第1章:悪魔のプレゼント
「春日くん。君の写真はいつも素晴らしい」
西園寺重工の応接室。
西園寺玲二は恭介が撮ったスーパーガールの写真を褒めちぎっていた。恭介はすっかり有頂天だ。
「えへへ、それほどでも……彼女が魅力的なだけですよ!」
「そこでだ。君にこれを託したい」
西園寺は鉛の小箱から一つのペンダントを取り出した。先端には美しくも妖しい光を放つ緑色の宝石がついている。
「きれいだ……エメラルドですか?」
「『星の涙』と呼ばれる希少な石だ。幸運を呼ぶと言われている。これを君から彼女……スーパーガールにプレゼントしてあげてくれないか?」
西園寺はもっともらしい嘘をついた。
「彼女は常に危険と戦っている。このお守りがあれば、彼女はもっと強く輝けるはずだ」
「僕が……彼女に……!」
恭介の手が震える。憧れのヒロインにプレゼントを渡すチャンス。
「やります! 必ず渡します!」
西園寺はニッコリと微笑んだ。
「頼んだよ。(彼女の死をね)」
◇
第2章:拒絶される距離
翌日の学校。
恭介はポケットに緑の石を入れて登校した。朝、下駄箱でまどかに会う。
「よう、鮎川! おはよう!」
恭介が近づいた瞬間。
ドクンッ。
まどかの心臓が早鐘を打った。
強烈なめまいと吐き気が彼女を襲う。立っていられないほどの脱力感。
「うっ……!?」
まどかは下駄箱に手をついて崩れ落ちそうになる。
(な、何? この感覚……)
「おい、どうしたんだ鮎川! 顔色が真っ青だぞ!」
恭介が心配して駆け寄ろうとする。
「――ッ!! 来ないで!!」
まどかは悲鳴のような声を上げた。
恭介が近づけば近づくほど、細胞が壊死するような苦痛が走る。
「えっ」
恭介が立ち止まる。
「私のそばに、寄らないで!」
まどかは脂汗を流しながら、這うようにしてその場から逃げ出した。
教室には行けない。彼女は保健室の奥のベッドに潜り込み、ガタガタと震えていた。
(春日くんから……あいつと同じ『毒』の気配がした。まさか、あいつ……)
◇
第3章:月夜の悲劇
その夜。
恭介はいつもの公園で空を見上げていた。
「鮎川には避けられるし、散々だな。でも、彼女ならきっと喜んでくれるはず!」
彼はスーパーガールを呼んだ。
「スーパーガール! 来てくれ!」
上空。スーパーガールは、恭介の声を聞きつけて飛んできた。
昼間の不調は治まっている。やはりあれは気のせいだったのか?
「こんばんは、少年」
金髪の女神が舞い降りる。
「スーパーガール! 渡したいものがあるんだ!」
恭介は満面の笑みで、ポケットからあのペンダントを取り出した。
「これ、君に似合うと思って……」
彼が一歩近づいた瞬間。緑色の輝きが、夜の闇の中で強烈に発光した。
「――ガハッ!?」
スーパーガールは空中でバランスを崩し、地面に叩きつけられた。
「うぅ……ぐっ……!」
「えっ!? どうしたの!?」
恭介が駆け寄る。しかし、彼が近づくたびに、彼女は苦悶の表情を浮かべてのたうち回る。
「は、離れて! その石を!」
「え? この石が?」
恭介はパニックになる。幸運のお守りじゃないのか?
その時、公園の木々の陰から無機質な駆動音が響いた。
「ターゲット確認。無力化を確認」
現れたのは、西園寺重工製の戦闘用アンドロイド3体。赤外線センサーが動けないスーパーガールをロックオンする。
◇
第4章:立ちはだかる弱者
「な、なんだコイツら!?」
恭介が叫ぶ。
アンドロイドの一体が腕からマシンガンを構え、スーパーガールに狙いを定めた。今の彼女には弾丸を弾くバリアを張る力もない。撃たれれば、死ぬ。
「排除スル」
銃口が火を噴く――その直前。
「やめろぉぉぉーーっ!!」
恭介が飛び出した。彼はスーパーガールを背に庇い、両手を広げて立ちはだかった。
ダダダダダッ!!
