きまぐれスーパーガール   作:影の設計士

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第7話:舞台上のプリンセスは怪力少女

第1章:不本意なキャスティング

「えー、文化祭の出し物は『眠れる森の美女』に決定しました!」

委員長の声に、クラスが沸き立つ。

「そして、主役のオーロラ姫は……満場一致で、転校生の鮎川さんに決定です!」

「……はぁ?」

鮎川まどかは、机に突っ伏していた顔を上げた。

「ちょっと待って。なんで私が」

「だって鮎川さん、美人だし! お姫様っぽいし!」

「拒否権はないぞー!」

まどかは頭を抱えた。

(目立ちたくないって言ってるのに……)

しかし、クラスの圧力には勝てない。

「じゃあ、相手役のフィリップ王子は?」

男子たちが我こそはと手を挙げる中、くじ引きの結果……

「……俺だ! 俺が王子だ!」

春日恭介が震える手で当たりくじを握りしめていた。

「やったー! 鮎川とキスシーンだー!」

まどかは冷ややかな目で恭介を見つめる。

(……最悪。舞台の上でこいつとキスなんて、死んでもごめんよ)

               ◇

第2章:壊れる小道具

放課後の体育館でリハーサル。

まどかはフリフリのドレス衣装(手作り)を着せられていた。

「鮎川さん、そこで糸車に指を刺されて倒れる演技!」

「……こう?」

まどかは木製の糸車に手を添えた。

バキッ。

力が入りすぎて、糸車の針が折れ、車輪が真っ二つに割れた。

「あ……」

「ちょ、鮎川さん! それ美術部が3日かけて作ったのに!」

「ご、ごめんなさい……脆いのよ、これ」

一方、恭介はガチガチに緊張していた。

「あ、あ、あ、鮎川……そ、そのドレス、似合ってるよ……」

「……あんた、足震えてるわよ。しっかりしなさい」

まどかはドレスの裾を気にしていた。この衣装、動きにくい。もし敵が出たら戦えない。

(まあ、文化祭に敵なんて出るわけないけど)

               ◇

第3章:魔王からの差し入れ

当日。

体育館は満員御礼。舞台袖では、演劇部の生徒が興奮していた。

「すごいぞ! 西園寺重工から『ドラゴン』の着ぐるみが寄付されたんだ!」

「最新鋭のアニマトロニクスらしいぞ! リアルだなー!」

舞台裏に搬入された巨大なドラゴンの模型。その目が、妖しく赤く光った。もちろん、中身は西園寺が開発した自律型戦闘ロボットだ。

西園寺はVIP席でオペラグラスを構えていた。

「さあ、見せてもらおうか。衆人環視の舞台上で、君がどうやってこの怪物を倒すのかをね」

               ◇

第4章:開演、そして暴走

幕が上がる。

スポットライトの中、ドレス姿のまどかが現れると、会場から「おおーっ!」と歓声が上がった。その美しさは、本物のオーロラ姫そのものだった。

物語は進み、いよいよクライマックス。魔女が変身したドラゴンが登場し、王子(恭介)と戦うシーン。

「出でよ、ドラゴン!」

ズシィィィン……!

舞台の床を軋ませて、全長5メートル、金属製の巨大なドラゴンが現れた。

「うわっ、でかい……!」

恭介が台本通り、段ボール製の剣を構える。

「覚悟しろ、ドラゴン!」

その時。ドラゴンの口がガバッと開き、本物の火炎放射が放たれた。

ゴオオオオッ!!

「うわあっちぃ!!」

恭介が慌てて避ける。

舞台の書き割りが燃え上がる。観客はどよめく。

「すげえ! 最近の文化祭は火も使うのか!」

「演出凝ってるなー!」

まどかだけが、事態を理解した。

(……本物の火!? 西園寺の仕業ね!)

ドラゴンは台本を無視し、尻尾で恭介をなぎ払った。

「ぐはっ!」

恭介が吹っ飛び、気絶する。

               ◇

第5章:アドリブの戦うプリンセス

王子がダウンした。舞台にはか弱いまどか姫だけ。

ドラゴンがまどかに迫る。鋭い爪がドレスを引き裂こうとする。

(変身できない……! ここでスーパーガールになったら終わりだわ!)

