回廊に張り詰める殺気。
「来る……!」
信が低く唸る。
次の瞬間――
ガンッ!!
左慈の剣が振り下ろされる。
「ちっ……!」
信が受け止めるが、押し込まれる。
やはり、力量の差が明確に出ている。
重くて速い。
そして、剣筋が正確すぎる。
「その程度か」
淡々とした声。
「うるせぇッ!!」
信が弾き返し、踏み込む。
スッ……。
しかしそれは簡単にかわされる。
敵の間合いに入れても、すぐに最善の対応をされ、足運びで促されてしまう。
「なっ……!」
その隙を突くように、
横から斬撃。
ギィンッ!!
「ぐっ……!」
信の体が揺れる。このままじゃ押し切られてしまう。
でも。
「信くん。しっかりと左慈の攻撃を防いでる……」
「ええ、それにこれだけ剣を合わせてもまだあれだけ動けている。体力も相当なものですね」
力の差はあれど、信は攻撃の直撃を避けながら果敢に自身の攻撃に転じ始めていた。
今までは、一方的に見えた戦いが、互角と言っていいほどの戦闘を繰り広げる。
このままいけば、勝てるかもしれない。
けれど、決定打にかけるのは事実。
外で戦っている大王様たちの事もある。これは、時間との勝負なのだ。
「信くん! 一度下がって!」
風藍の声に反応した信が距離を取る。
ヒュンッ!!
それと同時に、矢が飛んだ。
だが左慈は、最小の動きでそれを弾く。
「同じ手は通じぬ」
「そうだね。でも――」
風藍はすでに次の矢をつがえている。
「これならどうかな」
放つ。
ヒュン――
矢は一直線に向かう。
「……!」
一撃。
防いだかに見られた左慈の剣を腕ごと弾く。
「チッ!」
わずかに体を逸らすが、倒れる事なく踏みとどまる。
腕の痺れ。初めて左慈の眉が動いた。
「……面白い。なんだその矢は」
風藍はもう一本、同じ矢を取り出して構える。
「まだ未完成で数本しか持ってきてないけど、私が設計した鉄製の矢だよ。普通の矢よりも重いし、硬い。貫通力は見ての通りだよ」
風藍は強さを求めて、自身で考えた矢を風の部族領で作らせている。
普通の矢だけでは、女である自分が戦場で戦い続けるのには限界がある。
そう早くから気づいていた風藍は、戦いでの工夫を日々考えていたのだ。
その中で、完成した矢が“柔の矢”。
いくつか設計した中で、操り、実戦で使えるのは現在その矢だけだったが、つい最近新たな矢の試作品ができたのである。
それが、攻撃力特化の鉄製の矢なのだ。
「名付けるなら“剛の矢”ってところかな」
そして、合図するように信に目配せする。
「信くん、いくよ!」
「おうッ!!」
信が地を蹴る。
全力の踏み込み。
「うおおおおおッ!!」
真正面から叩き込む。
左慈は迎え撃つがその一瞬、視線が風藍へ逸れた。
その“わずかな遅れ”。
先ほどの矢が飛んでくるかもしれないという僅かな警戒が生んだ一瞬だった。
ズドンッ!!
信の剣が叩きつけられる。
「ぐっ……!」
左慈の体勢が崩れる。
そこへ――
ヒュンッ!!
「がっ!」
二本目の矢。
今度は直線。
肩口に突き刺さる。
「おい風藍! とどめは俺が!」
左慈の意識が遠のいていく。
信の一撃が決定打となり、風藍の矢の追撃。
左慈はもう、動く事ができずにいる。
「そんな事言ってる場合じゃないよ。信くん」
「んだとぉ!」
「信! お前は何度言ったら!」
「うっせぇぞ龍炎の兄ちゃん!」
「……この俺が、こんなガキどもに」
左慈が前から崩れ落ちるように倒れた。
「……なんなのだ、貴様らは」
「信だ」
「風藍」
その答えを聞く前に、彼の意識は闇へと消えた。
静寂。
「はぁ……はぁ……」
信が息を吐く。
「……」
風藍も弓を下ろす。
「……強かったね」
「風藍の矢が当たり始めて、あいつの力も速さも半減してた。正直助かったぜ」
「うん」
今の戦いには確かな手応えがあった。
私は、もっともっと、強くなれる。