第1章:月夜の露天風呂
「うわぁ~! 極楽極楽~!」
「やっぱり京都の夜はこれだよね~!」
女子露天風呂。
クラスの女子たちが歓声を上げてお湯に浸かる中、鮎川まどかは一人、岩陰の深い場所に肩まで浸かっていた。
(……ふぅ。やっと一息つける)
彼女は今日一日、スーパーガールのスーツ(青いレオタード)をリュックで隠し通すのに神経をすり減らしていた。今は裸。スーツも着ていない、正真正銘の「生身」だ。
「それにしても鮎川さん、すっごいナイスバディだよね~」
クラスメートが羨ましそうに見てくる。
「肌も真っ白だし、ウエストなんてキュッてなってるし! モデルみたい!」
「……別に」
まどかは顔を背ける。
実は彼女の皮膚は、地球の刃物も通さない鋼鉄の皮膚なのだが、見た目はマシュマロのように柔らかそうなのが悩みだった。
(……この皮膚のせいで、お湯の温度がぬるく感じるのよね)
彼女はこっそり、お湯の中で指先から微弱な熱線(ヒートビジョン)を出し、自分の周りだけ追い炊きしていた。
◇
第2章:男湯の陰謀とドローン
一方、壁一枚隔てた男湯。
男子たちは殺気立っていた。
「おい春日! この岩に登れば、女子風呂が見えるらしいぞ!」
「やめろよお前ら! 先生に見つかったら停学だぞ!」
恭介は必死に止めていた。
(もし鮎川に見つかったら、停学どころか殺される!)
その時、夜空の彼方から、微かな駆動音が近づいてきた。西園寺が送り込んだ、超小型偵察ドローン『スパイダー』だ。
目的は、まどかの身体的特徴――地球人にはない手術痕や、身体の構造をスキャンすること。
ドローンは暗闇に紛れ、女子風呂の上空でホバリングを開始した。
◇
第3章:見えない視線
「……ん?」
まどかのスーパーヒアリング(超聴覚)が、プロペラの回転音を捉えた。
(……虫? いや、機械音だわ)
彼女が上空を見上げると、赤外線カメラのレンズがキラリと光り、自分にズームインしているのが見えた。
(西園寺の手先……! 最低!)
今すぐ飛び上がって叩き落としたい。
だが、今は全裸だ。立ち上がれば、ドローンに全世界へハレンチな姿を配信されてしまうし、周りの女子にも正体がバレる。
「キャーッ! 何あれ!?」
女子の一人がドローンに気づいた。
「カメラよ! 覗きよ!」
パニックになる女子風呂。全員がタオルで体を隠して逃げ惑う。まどかは動けない。
(どうする? ここで目からビームを出したらバレる……!)
◇
第4章:恭介のダイブ
その騒ぎを聞きつけた男湯。
「おい! 女子風呂で悲鳴だぞ!」
「覗きか!? 俺たち以外に!?」
恭介は直感した。
(鮎川が危ない!)
彼は後先考えず、男湯と女湯を隔てる高い岩壁によじ登った。
「おーい! 大丈夫かみんな!」
壁の上に立った恭介が見たのは、空中に浮かぶ怪しいメカと、お湯の中に逃げ場を失っている女子たち。そして、岩陰で睨みを利かせているまどかの姿。
「ドローン!? あいつが犯人か!」
恭介は手に持っていた風呂桶を、ドローンめがけて力いっぱい投げつけた。
「落ちろおおおっ!!」
カコーン!
奇跡的に、桶はドローンにヒットした。だが、バランスを崩した恭介の足が滑る。
「うわっ、あ、あ~れ~~!!」
恭介はスローモーションのように、女子風呂のど真ん中へ落下していった。
◇
第5章:白銀の霧(スチーム・ブレス)
(……バカ! 何やってんのよ!)
まどかは呆れたが、恭介がドローンの注意を引いてくれたのは好機だった。
今ならやれる。
彼女は大きく息を吸い込んだ。本来なら敵を凍らせるフリーズ・ブレス(冷凍の息)。それを、熱い露天風呂の水面ギリギリに吹きかけた。
ゴオオオオッ……!!
極低温の息と、熱湯が衝突する。急激な温度差により、爆発的なスチームが発生した。一瞬にして、露天風呂全体がホワイトアウト状態になる。視界ゼロ。自分の手のひらすら見えない濃霧だ。
「きゃあ! 何も見えない!」
「前が見えなーい!」
その霧の中で、まどかの瞳が赤く輝いた。
ジュッ!
正確無比なヒートビジョンが、上空で体勢を立て直そうとしていたドローンを貫く。ドローンは音もなく溶解し、湯気の中にポチャンと落ちた。
◇
第6章:湯けむりの中の接近戦
「いっ、いてて……」
恭介は湯船の中で立ち上がった。周りは真っ白で何も見えない。
「み、みんな大丈夫か!? 今、変な機械が……」
その時、霧の中からぬっと人影が現れた。
濡れた長い黒髪。白い肌。タオル一枚を胸に巻いた、鮎川まどかだった。
「あ、あ、あ、鮎川……!?」
恭介は真っ赤になって後ずさる。
「ち、違うんだ! 俺は助けようとして……!」
まどかは無言で恭介に近づく。その距離、鼻先数センチ。
石鹸の香りと、お湯の熱気が恭介を包む。
「……春日くん」
「は、はい!!」
まどかは、恭介の耳元で囁いた。
「……目、開けてたら殺すわよ」
「つぶります!!」
恭介は全力で目を瞑った。
まどかはフッと笑うと、恭介の首根っこを掴み、体重60kgの男子を片手で軽々と持ち上げた。
「……ほら、帰んなさい」
ドスーン!!
彼女は恭介を壁の向こうの男湯へ放り投げた。
「うわあああぁぁぁ……バッシャーン!!」
◇
第7章:証拠隠滅
霧が晴れていく。
先生たちが駆けつけてきた頃には、ドローンは溶けてただの金属片になり、恭介は男湯でのぼせていた。
「……ふぅ」
まどかは再びお湯に肩まで浸かった。ドローンの残骸は、さっきこっそり握りつぶして粉末にした。これで西園寺にデータは渡らない。
「鮎川さん、さっきの霧、すごかったねー!」
「温泉の配管が壊れたのかな?」
女子たちはのんきに話している。
まどかは夜空を見上げた。
(……春日くん。ドローンに桶をぶつけるなんて、無茶するわね)
少しだけ、彼を見直した。
でも、裸を見られたかもしれない借り(実際は湯気で見えていないが)は、高くつくわよ。
彼女はお湯の中で足を伸ばした。その足先が、岩風呂の底をバキッと踏み抜いたことに、誰も気づいていなかった。
(第7話へ続く)