あれから…兄貴が最終選別を終え旅立ってから更に2年が経過した。
この2年で様々な変化が訪れた。
まずは俺の外見…13歳ともなり俺の背丈は5尺8寸余り(175センチ)ほどまで伸びきり、この時代ではかなり大柄な体格である。さらに体格に合わせ必要な筋肉を身につけたことで今では身体能力でも師匠を上回ってきた
そして2つ目
「桜の呼吸・壱ノ型・桜花一閃(おうかいっせん)」
俺の鞘から抜刀された一太刀は目にも止まらぬ速さで師匠の刀を吹き飛ばした。
「…まさか…ここまで手がつけられなくなるとはな」
「…全部師匠のおかげだ」
「…よく言うよ。…それに桜の呼吸か。素晴らしい型を編み出したものだ」
歳玄が考えに考えぬき編み出したのが"桜の呼吸"である
桜の呼吸…水の呼吸の派生系であり一刀目が必ず抜刀から入る一撃必殺の剣型である。さらに無駄のない直線的な剣質ながら流れるような軌道を合わせた剛柔無双の型まで進化させた。
前世では最終的に自分の奥義にまで昇華させた必殺の歩兵剣術…虚狼は身体能力の違いか…それとも体がまだ出来上がっていないためか未だ使用が出来ないでいた。
「虚狼と壱ノ型は相性が良いはずなんだけどな」
「ん?何か言ったか?」
「…いや何ーー」
「ちょっとちょっと!」
とその時歳玄たちの背後からこちらに駆け寄る二つの影が現れた。
「真剣で稽古しないでって何回言えば分かるんですか2人とも!」
「まぁまぁ落ち着いてしのぶ」
「でも姉さん!」
こちらに現れた2人の少女…髪を下している少女が姉の胡蝶カナエ、結んでいる方が妹の胡蝶しのぶ
1年ほど前に任務で兄貴が助けた際身寄りのない2人を引き取りそのままそれ以来ここで共に暮らしている。
「この程度で俺らは怪我しねぇよ」
「してからじゃ遅いんですよ!!」
「まぁまぁ歳くんの強さはしのぶも知ってるでしょ?」
「姉さんは歳に甘すぎるのよ!!」
猫のように噛みつこうとするしのぶをカナエが羽織り締めにしながら止めてている。
ちなみにカナエが歳玄の1つ上の14歳、しのぶが歳玄と同い年の13歳である。
「まぁまぁとりあえず家に帰ろうか」
「「「はい」」」
◆
「歳…最終選別行って来な」
「おぅ」
「「え」」
「いやいやいや最終選別ですよね!あの死人も出るって噂の!なんでそんな落ち着いてるんですか!」
「ふふふ」
食事の際に何事もない日常会話のようなテンポ感で話す2人に驚く胡蝶姉妹
「いやでも仮にも元柱の僕に勝てるくらいなんだから落ちる事もないだろうし」
「そう言う問題じゃないでしょ!」
「じゃあどう言う問題なんだよ」
「そ、それはほら…」
「しのぶったらもう〜歳くん、しのぶはね歳くんに怪我をしてほしくないのよ。いくら歳くんが強くても確率は0じゃないでしょ?」
「わ、私は別に心配なんか!」
そう言うことか…いつも俺に対し中々当たりが強いと思っていたんだが年相応(同い年)の可愛さが出てきたじゃないか
「お前がなんと言おうと俺は行く」
「…」
「心配するなとは言わん…だから信じろ。俺を…俺の剣を」
「「歳(くん)」」
「ん?なんで姉さんまで反応してるのよ!」
「あら?私だって歳くんが心配だもの」
言い合いを続ける2人を尻目に俺たちは食事を進める。コイツらが来てもう一年か…時の流れは速い。俺がこうしている間にいく人の人々が鬼の犠牲になったことか
兄貴に関しては1年で隊士として階級を上げ続け今は柱のすぐ下まで来ているらしい。俺も負けていられない。
◆
夜が、更ける。
とうとう歳玄の最終選別の日が近づいてきていた。
囲炉裏の火が小さく弾ける音だけが、静かな家に響いていた。
「……明日、発つの?」
ぽつりと、胡蝶しのぶが呟く。
歳玄は箸を止めずに答えた。
「いや、今夜だ」
「は!?」
「夜に出て、山の手前で野営する。余計な体力は使いたくねぇからな」
合理的すぎる答えに、しのぶが言葉を失う。
一方で、胡蝶カナエは柔らかく微笑んだ。
「本当に緊張もしていないのね」
歳玄は何も言わない。
ただ静かに食事を終えると、立ち上がった。
「……行ってくる」
その一言だけ残して。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
しのぶが立ち上がる。
「何よその感じ!もっとこう……あるでしょ!?その……!」
言葉が詰まる。
歳玄は少しだけ笑い振り返った。
「寂しいのか?」
「ち、ちが!」
「あら私は寂しいわよ。慰めてくれるの?」
「姉さん!」
「…はぁ…まぁいい。2人とも少しこっちにこい」
「「??」」
歳玄に呼ばれた2人は近づく
そして歳玄の前に立つ2人の頭に手を乗せる。
「俺たちは家族だ」
「「っ!?」」
「ここが俺の家でありお前たちがいるところが俺の帰る場所でもある」
「「…」」
「必ず帰る。だから少し待っていてくれないか」
「……っ」
しのぶは涙を堪え何も言えなくなる。
「うん…必ず帰ってきてね」
カナエは静かに歳玄に抱きつく
「ほらしのぶも」
「うぅ〜姉さんに言われたからなんだからね!」
口では色々言いながらもおずおずと近づき最後の抱擁を交わす
そして忘れ去られた人物がもう1人
「一応僕もいるんだけどね」
「お世話になりました師匠」
「うん…歳のことは心配してないけど病気とかだけ気をつけてね。」
「…」
歳玄は小さく会釈をした後今度こそ歩みを止めず歩き出していく。
「「いってらっしゃい!!」」
家族に見送られながら
◆
とある夜道。
月明かりだけが、歳玄の背を照らしていた。
(……最終選別か)
この二年間。
地獄のような修行を乗り越えた。
呼吸は常中を覚え肉体も技も、既に“並の隊士”の域を遥かに超越している。
(だが――)
俺は足は止めない。
(油断や驕りが死を招く)
どれだけ強い化け物であろうと病では亡くなるし、意図していない事故に巻き込まれる可能性も0ではない。
風が吹く。
桜の花びらが一枚、闇に舞った。