『キングダム 風の部族の少女、戦場を射抜く』   作:あきと。

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王宮内門――『朱亀』。

その門前に立つ兵が、冷たく告げた。

 

「通過を許すのは、山の民の王と、その従者五十名のみだ」

 

空気が張り詰める。

 

明らかな警戒。

だが同時に好機でもあった。

 

五十……。

 

無血で門を潜れるなら、それに越したことはない。

 

だが問題は、誰を入れるかだ。

 

「……五十」

 

昌文君が低く呟き、人数を数える。

 

嬴政。信。河了貂。壁。

そして山の民の精鋭たち。

 

その顔ぶれを見渡し、風藍は一歩前へ出た。

 

「申し上げます」

 

視線が集まる。

 

「私を含めた風藍隊、五名を中へ加えて頂きたい」

 

ざわり――と。

空気が揺れる。

 

「……理由を聞こう」

 

昌文君が問う。

風藍はそれを迷わず答えた。

 

「突入直後、門を開けるまでの時間が最も危険です」

 

「その間、内と外は完全に分断されます」

 

静かに、だが鋭く言い切る。

 

「その“隙”を埋める役が必要です」

 

「隙……」

 

背後で、龍炎が一歩進み出る。

 

「我々は少数戦に慣れております」

 

「風藍隊か……」

 

昌文君が目を細める。

 

「遊撃として動かせてください」

 

沈黙。

 

だがその言葉には、確かな重みがあった。

小隊でありながら幾度も戦果を挙げ、名のある将を討ち取った少女。

その名は、すでに咸陽にも届いていた。

 

昌文君はゆっくりと嬴政へ視線を向けた。

 

「……いかがなさいますか」

 

嬴政は、ただ一言。

 

「問題ない。入れ」

 

短く、断を下す。

その目は、風藍を真っ直ぐに射抜いていた。

 

「……ただし、五名までだ」

 

昌文君が付け加える。

名が知れているとはいえ、噂は噂。

昌文君も自分の目で確かめられない不明確なものに、全ての信頼を置くことはできなかった。

 

「よいな」

 

「はっ」

 

風藍は深く頭を下げた。

 

そうして、選ばれた五人。

風藍。龍炎。

そして龍の一族より二名、風の部族より一名。

 

いずれも選び抜かれた精鋭だ、

 

「私たちは、この五人で十分です」

 

風藍は静かに言い切った。

 

 

やがて――。

 

朱亀門前。

待ち構える兵は倍以上。

 

「山の民よ!! 武装を解け!!」

 

張り詰める緊張。

一触即発、その瞬間。

 

「ふっ!!」

 

嬴政が動いた。

 

一閃。

 

ズバッ!!

 

「なっ――!?」

 

敵隊長の喉が裂ける。

 

崩れ落ちる。

 

「おおおおおおッ!!」

 

次の瞬間、信が爆発したように突撃する。

 

ドガァッ!!

 

剣が唸る。

斬る。

薙ぐ。

血が舞う。

 

「うおおおおおッ!!」

 

それに続き、山の民が雪崩れ込む。

一瞬で戦場が開いた。

 

「大王様に続け!!」

 

昌文君、壁も突入。

 

混戦――その中で。

 

「龍炎、右!」

 

「は!」

 

風藍は流れるように動く。

正面突破ではない。

 

横へ――。

 

「三人は私と!」

 

「「は!」」

 

五人が分かれる。

少数精鋭。

だからこそ可能な動き。

 

「このまま上を取るよ」

 

視線は門上。

弓兵が構えている。

 

(……風)

 

頬を撫でる流れを感じ取る。

 

戦場には常に風がある。

兵の動き、熱、地形。それらが生み出す不規則な気流。

 

風藍はそれを“読む”。

 

「あれを使おう」

 

矢をつがえる。

 

その矢は、通常のものよりわずかに軽い。

しなりを強く残した矢軸と、角度を調整された羽根。

 

これは、まっすぐ飛ばすための矢ではない。

 

(ここで乗せて――)

 

弦を引く。

 

(ここで、落とす)

 

放つ。

 

ヒュンッ――

 

矢は一直線には飛ばない。

 

わずかに揺れ、風に掴まれる。

 

そして――。

 

その矢はぐにゃり、と軌道を変えた。

 

「なっ!?」

 

盾の陰にいた兵の横をすり抜けて、さらにその奥へ。

味方と敵が入り乱れる隙間を縫い、まるで意志を持つかのように進む。

 

ドスッ!!

 

「がっ……!?」

 

後方の兵が崩れ落ちる。

 

「ば、馬鹿な……!」

 

敵兵の顔が歪む。

 

「今のは……どこから」

 

「矢が曲がった……!?」

 

龍炎が目を細める。

 

「……今のは」

 

小さく呟く。

 

「あれが、風藍様の――」

 

再び、矢が放たれる。

 

ヒュンッ!!