銃弾が恭介の足元を耕し、破片が彼の頬を切り裂く。
「春日……くん……!?」
うずくまるスーパーガールが目を見開く。
「逃げろ……早く逃げるんだ!」
恭介は震えていた。膝は笑い、涙目になっている。
彼はただの高校生だ。怖い。死ぬほど怖い。でも、憧れの人が目の前で傷ついているのを見過ごすことはできなかった。
「こいつらが狙ってるのは君だ! 僕なんかどうでもいいんだ!」
アンドロイドが無感情に告げる。
「邪魔者ハ、排除スル」
「くそっ! こんな石のせいで!!」
恭介は直感した。この石が彼女を苦しめている元凶だと。彼はペンダントを引きちぎり、力いっぱい川の方へ投げ捨てた。
「西園寺ぃぃぃ!! 騙したなァァァ!!」
ポチャン。
緑色の石が川底へ沈み、邪悪な放射線が遮断された。
◇
第5章:金色の逆転劇
その瞬間。
スーパーガールの体から、鉛のような重さが消えた。細胞が爆発的な勢いで再生し、血管に力がみなぎる。
アンドロイドが恭介に向けてミサイルを発射した。
「死ネ」
「うわぁっ!!」
恭介が顔を覆う。
ガシィッ!!!
爆音はしなかった。
恭介が恐る恐る目を開けると、彼の目の前に光り輝く背中があった。
スーパーガールが発射されたミサイルを片手で握り潰して止めていたのだ。彼女はゆっくりと振り返る。その青い瞳は激しい怒りで燃えていた。
「私の大切なボディーガードに、何をするの」
ドォォォォン!!
彼女が一歩踏み込むだけで衝撃波が発生し、アンドロイドたちが吹き飛ぶ。
「消えなさい!!」
彼女の目からヒートビジョンが放たれた。真紅のビームが一閃し、3体のアンドロイドは一瞬で溶岩のように溶解し、鉄屑へと変わった。
◇
第6章:涙と平手打ち
静寂が戻った公園。
スーパーガールは恭介の方へ向き直った。
「怪我は?」
「へ、平気だよ。かすり傷さ」
恭介は強がって笑うが、足の震えは止まっていない。
彼女は恭介に歩み寄り、抱きしめるかと思いきや――
パチンッ!
軽い平手打ちが、恭介の頬を打った。
「えっ……?」
「バカ! 死ぬ気なの!?」
彼女の目には涙が溜まっていた。
「あんたは人間なのよ!? 撃たれたら死ぬのよ!? なんで私なんか庇って!」
それは、スーパーガールとしての言葉であり、同時に鮎川まどかとしての叫びでもあった。自分が正体を隠しているせいで、彼を危険な目に遭わせてしまった。
「ご、ごめん。でも、君が苦しそうだったから……」
恭介は頬を押さえながら謝る。
スーパーガールはため息をつき、今度こそ優しく恭介を抱きしめた。
「ありがとう。あんたが石を捨ててくれなかったら、私は終わってた」
彼女の体温と、甘い香りが恭介を包む。
「あの石は、私にとって猛毒なの。二度と近づけないで」
「うん……約束するよ」
◇
第7章:黒髪の憂鬱
翌日の教室。
恭介は頬に絆創膏(マシンガンの破片傷と、ビンタの跡)を貼って登校した。
「よう、鮎川」
恐る恐る話しかける。昨日の朝、あんなに拒絶されたからだ。
しかし、まどかの反応は違った。彼女は恭介の絆創膏をじっと見つめると、ボソッと言った。
「その傷、どうしたの」
「え? ああ、ちょっと転んでさ……」
「……ふーん」
まどかは鞄から消毒液と新しい絆創膏を取り出し、恭介の机にドンと置いた。
「ばい菌が入るといけないから。使いなさいよ」
「えっ、くれるの!? ありがとう!」
「勘違いしないで。あんたの顔見てると、うっとうしいだけだから」
まどかはプイと横を向く。
その耳が真っ赤になっているのを恭介は気づかない。
(昨日は、ありがとね。弱虫くん)
窓の外、遠くのビルでは、計画を邪魔された西園寺が新たな刺客を用意しようとしていた。
(第5話へ続く)