神様「特典は?」俺「俺の推しに丈夫な体を」 作:とくめい
願いとは、自分で叶えるものであって叶えてもらうものではない。
「なんで、どうしてこうなった」
己の力で叶える願いにはきっかけがあり、苦しい過程があり、そしてそれに報いるだけの結果がもたらされる。
叶えてもらったものには、過程がない。
「ああ、くそ」
それはつまり、結果がわからないということに他ならないのだ。
どうしてこの目の前の惨状が繰り広げられているのか、こうなってしまったのかが、わからない。
だって、自分の力がそこまでやり切った訳ではないんだから。
「こんな願い、叶えてもらうんじゃなかった」
「何だ、また来たのかキリト」
「ああ、ここならゆっくりできるからな」
「人の店を暇みたいに言うもんじゃない」
実際暇というか、お前を含め週に数人の客しか来ないのが現状ではあるのだがな。
「それで大丈夫なのか、経営の方は」
「ああ、何せ隠居人の道楽だからな、売り上げなんて特に必要がない」
「コハルの方はどうなんだ」
「給料はちゃんと支払ってる」
「私はいらないってずっと言ってるんですけどね、キリトさん」
「こんな酔狂に付き合ってもらってるんだから当然の報酬だ」
「ははは、さっすが真面目メガネ、きっちりしてるぜ」
おい、その真面目メガネっていうのやめろ。
何なんだその一体感。
「かけていない時から散々言われていたが、そんなにかけているイメージがあったのか俺は」
「あーいや、そういうんじゃないんだが」
このお店を始めてようやくかけ始めたというのに、コハルには関係者からはそれより前から○○メガネという通り名が広まっていたと聞いた。
「真面目で堅物なイメージが、メガネかけた生徒会長みたいだーってクラインさんが言ってたのが始まりでしたっけ」
「野武士め」
お前かクライン、自分が野武士みたいだからってそんな認識広めるんじゃないよ全く。
「しかし、前線を離れて結構経ってるのにレベルとか差がないよな」
「コハルに連れ出されてる」
「身体が鈍っちゃったら、いざという時に大変ですから」
「え、前線まで来てるのか?」
「……流石に四、五層は下だ。だから差がついてる」
「四、五層下でレベリングしてるのに俺達とそう変わらない方がおかしいと思うんだが」
「さて、俺はただの店主だからな知ったことじゃないな」
どこで引っかかるのかは知らないが、コハルと一緒だと穴場や珍しいクエストなんかによく遭遇するんだ、その所為だろう。
「NPCにすらフレンドリーなコハルの賜物かもしれないな」
「ハハ、あの副団長様にも聞かせてやりたいな」
「え、アスナさんと何かあったんですか?」
四十層辺りで俺とコハルは前線を離れてしまったから、その後のことは
記憶にある通りなら……ふむ、圏内殺人近辺の出来事だろうか。
「NPCを囮にする、的なことでも言われたか」
「……流石鬼畜メガネ、見当はついてるんだな」
「メガネ呼びはいい加減辞めてもらえると助かるが。その辺りのデリケートな作戦でもないとお前達がいざこざを起こすこともないと思ってな」
俺のリアルの知り合いもメガネなんだ、本人は伊達だとも言っていたし俺と一緒だ。
……まあ本もメガネもあいつに引っ張られてる節はなくもないが。
「お前達が前線にいてくれたらって何度思ったか」
「コハルは言うまでもなくキリト側だろうし、俺は……まあ、おそらくアスナ側になる、結果は変わらないぞ」
「え、ジェイドはそっちに行っちゃうの?」
「ああ」
確かに同じ形をした存在が犠牲になることは後味が悪いんだが。
「プレイヤーの命に変えられるものではない、だから俺は非道だと言われてもアスナに賛成だ」
「そっか」
……とは言え既に俺は前線を離れた身だ、そんなことを考える必要はもうない。
ただの本屋だとも。
「というかここに居ていいのかキリト」
「え?」
「攻略組で会議をしていたんだろう、会議が終わっているのならつまり……」
ここのキリアスはコハルの尽力もあってアニメの時より仲が良い。
まあ途中ですれ違った末今に至っているのだが。
「 やっと見つけた」
「げ」
「あ、アスナさん!」
「久しぶりねコハル」
噂をすれば何とやら、閃光のアスナ様のご登場だ。
さてどう切り抜けたものだろうか。
「そっちも久しぶり、ジェイドくん。調子はどう?」
「ん……ああ、見ての通り閑古鳥が鳴いている現状だ」
「そうじゃなくって、ジェイドくんはどうなの?」
「平穏無事だよ」
俺が前線を離れる時、少々攻略組といざこざがあった所為だろうか。
俺の知り合いは俺のことをよく気にかけるんだよな。
所詮俺へのヘイトなんてキリトには及ばないんだけど、どうしてかね。
「なら良かった。……それで、そっちのあなたはこんな所で何してるのかしら?」
「んぐっ!?」
こそこそと逃げ出そうとしていたキリトだったが、閃光の鬼嫁様の目は見逃さない。
「皆が決戦の為にギリギリまで頑張っているのに、こんなところで油を売って」
「た、偶には息抜きしないとだろ」
「偶にって言いながら彼の店に来るの今週何回目なのかしら、未練たらたらの彼女みたいよキリトくん」
「は、ははは……」
確かにキリトは俺の店によく来るがな。
こいつの場合気にし過ぎなだけだと思うぞ。
「たっだいま〜! ……あれ、また来てんじゃん、暇なの?」
「何がただいまだピトフーイ、お前はさっさと野垂れ死ね」
「ひっど! あは、そんなこと言って私がいないとダメな癖にー?」
このちびっ子は狂人ピトフーイ、容姿と中身が食い違ったイカレ女だ。
しかもこれでも俺より年上だと言うのだから余計に思考がバグりそうになる。
どこぞの外伝のメイン敵かお前、というかラフコフに居た?
「黙れ、コハルの教育に悪いから失せろ」
「ええー! あんなに激しく
「はぁ」
まともに取り合うだけ無駄なのが分かっているのにも関わらず答えてしまうのは何故なのか。
「じぇ、ジェイドくんやり合ったって……?」
「言葉の通りだ」
「えっ」
「き、鬼畜メガネ……」
は?
「何を言っている?」
「ぷっ……いやー、楽しかったよねー完全決着決闘! またやろ?」
「断る、あんなもの何度もしてたまるか」
あの時の俺は気が触れていたからこそ殺し合いなんて引き受けてやったが。
冷静になった今の状況でそんなことする訳がないだろう。
「あ、ああそういう」
「殺り合うと言う言葉にそれ以上の意味はない」
「ほっ」
「あはは! そうだよねそうだよねー」
……何でだろうな。
逃げて逃げて、こんな極限環境からすら逃げ出した俺が。
こうやってキリトやよくわからん狂人なんかと肩を並べられている現状に唖然とする毎日を送るなんて。
「今の俺は虫の居所が悪いなんてもんじゃない、ピトフーイ」
「殺されても文句は言うなよ……!」
「あはッ」
「何それ最ッ高じゃん!!!」
主人公は原作アニメだけ知ってる