 

今度は高く。

そして途中で沈む。

 

前列の兵の頭上を越え、背後の指揮役へと突き刺さる。

 

ドスッ!!

 

「ぐあっ!」

 

「なっ!隊長がやられた!?」

 

ざわめきが広がる。

 

混乱。

その中心で、風藍は静かに弓を下ろした。

 

「……うん、実戦でも十分に使えるね」

 

呟く。

 

「“柔の矢”」

 

矢を風に乗せ、直線では届かぬ敵を“風を利用して撃ち抜く”ための一射。

 

「――行け」

 

さらに――

 

ヒュンッ!!

 

ヒュンッ!!

 

要所を射抜く。軌道を変える一撃。

 

「龍炎! 今だよ!」

 

「承知しました!!」

 

龍炎が飛び出す。

 

ドガッ!!

 

門横の兵を突き崩す。

 

これが連携。五人で戦場の一点を抉る。

 

「門に来ても、ここからが問題だね」

 

「やはり、門を越えて裏から開けるしかなさそうですね」

 

その時。

 

「痛えなこらぁっ!!」

 

信が壁を駆け上がっていた。

 

「う、嘘……」

 

身軽とかそんな範疇の話ではない。

 

「なっ!?」

 

「なんだあの動きは!」

 

常人離れした跳躍。

一気に門上へ。

 

「あの、勢い。もしかしたらこのまま」

 

風藍は片腕を広げて周囲に伝わるよう指示を出す。

 

「みんな!! 信くんを死守!!」

 

「「ははっ!!」」

 

風藍が叫び、援護の指示を出して矢を放つ。

 

ヒュンッ!!

 

敵を落とす最中、信は門を越え、中でそのまま門の錠に手をかける

 

「開くぞォ!!」

 

ドンッ!!

 

裏から声が聞こえるのと同時に門が開く。

 

「開いた!!」

 

風藍が叫ぶ。

 

「これで、入れる!!」

 

その瞬間。

外で待機していた兵が流れ込む。

当然、その兵達の中には風藍達もいた。

 

兵の雪崩。

戦場が崩壊する。

 

「風藍馬車を狙え!!」

 

嬴政の声。

視線が交差する。

 

「奴が竭丞相だ!」

 

「あそこにいるのが……」

 

瞬時に理解する。

 

「竭丞相って……。大将首の片っぽじゃねぇか!」

 

それを聞いて、前にいた信が駆け出す。

 

「早く言えっつうの!!」

 

「皆の者!! 屈め!!」

 

楊端和の号令。

 

「うお!?」

 

さらに後方で、まだ走り出していない山の民達を静止させる。

 

一斉に頭が下がって視界が開ける。

 

風藍は弓を引く。

 

「ありがとうございます!楊端和殿!」

 

逃がさない!

 

「――飛べッ!!」

 

ヒュンッ――!!

 

一直線。

 

「っ!!」

 

ドスッ!!

 

竭丞相の頭部を貫いた。

次の瞬間――

 

「竭丞相――」

 

嬴政が叫ぶ。

 

「風藍隊の風藍が討ち取ったぞォ!!」

 

『オオオオオオオオッ!!!』

 

歓声が爆発。

戦場が震える。

 

その中で風藍は、静かに息を吐いた。

 

「……ふぅ、終わった」

 

だが、龍炎が言う。

 

「いえ、まだです」

 

風藍も頷く。

 

「……うん。そうだよね」

 

その目は、すでに次へ。

 

「ここからが本番だ」

 

「姿を表しなされ!大王嬴政!!」

 

大王派の陣営前に肆氏と馬に乗った魏興率いる弩行隊が立ち塞がり、肆氏が呼びかける。

 

「あの指揮官は……」

 

「竭氏の片腕だ」

 

「壁さん?」

 

「風藍殿。それより……」

 

そうして小声で壁から風藍はある事を聞かされる。

 

「束の間の栄華はもう終わりだ、竭丞相は討ち取ったぞ」

 

嬴政は一人、変装を解いて堂々と姿を見せる。

 

「これだけで勝ったと思われるな。我々にはまだ、王弟成蟜様がいるのだ!」

 

そう、この戦いはまだ終わりではない。

しかし、それを分かっての嬴政の行動は陽動だ。

なぜなら、気づいた時にはもう、風藍たちの姿はなかったのだ。

 

政が肆氏たちの目を引き付けている間に風藍、龍炎。信に貂、壁はバジオウや巨漢のタジフなど精鋭の山の民の戦士たちと共に本殿に繋がる回廊へと向かっていたのである。

 

「大王様、ご武運を」

 

王宮内部。

戦は、まだ終わらない。

 

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