散り際の鬼、再び咲き誇る   作:心ここにあらず

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七話

 

――家を飛び出した後日。

 

 

 

最終選別の地…藤襲山に俺は無事辿り着いていた。

 

 

山一面に咲き誇る藤の花。

 

 

だがその内側には――鬼がいる。

 

 

 

 

集められた十数名の剣士たち。

 

 

皆、一様に緊張した面持ちで山を見上げていた。

 

 

 

「……おい見ろよあいつ」

 

 

「デカくねぇか……?」

 

 

 

ひそひそと声が漏れる。

 

 

 

歳玄の存在は、明らかに浮いていた。それもそうである。

  

 

この時代の平均身長を大きく上回る175を超える体躯

 

 

師匠の元で鍛えに鍛えた無駄のない筋肉。

 

 

更にはリボンで結ばれた特徴的な長髪に類い稀なるその美貌

 

 

そして何より――

 

 

 

「「「…っ!」」」

 

 

 

思わず周りにいた隊士達がゴクッと唾を飲み込んでしまうほどのプレッシャーを常に放ち続けていてるのだ

 

 

そしてしばらくすると

 

 

前方に現れる案内役の子供――

 

 

 

 

「これより最終選別を始めます」

 

 

 

「この山には鬼が捕らえられています」

 

 

 

「七日間、生き延びてください」

 

 

 

 

淡々と告げられる“試験”。

 

 

 

だがそれは――

 

 

 

“生き残り”を賭けた戦場であった。

 

 

 

 

「では――どうぞ」

 

 

 

ザッと言う音を立て誰よりも早く、歳玄は踏み出した。

 

山へと足を踏み入れた瞬間。

 

 

ゾワッ――と肌が粟立つ。

 

  

 

「……いるな」

 

 

 

周りから複数の殺気を感じとる。

 

それも一体や二体じゃない。

 

ガサッ――と背後から物音が立ち上る

 

 

振り向くより先に――

 

 

 

 

「桜の呼吸――」

 

 

 

 

呼吸が整い血が巡る。

 

 

そして世界が、遅くなる。

 

 

 

「壱ノ型――

 

 

 

 

 

 

 

ーー桜花一閃」

 

 

 

 

ズバンッ――!!と音を鳴り響かせながら一閃した一撃は背後の鬼の首を切り取り、更にはその付近にいた鬼の首すらも切り落とし、斬られた首が宙を舞う

 

 

 

 

「な、なんだこの鬼狩り!」

 

 

「見習いしか来ないんじゃないのか!」

 

 

「話と違うじゃねぇか!」

 

 

 

 

歳玄の戦闘を目撃した他の鬼達はその強さに慄き驚愕する

 

 

 

「…面倒だ…一太刀で終わらせてやる」

 

 

 

「な、何をする気だ!」

 

 

 

「桜の呼吸・弐ノ型・"散華"(さんげ)」

 

 

 

振り抜かれた歳玄の刀から

 

無数の細かい斬撃を“散りゆく花びら”のように浴びせ、気づいた時には鬼の全身が切り裂かれている。

 

 

 

鬼の断末魔が、闇の中に溶けていく。

 

肉が崩れ、灰となり、風に散る。

 

まるで――桜の花弁のように。

 

 

 

「……弱い」

 

 

 

歳玄は血振るいを一つ。

 

刃についた血が、月光を弾いて宙に舞う。

 

 

 

(これが……最終選別?)

 

 

 

拍子抜けだ――

 

そう思いかけた、その瞬間だった。

 

 

 

ゾ ワ ッ――

 

 

 

背筋を撫でる、先ほどとは明らかに“質の違う”気配。

 

 

 

「……」

 

 

 

静かに視線を上げる。

 

 

 

木々の上…

 

 

 

そこにそいつは――“いた”。

 

 

 

 

 

「クク……今のは中々だったぞ、人間」

 

 

 

異様に長い腕。

 

枝に絡みつくようにしてぶら下がる影。

 

 

 

その顔は歪に裂け、口元には嗤い。

 

 

 

だが何より――

 

 

 

(……濃い)

 

 

 

血の匂いが違う。

 

 

 

今までの鬼とは、明らかに“格”が違う。

 

 

 

 

 

「貴様……何人喰った?」

 

 

 

 

 

歳玄の問いに、鬼はゆっくりと首を傾げる。

 

 

 

「さぁな……数えきれん」

 

 

 

「ただ――」

 

 

 

 

 

グ ンッ――!!

