きまぐれスーパーガール   作:影の設計士

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第5話:修学旅行は危険な香り

第1章:逃げ場のないバス

「いっえーい! 修学旅行だぜーっ!」

春日恭介は、観光バスの座席でハイテンションだった。

行き先は京都・奈良。2泊3日の旅。

隣の席には、不機嫌オーラ全開の鮎川まどかが座っている。

「……静かにしてくれない? 耳に響くのよ」

まどかは帽子を目深に被り、腕組みをして寝たふりをしていた。

(最悪だわ……)

彼女にとって、この狭いバスは拷問部屋だ。隣には恭介、後ろには教師。トイレに行くのも一苦労。もし今、スーパーガールの出動要請があっても、変身する場所どころか、立ち上がることすらできない。

「なあ鮎川、おやつ交換しようぜ!」

「……いらない」

その時、バスの無線からニュースが流れた。

『昨日から、刑務所を脱走した武装グループがこの付近の山中に潜伏しており……』

恭介が身を乗り出す。

「脱走犯だってよ! 怖いなー」

「……どうせ関係ないわよ」

まどかは窓の外を見た。バスは人里離れた山道を走っている。西園寺が仕組んだルートだとも知らずに。

               ◇

第2章:ハイジャック

突然、バスの前方に倒木が現れた。

「おっと!」

運転手が急ブレーキをかける。

その瞬間、道脇の茂みから、迷彩服を着た男たち――西園寺の私兵が飛び出してきた。手にはマシンガンを持っている。

「ドアを開けろ!!」

ガシャーン!

ガラスが割られ、男たちが車内に乗り込んでくる。

「キャーッ!!」

女子生徒の悲鳴。

「騒ぐな! 全員手を頭の後ろに組め!」

犯人のリーダーが叫ぶ。

「このバスは我々が頂いた。……目的地は、あの断崖絶壁だ」

(断崖絶壁……!?)

まどかの目が鋭くなる。これは単なるハイジャックじゃない。明らかに「誰か」をおびき出すための、あるいは「誰か」の力を試すためのショーだ。

「おい、どうすんだよ鮎川……!」

恭介が震えながら小声で言う。

「……黙ってて。隙を見るわ」

しかし、犯人はプロだ。銃口を常に生徒たちに向けている。まどかが動けば、クラスメートが撃たれる。

(変身できない……!)

               ◇

第3章:空飛ぶ棺桶

バスは犯人の運転で、ガードレールのない旧道を猛スピードで走り始めた。

目の前には、深い谷底へ続くカーブ。

「さあ、見せてもらおうか。『奇跡』とやらを!」

犯人はアクセルを踏み込み、なんとハンドルを切らずにそのまま崖へ突っ込んだ。

「うわあああああーーーっ!!」

全員の絶叫が響く。

バスが宙に舞う。重力が消える浮遊感。次の瞬間には、数百メートル下の岩場へ叩きつけられ、全員即死する。

恭介は反射的に隣のまどかを抱きしめた。

「鮎川ッ!!」

まどかの時間が止まる。

(……もう、正体なんてどうでもいい!)

彼女は恭介の腕を振りほどいた。

「……目をつぶってて!!」

               ◇

第4章:0.1秒の早着替え

バスが落下している数秒間。

まどかにとっては、それは数十分にも感じるほど長い時間だ。彼女はスーパースピードを発動した。

周囲の動きがスローモーション、いや、ほぼ静止画になる。恭介の驚いた顔、舞い上がるお菓子の袋、窓の外の景色。すべてが止まっている。

まどかはシートベルトを引きちぎり、誰にも見えない速度で動いた。

バリバリバリッ!!!

制服を一瞬で引き裂き、脱ぎ捨てる。青いスーツと赤いスカート姿になる。

バシュッ!

黒髪が金髪に変わる。

彼女はバスの窓ガラスを拳圧だけで静かに外し、外へ飛び出した。そして、落下するバスの下へ潜り込む。

(……よいしょっ!)

彼女は空中でバスの底面を両手で支えた。

グググッ……!

凄まじい重量がかかるが、彼女は顔を真っ赤にして耐える。

急激に止めると衝撃で中の生徒が死んでしまう。彼女は自身の飛行能力で逆噴射をかけながら、ソフトランディングのように落下速度を殺していく。

バスは、谷底の数メートル手前で、ふわりと空中停止した。そして、そっと地面に置かれた。

ズン。

軽い着地音。

まだだ、まだ終わっていない。

彼女は再び超高速で動き、バスの中へ戻る。止まった時間の中で、脱ぎ捨てた制服を拾い集めるが……

(……ああっ! ブラウスのボタンが全部飛んでる!)

もう着られない。

彼女は仕方なく、恭介が持っていた大きなリュックサックを拝借し、それを前抱えにして胸元の「S」マークと青いスーツを隠した。髪を黒に戻し、席に座る。

そして、時間を動かした。

               ◇

第5章:奇跡の生還と、変な格好の鮎川

「うわあああ……えっ?」

恭介の絶叫が止まる。

衝撃が来ない。痛みもない。恐る恐る目を開けると、バスは谷底の平地に、何事もなかったかのように停車していた。

「た、助かった……?」

「奇跡だ……神様が守ってくれたんだ!」

クラス中がパニックと歓喜に包まれる。

犯人たちは姿を消していた。着地した瞬間に、まどかが超高速で全員外へ放り出し、木の上に吊るしておいたのだ。

「鮎川! 俺たち生きてるぞ!」

恭介が隣を見る。

そこには、リュックサックを前に抱きかかえ、うずくまっているまどかの姿があった。制服の上半身はなく、リュックで隠しているものの、肩や背中は青いスーツの生地が剥き出しだ。

「あ、鮎川? その格好……」

恭介がまじまじと見る。

まどかは顔を真っ赤にして叫んだ。

「……み、見ないで!!」

「え? なんで上着脱いでんの?」

「ショックで……破れたのよ!! 文句ある!?」

苦しい。あまりにも苦しい言い訳だ。

しかし、恭介はバスの外を見て、もっと驚くべきものを発見した。

「見ろよ! バスの車体の底に……手形がついてる!」

鋼鉄の底板に、くっきりと二つの小さな手形がめり込んでいた。バスを支えた痕跡だ。

「やっぱり……スーパーガールだ! 彼女が助けてくれたんだ!」

恭介は目を輝かせる。

「きっと俺たちが落ちる瞬間、光の速さで助けてくれたんだよ! 鮎川、お前も見たか!?」

まどかはリュックを強く抱きしめながら、力なく頷いた。

「……ええ。一瞬、金色の光が見えたわね」

               ◇

第6章:旅館の夜の秘密

その夜。京都の旅館にて。

まどかは部屋の布団の中で、ジャージに着替えてうなだれていた。

(制服が一着ダメになった……。それに、あの犯人たち)

彼女は気づいていた。犯人たちが自分の方を見てニヤリと笑っていたことを。あれはテストだったのだ。

「鮎川ー! 先生が見回りに来るから早く寝ろよー」

廊下から恭介の声がする。

「……うるさい。春日くんのバカ」

まどかは枕に顔を埋めた。

恭介が鈍感なおかげで、正体はバレなかった。でも、この旅行中、まだ何かが起こる気がする。

彼女は枕の下に隠した予備の赤マントを握りしめ、眠りについた。

(第6話へ続く)

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