きまぐれスーパーガール   作:影の設計士

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最終話・11話:碧い海と黒髪の女神

第1章:天空からの降臨

東京湾の沖合に浮かぶ、西園寺重工の海洋プラント『アクア・パレス』。

暴風雨が吹き荒れる海上デッキ。

春日恭介は、巨大なクレーンの支柱に太いワイヤーで拘束されていた。

「助けてくれ! 誰か!」

恭介の叫び声が激しい雨と波の音にかき消される。

その時、厚い雨雲を一閃の光が切り裂いた。

ズドォォォン!!

音速の衝撃波と共にデッキに降り立ったのは、真紅のマントをなびかせたスーパーガールだった。プラチナブロンドの髪が暗い海上で輝き、その神々しい姿はまさに無敵の女神。

「待たせたわね、少年」

彼女は不敵に微笑み、恭介を見る。

「スーパーガール! 来てくれたんだ!」

恭介の顔に希望が戻る。

               ◇

第2章:緑色の処刑台

デッキを見下ろす管制塔から、スピーカー越しに西園寺玲二の声が響く。

「ようこそ、スーパーガール。……だが、ここは君の墓場だ」

西園寺がスイッチを押す。デッキの床に埋め込まれた発光パネルが一斉に開放され、サーチライトのような光線がスーパーガールに集中砲火された。

それは光ではない。高出力のクリプトナイト放射線だ。

「がっ……あぁぁっ……!!」

スーパーガールは悲鳴を上げ、その場に膝をついた。

鋼鉄の肉体を細胞レベルで崩壊させる激痛。彼女は苦し紛れに立ち上がろうとするが、力が入らない。

「この濃度なら、君の『擬態能力』も維持できないはずだ」

西園寺が冷酷に告げる。

               ◇

第3章:剥がれ落ちる黄金

「うぅ……くっ……!」

恭介は目の前の信じられない光景に息を飲んだ。

苦しむスーパーガールの体から、まばゆい金色のオーラが霧散していく。

そして、あの太陽のように輝いていたブロンドヘアの色が、根元から徐々に変わり始めた。黄金色が濁り、光を失い……そして、漆黒へと染まっていく。

「え……?」

髪だけではない。超然としていた表情が崩れ、等身大の少女の苦悶の表情へと変わる。

数秒後。

そこにうずくまっていたのは、青いボディスーツを着た、雨に濡れた黒髪の少女だった。

彼女が顔を上げる。濡れた黒髪が頬に張り付いている。その顔は、恭介が教室で毎日見ている、あの顔だった。

「あ……鮎川……?」

恭介の声が震える。

「スーパーガールが……鮎川まどか……だったのか?」

まどかは黒髪に戻った自分の姿を見られたことに気づき、絶望的な目でうつむいた。

               ◇

第4章:等身大のヒロイン

「ハハハ! 見たまえ春日くん! これが君の女神の正体だ!」

西園寺が勝ち誇ったように嘲笑う。

「強大な力を持つ宇宙人が、コソコソと女子高生のふりをしていたに過ぎない! なんとも滑稽じゃないか!」

まどかはクリプトナイトの重圧で指一本動かせない。

(……終わった。春日くんに知られてしまった。私が、人間とは違う生き物だってことが……)

彼女は唇を噛み締め、震える声で呟くことしかできなかった。

「……やめて……」

しかし、恭介が叫んだ。

「黙れ西園寺!!」

恭介は縛られたまま、必死に声を張り上げた。

「滑稽なんかじゃない! ……全部、繋がったんだ!」

恭介の脳裏に、これまでの記憶が走馬灯のように駆け巡る。

転校初日の鉄骨事故。エレベーター落下。修学旅行のバス。クリスマスの夜。

「あの工事現場でも! エレベーターでも! 修学旅行のバスでも! あのクリスマスの夜も!!」

恭介は涙を流しながら叫んだ。

「俺がピンチの時は、いつだってスーパーガールが助けてくれた……。鮎川、お前はずっと隠していたけど……正体がバレるのが怖かったはずなのに……!それでもお前は、何度も何度も、俺を助けに来てくれたじゃないか!!」

「え……?」

まどかが顔を上げる。

「宇宙人とか関係ねえ! 自分の秘密を危険に晒してまで、俺を守り続けてくれた……お前は、俺の最高のヒーローだ!!」

               ◇

第5章:愛の再変身

恭介の言葉が、冷え切ったまどかの心臓に熱い血を送り込んだ。

「……春日くん」

(……気づいてくれた。私がどれだけ怖くて、それでもどれだけ必死だったか)

彼女の中で、クリプトナイトの毒を凌駕するエネルギーが湧き上がる。愛と決意。それが彼女の真の力の源。

まどかはふらりと立ち上がった。

「……よくも、私の大事な人を!」

カッッッ!!!

彼女の全身から、再び猛烈な光が噴き出す。雨に濡れた黒髪が、一瞬にして光り輝くプラチナブロンドへと染まり直し、重力に逆らって逆立つ。

「西園寺ぃぃぃ!!」

ズバァァァァン!!

