きまぐれスーパーガール   作:影の設計士

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第6話:湯けむりパニック

第1章:月夜の露天風呂

「うわぁ~! 極楽極楽~!」

「やっぱり京都の夜はこれだよね~!」

女子露天風呂。

クラスの女子たちが歓声を上げてお湯に浸かる中、鮎川まどかは一人、岩陰の深い場所に肩まで浸かっていた。

(……ふぅ。やっと一息つける)

彼女は今日一日、スーパーガールのスーツ(青いレオタード)をリュックで隠し通すのに神経をすり減らしていた。今は裸。スーツも着ていない、正真正銘の「生身」だ。

「それにしても鮎川さん、すっごいナイスバディだよね~」

クラスメートが羨ましそうに見てくる。

「肌も真っ白だし、ウエストなんてキュッてなってるし! モデルみたい!」

「……別に」

まどかは顔を背ける。

実は彼女の皮膚は、地球の刃物も通さない鋼鉄の皮膚なのだが、見た目はマシュマロのように柔らかそうなのが悩みだった。

(……この皮膚のせいで、お湯の温度がぬるく感じるのよね)

彼女はこっそり、お湯の中で指先から微弱な熱線(ヒートビジョン)を出し、自分の周りだけ追い炊きしていた。

               ◇

第2章:男湯の陰謀とドローン

一方、壁一枚隔てた男湯。

男子たちは殺気立っていた。

「おい春日! この岩に登れば、女子風呂が見えるらしいぞ!」

「やめろよお前ら! 先生に見つかったら停学だぞ!」

恭介は必死に止めていた。

(もし鮎川に見つかったら、停学どころか殺される!)

その時、夜空の彼方から、微かな駆動音が近づいてきた。西園寺が送り込んだ、超小型偵察ドローン『スパイダー』だ。

目的は、まどかの身体的特徴――地球人にはない手術痕や、身体の構造をスキャンすること。

ドローンは暗闇に紛れ、女子風呂の上空でホバリングを開始した。

               ◇

第3章:見えない視線

「……ん?」

まどかのスーパーヒアリング(超聴覚)が、プロペラの回転音を捉えた。

(……虫? いや、機械音だわ)

彼女が上空を見上げると、赤外線カメラのレンズがキラリと光り、自分にズームインしているのが見えた。

(西園寺の手先……! 最低!)

今すぐ飛び上がって叩き落としたい。

だが、今は全裸だ。立ち上がれば、ドローンに全世界へハレンチな姿を配信されてしまうし、周りの女子にも正体がバレる。

「キャーッ! 何あれ!?」

女子の一人がドローンに気づいた。

「カメラよ! 覗きよ!」

パニックになる女子風呂。全員がタオルで体を隠して逃げ惑う。まどかは動けない。

(どうする? ここで目からビームを出したらバレる……!)

               ◇

第4章:恭介のダイブ

その騒ぎを聞きつけた男湯。

「おい! 女子風呂で悲鳴だぞ!」

「覗きか!? 俺たち以外に!?」

恭介は直感した。

(鮎川が危ない!)

彼は後先考えず、男湯と女湯を隔てる高い岩壁によじ登った。

「おーい! 大丈夫かみんな!」

壁の上に立った恭介が見たのは、空中に浮かぶ怪しいメカと、お湯の中に逃げ場を失っている女子たち。そして、岩陰で睨みを利かせているまどかの姿。

「ドローン!? あいつが犯人か!」

恭介は手に持っていた風呂桶を、ドローンめがけて力いっぱい投げつけた。

「落ちろおおおっ!!」

カコーン!

奇跡的に、桶はドローンにヒットした。だが、バランスを崩した恭介の足が滑る。

「うわっ、あ、あ~れ~~!!」

恭介はスローモーションのように、女子風呂のど真ん中へ落下していった。

               ◇

第5章:白銀の霧(スチーム・ブレス)

(……バカ! 何やってんのよ!)

まどかは呆れたが、恭介がドローンの注意を引いてくれたのは好機だった。

今ならやれる。

彼女は大きく息を吸い込んだ。本来なら敵を凍らせるフリーズ・ブレス(冷凍の息)。それを、熱い露天風呂の水面ギリギリに吹きかけた。

ゴオオオオッ……!!

極低温の息と、熱湯が衝突する。急激な温度差により、爆発的なスチームが発生した。一瞬にして、露天風呂全体がホワイトアウト状態になる。視界ゼロ。自分の手のひらすら見えない濃霧だ。

「きゃあ! 何も見えない!」

「前が見えなーい!」

その霧の中で、まどかの瞳が赤く輝いた。

ジュッ!

正確無比なヒートビジョンが、上空で体勢を立て直そうとしていたドローンを貫く。ドローンは音もなく溶解し、湯気の中にポチャンと落ちた。

               ◇

第6章:湯けむりの中の接近戦

「いっ、いてて……」

恭介は湯船の中で立ち上がった。周りは真っ白で何も見えない。

「み、みんな大丈夫か!? 今、変な機械が……」

その時、霧の中からぬっと人影が現れた。

濡れた長い黒髪。白い肌。タオル一枚を胸に巻いた、鮎川まどかだった。

「あ、あ、あ、鮎川……!?」

恭介は真っ赤になって後ずさる。

「ち、違うんだ! 俺は助けようとして……!」

まどかは無言で恭介に近づく。その距離、鼻先数センチ。

石鹸の香りと、お湯の熱気が恭介を包む。

「……春日くん」

「は、はい!!」

まどかは、恭介の耳元で囁いた。

「……目、開けてたら殺すわよ」

「つぶります!!」

恭介は全力で目を瞑った。

まどかはフッと笑うと、恭介の首根っこを掴み、体重60kgの男子を片手で軽々と持ち上げた。

「……ほら、帰んなさい」

ドスーン!!

彼女は恭介を壁の向こうの男湯へ放り投げた。

「うわあああぁぁぁ……バッシャーン!!」

               ◇

第7章:証拠隠滅

霧が晴れていく。

先生たちが駆けつけてきた頃には、ドローンは溶けてただの金属片になり、恭介は男湯でのぼせていた。

「……ふぅ」

まどかは再びお湯に肩まで浸かった。ドローンの残骸は、さっきこっそり握りつぶして粉末にした。これで西園寺にデータは渡らない。

「鮎川さん、さっきの霧、すごかったねー!」

「温泉の配管が壊れたのかな?」

女子たちはのんきに話している。

まどかは夜空を見上げた。

(……春日くん。ドローンに桶をぶつけるなんて、無茶するわね)

少しだけ、彼を見直した。

でも、裸を見られたかもしれない借り(実際は湯気で見えていないが)は、高くつくわよ。

彼女はお湯の中で足を伸ばした。その足先が、岩風呂の底をバキッと踏み抜いたことに、誰も気づいていなかった。

(第7話へ続く)

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