(でも、このままじゃ私が串刺し……!)

まどかは決意した。彼女は倒れている恭介の段ボールの剣を拾い上げ、仁王立ちになった。

「……王子は気絶してしまったわ! こうなったら、私が戦うしかないようね!」

観客がざわつく。

「え? 原作にそんな展開あったっけ?」

「『戦うプリンセス』か! 新しいな!」

ドラゴンが爪を振り下ろす。

まどかはドレスのスカートを翻し、最小限の動きでそれをかわす。そして、ドラゴンの腹部に、手加減した掌底を叩き込んだ。

ドォォン!!(内部で金属がひしゃげる音)

ドラゴンが「ギャオッ!?」と機械的な悲鳴を上げて後退る。

まどかは叫んだ。

「はあっ! 王家の剣技、受けてみよ!」

彼女は段ボールの剣を振るふりをして、その風圧(衝撃波)でドラゴンの装甲をへこませた。見た目は「剣で叩いている」だけだが、実際は見えない衝撃波がドラゴンをボコボコにしているのだ。

               ◇

第6章:とどめの一撃

ドラゴンが暴走し、口からミサイルを発射しようとした。

(まずい! 観客席に飛ぶ!)

まどかはチラリと恭介を見た。彼はまだ目を回している。

「……フィリップ王子! 起きて!」

彼女は恭介の襟首を掴み、無理やり立たせた。

「とどめはあなたが刺すのよ!」

「え? ……あ、鮎川? うわっ、ドラゴン!」

寝ぼける恭介。

まどかは恭介の手を取り、一緒に剣を握った。

「いくわよ! せーのっ!」

まどかは恭介の手ごと剣を振り下ろす。その瞬間、彼女は剣先に全エネルギーを集中させた。

ズバァァァァン!!!

段ボールの剣がドラゴンの頭に触れた瞬間、ドラゴンは大爆発を起こした。バラバラになったパーツが舞台上に散らばる。

「……や、やった……?」

恭介は呆然としている。

「俺の剣、こんなに強かったっけ……?」

観客席は静まり返り――そして、割れんばかりの大拍手が巻き起こった。

「すげえええ! 迫力満点だ!」

「あのお姫様、強すぎだろ! カッコいい!」

               ◇

第7章:幻のキスシーン

「……ふぅ。なんとか誤魔化せたわね」

まどかは肩で息をしていた。ドレスはボロボロ、汗だくだ。

「鮎川……すごかったよ、お前のアドリブ」

恭介が感心したように言う。

「……さあ、ラストシーンよ。早く終わらせましょ」

まどかはパイプ椅子の玉座に座り、目を閉じた。

最後は、王子が姫にキスをして目覚めるシーンだ。恭介がゴクリと喉を鳴らす。

(き、来た……! ついにこの時が!)

彼は震える唇を、まどかの顔に近づける。

あと5センチ。

あと3センチ。

まどかの長いまつ毛が見える。

(……仕方ないわね。今回だけは許してあげる)

まどかも覚悟を決めた、その時。

バサッ!!

天井から、燃え残った舞台装置の幕が落ちてきて、二人の間に割って入った。恭介の唇は、汚れた幕にブチュッとキスをした。

「……ぷっ」

まどかが吹き出す。

「うわああん! 俺のファーストキスがぁぁ!」

恭介が嘆く中、舞台の幕が降りた。

               ◇

エピローグ

VIP席の西園寺は、憮然とした表情で席を立った。

「……戦闘用ロボットを段ボールの剣で破壊するとはな。物理法則を無視している」

彼は悔しそうに杖をつく。

「だが、面白いショーだったよ。……次こそは、その仮面を剥いでやる」

楽屋裏。

まどかはドレスを脱ぎ捨て、ジャージに着替えていた。

「……疲れた。もう二度と演劇なんてやらない」

そこへ恭介がやってくる。

「鮎川! 最高だったぜ! 俺たちベストカップル賞間違いなしだな!」

まどかは恭介の背中をバシッと叩いた。

「……寝言は寝て言いなさい。この、へっぴり王子」

そう言いながらも、彼女の顔には少しだけ、充実した笑みが浮かんでいた。文化祭の喧騒が、二人の距離をまた少しだけ縮めたのだった。

(第8話へ続く)

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