疾る

 

 

「……反応は悪くない」

 

 

背後にいた綾之丞が、片手で受け止めていた。

 

 

 

「だが“見えている”だけだな」

 

 

「……っ」

 

 

次の瞬間、腹に衝撃。

 

ドンッ!!

 

音を立て歳玄の体が宙を舞う。

 

 

 

「がっ……!」

 

 

 

地面を転がる。

 

 

「歳!!」

 

 

行冥が動く。

 

だが――

 

 

 

「お前もだ」

 

 

 

ドッ!!

 

一瞬で間合いを詰められる。

 

 

 

(速い――)

 

 

 

拳を振るうが、

 

 

 

スカッ――

 

 

 

当たらない。

 

逆に相手の攻撃は――

 

 

 

「遅い」

 

ズドンッ!!

 

 

 

鈍い音を立て行冥の巨体すら吹き飛ばされる。

 

 

圧倒的だった。

 

 

 

「……話にならんな」

 

 

 

綾之丞は淡々と告げる。

 

 

「今のお前たちは、“鬼に会う資格すらない”」

 

 

悔しさが、場を満たす。

 

歳玄は歯を食いしばる。

 

 

(……何もできなかった)

 

 

だがその目は死んでいない。

 

むしろ――燃えている。

 

それを見た綾之丞は、わずかに目を細めた。

 

 

「……いい目だ」

 

 

そして――

 

 

 

「よし合格だ!!…明日から地獄を見るぞ」

 

 

 

 

――◆ 特訓開始

 

 

 

 

翌朝、まだ日も昇りきらない時間

 

「立て」

 

 

その一言で叩き起こされる。

 

 

 

「まずは基礎だ」

 

 

 

 

 

■ 修行①:呼吸の強制

 

 

 

「吸え」

 

 

「……は?」

 

 

「死ぬほど吸え」

 

 

 

意味が分からないまま、言われるがままに呼吸をする。

 

だが――

 

 

 

「浅い」

 

 

 

バシィッ!!

 

木刀で背中を叩かれる。

 

 

「ぐっ!!」

 

 

「肺の奥まで使え」

 

 

「呼吸が浅い剣士は、三流以下だ」

 

 

 

その後――

 

延々と呼吸。吸って、吐いて、また吸う。

 

だが徐々に気付く。

 

 

 

(……体が、軽い?)

 

 

 

血の巡りが変わる。

 

視界が、研ぎ澄まされていく。

 

 

 

「それが“全集中の基礎”だ」

 

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