第1章:空への招待状
12月24日、クリスマスイブ。
街はイルミネーションで彩られ、ジングルベルが鳴り響いている。
春日恭介は、公園の大きなモミの木のてっぺんに、あるものを結びつけていた。
それは、金色の封筒に入った手紙。宛名は『スーパーガール様』。
「……よし。彼女ならきっと、空からこれを見つけてくれるはずだ」
手紙の中身は、『今夜19時、この公園で待っています』というデートの誘い。恭介は白い息を吐きながら、期待に胸を膨らませていた。
その様子を、はるか上空からスーパービジョン(超視力)で見ている少女がいた。
鮎川まどかだ。
(……バカね。こんな寒い日に屋上で待つなんて)
彼女は呆れつつも、頬が少し緩むのを止められなかった。
(……少しだけ、顔を見せてあげようかしら)
◇
第2章:独りぼっちの転校生
放課後の教室。
クラスメートたちはパーティーの話題で持ちきりだ。
恭介は帰り支度をするまどかに声をかけた。
「なあ鮎川、今夜予定あるのか?」
「……ないわよ。家で寝るだけ」
まどかは嘘をついた。本当は、恭介とのデートにスーパーガールとして行くつもりだ。
「そっか。……じゃあさ、これやるよ」
恭介は鞄から、小さな箱を取り出した。
「駅前のケーキ屋のショートケーキ。限定品なんだぜ」
「……は?」
「お前、友達いないだろ? 独りで寂しいクリスマスもあれだと思ってさ。……じゃあな!」
恭介は照れくさそうに走り去った。
残されたまどかは、箱を抱えて立ち尽くす。
「……余計なお世話よ」
と言いつつ、彼女はその箱を大事そうに鞄にしまった。
自分(スーパーガール)とのデートの前に、自分(まどか)に気を使ってくれる優しさが、少しだけ嬉しかった。
◇
第3章:氷の魔人、襲来
19時。約束の公園。
恭介はベンチに座り、空を見上げていた。雪が降り始めている。
「来るかな……スーパーガール」
その時。公園の噴水が、突然、バキキキッ!と音を立てて凍りついた。
いや、噴水だけではない。街灯も、ベンチも、見る見るうちに氷漬けになっていく。
「な、なんだ!?」
ズズズ……ン……
地面から、氷と雪でできた巨大な怪物『スノーデビル』が現れた。西園寺が開発した、気象操作兵器の暴走実験だ。
「グオオオオオ……!」
スノーデビルが口から冷凍光線を吐き出す。逃げ遅れた恭介が標的になる。
「うわあっ!」
恭介はプレゼント――スーパーガール用の花束を抱えて転倒した。
◇
第4章:サンタクロースは青い服
(……春日くん!)
近くのビルの陰で待機していたまどかは、私服のコートを脱ぎ捨てた。
「変身!」
バリッ!!
着ていたニットのセーターを引き裂く。中から現れる青いボディスーツ。黒髪が一瞬でブロンドに染まり、赤いマントが雪の中で鮮やかに広がる。
彼女は音速で飛び出した。
「はあっ!!」
ドォォォン!!
恭介に直撃する寸前だった冷凍光線を、スーパーガールが割り込んで体で受け止めた。彼女の体は鋼鉄だ。氷ごときでは傷つかない。
「スーパーガール!」
恭介が叫ぶ。
彼女は振り返り、ウインクした。
「お待たせ、少年。……少し遅刻しちゃったかしら?」
◇
第5章:雪原のダンス
スノーデビルが巨大な氷の腕を振り下ろす。
スーパーガールは恭介を抱きかかえ、空へ舞い上がった。
「しっかり掴まってて!」
「う、うん!」
恭介にとっては、これ以上ないプレゼントだ。雪が舞う夜空、イルミネーション輝く街を見下ろしながら、憧れのスーパーガールとの空中遊泳。
「君に渡したいものがあったんだ!」
恭介は空中で、持っていた花束を差し出した。
「メリークリスマス、スーパーガール!」
スーパーガールは驚いた。怪獣との戦闘中にプレゼントを渡す度胸。この男は本当にバカだ。でも、愛しいバカだ。
「……ありがとう。受け取っておくわ」
彼女は花束を受け取ると、恭介を安全なビルの屋上に降ろした。
「じゃあ、ちょっと待ってて。……あの雪だるまを片付けてくるから」
◇
第6章:ヒートビジョンのキャンドル
スーパーガールは再び戦場へ戻った。
スノーデビルは再生能力が高く、殴っても殴っても氷が復活する。
「しつこいわね……! せっかくのイヴなのに!」
彼女は上空高く舞い上がり、深呼吸をした。
(西園寺に見られてるかもしれないけど……もういいわ!)
彼女の両目が赤く発光する。
カッッッ!!!
目から放たれた極太のヒートビジョンが、レーザーのようにスノーデビルを貫いた。
超高熱により、怪物は一瞬で蒸発し、ただの大量の水蒸気となった。その熱気は、寒空の下で暖かな風となり、公園に降る雪を一瞬だけ雨に変えた。
「……ふぅ。キャンドルサービスの代わりよ」
彼女は空中で髪をかき上げた。
◇
第7章:二度目のクリスマス
戦いが終わり、静けさが戻った公園。
恭介は屋上から駆け降りてきたが、そこにはもうスーパーガールの姿はなかった。あるのは、溶けた雪の水たまりだけ。
「行っちゃったか……。でも、花束は受け取ってくれたしな」
恭介が満足して帰ろうとした時。公園の入り口に、息を切らして走ってくる人影があった。
「はぁ、はぁ……」
赤いマフラーを巻いた、黒髪の鮎川まどかだ。彼女の手には、恭介があげたケーキの箱が握られている。
「あ、鮎川? どうしたんだ?」
「……べ、別に。コンビニに行く途中よ」
まどかは嘘をついた。
本当は、変身を解いて、超高速で家に帰り、服を着替えて戻ってきたのだ。
(髪がまだ少し金色に光ってるかも……バレてないわよね?)
恭介はまどかを見て、ふと気づいた。彼女のコートの肩に、小さな花びらがついている。それは、さっき自分がスーパーガールにあげた花束と同じ花びらだ。
(……まさか?)
恭介の脳裏に、ある可能性がよぎる。まさか、鮎川がスーパーガール……?
「……春日くん、何?」
まどかがドキッとする。
恭介はニカっと笑った。
「いや、お前もこの公園のイルミネーション、見に来たのかなーと思ってさ」
「……たまたまよ」
「せっかくだからさ、そのケーキ、ここで一緒に食わないか? 俺も腹減っててさ」
まどかは少し驚き、そしてふんわりと微笑んだ。それは、さっき空の上でスーパーガールが見せた笑顔と、全く同じだった。
「……仕方ないわね。付き合ってあげる」
◇
エピローグ
雪が降り積もるベンチ。
二人は並んでケーキを食べている。寒いはずなのに、不思議と暖かい。
まどかはポケットの中で、小さく変形させた『金色の封筒(恭介からの手紙)』を握りしめていた。
(……メリークリスマス、春日くん)
遠くのビルから、悔しがる西園寺の声が聞こえるような、平和な聖夜だった。
(第9話へ続く)