 

 

 

 

 

一瞬で距離が消え歳玄の目の前に現れる

 

 

 

木の上から、地面へ。

 

そしてそのまま――

 

 

 

「お前みたいな“上物”は久しぶりだ」

 

 

 

 

 

振り下ろされる腕。この巨大な腕で殴打されればいくら歳玄と言えどタダでは済まないだろう

 

 

 

だが――

 

 

 

キィンッ――!!

 

 

 

それは当たっていればの話…

 

 

歳玄はそれを、刀で受け止めていた。

 

 

「……やはりな」

 

 

 

 

 

ギリ、と鍔元で力が拮抗する。

 

 

 

 

 

「他の雑魚とは違うようだ」

 

 

 

 

 

歳玄の目が、わずかに細められる。

 

 

 

 

 

「いいぞお前。少しは楽しめそうだ」

 

 

 

 

 

次の瞬間――

 

 

 

バ チ ッ!!

 

 

 

 

 

地面が砕け散る

 

そして

 

歳玄が踏み込んだ衝撃で、土が弾け飛ぶ。

 

 

 

 

 

「桜の呼吸――」

 

 

 

 

 

呼吸がさらに深まる。

 

 

 

心拍が、静かに、しかし鋭く研ぎ澄まされていく。

 

 

「参ノ型――」

 

 

 

 

 

刀を引き、構えを落とす。

 

 

 

低く、静かに。

 

 

 

それはまるで――

 

 

 

嵐の前の、無風。

 

 

 

 

 

「――“花影・連斬(かえい・れんざん)”」

 

 

 

 

 

ズンッ――!!

 

 

 

 

 

一歩。

 

 

 

たった一歩で、間合いが消える。

 

 

 

 

 

シュンッ――!!

 

 

 

 

 

一閃。

 

 

 

 

 

だが終わらない。

 

 

 

 

 

二閃、三閃、四閃――

 

 

 

幾度もの斬撃が“影”のように重なる。

 

 

 

鬼の視界に映るのは、ただ一つ。

 

 

 

 

“咲き乱れる桜の残像”のみ

 

 

 

 

「がッ――!?」

 

 

 

 

 

腕が飛び胴が裂ける。鬼の悲鳴が森中にこだまする。しかし歳玄が刀を止めることがあるはずもなく…

 

 

 

 

「や、やめてくーー」

 

 

 

命乞いをする目の前の悪鬼に対し歳玄は

 

 

 

 

「テメェはそう言った人間を見逃したのかよ」

 

 

 

「あ、あがっ!」

 

 

 

 

そう言い残し鬼の首を切断したのであった。

 

 

 

それからは鬼を見つけては狩る作業を繰り返し、幸い歳玄の同期に強い者が居なかったせいなのか鬼の数が減っていなかった事もあり歳玄は鬼の討伐記録を大きく更新することになった。

 

 

 

 

 

そしてーー

 

 

試験最終日…7日目の早朝、日の出と共に俺は森の入り口に向かった。

 

周りを見渡せば他の隊士も何名か生きている者がいるがそれでも初日と比べれば大幅に減少したとしか言いようがない。

 

 

 

 

その中で――

 

 

 

 

 

 

 

歳玄は、ただ静かに立っていた。

 

 

 

 

血に濡れながらも

 

 

 

 

その瞳は、一切曇っていない。

 

 

 

 

「最終選別、終了です」

 

 

 

 

 

案内役の声が響く。

 

 

 

「おめでとうございます」

 

 

「皆様は正式に――鬼殺隊の一員となりました」

 

 

 

その言葉に、誰もが安堵する中、

 

 

歳玄はただ一人――

 

 

山の奥を見ていた。

 

 

 

 

(……弱い)

 

 

 

 

(まだ足りない)

 

 

 

 

 

(こんなものでは――)

 

 

 

 

 

 

「俺は――」

 

 

 

 

 

 

歳玄は静かに呟く。

 

 

 

「この程度では上には届かない」

 

 

 

だがその瞳には

 

 

 

 

 

確かな“渇望”が宿っていた。強さへの飢えとでも言うのだろうか…既に"柱"に匹敵する実力を有する歳玄であるが…最も恐ろしいのはその強さでは無く…強さへの飢え…

 

 

頂へ至るための、覚悟を決めた歳玄が止まることはない

 

 

何はともあれ

 

 

こうして――

 

 

 

一人の剣士が、鬼殺隊へと足を踏み入れた。

 

後に

 

“桜を纏いし剣鬼”と呼ばれる男。

 

 

歳玄の物語は――

 

 

ここからが、本当の始まりである。

 

 

 

――最終選別編・完――

 

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