復活したスーパーガールは、目から最大出力のヒートビジョンを放ち、床のクリプトナイト照射装置をすべて焼き払った。

               ◇

第6章:鋼鉄の抱擁

自由になったスーパーガールは音速で西園寺のいる管制塔へ突っ込み、彼が乗る脱出ポッドごと空へ放り投げた。

(西園寺は海へ落下し、そのうち警察に回収されるだろう)

戦いは終わった。

スーパーガールは恭介の元へ降り立ち、拘束を素手で引きちぎった。

「……怪我はない?」

彼女の声は、いつもの凛としたスーパーガールのものだ。

恭介は彼女を見つめる。

「……ああ。ありがとう、鮎川」

彼女はビクリと肩を震わせた。金髪の姿だが、もう正体は隠せない。

「……幻滅した?」

彼女は視線を逸らす。

「黒髪の地味な私が中身で……」

恭介は首を横に振り、彼女を力いっぱい抱きしめた。

「バカ言うな! 幻滅なんかするもんか!」

「え……?」

恭介はまどかの顔を真っ直ぐ見て言った。

「俺はスーパーガールが大好きだ! ずっと憧れてた! それは変わらない!」

「……」

「でもな……実はずっと、鮎川、お前のことも気になってたんだ。いつも不機嫌そうで、でも時々優しくて……放っておけなくて」

恭介は照れくさそうに笑った。

「俺、どっちが好きなのか自分で分からなくなってたんだよ。でも、まさか同一人物だったなんてな!金髪のヒーローも、黒髪の転校生も……俺が好きになったのは、どっちも同じ『お前』だったんだから!」

まどかは恭介の腕の中で瞳を潤ませた。それは、地球に来て初めて流す、嬉し涙だった。

「……ありがとう、春日くん」

               ◇

第7章:忘却の口づけ

雨が上がり、雲の切れ間から朝日が差し込んできた。

二人は甲板に佇んでいる。

「これで、もう隠し事はなしだな!」

恭介は嬉しそうだ。

「明日から学校でもよろしくな! スーパーガール!」

しかし、まどかの決意は変わらなかった。

(……嬉しい。でも、私の正体が知られてしまった以上、もう春日くんとは一緒にはいられない)

「……ねえ、春日くん」

まどかは恭介の頬に手を添えた。

「ん?」

「私、あんたのこと……結構気に入ってたわよ」

「えっ、いきなり何……?」

まどかは背伸びをして、恭介の唇にそっとキスをした。

「……!?」

甘く、切ないキス。

まどかはその口づけを通じて、恭介の脳内にある「この戦いの記憶」と「黒髪に戻った自分の姿」、そして「正体に関する記憶」を消去するエネルギーを送り込んだ。

(……忘れて。私の正体も、この愛の言葉も。……あんたは、ただの「きまぐれ」な転校生として、私を見ていて)

「……さよなら、私の王子様」

まどかが唇を離すと、恭介はその場に崩れ落ち、深い眠りに落ちた。

まどかは眠る恭介の髪を優しく撫でると、空へと飛び去った。

               ◇

エピローグ:100段目のデジャヴ

数日後。新学期。

桜が舞う、いつもの長い石階段。

恭介は首を傾げながら登っていた。

「あれ……? 俺、春休みに海に行ったっけ? なんかすごい綺麗な金髪の人に会った夢を見たような……」

記憶は曖昧だ。

頂上に着くと、風が吹いた。上から赤い麦わら帽子がコロコロと転がってくる。

「おっと!」

キャッチすると、そこにはセーラー服姿の鮎川まどかが立っていた。長い黒髪。ミステリアスな瞳。

「……ナイスキャッチ。遅刻よ、春日くん」

恭介は帽子を渡しながら、なぜか胸が締め付けられるような懐かしさを感じた。

「よう、鮎川! ……お前さ、なんか雰囲気変わった?」

まどかは一瞬ドキッとして、そしてフッと柔らかく笑った。それは、あの嵐の中で見せた、強くて優しい笑顔だった。

「……そう?」

まどかは自分の黒髪を指先でくるくると弄り、悪戯っぽく恭介を見つめた。

「なら、いっそ金髪にでも染めましょうか?」

「えっ!?」

恭介は慌てて首を振り、真顔で言った。

「やめろよ! お前は黒髪でいいんだよ」

「あら、どうして?」

恭介は空を見上げて、無邪気に笑った。

「だって……金髪は『スーパーガール』の特権なんだからさ! お前と一緒にするなよなー」

まどかは一瞬、息を飲んだ。

その言葉は、彼の中から「鮎川まどか=スーパーガール」という記憶が完全に消えていることの証明だった。安堵と、そして少しだけの寂しさ。

「……ふふっ。そうね。特権なら仕方ないわね」

まどかは歩き出す。その背中には、目に見えない赤いマントが揺れているような気がした。

二人の秘密は、彼女の心の中だけに大切にしまわれた。

恭介は空を指差す。

「あ! 見ろよ鮎川! 飛行機雲だ! スーパーガールが飛んでるのかも!」

遥か上空を、青と赤の光が横切っていく。

まどかは空を見上げず、恭介だけを見て、静かに微笑んだ。

「そうかもね。……でも私は……空よりここを歩く方が好きかな」

「えっ? 鮎川……今、何か言った?」

「ふふっ……ほらァ、空ばっかり見てると、置いてっちゃうわよ」

 

満開の桜が咲き誇る長い石階段で振り返って笑う少女と、慌てて彼女を追いかける少年の姿が、舞い散る薄紅色の花びらの中に小さく溶け込んでいった。

(きまぐれスーパーガール 完)

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