きまぐれスーパーガール   作:影の設計士

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第1話:舞い降りた転校生は、赤いマントを隠してる

プロローグ:逃避行の果てに

「今度こそ、普通にするのよ。鮎川まどか」

新しい街を見下ろす高台の公園。

トランクを片手に、鮎川まどかは自分に言い聞かせていた。

前の学校では、体育のバレーボールで本気を出して体育館の天井を破壊してしまった。その前の街では、銀行強盗をデコピンで撃退してしまい、「謎の怪力少女」としてニュースになってしまった。

彼女は地球人ではない(あるいはスーパーパワーを持つ異端者)。

目立つことは許されない。

彼女が求めているのは、賞賛でも正義でもなく、ただの平穏な青春だけ。

「目立たず、関わらず、ひっそりと」

彼女は強い決意を胸に、新しい通学路の長い階段を昇り始めた。

               ◇

第1章:100段目の赤い帽子

春日恭介は遅刻ギリギリでいつもの長い石階段を駆け上がっていた。

「やっべ! 今日は席替えがあるのに!」

残り数段というところで、突風が吹く。

上から赤い麦わら帽子がコロコロと転がってきた。

「おっと!」

恭介は反射的に手を伸ばし、かがんで帽子をキャッチする。

顔を上げると、そこには黒髪の美少女が立っていた。

彼女は階段の真ん中で立ち尽くしている。その瞳は、何かを警戒するように鋭く、人を寄せ付けない冷たさを放っていた。

「ナイスキャッチ!」

彼女は短くそう言うと、恭介の手から帽子をひったくるように受け取った。

「あ、どういたしまして。君、この辺の子?」

恭介が愛想よく聞くが、彼女は無視して歩き出す。その時、恭介は見てしまった。

彼女が踏み出した一歩。その足元の石段が、彼女の体重、というよりパワーの制御ミスで、ミシミシッと音を立てて蜘蛛の巣状にヒビ割れたのを。

「えっ?」

恭介が目をこすると、彼女はもう何事もなかったかのように去っていた。

「今の、見間違いだよな?」

               ◇

第2章:嵐を呼ぶ転校生

2年B組の教室。

担任の先生が黒板に名前を書く。『鮎川まどか』。

「今日からこのクラスに転入することになった鮎川さんだ。前の学校の都合で、この時期の転校になったそうだ」

教室のドアが開き、さっきの少女が入ってくる。長い黒髪、くるぶしまである長いスカート。

その美貌に男子たちは色めき立つが、彼女が放つ絶対零度のオーラに誰も声をかけられない。

(……うるさい。心音がうるさすぎる)

まどかはスーパーヒアリング(超聴覚)でクラス中のヒソヒソ話を聞きながら、うんざりしていた。

彼女は一番後ろの空いている席――恭介の隣に座った。

「あ! さっきの!」

恭介が小声で話しかける。

「俺、春日恭介。よろしくな、鮎川」

まどかは恭介を一瞥する。

(……この男、さっき階段で私が石を割ったのを見てたわね。関わると厄介だわ)

「馴れ馴れしくしないで」

彼女は冷たく言い放つと、鞄から教科書を取り出した。その指先に少し力が入りすぎ、教科書の背表紙がメリメリッと悲鳴を上げた。

               ◇

第3章:恭介のピンチと誓いの崩壊

放課後。

恭介は「あーあ、完全に嫌われたなぁ」とボヤきながら下校していた。

彼が通りかかったのは、建設中のビル現場の下。

ここで運命の悪戯が起きる。

上空のクレーンから吊り荷のワイヤーが切れ、数トンの鉄骨が落下し始めたのだ。

「危ない!!」

誰かの叫び声。恭介が見上げると、巨大な影が迫っていた。逃げる時間はない。

(……あいつ!)

少し離れた場所で下校していたまどかは、その瞬間を目撃した。

彼女の脳内で葛藤が走る。

『目立たず、関わらず、ひっそりと』

助ければ、またバレるかもしれない。また転校かもしれない。でも――。

「ッ!!」

彼女は考えるより先に動いていた。路地裏へ飛び込み、セーラー服の胸元を掴む。

               ◇

第4章:禁じられた変身

「もう! なんであんたはいつも間が悪いのよ!」

まどかは叫びながら、転校初日に着たばかりの新品のセーラー服をバリッ!!と引き裂いた。

弾け飛ぶボタン。その下から現れる、光沢のある青いボディスーツ。胸の「S」マークが輝き、彼女の細胞が活性化する。

シュウゥゥ……!

彼女の体を覆っていた地味なロングスカートと黒髪という擬態が解除される。

一瞬にして、髪はプラチナブロンドへ。下半身は赤いミニスカートとロングブーツへ。

彼女は地面を蹴った。

衝撃波で路地裏のゴミ箱が吹き飛ぶ。

            ◇

第5章:空からの衝撃

恭介が死を覚悟して目を瞑った、その時。

ズドォォォォォン!!

耳をつんざく轟音と共に、突風が恭介を吹き飛ばした。

「うわっ!?」

恭介が尻餅をつきながら目を開けると、信じられない光景があった。

目の前にぶら下がった鉄骨。それを、空中に浮いた金髪の少女が片手で軽々と受け止めていたのだ。

「え?」

少女は鉄骨を横へ放り投げると、恭介を見下ろした。

青いスーツ、赤いマント。そして、神々しいほどの美貌。

学校にいた鮎川まどかと同じ顔のはずなのに、その表情と雰囲気はあまりにも違っていた。

彼女は恭介が無事なのを確認すると、ニコッと笑ってウインクをした。

「気をつけてね、ボウヤ」

そして、ヒュンッ! という音と共に空の彼方へ消え去った。

               ◇

第6章:秘密の共有

翌日の学校。

街は「謎の空飛ぶ少女」の話題で持ちきりだった。

恭介はまだドキドキしていた。隣の席のまどかに、興奮気味に話しかける。

「おい鮎川! 知ってるか? 昨日、スーパーガールが現れたんだよ!」

「ふーん」

まどかは頬杖をつき、興味なさそうに窓の外を見ている。内心では(……制服代、またかかったわね)と頭を抱えていた。

「金髪ですっごい美人でさ! 助けてくれた時、俺に微笑んでくれたんだ! 間違いなく、俺に気があると思うんだよなー!」

バキッ。

まどかのシャーペンがまた折れた。

「あんた、めでたい性格ね」

「なんだよ! お前みたいな『鉄の女』には分からないだろうけど、彼女は女神なんだよ!」

まどかは恭介をジロリと睨んだ。

その瞳の奥には、「正体がバレなくて良かった」という安堵と、「自分と比較されてムカつく」という理不尽な怒りが同居していた。

(……この街でも、前途多難ね)

まどかは深いため息をついた。

転校生の静かな生活は、初日で完全に崩れ去ったのだった。

(第2話へ続く)

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